魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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魔槍使いと京都の裏

 レンがセラフォルーと初めて会ってから次の日のこと。レンとロスヴァイセは二人きりで清水寺に来ていた。しかし、二人とも笑顔というわけでもなく、特にレンは前日にセラフォルーから聞いたこともあって警戒心を少し強めていた。

 

 一誠達の身に何が起こったのかというと、昨日の自由行動で伏見稲荷を訪れた際に、京都の妖怪達に理由もわからないまま襲撃を受けたということだった。その報告はホテルに戻ってからすぐにアザゼルに話し、そこから、セラフォルーがこの地を訪れることにまで発展していったのである。

 

 そして、妖怪達に襲われた、ということがあったために一誠達の班のルート内にある清水寺に二人は観光ついでに来ているのである。

 

「レン君、その~、とりあえず今は楽しみましょうよ!ね?」

 

 そんな微妙なピリピリした空気に居心地の悪さを若干感じていたロスヴァイセは、それをなんとかしようとレンに明るく声をかける。すると、

 

「……あ、ゴメン。決してこの場所がつまらないってわけじゃないんだけどね」

 

 どうやら、レンもその自覚があったらしくロスヴァイセに軽く頭を下げて謝っていた。

 

(……とは言ってみたものの正直不安だ。早いところセラフォルーさんが妖怪達の誤解を解いてくれればいいんだけど、……まぁ、俺一人が心配したところでどうにもならないのも事実、か)

 

 魔王の中で外交官としての役割を担っているセラフォルーが京都の妖怪達と協力態勢を取るため、今まさに現在進行形で会談を進めている。レンは今警戒したところでそれは無駄だとなんとか割りきって、思考を切り替えていた。

 

 二人が、不意にロスヴァイセの携帯電話が小刻みに数秒間だけ震わせた。ロスヴァイセはそのメールの中身を確認するとレンの方へ途端に顔を向ける。

 

「……どうかした?」

 

「どうやら、私達への誤解が解けたみたいです。なので、すぐに一誠君達と合流しましょう」

 

「了解した。……ちょっとゴメンよ」

 

 レンはロスヴァイセの返答を聞くと、何の前触れもなくロスヴァイセをお姫様だっこして、彼女を混乱させた。

 

「えっ、ちょっ!何をするつもりですか!?」

 

「ん?それは一誠達と合流するため、だよ!」

 

 レンはそう言ってロスヴァイセを抱きながら清水の舞台から大きく跳躍してみせた。そして、そのまま空中を連続で蹴り、空中をまるで走るように駆けていく。

 

「レン君はバカなんですか!?一般人が近くにいるんですよ!」

 

「俺だってその点はしっかり考えてるよ。普通の人達に見えなくなる程度の誤認魔法は俺だって一応使えるからな」

 

「で、でも、電車とかバスに乗った方が……」

 

「待つ時間を含めたら俺の方が確実に速い」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 ーー「恥ずかしいです」。ロスヴァイセはその言葉を口にどうしても出せなかった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「本当に間に合ってよかったです」

 

「かなりギリギリだったけど、ね」

 

 一誠達が妖怪達に戦うために構えようとしていたその直前にレンとロスヴァイセはたどり着き、今の状況を一誠達に説明した。すると、その場にいた妖怪も既に知っていたのか敵意を向けていなかったため、すぐに一誠達もこの状況を飲み込んでくれた。それから、「我らが姫君もあなた方に謝罪をしたい」と申し出て来て、妖怪達の住む特殊な空間へとその場にいる全員が案内された。

 

 そこには金閣寺の人気の無い場所に接地してある鳥居でレン達がそこを潜っていき、目に飛び込んできたものは京都の街並みよりもさらに古く、和の雰囲気がより一層漂っている異界だった。また、妖怪達の住処と言うだけあって人間は一人もいない。

 

「ここが妖怪の世界、か」

 

 レンが辺りを見渡しながら一人言を呟くと、案内をしている狐の耳と尻尾を生やした女性がそれに気が付き話し始めた。

 

「はい、悪魔の方々がレーティング・ゲームの際に使用するあの空間に近いものだと思ってくれればいいかと。私達はここを裏街や裏京都などと呼んでおります」

 

「なるほど」

 

 彼女はわかりやすく親切丁寧に解説をしてくれて、レン以外の者達は理解したように頷いていた。それから、レン達はしばらく歩き続けると、巨大な赤い色の鳥居が建っており、その先にはアザゼルとセラフォルーが既に待っていた。

 

「お、来たか」

 

「やっほー、皆☆」

 

 そして、二人の間にはレンの知らない金髪の少女がいた。その少女は案内をしてくれた女性と同様に、狐の耳や尻尾が生えているが、尻尾が一本ではなく複数本見られるのが唯一違う点だった。

 

「私は表と裏の京都に住む妖怪達束ねる者ーー八坂の娘、九重と申す。……先日は申し訳なかった。どうか、許して欲しい」

 

 女の子は自己紹介をしてから、深々と頭を下げて謝罪してきた。

 

「ま、いいんじゃないか。誤解が解けたのなら、私はそれで構わないさ」

 

「そうね、許す心も天使に必要だわ」

 

「はい。平和が一番です」

 

「……みんなもこんな感じだし、もういいって。それに俺も別に気にしてないしさ。だから、顔上げてくれよ、な?」

 

 レンとロスヴァイセ以外の当事者である一誠達は、自分が思っていることを口々に言い、全員が特に気にしていない様子だった。

 

「し、しかし……」

 

 それでも、誤って襲ってしまったことをいまだに引きずっているらしく、九重の表情まだ晴れていない。そんな様子でいる彼女を見て、レンは口を開いた。

 

「生きてる者は誰だってどうしても間違いを犯すものさ。たとえ、それが人間だろうと、妖怪だろうと、悪魔だろうとね。それに一誠達だって気にしてないみたいだからさ、このことはもう水に流そう、な?」

 

「ああ、レンさんの言う通りだ。九重は俺達に謝ってくれた。それなら俺達だって九重のことを咎める必要はもう無いよ」

 

 そして、レンの言葉に同意するような形で、一誠も九重に笑顔で告げた。

 

「……ありがとう」

 

 九重は顔を赤くしながら呟くように感謝の言葉を送っていた。

 

「さて、それじゃあ本題に入ろう。九重ちゃんだってお母さんを一刻も早く助け出したいもんな」

 

「……ッ!」

 

 レンにそう言われた途端に九重は体をビクッと一回震わせて顔をうつむかせた。そうして一拍間を置いてから、九重は再び口を開いた。

 

「……咎がある身で悪いのじゃが、母上を助けるために力を貸して欲しい!」

 

 

 

 

 

「……なんだか、えらいことになってますね」

 

 今回の経緯を一通り聞いた後に一誠は呟いた。

 

 それで今回、何が起こったのかというと、この京都を取り仕切っている妖怪の総大将ーー九重の母親である『八坂』は帝釈天の使者と会談するため、数日前に屋敷を出た。ところが、その会談の席に彼女は姿を見せなかったという。

 

 それを不審に思った妖怪達は八坂の安否確認を行い、その段階でさらわれてしまったことを知ったらしい。それで京都中の怪しい輩をしらみつぶしに捜していたところで、一誠達を発見、そのまま襲撃というように発展したわけである。その後はレン達も知っての通りで、アザゼルやセラフォルーが尽力したことによって誤解が解け今に至っている。

 

「修学旅行中で悪いと思っているが、おそらくお前達にも動いてもらうことになるだろう。何せ人手が足らなさすぎるからな。最悪の事態も想定しておいてくれ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 最終的にはアザゼルがそう締めくくり、一誠達はその言葉に迷うことなく応じた。

 

「レン、ロスヴァイセ。お前達もいざという時は……」

 

「言われなくても、わかってます。私達も最初からそうするつもりでしたから」

 

「あぁ、それ位の仕事なら余裕だ。任せてくれ」

 

 レンとロスヴァイセも当然と言わんばかりに快く引き受けた。

 

(妖怪の中でも最も強い力を持っているであろう八坂さんをさらっていったとなれば、……そのような芸当のできる実力者はごく少数に限られてくる)

 

 レンは頭の中でこの一件の犯人が誰なのかを考えていた。そして、レンはひとつの答えに行き着いた。

 

(俺の勘が正しければ、『絶 霧(ディメンション・ロスト)』の所有者が裏にいるはずだ。……前の借りは必ず返してやる!)

 

 レンは厄介な敵を遠くに見据えて、無意識のまま拳を強く握りしめていた。

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