「よし、ここ一帯の調査も終わったことだし、一杯飲むか!」
アザゼルはレンとロスヴァイセを引き連れて、嵐山での『
「……なぁアザゼルさん、せめて今日と明日位は控えて欲しいね。さすがに英雄派っていう連中がどれ程の戦力かわからない以上は、少しでも戦力は欲しいところですから」
「チッ、んなことくらい俺もわかってるさ」
しかし、レンから的確な忠告を受け、舌打ちをしながらも升に注ごうとしていた手を止めた。ちなみに、ロスヴァイセは嵐山の散策を個人的にしたいということで二人とは別行動をとったため、この場にはいない。
「だが、英雄派の素性もお前のおかげで大分わかってきたぜ。……今のところだが、あれほど厄介な奴らはいないだろう」
アザゼルは急に真面目な表情になって、現状を語りだした。
「そうですね。これは俺の憶測でキツいことを言いますが、今のみんなの実力では太刀打ちできない。……唯一互角に渡り合えるとしたら一誠だけでしょうね」
「……おいおい、お前がそこまで言うのかよ。英雄派の二人をまとめて退けたことが前回戦った時にあったんだろ?」
「いや、あの時は正直ギリギリだった。彼らの隙をうまくついて立ち回ったからこそなんとか退けることに成功したけど、次も同じ結果が出るとは限りません」
レンは肩を竦めて謙遜するように言った。
「そうか。まぁ、今回はお前一人ってわけじゃないんだからよ。生徒である一誠達に頼り辛いんなら、俺を頼れ」
アザゼルは口では真剣なことを語っていながら、手は酒瓶の方へと伸びていて、さっき中断したはずの行動を再び行っていた。
「ええ、頼りにしてますよ。……なので、酒は遠慮してくれると嬉しいんですが」
ごく自然な流れで升を口に運んでいたアザゼルを見て、すかさずレンは突っ込みを入れるが、そんなことはお構い無しに、アザゼルは酒を味わいながら楽しんでいる。
「なぁに心配すんな。俺は酒に強い方だからこの程度では酔わねぇよ。ハッハッハッ」
「ーーあれ、先生達も嵐山に来てたんですね。……って、教師が昼酒はいかんでしょう!?」
ここで食事をしていた一誠達のグループはアザゼルとレンがここにいることに気が付いて、話しかけてくる。ちなみに、一誠の隣には巫女装束の金髪少女、九重がいる。
一誠もさすがにアザゼルの行動はまずいと思っているようで非難の言葉を浴びせる。
「まぁそう言うなって。ちょっとした休憩だ。俺達は適当にここら辺でもう少し楽しむからよ、若いお前らはさっさと食って他を歩き回れ」
「……は、はい。最初からそのつもりだったんで別にいいんすけど」
一誠はそう言って、他のメンバーであるアーシア達が食べ終わるのをしばらく待ってから、一誠達はこの店を後にしていった。
「……そうだ。せっかくのこの機会だ、ひとつお前に訊きたいことがある」
ここにいる者がレンとアザゼルの二人のみになり静まり返っていた中、アザゼルはふと口を開いた。
「なんです?」
そこまで重要なものでは無いだろう、とレンは勝手に思い込んで本を読み進めながら、適当に返事をするが、
「あの紅い魔槍ーーゲイ・ボルグをいったいどこで手に入れた?」
アザゼルのその問いが耳に入った途端、レンは読書している手を急にピタッと止める。
「……なぜ、そんなことを?」
「理由は特に無い。……まぁ、強いて言うんなら、単なる好奇心だ」
レンはそれを聞き軽く苦笑してから、大きく息を吐いて答えた。
「俺も知りま……いや、身に覚えが無いと言った方が正しいかな?師匠が言うには、俺の知らない間に俺の所有物となっていたそうですから。……逆に俺からもひとつ質問させてもらいますが、あなたはゲイ・ボルグの何を知ってるんだ?」
「その口振りだと……そうだな、お前よりも俺の方が知ってることは確実に多いだろうな。しかし、これだけは勘違いするなよ?俺もあの魔槍の全てを知ってるわけじゃあない」
レンは本に栞を差し込んで、テーブルの上に静かに置いた。そうしてから、レンは改めてアザゼルに言った。
「それでもかまわない。使いこなせるようになるためにも俺は知りたいんだ。だから、俺にーー」
ーー教えてくれ、レンはそう言おうとしたが周囲の異変を感知して、その言葉を無理矢理噛み殺した。それから、表情を急変させて今の状況を静かに告げる。
「この話はまた今度お願いします。……敵が来た」
もうひとつ言っておくと、この場にはアザゼルとレン以外の一般人達は一人もいない。きれいにいなくなっていたのである。
「ああ、そうらしいな。イッセー達もまだ近くにいるはずだから、早いとこ合流するぞ」
アザゼルもレンが感知したとものと同じ何かを感じ取り、背中から漆黒の翼を広げだした。
「了解した」
(…………一誠達とこれは他の班で別行動をとっていた木場の気配か。それで、ロスヴァイセは……ここにいないみたいだな)
レンは短い言葉でアザゼルに応じると、感覚を研ぎ澄まさせて一誠達の気配を一度大まかに探ってから、大きく跳躍して空へと上がっていく。そうした後にレンはぐるりと周囲を見渡して一誠達を即座に発見した。
「見つけた。あっちだ」
一旦着地してから、指で一誠達のいる場所をアザゼルに示すと、その方角に向かって全速力で駆け出していった。
「みんな、大丈夫かい?」
レンは近寄りながら、その場にいた一誠や木場達に声をかける。
「はい、全員無事です。けど、いったいーー」
「ーーここは何処なんだ、って訊きたそうな顔をしているな」
「……ッ!?誰だ!」
一誠達の後ろから突然聞こえてきた第三者の声に、一誠は驚きを隠せないでいる。もちろん、それは一誠だけでなく、アーシアやゼノヴィア、イリナも同様であった。
その声の主は学生服のようなものを着用している黒い髪の青年だった。そして、彼の最も特徴的な点は、特殊な形状の槍を一本手に持っていることだった。
さらに、青年の周囲には彼と似たような服装の若い男女が複数人いるのが見てとれた。その中にはレンが以前戦った魔剣使いの青年ーージークフリートもいた。
「はじめまして、アザゼル総督、魔槍使い、そして赤龍帝」
「……お前が英雄派を仕切ってる男か」
アザゼルが一歩前に出て、槍を持っている青年に訊ねると、彼は何の躊躇いも無く答えた。
「ええその通りですよ、堕天使の総督殿。俺の名は曹操。三国志で有名な曹操の子孫だ。ーーいちおうね」
「……全員、あの槍だけには絶対に気を付けろ。最強の
その青年と槍の正体を知り仰天する一誠達だったが、その中でも冷静さを保っていたレンが曹操に訊ねた。
「……ひとつだけ訊きたい。八坂さんをさらって何をするつもりだ?」
「ちょっとした実験をするために少しばかり力を貸して頂くだけです」
もちろん、返答が無いことも承知の上でレンは曹操に訊いたのだが、彼は渋る様子も無くあっさりと答え、八坂をさらったことに関しても否定をしなかった。
(実験の内容を訊いたところでそれは無意味に等しい。しかも未然に防いでしまえばそれで済む話だからな)
「それを見過ごすつもりはさらさら無い。だから、八坂さんをーーこの子の母親を是が非でも返してもらう!」
レンは地面に手をつき、自身の
同じ制服を着た一団に、レンによって生み出された大量の魔槍が襲いかかっていくが、簡単にかわされ、効果はあまり得られなかった。
「レオナルド、手筈通りに頼むよ」
曹操は小さな男の子がいる付近に着地し、話しかける。そして、男の子は小さく頷くと、彼の足元からは異様な影が出現し大きく広がっていった。
「……させるか!」
レンは異空間からゲイ・ボルグを掴み取り、その男の子との距離を一気に詰めるが、両者の間に曹操が入り込んでレンの行く手を阻んだ。
「どうやら、キミはレオナルドの神器に身に覚えがあるみたいだな」
「だったらどうする?」
「なおさら、ここを通すわけにはいかないね」
曹操はそう言いながら、聖槍でレンを攻め立てた。レンはゲイ・ボルグと左手に新たに創り出した魔槍でそれを防ぎつつ、僅かな隙をついて反撃を加えていった。曹操もレンの攻撃を器用にかわしながら、この拮抗した状況を維持している。
「うん、さすがは噂の魔槍使いだね。かなりの技だ。……しかし、顔や髪色は似てると思っていたけど、まさか戦闘スタイルまで
(……誰のことだ?)
レンは曹操の言葉に少し疑問に思ったが、思考を戦いのことへとすぐに戻して、一旦間合いの外に出た。
一方で、一誠達の方はというとレオナルドによって生み出された魔物との乱戦が始められていた。しかし、その魔物はただの魔物ではなく、対悪魔用に創り出された一誠達にとっては厄介な敵だったのである。
(チッ、出し惜しみはしてられないか)
「ーー『我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを討ち滅ぼす凶器なり』」
「さて、ここからが本番かな。魔槍使い君」
曹操は肩でトントンと聖槍を遊ばせてから、前に構え出した。
「……ああ、そうだな。聖槍使い」
対するレンは重心を低く下ろし、今にも曹操に襲いかかろうと、紅く鋭い眼光で睨み付けていた。