それとランサーについて、性格はクーフーリンの方に近付けてますが……
「くそ~、今日こそ勝てると思ったんだけど、やっぱ師匠の二槍流は強かったなぁ」
レンは歩きながらそんなことを呟いた。
修行が終わり昼食を摂った後、レンはおつかいを任されて久しぶりの街を歩いていた。この街はレン達が住む小屋のある山から少し離れたところにある。
それで、そのおつかいの内容とは、
「レン、街で調味料を全種類買ってきてくれ。そろそろ無くなりそうだからな」
ーーとそういうことである。おつかいという名目ではあるが、街に行けるということなので、レンは特に面倒だと思うわけでもなく快く引き受けたのだった。
「う~、まだ腹が減ってる気がする。いつも以上に食べたはずなんだけど、なんでだ?」
『鉄血転化』を一度発動させれば、身体能力を極限まで高めることができる反面、大量にエネルギーを消費してしまうという唯一の欠点がある。不完全ながらも発動に成功させたレンはその反動を受けたわけなのだが、そのことをレンは忘れていた。
「ねぇおじさん。このトマトもう少しまけてください。三個買うので、どうでしょうか」
レンが街中の市場を散策していると、おそらくレンと同い年ぐらいの女の子の声が聞こえてきた。レンがその声のする方へ顔を向けると、そこでは銀髪の女の子がトマトを値切ろうと売り子のおじさんと交渉していた。
「え~と、トマトの値段は……なるほど」
レンはそれを見て「妥当じゃないかな?」と内心思っていたが、自分の使命を思い出してそこを通りすぎていき、またしばらく歩いていった。
「あの店はたしかここら辺だったはず……あ、あった!」
レンの体感時間にして約三分歩いたところで目的地に辿り着いた。
「お姉さん、こんにちは」
少し寂れたドアを開けてレンは店の中へ入っていく。そこには黒髪ポニーテールの女性がカウンターに立っていた。
「久しぶりだな、レン。今日は師匠と一緒じゃないようだな」
彼女の名前はアカリ。この店の主だ。
「今日は何を所望する。塩か?胡椒か?それともーー」
「全部でお願いします」
「承知した。少し待っててくれ」
レンの注文を聞くと、アカリは店の裏へと入っていった。
「しかし、……これを全部持っていくのか?」
とりあえず注文された品をアカリは持ってきたわけなのだが、レンがこの重量の荷物を持って帰れるのか疑問に思っていた。
「大丈夫。俺、鍛えてるからね。これくらい余裕」
それに対してレンは胸を張って応えた。毎日のように魔槍を振るっているレンにとっては、大の大人一人程度の重量なら担げる重さなのだ。
「それじゃあ、また無くなりそうになったら来ます」
「ああ、またな」
レンは両肩に大きな袋を担いで、店をあとにした。
◼◼◼
グゥ~
「しかし、このとてつもない空腹感……なんとかしたいな。何かすぐに食べられるものは……」
腹から音が鳴り、レンはさっき忘れたはずの腹の減り具合を思い出した。しかし、辺りを見渡しても手軽に食べられそうなものが売っている気配は無い。
「あ、そうだ!」
レンは何かを思い出したかのようにもと来た道へ向かって走り出した。彼は野菜を売っている店があったことにふと気付いたのだ。
そして、その出店にたどり着くと、レンの目に真っ先に飛び込んできたのはトウモロコシだった。レンはこの売っているものの中でエネルギー補給に最も最適なものがそれだということを知っていた。もちろんランサーの教え(豆知識)である。
さらに、この売っているものが残っている最後の一本だということもあり、レンはかなり食い気味に訊ねた。
「おじさん!このトウモロコシちょうだい!」
大きな荷物を二つ担いでいる子供に前に乗り出すように訊かれて、売り子のおじさんはやや戸惑った様子で答えた。
「そ、それなら値段はーー」
おじさんが値段を言い切る前に、レンはいつの間にか小銭を前に差し出した。それを見て、おじさんは若干の苦笑いを浮かべている。
「はい。これお釣りと品物」
「おう。ありがとね、おじさん」
レンはトウモロコシとお釣りの小銭を受け取ると、すぐさま方向転換をして、トウモロコシをかじりながら歩き出した。
「ねぇ、あなた。いくらおつかいの帰りとはいえ、買い食いは良くないですよ」
「ふぇ?」
突然何者かに声をかけられて、変な声を出すレン。振り返ると、さっきトマトを値切っていた銀髪の女の子がレンの真後ろに立っていた。
「私の通ってる学校では見かけない顔だけど、……ってその荷物重くないの?」
女の子は何かをレンに言いかけるが、今頃になってレンが担いでいる荷物の存在に気付き、話が脱線してしまう。
「平気だって。なんで、そんなにみんな気にするんだろう?」
レンは特に気にする様子もなく、未だにトウモロコシをポリポリとかじりながら話を聞いていた。そんなレンの様子を見て、女の子は前のめりになって言い放つ。
「私が言ってるそばから食べない!人の話を聞くときはその人の目を見て聞く。親からそう習わなかったのですか?」
「そう言われたってなぁ。俺の親は一年前に死んだから……あ」
レンは「しまった!」と思ったが既に遅い。思わず口に出して答えてしまった。その言葉が出たことで微妙かつ気まずい雰囲気がこの場を包み込んでいる。そんな中で先に口を開いたのは銀髪の女の子だった。
「そ、その、ごめんなさい!」
彼女は謝罪の言葉だけを残して、この場から逃げるように走っていった。そして、この場に残されたレンは小さいため息をつきながら、あの言動に少しながら後悔していた。
「あの女の子に悪いことしちゃったか。それにしても、あの子しっかりとした言葉遣いだったなぁ」
しかし、あくまでもレンの比較対象はいつも接しているランサーだけ。おまけにランサーの口はお世辞にも綺麗とはいえないので、彼女の言葉遣いがより綺麗だと思ったのである。
「そうだ。それと『ガッコウ』ってなんなのか訊いてみたかったな」
レンはただひとつだけ疑問に思っていたことを胸にしまい、山の方へと向かっていった。
◼◼◼
「ただいま帰りました。買ってきましたよ」
「おう、ご苦労さん」
レンが小屋に戻ると、食事の準備の半分以上が既に終わっていた。そのうえ、量がいつもの倍近くは用意されている。
「今日はやけに量がありますね」
「ったく、お前のために用意してやったんだ。いつも以上に感謝しろよ」
ランサーは『鉄血転化』がどれ程のエネルギー消費をするのか、当然ながらわかっている。
「ま、修行の際に毎度毎度発動されたら、こっちも色んな意味でたまったもんじゃねぇ。次からは事前に大量の肉を確保しておくか、なるべく発動を控えるようにするんだな」
それを聞き、レンは素直にうなずいた。
「ところで、お前、帰ってきてから浮かない顔をしているが街で何かあったか?」
レンの頭の中では、銀髪の女の子の走っていく後ろ姿が思い浮かばれるが、それを振り払いレンは答えた。
「あの……ガッコウってなんですか?」
「はぁぁ?」
レンの口から出てきた意外な単語にランサーは間の抜けた声を出した。
「そりゃあ、めんど……ごほん。色んなことを学ぶ場だな。お前は学校に行きたいのか?」
ランサーは逆に訪ね返すと、レンは首を傾げて答える。
「別に行ってみたいと思ったわけではなく、ただ単に気になっただけです」
「そうか。しかしなぁ、学校……ね。あのエロジジイにでも相談してみっか」
「何か言いましたか?」
「ただの独り言だ。んなことより、お前はとっとと飯食え」
ランサーは今言ったことを誤魔化すように、話を変えた。そして、レンはランサーの言葉が言い終わる前に手をつけていた。ランサーはそれを見て鼻で笑いながら一緒に食べ始めた。
こうして、レンの一日はいつもと変わらずに過ぎていくのだった。