『
「……レン君、部屋入りますね」
そして、それを見計らったかのようにして、ロスヴァイセはドアを三度ノックした後に入ってくるのだった。
「俺に何か用でも?」
レンはベッドに寝転がり、顔をロスヴァイセに向けないままで訊く。
「もう、とぼけないでください。……事情はアザゼル先生から聞いて、だいたいわかってますから。レン君達はついさっきまで『
「……あぁ。結局、勝手に逃げていったけどな」
ロスヴァイセがレンにやや強めに問い詰めるような口調で言うと、レンはゆっくり起き上がって、ロスヴァイセの方へ顔を向けて座り直した。その時にレンは悔しそうに拳を握りしめながら、振り絞るように言葉を発していた。
「それで、ホテルに戻るまでの間、なぜ私に黙ってたんですか?」
「それについては、話すタイミングがなかなか見つけられなくてね。悪かったと思ってる」
「わかってればいいんです。…………もしものことがレン君に起こったら、私……」
「ん、何か言った?」
「あっ、いや、なんでもありません」
ロスヴァイセは自分で恥ずかしい内容の何かを言っていたことに気が付き、顔を下に向け言葉を濁した。
「さて、用件は済んだ?これで話が終わったんなら、そろそろ夕食の時間だし会場に行こうか」
「はい、それもそうでーー」
「ちょっと待って!」
レンの提案で、夕食会場に向かおうとする二人だったが、フレイがレンの部屋のドアを勢いよく開け放ち、それに待ったをかけた。
「ロスヴァイセの次はフレイかよ……。どうかしたのか?」
レンは「やれやれ」といったような呆れた態度で、今度はフレイに訊ねると、フレイはレンの目を真っ直ぐ見つめたまま訊ね返してきた。
「レンさん、さっきのその戦いでアイツはいましたか?」
(アイツ?……そうか、ウェンディゴのことだな)
レンは一瞬、フレイが誰のことを指しているのか疑問に思ったが、すぐ正しい答えにたどり着き頷かせながら再び口を開いた。
「いや、さっきのあの戦いであの魔物使いはいなかった。……あと、これは俺の予想なんだが、奴は今回は出てこなかったが、次の戦い、つまり今夜は必ず出てくると思う」
「なぜ、レンさんはそう思うんです?」
「今回の敵ーー英雄派の目的は八坂さんを計画の何かに利用すること。そして、非常に気にくわないが、ウェンディゴの
「たしかに、その予想は正しいかもしれないです。……うん、じゃあ私もその戦いに参加するから、よろしくね」
「おいちょっと待て、話はまだ終わってない!」
フレイは仇敵が現れるというレンの予想を聞くと、レンの話を最後まで聞くことなく、冷徹な目を一瞬だけ見せて、部屋を後にした。
「レン君、操るとはいったいどういう……」
「……そのまんまの意味さ。あちら側には魔物を自分の駒のように御することのできる神器使いがいるんだ。まぁ、一種の洗脳だよ。彼女は自分の手中にある魔物のことをまるで捨て駒のようにぞんざいに扱ってたからな」
「そんな……そんな非道いことを!」
レンからそんな事実を聞いて、我慢しようにも憤りを隠しきれないロスヴァイセ。そんなロスヴァイセの怒った様子を見て、レンは冷静に諭した。
「それでさっきの話の続きなんだけど、英雄派が八坂さんを完全に支配しているとは限らないんだ。仮にも八坂さんはセラフォルーさんみたいな魔王クラスの力を持った妖怪だ。たとえ
最後にレンは先程出ていったフレイとは正反対の穏やかで優しい目をして、笑顔を作りながら言った。
「いずれにしても関係ない。俺達の手で絶対に八坂さんを連れ戻してやろう。うん、シンプルに行こうか、シンプルに」
◼◼◼
夕食の時間も入浴する時間もとっくに過ぎ、現在の時刻は就寝時間にもうすぐ達しようとしていた。そのような時間に一誠の部屋では今回の関係者が続々と集まっていた。集合した理由は無論、二条城で行われる英雄派の実験というものについて、どう阻止するか等の話し合いである。
「さっそくだが、手短に作戦を伝えるーー」
そして、アザゼルから告げられた作戦の内容はこうだ。まず、匙を除いたシトリー眷属のメンバーとロスヴァイセは、ホテルにいる一般生徒の護衛。グレモリー眷属とイリナ、匙、レン、フレイは二条城に向かい攻撃を仕掛ける。最後に残ったアザゼルやセラフォルーといったいわゆる最上位の各勢力の幹部達は、京都からの脱出を阻止するための指揮をする。ーーと、最終的にはこのような配置となった。
ちなみに、増援として相当な手練れが来るという良い報告があったり、フェニックスの涙は三つしか支給されなかったというような悪い報せもあった。
「と、まぁ俺から言うことは、あとひとつだけだ。全員死ぬなよ。必ず生きて帰るんだ」
『はい!』
「「了解した(です)」」
最後に、この場にいる全員の意思がひとつとなって、この作戦会議はひとまず終了した。
二条城に攻め込むオフェンスチームの全員の準備が整い、ホテルから離れようとすると、入り口近くにはシトリー眷属とロスヴァイセが待っていた。シトリー眷属の女子達は各々匙や一誠達に激励の言葉を送っていて、ロスヴァイセもレンとフレイに向けて言葉を伝えていた。
「レン君、フレイさん。二人ともいいですか?あまり無茶をしてはダメですからね」
「あぁ、わかってる。そっちはあまり心配していないけど、警戒はしておけよ?」
「大丈夫だよ。もう、相変わらず心配性だなぁ」
この場に残って一般生徒を守る役割であるロスヴァイセがかなり不安に思っているのに対して、敵地に攻め込もうとしている二人はあまり気にしておらず、いつも通りといった様子でここを出発しようとしていた。
「で、でも、英雄派という集団はまだ具体的な戦力とか未知な部分が多いのですよね……」
「それでも、誰かがこの役回りをやらないとこの先も奴らは俺達の前に立ちはだかることになるだろう。それが今回は偶然ここに居合わせた俺達だったってだけのことだ」
レンはロスヴァイセの目の前に立って、肩に手を置きながら、目を真っ直ぐ見つめてさらに続ける。
「ロスヴァイセが心配することなんて何一つ無いだろ。俺はキミの元に必ず戻ってくるから、安心して待っててくれよ。ただ、そうしてくれるだけでいいから、な」
「えっ、あ、その……え?」
レンはほんの軽い気持ちで言ったつもりのはずだったが、ロスヴァイセはレンの言葉の意味を勝手に深読みし過ぎたせいで、顔を真っ赤にして酷く狼狽しだした。
「ふふ、二人ともとてもお熱いですね」
フレイはそのやり取りを横から見て、手をパタパタ扇ぎながら笑っている。
「なんだよ……そんなに変なこと言ったか?俺」
「…………」
レンはこの現状をいまひとつ飲み込めずにいて、逆にロスヴァイセはそれを理解していたので、頭から蒸気を上げながら黙り込んでいた。
「レンさん、そっちの話は終わりましたか?」
少し離れた位置にいた一誠や匙達はちょうど話が済んだらしく、微妙な空気に包まれているとは露知らず、レン達に声をかけてきた。
「ああ、こっちも今済んだところだ!……じゃあ、行って来るよ、ロスヴァイセ」
「行ってきます、お姉さん」
レンとフレイはロスヴァイセに挨拶をひとつ入れてから、一誠達がいる方へ歩き始める。
「待ってください」
しかし、ロスヴァイセはレンの腕を掴み、制止させた。それから手を無理矢理開かせて、その掌の中に小さな何かを握らせた。
「……これは?」
レンは掌を開いて見てみると、そこには小さな布でできた紫色の袋があった。
「安全祈願の御守りです。私も全員無事に帰ってくること祈って待ってますから、いってらっしゃい!」
「うん、ありがとう!」
レンはお礼の言葉を述べてから再び歩き出し、全員とようやく合流した。一誠はオフェンスチームの全員が揃ったことを目で見て確認をとると、自分に言い聞かせるように大きな声で宣言した。
「よし、それじゃあ二条城に向かいましょう!」
レン達はホテルを出て、京都駅のバス停に向かって足を進めていくのだった。