魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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魔槍使いと英雄派の刺客2

 レンは自分の間合いに瞬時に入っては敵に一戟を入れる毎に離脱する、いわゆるヒットアンドアウェイの戦闘スタイルをとり、敵からの攻撃を全てかわしてうまく立ち回っている。……しかし、

 

(ただ単に狂化しているだけでなく、自然治癒能力も極限まで高められているらしい。これは致命的なダメージ以外、効果が無いに等しいと考えるべきだな。……腕を失うことと同程度のショックを与えなければ、怯みもしないのなら尚更だ)

 

 単純に斬りつけた程度のダメージでは全く怯まず、さらには、出血をたったの2、3秒で止めることができ、敵は一心不乱に攻撃の手を休めようとしなかった。加えて、レンの攻撃パターンに段々と動きやスピードまでも合わせてきており、攻撃が当たる回数も少なくなっていた。

 

「フレイ、今度は足腰の間接部を狙ってもう一度撃ってくれ」

 

 レンは後ろに大きく跳び退きながら、上空で待機しているフレイに指示を出す。もちろん、レンはその攻撃に大した効果を期待しているわけではいない。

 

「あとはゲイ・ボルグの一投で奴を葬る」

 

 それでも、ほんの刹那の隙を作り出すために、レンはその手段を選んだのだ。

 

『はいッ!』

 

 フレイも迷うことなくそれに応じて、初手と同じように羽根を再びばら蒔き始めた。今回は飛ばす量が少ない代わりに動きにより精密さを持たせて、装甲が薄いであろう可動する間接部を確実に狙っていった。

 

「……フゥゥッ、『禁手化(バランス・ブレイク)』」

 

 レンはフレイが攻撃を再開したことを確認すると、ゲイ・ボルグを構えながらただ一言静かに呟き、全神経を相手の動きを見極めることに集中させる。

 

 腕が三本になった男は、羽根の弾がさっき鎧を貫通しなかったことで油断していたのか、そのまま避けることなくレンの方へと恐ろしい速さで近づいていく。レンも後ろにどんどん下がって一定の距離をとろうとするが、前を向きながら後ろに下がっているゆえに、当然のように差は縮まっていった。

 

『レンさん!』

 

「構うな、集中するんだ」

 

 それにたまらずフレイも心配するような声をレンにかけるが、当の本人は冷や汗一滴もかいていなければ、呼吸の早さもいつも通りだった。そして、ついにフレイの攻撃が男の両膝、足首、付け根といった体の節となる部位に次々と突き刺さっていく。

 

「……そこだ、いけ」

 

 レンは狙い澄ましたそのタイミングで目を見開かせると、地面に潜ませていた魔槍の蛇龍で奇襲を仕掛けていった。無論、敵が黙ってそれを食らってくれるはずはなく、脚を使って横に跳ぼうとするが、

 

『逃がしません、爆破(ファイア)!』

 

 フレイはそこからさらに重ねて、さっき突き刺した羽根を炸裂させ、跳び逃れようとしていた敵の重心を崩した。

 

「◼◼◼ッ!」

 

 二人の息がピッタリと合ったコンビネーションによって、男は回避をすることが間に合わず、蛇龍の牙をまともに受けてその勢いで体も宙に浮いた。それでもしぶとく足掻き三本の腕で自身の体へのダメージは最小限に抑えていた。それを見てレンは軽く鼻で笑ってから言った。

 

「そうなることまでは俺も読めていた。……だから、これを最期の手向けとして贈ってやる」

 

 『禁 手(バランス・ブレイカー)』の蛇龍で仕留めきることができなかったものの、宙に浮かせた状態を作り上げることが本来の目的だったレンにとってはこれで十分だった。

 

「ーーゲイ・ボルグッ!」

 

 レンの手から放たれた紅い魔槍は、いままで二人の攻撃を阻んできた屈強な腕に易々と風穴を空け、一瞬の内に絶命させた。その証拠に男の纏っていた血だらけの鎧は儚い音をたてて粉々に砕け散り、男は力無く地面に崩れ落ちていった。

 

『レンさん、先を急ぎましょう。みんながもう既に待ってるかもしれませんし』

 

「ああ、想定していた時間よりも大分かかってしまっているしな」

 

 一刻を争う事態に二人は一息つける暇があるはずもなく、フレイは変身したその状態で低空を滑空していった。

 

「もし、アンタが曹操とではなく、先にアザゼルさんに出会っていたら別の生き方もできたんだろうに……な」

 

 レンは独り言を溢しながら、同情するような目でさっきまで自分達と戦っていた男を一瞥した。その後、フレイの後を急ぎ足で駆け出していくのだった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「すまない、遅れてしまった」

 

「いえ、俺達も今ちょうど来たとこなんで」

 

 フレイとレンが二条城の東大手門に到着し、今回の戦闘に参加するメンバーの全員がようやく集まった。

 

「とにかく、全員無事でなによりです」

 

 木場が安心したような声でそう言ったように、ここにいるメンバーに目立った怪我はなく、疲れた様子も一切なかった。

 

「それで、ここからどうするんだ?このデカイ門をぶち破ればいいんなら、すぐにそうするけど」

 

 先を急ぎたい一誠が閉ざされている正門を見ながら、それを破壊して二条城内に進入しようとするが、その門は一誠達を招き入れるかのように勝手に開きだした。

 

「なるほど、あちらもお待ちかねみたいだ。演出がなかなか凝っているね」

 

 木場が皮肉を言って苦笑いすると、レンはそれに相槌を打つように頷いた。

 

「まったくだな、たしかにそうらしい。……さて、全員気を引き締めて行こうか」

 

 

 

 

 

 敷地を走りながらどんどん進んでいき、いくつかの庭園と小さな門を抜け、本丸御殿にたどり着いた。

 

「祐斗、ここであってるか?」

 

「はい、僕が倒した刺客は本丸御殿で曹操が待っていると、たしかに口にしました」

 

 レン達が周囲を警戒するように身を構えだしていると、見越していたかのように声が投げ掛けられる。

 

禁 手(バランス・ブレイカー)使いの刺客を倒したか。俺達の中でも下位から中堅の使い手とはいえ禁 手(バランス・ブレイカー)使いには変わりない。それでも難なく突破してくるとはキミ達はまさに驚異的だ」

 

(その中でも特に魔槍使いのレン。キミのところには上位に匹敵する力を持った危険人物を送ったはずなんだけどね。……やはり侮れないな)

 

 建物の陰から曹操を筆頭に、英雄派の構成員達が以前と変わらない制服姿で正体を現した。

 

「母上!」

 

 九重は視界に着物姿の女性を捉えた途端、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

 

「母上、九重です!お目覚めくだされ!」

 

 さらに、九重は八坂に駆け寄りながら強く強く呼び掛けるが、彼女は一切反応を示さなければ、全く微動だにしない。八坂の瞳は虚ろで焦点がどこにも合っていなかった。

 

「おのれ、貴様ら!母上に何をした!」

 

「言ったはずですよ。少しばかり我々の実験に協力してもらう、とね。小さな姫君」

 

 曹操は九重に向かってそう言うと指を鳴らした。

 

「う……うああぁぁぁっ!」

 

 そうした瞬間に八坂は悲鳴をあげ始め、フレイの変身と同様に体から光を放ち出して姿を変貌させていく。体の大きさはあっという間に十数メートルを裕に越して、九つの尻尾を威嚇するかのように広げていた。

 

「この八坂さんの膨大な量の力を使って、何を企んでいる?」

 

 レンは変わり果てた八坂に視線を送りながら、曹操に訊く。

 

「一口で説明してしまえば、グレートレッドをこの空間に呼び寄せるためさ。俺達のボスにとっては邪魔な存在らしいからね」

 

「……で?グレートレッドをここに呼び寄せて殺すか?それとも捕獲するか?」

 

「半分正解かな。まぁ捕らえることができるのかが怪しいところなんでね。いまだに生態が不明なことだらけだ。調査するだけでもーー」

 

 曹操はまだ喋っている途中であったがレンは最後まで聞くこと無く、魔槍を抜き身にし、曹操の前におどり出て攻撃を始めた。対する曹操もすぐに聖槍を出してそれにすぐさま対応した。

 

「まだ話の途中なんだけど、キミは意外とせっかちな性格なんだね」

 

「大体の内容は理解した。これ以上聞く必要性は無いと判断したまでだ!」

 

 レンが飛び出したのを見て、一誠やゼノヴィア達も本格的に構え始める。曹操とレンは密着した状態から互いに後ろに跳んで、仲間が近くにいるところへそれぞれ着地した。

 

「よし、早速実験を始めるとしよう。ーーゲオルク、ウェンディゴ、手筈通りに頼むよ」

 

「了解」

 

「わかりましたわ」

 

 曹操が二人に命令すると、ゲオルクはたくさんの魔方陣を生み出して、それらは八坂の足下に集約していった。ウェンディゴは八坂に跳び乗って、自身の神器を繋ぎ始めた。

 

「それで、ジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレス、お前達はどれとやる?」

 

 次に残った三人に向かって曹操は訊ねた。すると、ジークフリートは魔剣の切っ先を木場とゼノヴィアに向けて宣戦布告した。

 

「なら、剣士は剣士同士で戦うとしようか。聖魔剣の木場祐斗にデュランダルのゼノヴィア」

 

 ジークフリートの後に続くように残りの二人は、それぞれ戦おうとする相手に視線を向けていた。

 

「じゃあ、私は天使ちゃんにしようかな。すごくかわいらしいし」

 

「曹操、俺は魔槍使いとやらせてもらうぜ。この中で俺だけがあの野郎と戦ったことねぇみたいだからよ!」

 

 レン達の戦う相手は勝手に決まっていき、それをずっと傍観して待っていた曹操は口を開いた。

 

「つまり残った俺が赤龍帝っと。ライズ・ファルコンの女の子とヴリトラ君は?」

 

「……匙は九尾の御大将を。あの状態から解放してやってくれ。えっと、フレイちゃんはーー」

 

『私も八坂さんの相手をします。いざというときは、後退してアルジェントさんと九重ちゃんの護衛に入りますから』

 

「そうか、じゃあ任せた!」

 

 匙とフレイは一誠の言葉にそれぞれ頷き、匙は黒く細長い体のドラゴンに姿を変え、フレイは味方全員を鼓舞するかのように甲高い咆哮をあげた。

 

 曹操達は各自散開していき、一誠達もそれに対応するように各々が動きだし、戦う相手の目の前に立った。ーー木場とゼノヴィアがジークフリートの前に。イリナがジャンヌの前に。一誠が曹操の前に。そして、レンがヘラクレスの前に。

 

「てめえがこの面子の中で一番強いんだろ?」

 

 ヘラクレスは愉快そうに笑いながら、自分の目の前に立っているレンに訊ねると、レンは肩を竦めながら軽くあしらった。

 

「さぁ、それはどうだろうな?悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の特性を持っていないし、大して強くないと思うけど」

 

「ハッ、そうかい。まぁ、てめえはいつまでその透かした態度でいられっかが見物だな」

 

「やれやれ今日はパワー馬鹿の相手が多いな。……覚悟しろよ筋肉馬鹿が」

 

 黒い龍とハヤブサと九尾の開戦が他の戦いのゴングとなり、敵味方入り乱れる乱戦が始まりを迎えるのだった。

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