ジークフリートは木場とゼノヴィア、二人を相手にして戦いながら、楽しそうな笑顔を見せていた。
「よし、僕からの出血大サービスだ、
そして、ジークフリートはそう言うと、強烈な殺気と共に隠していた力を解き放った。すると、いままで三本だった腕はさらにその倍に増え、新たに二本の魔剣と一本の光剣を抜き身にしてから言った。
「ーー『
愉快に笑っているジークフリートと対照的に、木場とゼノヴィアはより一層顔を険しくさせていた。
場所は変わって、ジャンヌとイリナが戦っているところでも、
「ジー君も派手にやっちゃってるわね~。うん、じゃあお姉さんも本気を出しちゃうかな。ーー
ジャンヌもジークフリートと同様に力を解放させて、足元から聖剣によって創られた龍を出現させた。
「
英雄派の曹操、ゲオルク、ウェンディゴを除いた精鋭達は次々に
「ハッ、ずいぶんやるじゃあねえか。魔槍使いさんよぉ」
「根っからの脳筋野郎に言われても、あまり嬉しくない言葉だ」
もちろん、レンと戦っているヘラクレスもそれの例外ではないので、あまり動いていなかった戦況がようやく傾き始めた。
「俺もこの流れで俺もやっとかねぇと、あとでどやされそうだからな。その減らず口を一気に黙らせて、吹き飛ばさせてもらうぜ!
ヘラクレスは前の二人と同じ言葉を叫ぶと、その巨体にある変化が起きた。突然、全身から光を放ち出したかと思うと、その光は腕や脚、背中等に集約して、複数の突起物を形成していく。その突起物の形状を一言で例えるなら、「小さいミサイル」。これが一番正しい表現方法だった。
「『
ヘラクレスは顔をレンの方へ向けて、ミサイルの照準を真っ先に合わせ始める。
(あの男のあれが禁手による産物である以上、このままで全て撃ち落とすのは無理がある。……しかし、さっきの戦いでの俺の消耗を考えると、禁手同士をぶつけて俺に良いことはあまり無い)
レンはついさっき神器使いの刺客と戦った際のことを懸念材料に加えて、どう動けば最良なのかを導き出していた。
「俺について来なよ、ヘラクレス。アンタが本当に英雄の末裔だというなら正々堂々戦ってくれるのだろう?」
最終的にレンは、相手が英雄の末裔であるということに目をつけて、言葉巧みにヘラクレスを挑発した。
「冷血漢かと思ってたが、意外と仲間想いで甘ちゃんなんだな。ハッハッ、おもしれぇよ、魔槍使い!いいぜ、お前のそれに乗せられてやるよ!」
ヘラクレスはテンションをハイにして、高笑いをしながらレンの挑発にわざと乗った。レンはヘラクレスが自分の挑発に応じたことを確認すると、『鉄血転化』を発動しながら一誠達のいるこの場から離れていった。
「ーー『我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを討ち滅ぼす凶器なり』」
「オラァッ!食らっちまいな!」
ヘラクレスはそんなレンに構うこと無く、全身に作られたミサイルをレンに狙いを定めて一斉に掃射していくのだった。
「迎え撃て、俺の魔槍よ!」
攻撃を受ける身のレンは大量の魔槍を空中に創り出し、それらでヘラクレスのミサイルを次々に相殺させていった。幾重もの爆風によって土煙が舞い踊り、両者の視界は悪くなるが、風を切る音が収まったので、レンは魔槍を飛ばすことを一旦止める。
「これで終わり……のはずは無いだろうな」
だが、止まったのは数秒程度ですぐにレンが溢した言葉通りとなる。土煙が晴れて互いの視界がクリアになると、再び耳障りな高い周波数の音が鳴り響きはじめ、第一波の倍以上の物量のミサイルがレンに襲い掛かっていく。
「当然だろうがよ。今のはちょっとした小手調べで、爆破ショーの本番はこっからだァッ!」
「まったく、やれやれだね!」
レンは悪態をひとつついてから、初撃と同じ要領で魔槍をミサイルに向けて突き刺していった。今回はそこからさらにレン自らが本体狙いで独自に動き、地面に立ったまま動かないヘラクレスとの距離を徐々に詰めていった。
「おっ、やるねぇ。一発も当たらずにそこまで近づけた奴は久し振りだぜ!」
ヘラクレスは無傷の状態で近づいてくる紅い人影を視認すると、まるで娯楽を楽しむかのような嬉々とした声をあげて、攻撃の手をより強めた。前回の攻撃よりもさらに近く、なおかつより密度を高くした攻撃を浴びせられて、ずっと受け側のレンは苦しい状態に立たされている。そのはずだったのだがーー
「フゥッ!ハァッ!」
「……んだとぉ!?」
現実ではそのようにはならず、圧倒的有利な状況に立っているつもりになっていたヘラクレスは思わず驚愕した。なんと、レンは瞬く間すら与えずに、ヘラクレスの背後へ瞬間的にまわっていたのである。そして、レンはそのままがら空きとなっている無防備の背中にゲイ・ボルグを突き立てようと、刃を前へ突き出した。
「まだだァッ!!」
しかし、相当な手練れであるヘラクレスがそれをただで食らうはずも無かった。ヘラクレスは顔を前に向けレンの姿を確認しないまま、背中から新たにミサイルを発現させて距離感を全く考えずに撃ち放っていったのだ。
「……ッ!」
レンは危険を察知して、咄嗟に身を引こうとするが間に合うわけが無かった。ゲイ・ボルグはその勢いのままミサイルに突き刺さり、撃った方のヘラクレスも、撃たれた方のレンも共にミサイルの爆発に巻き込まれ、そこ一帯は大量の粉塵と真っ赤な炎によって包み込まれるのだった。
◼◼◼
『匙さんは八坂さんを狙って、どんどん動きを鈍らせていってください。彼方から来る攻撃は私が捌いていきますので』
『承知した。今回こそ俺達の力の見せどころだ、行くぜ、ヴリトラ!』
『任せてくれ、我が分身よ』
匙とフレイは二人がかりで九尾の狐と相対しており、互いの役割を確認しあっていた。
グリゴリの科学力により、匙はヴリトラ系の全ての神器を体に移植することに成功したことで、ヴリトラに化身することができるようになっていたのだ。
ヴリトラと化した匙は黒い炎を吐き出していき、それは九尾を取り囲むような黒い炎の結界を作り出していた。九尾もそれに対して、口から激しく燃え盛っている火炎を吐き出して匙へ反撃してきた。
『やらせませんよ!』
それを横から見ていたフレイは、すぐさま反応を見せて火炎の前へと躍り出た。そして、フレイは体を垂直に立てたまま高速回転し、小規模の竜巻をその場で発生させた。その竜巻は九尾の放った火炎を散らせて、打ち消していくのだった。
『助かった、ありがとよ』
匙はフレイに短く礼を告げて、改めて炎の結界の制御に力を注いだ。
『まだ続けて攻撃が来ます。警戒は解かないでください!』
『おう!』
しかし、いくらヴリトラの炎と言えど、短時間拘束した程度では、二つの神器と魔法の力の混ざった九尾の力をまともに削げるはずが無かった。九尾はいまだに健在で、今度は九つの尻尾を触手のように操って、二人の方へと伸ばしだした。フレイはそれらに即座に対応し、自分の得意技のひとつである羽根の弾丸を拡散させて、匙を捕縛しようとする尻尾を断ち斬っていった。
「クスッ、私の能力を忘れてなくて?」
九尾の頭に乗っているウェンディゴもフレイに負けじと斬られた尻尾を再生させて、攻撃の手を緩める兆しは一向に見られない。
『クッ!……匙さん、あの女も纏めて黒い結界で囲うことはできませんか?』
『……それはさすがにキツいな。けど、ラインを繋げてそこから力を吸収することなら可能だ』
『では、それでお願いします!』
フレイからそう頼み込まれ、匙は黒い龍の手からラインを飛ばしてウェンディゴに張り付けた。そこから神器の力を吸いだしていき、尻尾の再生速度を緩やかにしていった。ウェンディゴはラインをなんとかして切ろうと様々な手を試すものの、匙によって作り出されたラインが彼女の体から離れることは無かった。
「ゲオルクさん、このヒモを外すにはいったいどうすれば」
「……ふむ、ヴリトラのラインとなれば、解除に時間がかかるのは間違いのないこと。となれば、力ずくで引き千切るべきだ」
「……できれば使うな、と曹操様からのお申し付けでしたのに。よろしいのですか?」
「実験には失敗が付き物だ。それにこれで失敗するとも限らないのだから別に構わない。やってくれ」
ウェンディゴは近くにいるゲオルクに相談をするような形で話を展開させていた。
『このまま決めるぞ、ヴリトラ!』
それを攻める好機だと判断した匙とフレイは、それぞれ独自の攻撃で九尾を一気に攻め立てていく。黒い炎の結界はより禍々しさを増していき、それの呪いの力も現在進行形で強くなっている。ところが、ウェンディゴもゲオルクも取り乱すような焦った様子を一切見せることもなく、ウェンディゴは涼しい顔をしながらこう告げた。
「ウフフ、何を勘違いしているのかしら?勝敗を下すのはわたくし達ですわよ」
『……?それはどういうーー』
「ーー
フレイが疑問に思ったのもつかの間で、ウェンディゴが解き放った濃密なオーラは、光の柱となって体長が10メートル近くある九尾の体を包み込んでいった。そして、匙の知らず知らずの内にヴリトラの力で作り出された結界とラインは跡形もなく消え去っていた。
『バカな!?』
光の柱が細くなりながら、ウェンディゴの元に収束されていくと、そこには尻尾を九つからさらに増やし、刺々しい衣を纏った九尾が鎮座していた。ーー正気を無くした焦点の合っていない目を、酷く濁った山吹色に染めながら。