魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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ウェンディゴの禁手の詳細に関しては今回出ません。後々明かしていきます。


反撃の魔槍使い1

「キミ達は強い、たしかに強いよ。悪魔の中ではなかなかのものだ。けど、英雄の力を持つ俺達には遠く及ばない」

 

 曹操は赤い鎧を纏っている一誠と複数回攻防を繰り返してから、一誠を見下ろすようにして言った。一誠は曹操のその言葉を怪訝そうに聞いていたのだが、すぐに思い知らされることとなる。

 

「イリナさん!」

 

 突然、アーシアが叫ぶように声をあげる。

 

「あら、そっちはまだ続いてたの?曹操を相手にして案外粘るわね」

 

 一誠はアーシアの視線の先に目を移すと、そこには血に塗れたイリナを抱えているジャンヌの姿があった。

 

「ま、赤龍帝だからさ。彼等よりはやるってことじゃないのかな」

 

 別方向からは、ジークフリートがジャンヌの疑問に答えるように言った。一誠は声が聞こえてくる方へと視線を移し変えると、同じように血塗れの木場とゼノヴィアがジークフリートの六本の腕によって抱えられていた。

 

『グオオオオッ!』

 

『キャァァァッ!』

 

 そして、フレイとヴリトラとなった匙も同様で、九尾の尻尾に絡め取られて、それぞれが悲鳴をあげていた。

 

「う、嘘だろ?」

 

「いや、残念ながらこれが現実さ。ーーさて、ゲオルク。魔方陣はどうだ?」

 

 一誠は驚愕したような声で一言呟くと、曹操はそれに反応して残酷な宣告をひとつ残し、まるで興味を全て無くしたかのように、一誠の方から捕らえてある九尾の方へと体を向き直した。

 

「ところで、ヘラクレスはまだあの魔槍使いと戦っているのかしら?」

 

「どうだろうね。いつも通り大爆発を起こしてたみたいだし、そろそろ終わる頃合いーー」

 

 ジャンヌとジークフリートも一誠のことなど全く歯牙にもかけておらず、まだこの場に姿を見せていなかったヘラクレスの話をし始めていた。

 

ドゴオオォォォォォォン!!

 

「噂をすればなんとやら、だね」

 

 そして、その話のタイミングを見計らったかのように、レンとヘラクレスが戦っていたであろう方角からは、凄まじい地響きと目障りな砂埃と共に轟音が鳴り響いてきた。

 

 ジャンヌとジークフリートだけでなく、曹操やゲオルクでさえもヘラクレスがこの戦闘の勝者であると何の疑いもしなかった。曹操達がそう決めつけている理由はまず、ゲイ・ボルグの投擲を封じることに成功していたから。そして、もうひとつはフェニックスの涙という最強の回復アイテムを保有しているから。という主にこの二つの事柄が挙げられるからである。

 

「なぁ一誠。諦めるにはまだ時間が早いだろ?」

 

 ーーしかし、視界がぼやけたところからゆっくり歩いてきた者はヘラクレスではなく、ゲイ・ボルグを右手に携えているレンだった。曹操達はゲイ・ボルグを封じた程度ではレンに勝てないと、自分達の考えが甘かったと逆に思い知らされることになるのだった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 時間は遡ることたった3~4分前、まだこのフィールド場の全ての戦闘が盛大に繰り広げられていた時のことである。

 

「ヘッ、こんなに肝を冷やしたのはいつ以来だろうなぁ。たしかに曹操の言う通り、あの聖槍使いの女にそっくりでそれなりに楽しめたぜ、魔槍使い」

 

 ヘラクレスは自爆によって傷付いた体にフェニックスの涙を振りかけながら、砂埃で完全に隠れているレンに向かって言った。

 

「ようやく、くたばった……いや、一応ダメ押しに叩き込んどくか」

 

 ヘラクレスにはレンへ会心の一撃を食らわせた確かな手応えと、あの距離で外すはずが無いという絶対的な自信があった。しかし、言葉では表現できない違和感を何処かで感じて、念入りに攻撃をせずにはいられなかったのである。そして、レンがいるであろう場所を狙って、ヘラクレスがミサイルを容赦なく撃ち込んでいったその時だった。

 

「……油断してこの場から立ち去っていくと思ったんだけどな。俺の読みは外れ、か」

 

 ミサイルがそこの地面に突き刺さる直前に、細長い何かがその場からヘラクレスの目に止まらない速さで離脱し、ヘラクレスの方へ近付いてきたのだ。その何か、とはレンが創りだした魔槍の龍だった。

 

「相当ハイリスクな選択をすると思ったら、そのケアもしっかり準備しているとはね。本当に恐れ入ったよ」

 

 レンは飛んでいる龍の背中から地面に降りて、体に付いた土を叩いて取り払うような仕草をしていた。レンの体には深い傷を負った跡は全く見られず、着ていた戦闘服の裾が僅かに破れている程度の損害だった。

 

「……てめぇ、なぜピンピンしてやがる。たしかに俺は攻撃を当てたはずだ」

 

「ああ、たしかにアンタの攻撃は当たったよ。ただし、当たったのはコイツにだけどな」

 

 目を見開いたままで未だに信じられないと言わんばかりの顔をしているヘラクレスに、レンは宙に浮いた状態の龍を指差して言った。

 

「要するに、禁 手(バランス・ブレイカー)を使って身を守っただけのことだ。アンタら英雄派も飽きるほど使ってきたんだし、そこまで驚くことでも無いだろう?」

 

「……んなバカな!?あのタイミングで創って、間に合ったってのか!?」

 

「そんなバカな話もあったということさ。……さてと、この戦い、そろそろ幕引きといこうか」

 

 当然ながら、何の策もなしにあれを防ぎきれる訳ではない。レンにはあの時に瞬時に創りあげることのできたある秘密が隠されていた。だが、敵に自分の手を晒したくないレンが話すはずもなく、レンは反撃に出るため新しく龍の頭を増やしていき蛇龍を形創っていった。

 

「偶然助かった程度で、調子に……乗るなぁァァッ!」

 

 ヘラクレスは焦燥している様子で、レンに向かって再び集中砲火を放っていくが、レンはそれに一歩も動じることなく、代わりに近くにいる蛇龍がそれらを全て受け止めた。

 

「なるほど。受け方によっては、俺の禁手でも壊されることなく凌ぐことも可能……いや、単に攻撃の威力が落ちたというだけの話か」

 

「おい、何をぶつくさ言ってやがる。その透かした態度マジでうぜぇ!うっとおしいんだよぉぉッ!!」

 

 レンの挑発に今度は自分の意思とは関係なしで、容易く乗せられてしまい冷静さを完全に欠いてしまったヘラクレス。レンはそんな状態のヘラクレスを見逃すはずがなく、止めを刺すべくして一気に跳びだした。

 

「オラオラオラオラァァッ!」

 

 ヘラクレスは我武者羅にミサイルを乱れ撃っていくが、さっきまでは恐ろしく精巧だったはずの命中精度は皆無に等しく、レンはその弾幕の中を容易に掻い潜り、先程と同じくヘラクレスの背後へ回り込んでいた。そしてヘラクレスも背中からミサイルを放つ……という同じ展開にはならなかった。ーーそれは地中から来た蛇龍の奇襲によって、ヘラクレスが空中に跳ね上げられたからだ。

 

「がはぁっ?」

 

 レンは直前のヘラクレスからの攻撃を受けた際に、蛇龍の尻尾のみを地面に潜ませ、この時のための下準備を既に済ませていたのである。宙に舞ったヘラクレスを見てからレンはその後を追うように空を駆けていった。それから空中で縦方向に一回転して、強烈な衝撃をもった回し蹴りをヘラクレスのガードが薄かった右脇腹目掛けて打ち込み、息が詰まるほどの速さで地面に叩き落とした。

 

ドゴオオォォォォォォン!!

 

「さて、これでしばらく気絶して(寝  て)おとなしくしているんだな」

 

「何を……しやがった?」

 

 レンが的確に蹴りで抉った身体の箇所は人体急所のひとつでもある脇下。より正確に言えば肋骨を通り抜けて肺にまで衝撃を与えて麻痺をさせることすら可能とする部位である。いかにフェニックスの涙を持っていようが、内蔵の機能不全は治すことすらままならなければ、与える効果も皆無。その箇所にピンポイントで叩き込まれ、既に食らってしまったヘラクレスにはどうすることもできなかった。

 

「どれだけ万能な特効薬で回復しようとも、戦闘不能にする手段なら山ほどある。知らなかったかい?」

 

「チ……クショ……ウ」

 

 ヘラクレスは意識こそあるものの、呼吸を連続して行うことが困難な状態に陥っており、立ち上がることはおろか、手の指すらまともに動かせていない。次第に彼の目の焦点が定まらなくなっていき、そのまま地面に倒れ伏していった。レンは地面に崩れ落ちたヘラクレスを一度見てから、一誠達が戦っているであろう元の場所へと進み始めた。そして、茫然と立ち尽くし項垂れている一誠を見つけて励ますように言い放った。

 

「なぁ一誠。諦めるにはまだ時間が早いだろ?」

 

 その後、レンは傷付いて倒れている仲間達を目の当たりにして、拳を強く握り締め瞑目しながら悔しそうにしていた。

 

「うそ、ヘラクレスやられちゃったの?」

 

「魔槍使いは伊達じゃない、といったところか。ヘラクレスには悪いけど、これはこれでちょうどいい。僕はあの時のリベンジをさせてもらうよ!」

 

「じゃあ、私も行かせてもらうわね。今回は初めから二人でね」

 

 ヘラクレスが突破されたことに驚きつつも、ジークフリートとジャンヌは前回敗戦したリベンジを果たすべく、レンの前に立ちはだかった。いままで余裕綽々だったはずの二人の表情は、急に引き締まりだし前回のような油断は微塵も感じられない。レンは目を開けてそんな二人を確認すると不敵な笑みをして、左手の指を三本だけ立てて宣言した。

 

「三分で終わらせる。時間があまり無いみたいだからな」

 

 レンのそばには蛇龍が既に待機していて、戦闘の準備は整っていた。それぞれ互いの様子を伺い、静止している時間がしばらく続いたが、ジークフリートが六本の剣を引き抜こうとした刹那、ついにレンが地面を蹴って駆け出した。ーーそれも目に写らないほどの限りなく音速に近い速度で。

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