レンが最初に狙った方は、自己強化タイプの禁手を持たないジャンヌであり、彼女との距離を一瞬にして零距離に縮めようとする。
「前回以上の速度を軽々出してくるのか。……やはり、キミを放置しておくのは危険過ぎる!」
……が、ジークフリートはレンの動きをなんとか目で追うことができたようで、ジャンヌの前に立ちレンからの攻撃を庇っていた。
「……腕六本。やはり厄介だ」
ジークフリートに攻撃を阻まれて、一旦その場から跳び退くレン。ジャンヌはレンが着地するのを待たずして、自身の禁手を手早く発動させ、空中に聖剣の龍を創りだしそれをレンに差し向けた。
「さあ、行きなさい!」
「迎え撃て、ヒュドラ!」
襲いかかってくる聖の力を持った龍に対して、レンは魔の蛇龍を操り、それへ真正面からぶつける。
「これならどうかな!」
「……ッ!」
禁手によって創られた龍同士の競り合いが頭上で繰り広げられている中、ジークフリートは持っている魔剣の一振りーーダインスレイヴを使って氷の柱をレンの脚を狙って発生させた。レンはそのまま上に跳んでその攻撃から免れるが、今度は大量のレイピアが飛んできて、レンに息をつかせる暇すら与えない怒涛の攻めを英雄派の二人は見せていた。
(今回は前のような隙は何処にも見当たらない。……つまり、正攻法でやるしかないわけだ)
レンは攻撃を避けつつ二人を見極めようとするが、慢心の無い彼らには穴が全く無い。しかし、だからこそレンの決心は早くついた。ーー出し惜しみなく力を発揮することに。
「そこの聖剣を喰らえ。……残さず全てだ!」
聖剣の龍と互角に競っていた魔槍の蛇龍は、レンの一声で動きに劇的な変化を見せはじめていくと同時に体にも変化が起きた。
「こ、これはっ!?」
その変化とは、行動パターンが守りを捨てて攻めることのみとなったことと、両手で数えきれない数の細長い首が腹や背中から生えてきたことだ。そのおびただしい物量の首で龍の体に巻き付いて拘束し、ガチャガチャと金属音をたてながら捕食を進めていった。
「ジャンヌ、一度禁手を解除しろ!」
その状況にジークフリートは焦ったような声でジャンヌに指示を出す。もちろん、ジャンヌもすぐにその手段を思いつき、自分の龍が拘束されて逃げることができないとわかった時点で解こうとしていた。しかし、その判断はレンの次の一手よりもはるかに遅く、ジャンヌの意識がレンから僅かに逸れたその内にレンは次に行動を移していた。ジャンヌの懐にはレンが潜り込んでおり、体を大きく捻って今にも蹴り込もうとする体勢に入っていた。
「まずは、一人」
レンは体の中心部の水月に寸分狂うことなく蹴りを打ち込み、大きく後ろへ吹き飛ばした。ジャンヌは為すすべも無ければ、声をあげる間も無くそのまま後ろの建物に激突した。
「そん……な」
ジャンヌの意識が完全に飛んだことを確認すると、次はジークフリートの方へと意識を向け、ゲイ・ボルグを手で回転させてから改めて構え直した。
「よし、次だ」
「やってくれたね、魔槍使い!」
ジークフリートは悔しそうな声を出しながらも怯むことはなく、濃密な魔のプレッシャーを全体から放出させながら、レンに向かって跳びだしていく。対してレンは空いている左手に魔槍を創りだし、二槍で六刀のジークフリートに応戦していった。
「ハァァァッ!」
「ウォォォッ!」
二人ともそれぞれ自分の得物で斬って、突いて、凪ぎ払ってと様々な攻め方で互いに攻撃を打ち合っていく。ーーが短期決着を望んでいたレンがそれを長く続けるはずもなく、ついに仕掛け始めた。レンは後方へ下がっていきながら、自分との位置をスイッチさせるように、空中で留めておいた蛇龍をジークフリートに仕向けた。しかし、ジークフリートは蛇龍について警戒していたこともあり、それにすぐさま反応を見せて回避してのけた。
「キミの奇襲には常に細心の注意を払っているからね。さすがにその攻撃をもらうにはいかない」
「だったら、これはどうだ?」
突然ジークフリートの目の前にいる蛇龍が崩れたかと思うと、その十数メートル先には紅い槍を今にも突き刺そうとしているレンが待ち構えていたのである。
「ハァァァッ!」
レンはジークフリートに近づいていくことなくその場で刺突を放った。一見何の意味も無いと思えるその行為だが、それによってなんと驚くべきことに、ゲイ・ボルグからは紅い一筋の閃光が発生したのだ。その一閃はジークフリートの元へ一直線に伸びていった。
「……ッ!ノートゥングよ!」
思わず驚くジークフリートだったが、魔剣ノートゥングを前方の空間を凪ぐことで、そこの空間そのものを引き裂き自分の前に亜空間を発生させた。そして、紅い一閃はその別の空間へと入っていき、それを見てひとまず安堵するジークフリート。しかし、彼の危機は未だに去ってはいない。ついさっき崩れて地面に散らばっている魔槍が集合し、蛇龍の骨格、そして体を再び構築し始めた。
「……チッ、クソッ!」
伝説の魔剣五本と光の剣を器用に使いこなして、大量にある頭を潰していくが、蛇龍は鬼神の如く凄まじき速さと圧倒的な手数で襲いかかり、ついにジークフリートの龍の腕を全て捕らえた。
「
「……どういう、意味だ?」
「俺がさっき放った紅い閃光。色々と消耗が激しくて笑いが出るほど使い勝手が悪いが、どんな手を使おうと絶対に封じることはできない。それが例え
レンのその不吉な言葉を聞いて、ジークフリートは怪訝に思うが、すぐにそれを理解することとなる。ジークフリートの目の前の空間に軽い次元の裂け目が生じ、そこからはジークフリートがさっき亜空間の果てに飛ばしたはずの紅い閃光が出現するのだった。
「ゴフッ!」
紅い閃光はジークフリートの腹部に風穴をポッカリと大きく空け、それによりジークフリートは大量の血反吐を吐き出していた。
「ーーそれ以上の好き勝手はさせませんわよ!」
レンは止めを刺そうと足を進めようとするが、突如現れた転移魔方陣によりジークフリートがいなくなったことと、無数の火の粉が飛んできたことでそれは阻止されることになる。レンに向けて火の粉を飛ばしたのはウェンディゴとゲオルクによって操られている九尾の狐だった。
「メインターゲットが直接俺を狙ってくれるとはちょうどいい。手間が省ける」
火の粉が飛んできた方向を睨み照準を定めるレン。
「あなたがこれ以上足掻こうとも、もう手遅れですの。グレートレッドを呼び出す準備はもう少しで完成するのですから」
「ハハッ、なら決して手遅れなんかじゃないだろう。……いくらあと少しで完成するのだろうと、それは完成させなければ意味の無い話なんだからな」
「相変わらず往生際が悪いようですわね。しかし、今回はどんなことをしようと無駄ですわ。曹操さんがいる限り、あなたの思うように事が進むはずがありませんから」
「寝言は寝て言えと、誰かから教わらなかったのかい?」
レンはやや感情を昂らせ、なおかつ冷静さを保ちながら巨大な九尾へと立ち向かっていく。しかし、レンと九尾の間に何者かが割って入ってきた。もちろん、その人物は黄昏の聖槍の所有者であり、英雄派のリーダー、曹操だ。
「キミの相手は彼女じゃない。俺だよ。後はキミさえ制してしまえば実験を行えるんだ。いい加減邪魔をしないでくれるかな?」
「キミさえ制してしまえば、ね。アンタ達はひとつ大きな勘違いをしているよ。たしかに今の俺達の中の
それぞれ己が持つ槍を互いにぶつけ合い、それは鍔迫り合いにまで発展していく。
「ほう。しかし、仮にそうだったとしても、今の赤龍帝に戦う気力はもう残されていない。今の段階で俺に勝ち目が無いのも実証済みだ。そんな者に今さら何を期待している?」
「曹操、アンタは可能性の塊というものをあまり舐め過ぎない方がいい。一誠の心はまだ……まだ死んでなどいない!」
レンが曹操との鍔迫り合いに競り勝ち距離を離してから、吼えるようにそう言ったまさにその時だった。
「ーー
一誠はたしかに叫んだ。常人ならこの状況下で口から出てくるはずのない単語を。そして、その叫びに応じて、地面に描かれた魔方陣からは紅髪の悪魔、リアス・グレモリーが姿を現すのだった。
「これは、どういう……ことだ?」
グレートレッドをこの場に出現させるつもりでいた曹操達は、リアス・グレモリーが現れたことにかなり当惑した様子を見せている。そんな彼を見て、レンも肩を竦めて苦笑しながらこう告げた。
「俺もまだこういった展開に馴れていないけれど、あれが一誠の普通みたいなんでね」
「なるほどね。……が、リアス・グレモリーを呼んだ程度で今さら何になると?」
未だに見下している姿勢を依然として崩さない曹操に、レンは怒気を込めた言葉で返した。
「一誠のことをあまり舐めるなとさっき言ったはずだけど、聞いていなかったのかい?……ここからが本当の反撃開始だ。俺の、いや俺達の」