「ふぅ、大変な修学旅行だったな」
三泊四日の短いようで長かった修学旅行もついに最終日を迎えて、全員が京都駅のホームに集合している。
「……でも、一人も欠けることなくみんなが無事に帰って来られて良かったです」
レンの呟きに隣にいたロスヴァイセはすかさず反応して、励ますようにフォローを入れる。
「ああ、それもそうだな。八坂さんを九重ちゃんの元に無事帰すことができたし、一誠だって新たな力を覚醒させた。決して悪いことずくめってわけではなかったからね」
レンは見送りとして来ていて、ちょうど今、一誠と話している八坂と九重を見ながら、ロスヴァイセのそれに同意していた。
曹操達が撤退していった後、フィールドに取り残されたレン達は八坂を救うべく、暴走している九尾と再び戦闘を始めたのである。そんな中、レン達にとってとても頼もしい助っ人がその戦闘に介入してきた。その助っ人とは初代孫悟空と五大龍王の一角ーー
彼等は到着するとレン達の助けに回って、その判断もあってのことなのか、すぐに九尾は鎮静化していき人間に近しい姿の八坂へと戻していった。その後、しばらくの間は目を覚まさなかったが、一誠の
「あ、思い出しました!あれですよ!一誠君のせいで私はレン君に向かってあんな……は、破廉恥なことを……」
ロスヴァイセはロスヴァイセでレンの二つ目の言葉に過敏な反応を見せて狼狽しだす。
「ハハッ、そんな些細なこと今さら蒸し返すなって。たしかに、俺達二人の立場がもしも逆だったら、問題大有りだったろうけどそんなことにはならなかった。それだけでまだマシだろ?」
「それは……そうですけど」
少し熱くなっているロスヴァイセとは対照的に、レンはいつも通りといった口調で軽く笑い飛ばしていた。
「お、一誠達も話が終わったようだし、そろそろ新幹線の中に入ろうか」
一誠達のやり取りが一通り終わったことにレンは気がついたようで、止めていた足を動かし始める。そして、自動ドアも閉じて発車する新幹線。発車してもなお、九重は一誠達の方を目で追って手を振り続けてくれていた。
◼◼◼
「京都での計画は失敗に終わったけど、もうひとつの計画は着実に進んだ。近い内に実用化できそうだ」
「そうか。……で、魔槍使いに一杯食わされた三人は無事か?」
「う~ん、そうだな。とりあえず治療は一通り済んでいるから、すぐにでも復帰できるだろう」
「ほう、それはなによりだ」
「ところで曹操、キミも右目を派手にやられたじゃないか。そっちはどうなんだ?」
「これはもうダメだ、使い物にならない。……フフッ、冷静に見直すと酷い有り様だなこれは」
「了解、大体は理解したよ。それでは代わりとなる眼を用意しておこう。……いずれ右目の代償は彼らに払ってもらうつもりなのか?」
「まさか。彼らは三下の敵ではなく、超一流の好敵手達だ。いい勉強になっただけさ。この眼のキズは記念ーー謂わば勲章みたいなものだよ」
◼◼◼
駒王町へようやく帰ってきて解散の号令がかけられた後、レン、フレイ、ロスヴァイセの三人は、帰宅しようと同じ方向へ向かって歩いていた。他愛もない会話を三人でしながら。
「そういえばお二人は一緒にどんなところを回ったのですか?」
「たしか、三日目に嵐山を少し散策して……あ、そういえば、二日目に清水寺と金閣寺を見て回ったな。……金色のあんなに派手な建物、生まれて初めて見たよ」
「へぇ~、そうだったんですか。……結局のところ、私は楽しむ暇が無かったので残念だったのですが」
レンは旅先で起こった出来事や自分達の体験談を語っていき、フレイはそれを興味津々に聞いていた。
(……はぁ。レン君との距離、全然縮まらないまま終わっちゃったな……)
二人で楽しそうな会話をしている最中、ロスヴァイセは全く別の思考に傾いていた。
(いや、この流れならまだ間に合う……はずです。どこか近場でもいいから来週か再来週の休みにレン君と一緒にドライブ……とか行けたらいいな♪)
自分色の妄想全開で顔を緩ませながら、「お出かけ」のプランを詳細に練り始めるロスヴァイセ。しかし、レンとフレイの二人がどこか微妙な表情を浮かべつつ、自分の顔を見ていることに気がついたので、ロスヴァイセは訊ねた。
「あれ?二人とも変な顔して、どうかしましたか?」
「その……色々あったとはいえ、京都では時間をあまり取れなくて悪かったよ」
「……あの、急に改まってどうしたんですか?」
ロスヴァイセはレンが何の脈絡の無いはずの話題を振ってきた上に、それに関して謝ってきたので思わず戸惑ってしまう。それを見かねたフレイは呆れたような口ぶりでロスヴァイセに事実を告げるのだった。
「なにって……今、ロスヴァイセお姉さんが言ったことですよ。『レン君とドライブ行けたらいいな』って口にはっきりと出してたじゃないですか。それも機嫌良さそうに」
「……ッ!?」
それを聞いたロスヴァイセは凍りついたように動きを数秒間だけ止めてから、あまりにもそのことが恥ずかしかったのか、この場から逃げ出すかのように走り出していった。
「待てよ、ロスヴァイセ!」
レンはどうしても放っておけなかったので、ロスヴァイセの後ろを追いかけていき、なんとか捕まえるに至った。ロスヴァイセは今にも泣きそうな顔をしていて、そんな顔をレンに見せたくなかったがために、後ろを振り向こうとはしなかった。
「……なんで、追いかけて来たんですか?」
「それは、ロスヴァイセを放って置けないからに決まってるだろ」
レンは溜め息を混じらせながら、ロスヴァイセの愚問に答えてみせ、「それに」と付け加えるように言葉を続けた。
「休みの日なら基本的に空いているから、さっきの何処かに出掛けるって話、俺は別に構わない」
「本当、ですか?」
レンからの合意を得られたので、若干嬉しそうな声をあげて驚いていた。しかし、それでもロスヴァイセは顔をレンの方へ向けようとしない。
「そんなこと、冗談で言うはずが無いだろ。それでいつ行くかなんだけど……そうだな、再来週の土曜日にしようか。行く場所はそれまでに決めておくからさ、どうかな?」
「はい!私はそれで……良いと思います」
「よし、これで決まりだな。お、フレイもやっと追い付いたみたいだし帰ろうか」
レンは後ろを振り返ってフレイが来たのを確認してからロスヴァイセに向かって提案するのだが、レンが目を離したほんのわずかな隙にロスヴァイセは既にこの場からからいなくなっていた。そして、取り残されてしまったレンは追い付いたフレイに半眼で睨まれている。
「……レンさん、ロスヴァイセお姉さんにいったい何をしたんですか?」
「いや、俺は別に何もしてないんだけどな」
「じゃあ、どうして?」
「はぁ、それは俺も訊きたいところだよ」
レンとロスヴァイセの間でそんなやり取りがなされていた中、オカルト研究部の二年生は、リアスや京都に行かなかった部員達に、「なぜ、襲撃を受けたのに何も相談をしなかったのか」というで説教を受けていた。このように思いがけないハプニングが旅先以外でも帰ってきてから色々と起こったが、修学旅行は本当の終わりを迎えるのだった。