修学旅行が終わって数日が経過したある日のこと。レンはアザゼルが住んでいる場所を一人で訪れていた。
「……で、俺を訪ねた用件はなんだ。レン」
「はい、あなたにしかできない頼みがひとつあるんだ。聞いてくれますか?」
「わかった、話の内容にもよるが善処してやる。どれ、話してみろよ」
まさかの訪問者に始めの方は多少驚いていたアザゼルだったが、頼まれ事と聞いて渋々承諾していた。
「それじゃあ単刀直入に訊きます。アザゼルさん、適当なバイクを所有してませんか?もし、持ってたならそれを少しの間でいい、貸して欲しいんだ」
「……あぁ?バイクだぁ!?てか、お前乗ったことあるのかよ!?」
しかし、予想していたものよりもはるかに斜め上の内容だったので、アザゼルは素っ頓狂な声を出して思わずレンに聞き返してしまった。
「ああ。元々、俺は特殊な職業についていましたから、あっちにいた時は小回りの効くバイクをよく借りて使ってましたよ」
「そ、そうだったのか。……しかし、よりにもよってバイクなのか」
「……あ、無いなら無いでそれなら諦めがつくので、別にいいんですけど」
アザゼルのその反応を見て、諦めかけるようにそう付け加えるレン。しかし、返ってきた言葉はそんなレンにとって意外なものだった。
「いや、あることはある。……ただ、試験すら行っていない試作品なんでな。もし乗るんなら、お前にテスト運転をしてもらうことになる。それでもいいか?」
「いいですよ。むしろ、俺は貸してもらう側ですから、それくらいのことならお安いご用です」
その試作品があまり良いできではないのか、渋った顔をしながらアザゼルはレンに訊ねるのだったが、レンは快くそれの運用テストに承諾したので、アザゼルはニヤリと笑みを浮かべていた。
「フフッ、グリゴリならこういった類いのものを作っているだろうと思ってたんで。アザゼルさんに訊いてみて正解でしたよ」
「……お前、グリゴリのことをどう捉えてやがる?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃないですか。そんなことより、早いところ行きましょう」
それからレンは皮肉にも聞こえる言動をとったことで、アザゼルから半眼で睨まれたが、悪びれもせずに目的を済ませるため急かしていた。
「チッ、まぁいい。そんじゃ早速目的地に飛ぶぜ」
アザゼルはわざとらしく舌打ちをひとつ入れてから、転移魔方陣をすぐさま地面に敷いていく。そして、光が発生してそれが収まると、レンとアザゼルはここから消えて、別の場所にたどり着いていた。
「ここは冥界……じゃない?」
「おう、そうだ。ここはグリゴリが所有する研究施設の北関東支部だ」
二人が転移してきた場所は、群馬県に位置する人里離れた山の中。そこのとある一角にアザゼルが研究施設施設と呼ぶ建物はあった。レンの目の前にはアザゼルの言葉通り、近未来的な構造をした立派な建物が鎮座している。
「はぁ。てっきり冥界の本部に案内されるものだと思ってましたよ」
「お前が探している品はちょうどここに保管していたからな。まぁ、今回はちっとばかし例外ってことだ。さてと、用件をとっとと済ませっか」
アザゼルはレンを先導するようにしてその建物内に入っていき、レンはその後ろをついていった。
「へぇ、内装は思ったよりも普通なんだな」
「ハッ、そりゃあそうだ。ここは冥界じゃねぇし、ただの人間もここには研究員としているからな。一応日本らしさってものを少し取り入れてみたらこうなった。ただそれだけの理由だ」
レンとアザゼルはちょっとした世間話を合間合間に入れつつ、建物内を道なりにどんどん進んでいく。その途中で二人は白衣を着用した研究員達に軽く挨拶をされたり、話しかけられたりもした。
「そういえば、そのバイクを開発したのはやはり……」
「いや違う。たしかに俺も部分的にはいじったりもしたが、本体そのものを作ったのは俺じゃあない」
「じゃあ、いったい誰が?」
開発者がアザゼル本人ではないという真実に驚くレンだったが、次の言葉でさらに驚かされることとなる。
「作った奴はシェムハザだ」
(……あの副総督殿が、ね)
レンは知っていた、グリゴリ副総督シェムハザがどんな男なのかを。それは以前、ロキが駒王町に襲来した際に一度話す機会があったからである。レンからすれば、シェムハザは少しロスヴァイセを彷彿とさせる、生真面目な性格の持ち主であり、人工
「あいつの作る兵器は面白みが欠けるものばかりだが、性能は確かだ。……よし、着いたぜ」
アザゼルはシャッターが閉まっているガレージのようなところの前で足を止めて言った。アザゼルがそこのシャッターを開けると、そこには流線型のスポーツカーやジェット機、大砲のような巨大兵器など多種多様なものが保管されていた。
「ここには俺達ーーグリゴリが作り出したものを大量に貯蔵してある。中には実用的な便利品も稀に埋まっているが、ほとんどが欠陥品や俺達が使わないものばかりだ」
「……それじゃあ、シェムハザさんが作ったそのバイクはどれに該当するんだ?」
「三つ目だ。なにせあのバイクは神器があってこそ真価を発揮する仕様だからな。神器を持たない堕天使にとっては使いこなせない代物っつうわけだ」
アザゼルは倉庫と化しているそのだだっ広い部屋のあちこちを歩き回って探しながら、レンの質問に答えていた。
「お、こいつだな!レン、そこに裏口があるから先に出てろ。俺もすぐにこいつを持っていってやるからよ」
レンはアザゼルに言われた通り、さっき入ってきた扉とは逆方向にある扉を開けてこの倉庫から出た。外に出るとそこはアスファルトで舗装されたひたすらにまっ平らな広場が一面に広がっている。
「よしそんじゃあ、お披露目といくぜ!」
アザゼルは灰色のカバーが掛かっているバイクを手で押しながらレンの目の前に持ってきていた。そして、アザゼルが勢いよくカバーを開け放つと、そこにはシルバーを基調としたオーソドックスなツアラータイプのバイクが置かれていた。さらに詳しく説明すると、大きさは中型二輪の機体よりも一回り大きめのサイズで、マフラーは左右対称に取り付けられている。
「こいつの機体名はたしか
「ああ、了解した」
レンは早速バイクに跨がって、左右両グリップ、レバーを握ってみたり、アクセルやブレーキに足をかけたりと、搭乗した感覚を念入りに確かめていた。
「うん、悪くない。中々いい感じだ」
満足げに独り言をこぼしながらレンは、バイク本体に刺さっているキーに手をかけて目一杯回し、エンジンを吹かした。このカスタムバイクのエンジン音はバイク独特のうるささが全く無く、通常のものよりも遥かに静かである。レンはそれに感動を覚えながら、後ろに留められていたヘルメットを被り、左足で接地していたスタンドを外した。
「で、走るコースは適当で構わないんですか?」
「そうだな。とりあえずこの周りを適当なスピードで流してみてくれ」
アザゼルの言ったことに対してレンは軽く頷いてからスロットルを軽く捻って、両足を地面から離す。すると、初めは低速で前進していき徐々に加速をしていく。
「さて、全開で回して行こうか!」
こうして、試作機のテスト運転は始まった。
なぜ、バイクなのか?というのは、なんとなく察してくださいm(__)m