『レン、どうだ乗り心地は?』
ヘルメットに内蔵されたインカムを通じてアザゼルはレンに向かって話しかけてくる。
「こいつはすごいね。それに加えてエンジン音も常に静かで最高です」
『ハッ、それもそうだろうよ。なんたって、そいつの動力源は生ゴミなんだからな』
それもそのはず。このカスタムバイクはシェムハザがとある映画にはまってしまった際に開発を進めていたので、このように非常にエコロジーな仕様になっているのである。
広大な空き地をアザゼルに基本操作をナビゲートしてもらいながら一通り走らせてきたレンは、スタート地点に戻ってきて、スタンドを一旦立てて停車させてからバイクを降りた。それから、ヘルメットを外しながらアザゼルに訊ねた。
「それでこいつに乗りながら神器を使うと、いったいどうなるんだ?」
そして、その質問を聞いた途端にアザゼルは、待ってましたと言わんばかりにテンションを上げ、笑みを浮かべながら答えた。
「おう、よくぞそれを聞いてくれたぜ!こいつはな、神器の力を流し込むとその能力に応じて形態変化を起こす構造となっている!」
「と、言うと?」
「具体的に現れてくる性能で言えば、硬度が増す、速度が上がる、飛べるようになる、といったような効果が発揮される。つまり、所有している神器によって特性が変わるっつうわけだ」
まるで、自分がメインで開発したかのような饒舌さで次々に解説していくアザゼル。それを黙って聞いていたレンは苦笑しながら、元々の開発者であるシェムハザに心の中で一礼するのだった。
「要するに、もう一回乗ればわかるわけか」
レンは再びカスタムバイクの座席に戻ると、停車させた状態で両グリップを掴み、自身の神器である
「ほう。当然と言えば当然だが、お前の場合はそうなったか。……もうひとつ補足説明しておくと、この状態は神器とほぼ同じだと考えて何の遜色もない。お前の想い次第で進化の可能性は無限に存在する」
何の変哲もなかったバイクは特殊なオーラを纏わせながら、主にボディの材質や形状を変化させていき、突然変異を遂げた。全身は光沢のある紅い鎧で覆われていき、ヘッド部分には鋭い突起物が出現している。レンは重装備化したバイクを手で撫でながら言った。
「うん。こいつのこと、大体わかったよ。今日はわざわざありがとうございました、アザゼルさん」
「そりゃどうも。……そんで、そのシルバー・ゲイルについてなんだが、お前にーー」
アザゼルがレンに大事なことを言おうとした、正にその時だった。
「グハハハハハハッ、面白い奴が居るではないか!貴様、新入りか?」
髭を生やした男が豪快な笑いを上げながら、レン達が出た扉とは別の場所にいつの間にやら立っていた。その男の風貌は厳つい鎧に兜を装備して、派手なマントを羽織り、顔には眼帯がかけられている。さらに理由は不明だが、左手に盾、右手に斧を持っていた。どこからどう見ても明らかに不審者であることに間違いはない。
「……なんだこの人は、誰だ?」
「あ~、アイツか。幹部の一人のアルマロスだ。主にアンチマジックについて研究をしている奴なんだが……。日本の特撮ヒーロー番組の悪役にすっかりハマっちまってな、普段からこの調子なのさ」
突然姿を現した男に少し後ずさりをしてしまうレン。彼について知っているアザゼルでさえ、手で顔を覆いながら空を仰ぎ見るようにしていた。それからさらに諦めたような顔をしながら言葉を続ける。
「まぁ、その……あれだ。重度な特撮ヒーローファンだと考えてくれ」
最後にそう付け加えた際に、アザゼルの目が微妙に横へ泳いだことにレンは気が付き、レンは怪しむように再び訊ねた。
「なぁ、アザゼルさん。まさかとは思うが、ああなった原因にアンタが一枚噛んでるとか無いだろうな?」
そう言われた途端にアザゼルは肩をビクッと大きく動かしてから言葉を返した。
「ハハハッ、なに世迷い言を言ってやがる。……ソンナワケナイダロ」
ただし、最後の方は完全な片言。レンはそれを見て、深いため息をついていた。
(……はぁ。ったく、本当にこの総督は……。しかし、あのアルマロスさんとか言う堕天使と話を始めてしまえば帰りが遅くなるのは目に見えている。ここは離脱するのが最良かな)
アルマロスに絡まれると面倒くさいことになるといち早く察したレンは、バイクのエンジンを回してこの場を立ち去ろうとしていた。
「用は済みましたから、俺は帰りますよ。……それでバイクはいつ頃返せば……」
「おう、そのことなら気にするな。それはお前に譲ってやる」
「えっ、それ本当ですか?」
アザゼルから返ってきた言葉は、レンにとってとても嬉しいものだった。もっとも、それを実質何のリスクもなくタダで譲り受けたわけなのだから、目を丸くさせているのも当然である。
「その代わりと言ってはなんだが、存分に使ってやれ。いいな?」
「フッ、了解!」
レンは地面から両足を離し、それぞれ両ペダルに足をかけると、先程と同じ要領で前進していった。
「逃がすな!総員、奴を直ちに捕まえろ!」
(……ん?総員って……まさか!)
しかし、ノリノリで某特撮の悪役を演じきっているアルマロスは、不穏なことを口にしてレンに不安感を植えつけた。ーーそして、レンのその不安は見事に的中した。
『グーッ!』
この区域のあらゆるところから全身黒タイツの格好をした軍勢が湧き出るように出現した。彼等を例えるなら、特撮ヒーロー物のやられ役として出てきそうな、所謂戦闘員の類いである。そして、その黒い戦闘員達はレンを取り囲むように陣形を組んでいった。
「チッ、想定してした以上に面倒みたいだな。なぁアザゼルさん!あの人、どうにかならないのか!?むしろ、どうにかしてくれよ!」
レンはアザゼルに協力を求めるようにインカムに向かって声を飛ばすが、返事はひとつも返ってこない。レンが振り返って確認するとそこは既にもぬけの殻。アザゼルもレンと同じことを考えていたらしく、レンよりも速くここからいなくなっていたのだ。
「ハッ、……マジかよ」
「グハハハッ!お前に助けなどいない!おとなしく諦めるのが身のためだぞ?さぁ、やれェェッ!」
『グーッ!』
黒い戦闘員達はレンの乗るバイクを止めるために光力で作り出した紐状の物体を次々に投げつけていく。
「……たとえ助けがいなくとも、この程度一人で乗りきってみせるさ」
レンとカスタムバイクは光のロープによって動きを止められてしまうが、ほんのわずかな時間でそれは終わりを迎えることとなる。
「さて、こんな初仕事で申し訳ないけど、存分に力を貸してもらうよ。……行こうか、シルバー・ゲイル!」
レンは神器の力を解放し、濃密なオーラを放出させたことによって光のロープを強引に引きちぎったのだ。それから、スロットルレバーを全開に回してその場から圧巻のスピードで飛び出していった。あまりにもカスタムバイクのスピードが速すぎるため、追い付ける戦闘員は一人もいない。
「ふぅ、うまく振り切れたかな」
ひと安心するように息をつきながら、そのまま道なりに峠道を下っていくレンだったが、後を追う影がひとつだけ存在した。
「なかなかやるではないか、蒼髪のライダー!」
どんな獣道を通ってきて追い付いたのかは不明だが、アルマロスは一人の戦闘員と共にサイドカーでレンの後ろをピタリと貼りつくように追走していた。
「ライダーではなく、俺はランサーだけどな!」
「グハハハ、そんなこと知っているわ。貴様のことはアザゼルから聞いているからな。
自分のことをライダーと呼ばれたことにレンが突っ込みを入れると、どうやらアルマロスはレンの素性を知った上でわざとそのように話していたようだ。
「貴様も
「そんなもので強くなれるはずないだろうが!……そんなに俺のことを捕まえたいのなら、捕まえてみろ!グリゴリ幹部アルマロス!」
「グハハハッ!おもしろい!これでもなお抵抗するというのなら、こちらも秘密兵器を出してやろう!」
アルマロスは豪快にひとしきり笑った後、紫っぽい色をした鎖を何も無いところから発現させいた。それをアルマロスはブンブンと振り回して、今にもレンへ向けて投げつけようと身構えている。
「何もかも……振り切ってやる!」
その後、レンのカスタムバイクとアルマロスのサイドカーによる壮絶なカーチェイスが繰り広げられることとなり、最終的には逃げる側のレンの方に軍配が上がった。
「……ククク、こいつは凄い才能を発見したのかもしれん」
そして、レンが苦労している陰でアザゼルがそれの様子を観察しており、こそこそと何か良からぬことを画策していた。その数日後に冥界から、レンの元へと映画出演のオファーが突如として来たことはまた別の話である。
カーチェイスの詳細と後日談に関しては、今のところ書く予定無いです。