通常状態なら。
レンが学校という単語と初めて出会って、半年近く経ってからの出来事だった。
「レン。お前には明後日から学校に行ってもらう」
「……は?」
ランサーからの突然の入学宣言に、レンは驚きの表情を隠せずにいた。
「お前は世間についてあまりにも知らなすぎるからな。それに最低限の知識は得ておいて損はねぇ」
「で、でも、そうしたら修行はどうなるんですか?」
「心配すんな。そんぐらいの時間なら適当に作れる」
レンは修行についての心配をするが、ランサーは楽観的にとらえつつ、レンの疑問に答える。
「ま、まぁ、俺も実際に学校を見てみたかったから別にいいですけど」
あまり乗り気では無いと思いきや、実は行ってみたかったらしく、レンは内心かなり喜んでいた。
「そうかい、そりゃよかった。ま、明後日から頑張ってこい」
ランサーの「頑張ってこい」という一言に若干の違和感を感じとりながらも、レンはその言葉に大きくうなずいたのだった。
この時レンは知らなかった。ランサーがとある人物とこのことについて相談していたことを。
◼◼◼
そして、入学当日。レンが入ってくる予定の教室の様子は、
「おい、聞いたか?今日、転校生がこの教室に来るらしいぜ」
「へぇ。噂で小耳にはさんだ程度だったんだが、本当だったんだな」
レンがこの場に来るという話題で盛り上がっていた。無論、進学して早々机がひとつ増えていれば誰もが察することができるだろう。
「男の子かな?女の子かな?」
「どうだろうねぇ?でも、私は格好いい男の子だったらいいな」
「ねねっ、ロスヴァイセはどっちだと思う?むしろ、どっちがいい?」
「えっ、私ですか?」
ロスヴァイセと呼ばれた銀髪でロングヘアーの女の子は突然自分へと振られた質問に戸惑った。
「おそらくだけど、あなたの隣に来るはずじゃない。やっぱり、あなただってーー」
「わ、私は別にどちらでも構いません。第一そんなことに興味なんて微塵もありませんから!」
ロスヴァイセは焦るように、手に持っていた本を読み始める。しかし、その本の向きは上下が逆さになっていて、ロスヴァイセはあわててその向きを直した。
「はい、皆さんおはようございます」
そんなことをしているなか、先生が挨拶をしながらこの教室へ入ってきた。すると、立って話をしていた生徒達はすぐに自分の席へと戻っていった。
「知っている生徒も多いと思いますが、今日からこのクラスに転校生が来ます。それでは、入ってきてください」
先生がそう言うと、教室の中へ蒼い髪の少年が堂々と入ってくる。そして、彼は生徒がいる方に体を向けるとさっそく自己紹介を始めた。
「レンです。……え~と、これからよろしく!」
非常に簡易的なレンの自己紹介にこの場にいる全員が黙ってしまうが、そんな沈黙を先生が破った。
「それでは皆さん、転校してきたばかりでまだ慣れないところがあると思いますので、彼に優しくしてあげてください。あと、レン君の席はあそこになります」
実に教師らしいことを言ってから、レンが座る席を指で示した。ーーロスヴァイセの隣の空いている席を。
「あれ?キミは……あの時の」
レンは以前会ったことのある銀髪の女の子を見て、話しかけようとすると、
「やはり、あなたは」
ロスヴァイセも気付いた。お互いに背も伸びて、顔も僅かながら変わっているはずなのだが、特徴的な髪の色と前とあまり変わっていない髪型は互いに覚えていたのである。
「それと隣のロスヴァイセさんはレン君を助けてあげてくださいね」
「は、はい」
ロスヴァイセの返事を聞くと、先生はまた一言二言言ってから、教室を去っていった。
その後、レンはロスヴァイセに引っ張られながら屋上に来ていた。なぜこんなことになったかというと、数分前ーー
「あの時は場を気まずくしてなんか悪いことをしたよね。ごめん」
突然、そのようなことをレンはロスヴァイセに向かって言ったからだ。それを周りで聞いていた輩(大半が女子)がざわめきだし、それを見ていたロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら、レンの腕をつかんで廊下に飛び出ていった。そして、今に至る。
「あの~、いきなりどうしたんだい?」
レンはロスヴァイセの突発的で意味不明な行動に関して訪ねる。
「私は別に気にしてませんから、今さらあんな話を蒸し返す必要はなかったんです。それにみんなの前であんなに馴れ馴れしく話しかけるなんて……勘違いされるじゃありませんか!」
レンはなぜ自分が怒られているのか、理由がわからず頭に疑問符を大量に浮かべている。
「勘違いって……何と?」
「それは……」
レンに痛いところを突っ込まれて、口ごもってしまうロスヴァイセ。しかし、その質問の答えを待たずにレンは言葉を続けた。
「まぁいいや。あ、それとキミはロスヴァイセっていう名前だっけ?」
名乗っていないはずの自分の名前をいきなり呼ばれて、ロスヴァイセは思わずドキリとしてしまう。
「そうですが、自分で名乗りましたっけ?」
「いや、先生がキミのことをさっきそう呼んでたから。それになんか不思議な名前だし、頭に残ってたんだ」
「そう……ですか」
自分の名前を不思議だと言われ、さっきまで速かった心臓の動きは落ち着きを取り戻していた。
「さて、そろそろ教室に戻りましょう。授業が始まりますから」
ロスヴァイセはレンにそう言うと、もと来た道を戻っていき、レンもそのあとを追っていった。
◼◼◼
「全然わからねぇ」
今の時間は正午を10分前に回ったところ。午前中の授業が一通り終わって、レンは机に顔を伏せていた。今日レンが受けた授業は魔法の基礎と様々な歴史についてである。
歴史についてはある程度の知識はあったものの、魔法に関しては今まで触れたことがなかったレンにとって、非常に難しく、つまらない内容だったらしい。
「あの、大丈夫ですか?」
「……うい」
ロスヴァイセは心配をして声をかけると、レンは適当ながらもそれに返した。レンがこんな状態になった理由として、授業がさっぱりだったということもあるが、それよりも休憩時間が来る度に自分の周りに群がって来ては質問の
「私、魔法は得意な方なので、あなたに教えましょうか?」
「それ本当!?」
さっきまで、力尽きていたかのように動かなかったはずのレンが突然顔を上げて、ロスヴァイセに詰め寄る。授業ではつまらないと思っていたレンだが、魔法自体に興味が無いわけではなく、むしろ使ってみたい願望が強かったのだ。
「少し落ち着いてください!……はぁ。あなたがよければ、私は構いませんよ」
それを聞いて、レンは満面の笑みを浮かべながら言った。
「ありがとう、ロスヴァイセ」
その嬉しそうな笑顔を見て、彼女もまたフッと笑った。
アースガルズの学校ってこんな雰囲気なのでしょうか?