「……ふぁ~あ」
アルマロスとのカーチェイスを繰り広げた翌日の休み明け。レンは駒王学園に歩いて向かう道中で大きな欠伸をかいていた。
「レン君、先程からすごく眠そうにしてますけど大丈夫ですか?」
「ん、ああ大丈夫だよ。ただ、少し変わったことが昨日起きただけだからさ」
隣を歩いているロスヴァイセも、いつもと違う様子でいるレンを心配そうに見つめているが、レンは首を横に振って「心配無用」といった感じで言葉を返していた。
「そうですか。でも、決して無理だけはしないでくださいね」
「うん、わかってるよ。今週は出掛ける予定もあるわけだし、それを楽しみにしているキミをがっかりさせるわけにはいかないからな」
「……え!?あ、まぁ、約束のこと覚えていてくれてれば、それでいいんですけど」
ロスヴァイセはレンが自分との約束をしっかりと考慮していたことを知り、顔を俯かせていたが、ほんのり赤く染めながら嬉しそうな笑顔を作っていた。
「どうかした?」
レンはロスヴァイセの様子が変わったことに鋭く感付いたのだが、
「いえ、なんでもありません。……う~ん、ところでその日はどこに行きましょうか。まだ決まってませんよね?」
ロスヴァイセはそれを誤魔化すように、大きく背伸びをしてからレンの方へ顔を向き直した。すると、レンは案を一応考えていたらしく、それをロスヴァイセに提示した。
「そうだな……。渋谷というところはどうかな?」
「渋谷……ですか?」
「ああ。これはテレビで観た情報なんだけど、日本の若い女の子達に人気のある店がたくさんあるらしいんだ。もちろん、その他にも面白そうななものが揃ってるようで、俺もその点に関して少し興味が湧いたからね。……あ、別のリクエストがあるなら別にそこでも構わないけど、ロスヴァイセは行きたいところ、何かあるか?」
ロスヴァイセの顔色を伺うようにレンは訊ねる。対して、ロスヴァイセは嬉しいような、困惑したような、色々な感情が入り混じった複雑な表情で口を再び開いた。
「私は別に良いと思います。……が、レン君はそれでいいのですか?」
「ああ。いいも何も、今回の主役はロスヴァイセなんだからさ、決めるのはキミだ」
「そうですか、レン君がそう言うのなら別に私は構いません。……では、レン君の言った渋谷というところに今週末、行ってみましょうか」
少し申し訳なさそうな顔を見せながらもレンの「渋谷へ行く」という意見に賛同した。
「じゃあ行き先はそれで決まりだな。あとは待ち合わせ場所と時間だけど……別に無くていいか」
出掛けるまでの計画を割りと綿密に建てていたレンではあるが、ランサーやアザゼルの影響を近くで受けていたため、基本的な性格はマイペースなのである。逆に几帳面な性格のロスヴァイセは待ち合わせの場所こそ目を瞑ってスルーしていたが、時間については見逃すはずがなく、頬を膨らませながらレンに指をビシッと突き付けるくらいの勢いで言い放つ。
「クスッ、そうですね。私達の住んでる場所はほぼ一緒みたいなものですし。……ただし、時間だけは決めましょう。出発は午前の10時、時間は厳守!それでいいですね?」
「うん、わかった。……フフフッ」
それを見たレンは頷き、一拍置いてから小さく笑い始めていた。
「……私、何か可笑しいこと言いました?」
「いや、ロスヴァイセのその怒ったような顔久しぶりに見たなぁ、って思ってつい。……ハハッ」
「……それって、どういうことですか!私をからかっているんですか?」
ロスヴァイセはさらにプンプンと怒り出すが、その様子があまり怖くないことに加えて、どちらかと言うと可愛らしく見えたのか、レンは大して悪びれずに言う。
「え?別にそんなつもりはないんだけど。ただ…………うん、やっぱりなんでもない。まあ深く気にしないでくれよ、ロスヴァイセ」
「今、何か言おうとしましたよね?濁さずにちゃんと言ってくださいよ!」
「それは……ただの気のせいだって」
「いや、今のレン君は絶対に嘘ついてます!それに、そこまで言われたら私だって気になりますから、ちゃんと言ってくださいよ!」
こうして、二人の週末の予定については特に揉めることなく簡単に決まったのだが、別の話題で少し揉めることとなった。
◼◼◼
レンとロスヴァイセの間でそんなやり取りが行われたそんな日のこと、駒王学園でもちょっとした変化が起きていた。
「わたくしはレイヴェル・フェニックスと申します……わ。これから、よ、よろしくお願いいたします」
「私、フレイっていいます。みなさん、これからヨロシクです」
フレイと上級悪魔であるレイヴェル・フェニックスが一年生のクラスに編入してきたことである。二人の編入先の学級には当然のように小猫やギャスパーがいるところを選んで配属されていた。
「フレイさんの赤い髪、すごくツヤツヤしてて綺麗だね!」
「ねぇ、二人の出身は外国ってさっき言ってたけど、具体的には何処から来たの?もしよかったら教えてよ」
「フェニックスって珍しい名字だよね。かっこいい!」
「教科書は二人とも持ってるの?よかったら見せてあげるよ」
そして、転校初日ということもあり、フレイとレイヴェルの座っている席はたくさんの女子達に囲まれおり、言い寄られていた。
「うん、ありがとう!」
「私の出身地は北欧のフィンランドだよ」
フレイはこのようなところで学んだ経験がこれまで一切なかったということもあってなのか、見るもの聞くものが新鮮だったようで、そのため、他のクラスメイトと打ち解け合おうと努力を見せていた。さらに、フレイの元々の性格が明るいということも功を奏して、質問攻めがなされていったものの、それの受け答えをひとつひとつ丁寧にできていた。
「えっと……」
「あの……その」
しかし、レイヴェルはそれをうまくできていないようだった。人間界での生活を学ぼうとする姿勢は、フレイと同じくらいの熱意があるものなのだが、どのように接していいかどうか戸惑っている様子だ。
「あ……失礼しますわ」
レイヴェルはふと何かに気が付いたようで、途端に席を立ち廊下へ出ていった。
「……あれは、一誠さんとリアスさん?」
一誠とリアスはこの教室の外からレイヴェルの様子を心配そうに伺っていたのである。もちろん、それに気づいていたのはレイヴェルだけではなく、近くにいたフレイも遠くで喋っていた小猫とギャスパーも存在を確認していた。レイヴェルは藁にもすがる思いで二人の元へ向かっていき、二人を引っ張りどこかに連れていってしまった。
「え、ちょっと待ってよぉ~、小猫ちゃん」
小猫はそのレイヴェルの後を追うように教室を出ていき、ギャスパーまでついていこうとするが、
「待って、ギャスパー君」
フレイはギャスパーの腕を掴んでそれを制した。フレイがそうした理由は小猫がちょっとした妬き餅を妬いていることをそれとなく察したからである。もっとも、当のギャスパーはその真意を計れず「なぜ」というように目を丸くさせているのだが。
「今の二人、ちょっと怖いことになってると思うから、そっとしておこう」
「そ、そうなの?」
「うん、まぁこれは多分だけどね」
そして、フレイの予想は見事的中し、廊下では小猫とレイヴェルの喧嘩……とまではいかないものの、小競り合いが勃発していた。しかし、それが結果的にきっかけとなり、後々レイヴェルは他のクラスメイトとも打ち解け始めることになるのだった。
グレモリー眷属の最後の一枠は14巻辺りの内容で追加する予定です。
今のところ、性別は男で一誠達のひとつ年下と構想を練ってます。