魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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蜻蛉切の試練2

「ねねっ、ロスヴァイセさん。私と一緒におっぱいドラゴンを応援するお姉さん、やりましょう!」

 

「…………は、はい!?」

 

 授業と授業の合間の休み時間にイリナはそのような話をロスヴァイセに持ち掛けた。当然、ロスヴァイセはそのあまりにも突飛なことに当惑している。

 

「え~と、イリナさん?もう一度訊きますよ。私に何をしろ、と?」

 

「はい!あのですね、私と一緒に観客席でイッセー君達を応援して欲しいなぁ、と思いまして」

 

「ああ、なるほど。そういうことですか。私もレーティング・ゲームは観に行きますし、それくらいなら私も手伝いますよ」

 

 ロスヴァイセはレーティング・ゲームに関することを言っているのだとようやく理解したようで、快く了承してくれていた。

 

「ありがとうございます。あ!あと、レンさんのことも誘っていただけるとみんなにとっても心強いと思います」

 

「そう、かもしれませんが、レン君は……恐らく当日、来ないでしょう。今のレン君は自分のことで手一杯になっているでしょうし」

 

「すみません。そういえば今のレンさんは忙しいのでしたね」

 

 レンが故郷に帰省していることを思い出し、イリナは慌てるようにして謝るが、ロスヴァイセはそんなイリナに微笑み返すのだった。

 

「仕方ありませんよ。レン君の自業自得なんですから」

 

 優しげに微笑んでいるロスヴァイセを見て、イリナは一瞬の間だけ止まってから再び口を開いた。しかし、今度はさっきの話とは全く関係のない別の話題に関してだった。

 

「……ところでロスヴァイセさん。レンさんがここを離れる前にレンさんと何かありましたか?」

 

「……え?特に、何もありませんけど」

 

 口ではそう言って振る舞っているが、内心では今にも逃げ出したくなるほど、恥ずかしい気持ちになっていた。

 

「そうなんですか?いやでも、クラスの中でちょっとした話題にーー」

 

「お~いイリナ、次の授業は体育だぞ。そろそろ移動しなければ遅れるぞ」

 

「嘘、もうそんな時間?じゃあロスヴァイセさん、この話はまた今度聞かせてくださいね」

 

 結局、ふらっと現れたゼノヴィアに助けられるような形となり、ロスヴァイセは何も話さずに済んだ。

 

「危ないところでした。しかしなぜ、こういうことに皆さんは敏感なのですかね?」

 

 イリナとゼノヴィアがこの場を去っていく様子を見て、胸を撫で下ろすロスヴァイセ。

 

カチャッ

 

「……?なんでしょう?」

 

 ほっと息をつくのとほぼ同タイミングで、何かが落ちたような音をロスヴァイセは聞いたので、視線をすぐに下に落とした。

 

「……ッ。とうとう壊れてしまいましたか」

 

 落ちた何かとは、初めてレンからプレゼントとしてもらった髪飾りだった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「……フッ、セイ……ハァァッ!」

 

「フン、まだまだ遅い。もっと、もっとだ!」

 

 レンと遊騎の戦闘が開始して軽く二日近くは経過していた。そして、今の戦況はと言うと、ほんの僅かな実力差ではあるものの、それによってレンは攻めあぐね始めており、段々と推されつつあった。

 

「チッ、流石は師匠が持っていた槍なだけのことはある。こいつは……かなり不味い!」

 

 レン自身もそのことを自覚しているようで、後退しながら悔しそうに独り言を溢す。そんな何気ない独り言に遊騎は懐かしむような反応を示していた。

 

「……ん?ああ、そうか。そういえば、キミはあのディルの弟子だったんだな。……まぁ、彼と戦ったのは今では遠い昔のことだけど」

 

 それから遊騎は、一瞬の間も置かずにレンの元へ急接近し、連続の突きを一気に浴びせかける。レンもその怒濤のラッシュを最大限の集中力で見極めて、全てを器用に捌きかわしきっていく。

 

「もらったッ!」

 

 そして、ほんの僅かな隙を見つけ、レンは反撃の突きを遊騎に打ち込んでいった。直撃だけは避けたものの、流石の遊騎もそれを完全にかわしきることができなかったようで、肩に小さな切り傷を負っていた。しかし、その一撃だけでは戦闘の流れがレンの方へ傾くことはなく、むしろ悪化の一途を暗示するかのように、遊騎は不敵な笑みを見せるだけだった。

 

「なぜ、笑っている?」

 

「……フフ、たしかにキミは強い、二本の槍を操って自分に挑んだあの時のディル以上だ。……けど、キミからは何の恐怖も感じなければ、脅威的だとも感じない」

 

 遊騎の見下してけなしたにも等しい、あからさまなその言葉に対し、レンは歯をギシリと鳴らす。

 

「……それは、どういう意味だ!」

 

 さらにレンは、それを無理矢理にでも払拭するかのように、攻撃の手をさらに激しくさせていくが、遊騎は涼しげな顔をして後ろに下がっていくだけだった。

 

「どうと言われても、自分はそのままの意味、としか言いようがない。……が強いて言うとしたらーー」

 

 それから遊騎はある程度下がった段階で、全てを語り終える前に急な切り返しをして、蜻蛉切を横に振り払った。そのカウンターにはさっきの振りと比較するに少しばかりの溜めが生じていたため、レンは咄嗟にゲイ・ボルグでその一閃を防いぐことができていた。ーーが、

 

ブシュッ

 

 レンの身体には蜻蛉切の刃が届いていなかった。それにも拘わらず、なぜか脚が斬られていたのだ。

 

「……クッ!」

 

(いったい今、何が起きた!?)

 

 原因不明の攻撃に反射的に後ろに跳び退き、動揺を隠せないでいるレン。そんな様子を見た遊騎は、さっきあえて言わなかった続きの言葉を紡ぎ始めるのだった。

 

「槍本来の真の特性を発揮できていない。それがキミとディル、そして自分との決定的な差だ」

 

「……槍の特性……だと?」

 

 その指摘されていることにレンは当然自覚があった。自分がいままで作り上げてきた記憶の一部を失ってしまう、というリスクに恐れ、ゲイ・ボルグの力を調整して振るってきたことを。それでもレンは、しらを切るようにして振る舞った。

 

「そう。自分の蜻蛉切で例えるなら、その特性は絶大な斬れ味と風を自在に操るという能力。昔のディルと明らかに違う点は、何の躊躇いもなく槍の特性を使わない、いや、あえて使おうとしていないところだ。キミはなぜだか知らないが、その槍にちょっとした恐怖心を抱いている。どうかな、図星だろう?」

 

「……たしかに、アンタの言っていることは正解だ。的を射ているよ。しかし、俺には俺なりの戦い方ってものがある。そして、俺はアンタとのこの手合わせでゲイ・ボルグの真の特性を是が非でも見出だす!」

 

 遊騎が見透かしていたことを挑発するように指摘すると、レンはその場から即座に跳び出し、攻撃を繰り出していた。ーー二人は互いの槍で互いに打ち合い、互いに突き合い、競り合っていく。

 

「フッ!」

 

 遊騎は先程と同様に見えない斬戟でレンの体を斬りつけていく。

 

「……ッ、ハァッ!」

 

 レンも遊騎にやられてばかりではなく、それのお返しと遊騎の右脚に深々とゲイ・ボルグを突き立てていた。

 

「肉を斬らせて骨を断つ、とはよく言ったものだ。加えて、槍から放出されている魔なるオーラの量はさっきよりも増したみたいだな。……が、内に秘めている力はその程度だけではないだろう?」

 

 肩のものよりも大きな傷を負った遊騎は、今現在レンとの距離を大きくとり、安全な間合いを確保している。しかしながら、遊騎はさっきまでの余裕の姿勢を未だ崩さずにいたのである。

 

「それと今の内に言っておこう。このままの戦い方を続けるならキミは自分に勝てない。これは絶対だ」

 

「……それは俺を舐めているのか?」

 

「自分はどのような戦いの中でも手を抜いたことは一度たりともない。自分はただ事実を言ったまでだ」

 

「……だったら」

 

 通常なら間合いの外にいるはずのレンだったが、ゲイ・ボルグを後ろに引き腰を低く構えて、

 

「これはどうだッ」

 

 全力の突きと同時に一直線に伸びる紅い閃光を放つのだった。

 

「む、それを受ける訳にはいかない、な!」

 

 レンの放ったその紅い閃光を遊騎は蜻蛉切を使い、あさっての方向へと難なく弾き飛ばし、攻めに出ようと前に突き進むため既に地面を蹴っていた。

 

(まだまだ……本番はここからだ)

 

 しかし、レンの攻撃はまだ終わっていない。遊騎が弾いたはずの紅い閃光は軌道を急激に変えて、遊騎のいる方を再度向き直し、今にも遊騎の背後から刺し貫こうとしている正にその時だった。

 

「ーー残念ながら、さっきのキミの攻撃は届かない。なぜなら、因果ごと絶ち斬ったからだ」

 

 遊騎に当たる直前で紅い閃光は、煙のように突如として消えてしまった。

 

「な……に!?」

 

 予想だにしなかった結果に驚愕しているレン。さらにそこから追い討ちをかけるように、遊騎がすぐ近くにまで迫っていて、レンも対応するように構えを作るが、

 

「そして、キミの負けだ」

 

 それは既に意味のないことだった。

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