レンはみんながいたレストランのあるフロアまで下りて、すぐ目の前にあった扉を粗雑に蹴り開けたが、そこには誰もいなかった。
「ここにいないということは…………一番下だな!」
この場に残留している魔力や気といったものをレンは感じ取り、それらが下へと続いていることを素早く読み取った。レンはここまで下りて来たのと同様のやり口で下へと続く穴をさらに伸ばし、急ぎ足で駆け下りていった。
一番下の広いロビーに到着すると、そこにはレンが予想していた通り、仲間であるリアスや一誠達の姿とここを襲撃した張本人達であろうゲオルクと曹操の姿、そして磔にされている人形の生物(?)がいた。その他にも、恐らく一誠達と共闘するためにこの場に馳せ参じたであろうヴァーリの姿もあったが、レンの仲間達はほとんど例外なく深い傷を負っており、劣勢な戦況であることは言うまでもなかった。そして、ここに来て目に写した中でも一番衝撃的なことは、オーフィスが黒い塊に拘束されていたことだ。
(クソッ。あのオーフィスが脱出できないという状況はかなり不味いな。……オーフィス以外の他のみんなはどうなんだ?)
大怪我はしていないものの、元から非戦闘要員であるレイヴェルや戦い慣れていないルフェイはどう動いたらよいものかとオロオロしてしまい、どうすることもできないでいる。被害が少なくこの場で唯一戦うことのできそうな祐斗は、屈辱に塗れた表情をつくりながら曹操を睨み付けるようにして立ち尽くしている。
木場のその様子からもわかるように、この最悪な状況を作り上げた張本人こそが曹操だった。曹操の周囲には七つの球がフワフワと浮いていて、それらの正体がいったい何なのかを流石のレンでもすぐに看破できなかった。
「みんな……遅れてしまって本当にすまない」
「……ったく、本当に遅いんだよ。今のいままでどこをほっつき歩いてやがった?」
「俺に用がある客人が屋上にいて、その相手をしていたんです」
重傷を負って膝を屈しているアザゼルがレンに向かって文句を言うが、少し安心したような声を出していた。
「ふむ、ここにキミが来たということは、彼女を退けたというわけだ。しかし、時間をここまで稼いでくれたのだから、十分ではあるな」
「彼女を俺の元にけしかけたのは、やはりお前の仕業だったのか。……曹操!」
「ああ、結果的にはそうなったんだけど、俺は別に依頼をするつもりはなかったんだ。しかし、彼女がキミとどうしても戦わせて欲しいとせがんできてね。だから、俺のせいではないとも言える」
曹操は大して悪びれもせずにあっさりと否定をすることはなかった。ただ、曹操そのことに関して肯定もしなかった。
「まぁたしかに、キミは今回の作戦を決行するにあたって、一番の壁だったということは間違いない。要するに俺と彼女の利害が一致していたというそれだけの話だ」
「あぁ、そうだな。もし、アンタと同じ立場に立たされたなら俺でもそうしただろう。……けど、それで納得できるはずがないんだよ!」
レンは策を何も考えていないまま、曹操に単独で立ち向かっていく。
「これは俺の我儘だ。……単なる身勝手な我儘だが、みんなのためにも一矢報いさせてもらうぞ、曹操!」
ゲイ・ボルグによる大振りの凪ぎ払いは、容易に見切られてトゥルー・ロンギヌスで受け止められるが、烈迫の気合と共に放たれたレンのそれはプレッシャーが重く、徐々に曹操の体を圧していった。
「……ん?その右腕周りに纏わせている紅いマントはキミの新たな力だと捉えていいのかな」
「……だったらどうする、撤退でもするのか?」
「ハッ、とんでもない。俺がこの禁手を披露する機会も滅多にないことだからね、是非試させてもらおう!」
曹操は悪い体勢に陥りながらも嬉々とした表情を浮かべ、周囲に待機させていた球体を操り始めた。
「さぁ七宝よ、舞い踊れ!」
「チッ、やはりそういうことだったか」
曹操本人とは関係なく、完全に自律して動き攻撃する七つの球体に対し、レンは後退せざるを得なかった。後ろに下がりながら七方向から来る攻撃を捌きつつ反撃の機会を今か今かと待ち構えている。そして、曹操が足を前に踏み込み全速で攻撃を仕掛けようとした刹那、突如として全身から発していた敵意を引っ込め、聖槍の切っ先を下げた。それは七つの球体も同様であり、曹操の元へと戻っていき幻のように消えていった。
「どういうことだ?」
怪訝そうに様子を伺っているレンに、曹操は心底残念そうにして口を開いた。
「……ここからが本番だというのに、どうやら時間が来たようだ。サマエルをこれ以上現世に繋ぎ止められないらしくてね」
「……サマエル。それが今回のお前達のとっておきだったというわけだ」
サマエルーーそれは、堕天使でもあり、蛇でもあり、そしてドラゴンでもある。しかし、大きな問題はそこではない。サマエルの存在そのものがドラゴンに対して絶大な威力をほこる毒であり、ドラゴン以外の種族にも影響を及ぼすほどの猛毒性がある。ドラゴン全てを絶滅させかねない、そんな特徴から究極の
その最凶と呼ばれるそれがどうしてこのような場所に呼び寄せられているのか。なぜ、曹操達の手中にあるのか。様々なことがレンの頭を巡っていくが、それら全てを口に出すことなく噛み殺していた。
「キミはサマエルの存在を知って驚かないのか。意外な反応を見せるものだね」
「お前ら英雄派のすることにいちいち驚くのもさすがに疲れると思っただけだ。それに、今さら騒いてどうこうなる問題じゃないからな」
「フフ、キミのその冷静さは不気味なほどに恐ろしい。だからこそ、キミとは本気で一対一の戦いをしてみたいのだが、機会はまた次にとっておこう。……ゲオルク、俺は一足先に帰還する。後のことはジークフリートに任せるとしよう」
曹操は完全に聖槍の
「わかった。すぐに準備にかかろう」
ゲオルクも曹操の言葉にすぐさま反応し、どこかへ転移していった。もはやここにいる何者にも興味を無くしている曹操だったが、何を思いついたのか突然一誠達の方を向き、告げてくる。
「そうだな。ここは趣向を変えて、ひとつゲームといこうか。もうすぐここにはハーデスの命令を受けてオーフィスを回収に死神の一行が到着する手筈となっている。そこにジークフリートも参加させよう。それで、君達のゲームの勝利条件はいたってシンプル。オーフィスを死守しながらここを抜け出せるかどうかだ。健闘を期待しているよ」
言葉を全て言い終えると、曹操の足元に出現していた魔方陣の輝きがより一層強まりだす。
好き勝手言われてばかりでは気が済まないのか、曹操が消え去っていく直前にレンは挑発じみたことを最後に返した。ゲイ・ボルグを相手の心臓に向けて、指し示しながら。
「何度もチャンスがあると思ったら大間違いだ。次に俺と戦う前に、誰かがアンタを打倒することだってあり得るのだからな」
「そうなるつもりはさらさらないのだが、油断は禁物とそういうことか。たしかに、キミの忠告は肝に命じておくとしよう」
レンにそれだけ言い残して、曹操は本当に撤退していった。
◼◼◼
曹操がこの場を去っていくと先言通り、入れ替わる形で大量の
そして、一通りの治療が済んだ後にある程度動くことのできる者達はひとつの部屋に集結して、これからの大まかな行動方針がある程度固まった。まず、この空間から脱出可能な転移魔法をルフェイが発動し、それによってルフェイとイリナ、ゼノヴィアが外に出る。ちなみに、イリナは冥界や天界に助けを求めるための人員で、ゼノヴィアがその護衛である。
そして現在、残された者達全員でどう脱出するのかを話し合うため、リアス、アザゼル、朱乃、レンの四名はその部屋に残っている。
「ヴァーリはサマエルの呪いに侵され、イッセーだって生命力が他の悪魔と比べると極端に少ない状態にある。だから、二天龍の二人は前に出しての戦闘は今回避けるべきでしょう。他のみんなも怪我の治療こそ済んだものの、魔力や体力、精神力の消耗がかなり激しい。……そうなると、今の戦力は万全の状態の半分より少し上程度と考えた方がいいでしょう」
「ああ、そうだな。こいつはまともな作戦と呼べるものじゃあないが、一番まともに動くことのできる俺やリアス、朱乃、木場、そしてレンが前線に出て、死神を散らしていく。あとは、中長距離から残った連中で援護をしてもらう。こいつが現状で言えば一番マシな選択だと思うんだが、どうだ?」
今の戦力で考えうる最善の手段をアザゼルは提案する。
「ええ、私もそれが一番妥当だと思うわ」
「前衛で戦っていたイリナさんとゼノヴィアさんの二人が抜けてしまった今、そうするしかありませんものね」
リアスも朱乃もそれに納得してそれぞれがそのようなことを口にするが、アザゼルはまだ肝心なことをまだ説明していなかった。
「それで、一番重要な脱出する方法なんですけど、いったいどうすればいいんです?アザゼルさん」
「……考えられる手段としては少なくとも四つあるが、選択肢は実質二つしかないと考えていい。それは術者であるゲオルクを倒すか、この結界を支えている中心点を破壊するか。この力技二つのどちらかになる。とりあえず今のところはルフェイにこの結界の中心点を探索に行ってもらっていて、はっきりとした座標が確定次第、具体的な作戦を決める」
アザゼルのその言葉に他の三人が納得した顔をして、ひとまず脱出に関する作戦会議はそこで解散となった。
卒業研究などがあるので、更新が最近遅れております。
これからもしばらくは亀更新が続きますが、よろしくお願いします。