期待して待っていた方は少ないかもしれませんが、どうぞ。
英雄派の二人は、自分達の武器を使いレンとユーゴへ牽制をかけつつ、ピストル型の注射器を自分の首元へ持っていく。そして、そのまま挿入させていき、引き金を引いた。すると、人であるはずの二人の体は醜く変化していき、別の生物とも見れる奇怪なものへと変質していった。
レンはヘラクレスとジャンヌの体が変質させていく隙をついて、ユーゴに話しかける。
「敵の説明を詳しくはできないが、要点だけは伝えておくからよく聞いてくれ。大柄な男の方は触れたものを爆発させる能力を持ち、禁手化すると、全身の至るところからミサイルを放ってくる。そして、もう片割れの女の方は、任意の数だけ聖剣を精製することが可能である上に、禁手化すると、それを束ねて一体の龍とすることもできる。……しかし、それらの能力がどのように変化するかは俺もわからない。注意してくれ」
「それだけ聞ければ十分だ。戦力さえわかれば、やりようによってどうとでもなる」
「それともうひとつ。どちらも『フェニックスの涙』を複数個は所持していると仮定してくれ」
「チッ、想像以上に厄介だな。了解!」
レンの説明を最後まで聞いたユーゴは、まずヘラクレスに向かって最接近。そして、二本の機剣を抜き身にして、それらをそのまま振り抜いた。
「先手必勝だ、食らいやがれ!」
伸びていった刃が今にも相手の腹部に到達する。そんな危機的な状況であるはずなのだが、ヘラクレスは一度地面を殴っただけで、その場からは動こうとしない。ユーゴはそんな余裕にしているヘラクレスを不気味に思うと同時に、全方向から殺気が放たれていることを感知した。しかし、その時には既に手遅れだった。
「ガ……ッ!」
突然、ユーゴの周囲が爆発し、彼の身に容赦なく襲い掛かった。何も無かったはずの空間が、いったいどのような手段を使って爆発させたのか。ユーゴはそれを初見で見極めることが叶わなかった。
「クソッ、いったい何が……起きた?」
『ハッハァァ!おいおい、まだ始まったばかりだぜ、すぐにくたばるんじゃねえぞ!』
「……なんだとオイ。誰が、倒れるかっての!」
自身の武器を改めて構え、ユーゴは再度機剣を振るい、ヘラクレスを攻め立てる。しかし、またしても目に見えない爆発が発生し、今度は当たる寸前の斬戟を遮るのだった。ユーゴはそれを見て、状況が悪い方向へ向かっていると判断したのか、一度後ろに下がり立て直しを計った。
「チッ、またかよ!想像以上に厄介だな、オイ!」
「そっちは大丈夫か?ユーゴ」
レンはユーゴの元に近寄り、そして声をかける。ユーゴはそれに対して首を横に振って言い切った。
「冗談ぬかせよ。まだ手はある!……ていうか、お前の相手はどうしたんだよ?」
「それが、奴は聖剣を全身に纏ってラミアみたいな物へ変化させてから、すぐに地面に潜ったんだ。おそらくは、俺達の隙を狙っているんだろうが、こうなってしまった以上はこのまま一対一で戦い続けるよりかは、二対二だ。その方が小回りの効く俺達にとって有利に働くさ」
「……そうか。お前がそう言うんなら、それが一番良いんだろうな。じゃあ、適当に任せるぜ!」
「ああ。それなら次で見極めてやろうか、奴の爆発のトリックをな」
二人の話が終わると同時に、ユーゴは右へ、レンは左へと各自散開して、ヘラクレスを挟撃する形でフォーメーションを組む。
「「ハァァッ!」」
二人はヘラクレスへの最接近を試みて、その場を最大限の力で蹴りだしていく。対してヘラクレスは、先程と打って変わり全身からミサイルを生やして、それらで二人を迎え撃つのだった。
(目に見える攻撃なら、どうとでもなる。それは奴もわかりきっているはず。……つまり、本命はこの次だ)
(さっきのを見せられて、同じ轍を踏むかよ!)
二人は向かってきたミサイル群を高速で撃墜し終えると、ほぼ同タイミングで敵の懐に入り込み、ゲイ・ボルグの突きとモラルタの斬戟を繰り出していった。するとヘラクレスは、この戦闘が開始されて初めて脚を動かし、攻撃を上へ回避した。
攻撃を避けられたユーゴは、二本の機剣の刀身を伸ばし、ヘラクレスに追撃を仕掛け、同時にレンもその場で立ち止まりゲイ・ボルグを投擲する構えをとった。
『俺がその攻撃をみすみす見逃すとでも思ってんのか?そこまでテメェらを舐めちゃねぇよ!』
ヘラクレスはその二人の追撃する構えにすかさず反応を見せ、レン達が警戒していた『視認できない爆発』を今度こそ発生させた。
「やはりそう来たか!
「そう何度も食らってたまるかよォォ!」
爆発の位置やタイミングに全く予測のついていないレンは、地面から魔槍を大量に創り出して、守りの態勢を万全のものとし、ユーゴも前方で二本の機剣を回転させて、直撃だけは避けようと試みていた。
『ハッ、その程度の防御、無駄無駄ァ!俺の爆発ショーをとくと味わいな!』
「……グッ!」
ーーしかし、ヘラクレスの爆発は、レンとユーゴの行為を全くといって意に介すことなく、二人の体を容赦なく襲った。
ただ、双方の爆発を受けた箇所をよく見ると、レンは全体的にダメージを軽く負っている一方で、ユーゴには無傷な箇所があった。それは、機剣を回転させ、支点となっていた両腕である。
「……なるほどな、そういうことだったのか」
(よし、ユーゴも気が付いたか。……おそらくはユウキと同じ要領で空気を操り、何らかの方法で点火、そのまま爆発させたのかと予測していたが、どうやら、俺の読みはそれに近かったみたいだ)
そして、それこそがトリックの決定的な決め手となり、ユーゴもレンも敵の攻撃の正体を見破った。
「……なぁレン。少しの間だけでいいからよ、時間稼ぎしてくれないか?」
「お前が頼み事なんて珍しいんじゃないか?どうした」
「アイツらを手っ取り早くまとめて倒すのに、一番いい方法があるんだが、それをするにはちょっとした下準備が必要なもんでね」
「なるほど、わかったよ。……けどさ、俺が戦いを終わらせても問題はないんだろ?」
ユーゴからの頼まれ事を承諾したレン。だが、レンは時間稼ぎだけに留まらず、一人で二人の敵を倒そうと試みているようで、不敵な笑みを見せた。
「ああ、いいぜ。この冥界の状況を考えれば、なりふり構ってられねぇ。それに、手柄にこだわるつもりは毛頭ねぇからよ、遠慮なくやってくれ」
「その言葉を聞いて安心した。それなら全力でやれそうだ」
その言葉を聞くと、レンは何の躊躇いもなく二本の槍を振り払い、気合いを入れ直す。そして、蜻蛉切に向かって話し始めた。
「ユウキ、俺の声が聞こえてるか?聞こえているのなら頼む、力を貸してくれ」
『まったく、今さらキミは何を言っているんだい?キミが蜻蛉切を手にした時から、自分とユキの力は、既にキミのものとなっている。だから、キミが望めばいつでも自分達は力を貸すさ』
「……そうか、言われてみればそうだったな。じゃあ、行こうか!」
(……しかし、ユーゴにはああ言ってみたものの、冥界に来ている英雄派の精鋭は、あの二人だけとは限らない。ここはやはり曹操やゲオルクも近くに来ていると踏むべきか。……いや、今はこのことを考えるべきじゃないな!)
多少の迷いを抱きながらも、レンは蜻蛉切を左手で器用にクルクルと回して、風の流れを操り始める。そして、小さな竜巻状の強烈な突風を蜻蛉切に纏わせると、ヘラクレスに向かって跳び出していった。接近してくるレンに対して、ヘラクレスは攻撃を加えようとするが、強烈な突風を前にして攻撃の軌道が狂わされてしまい、今のいままで有効に働いていたはずのものが全くと言っていいほどに効果が無い。
「その攻撃、もう俺達に易々と通ることはない。さぁ、覚悟しろ」
『チッ、もうバレちまったのかよ!相も変わらず面倒な奴だな!』
ヘラクレスは、攻撃のパターンを変えて、今度な突風の影響を受けない
「無駄だ。それの速さは既に見切っている」
レンはその弾幕の中を針に糸を通すようにして、全て掻い潜っていき、ついに自分の射程にヘラクレスを捉えた。
「捕まえたぞ、ヘラクレス。さぁ覚悟しろ!」
『……オイ、ジャンヌ!いつまでも地面に隠れてサボってんなよ!』
『はいはい、言われなくともわかってるって。だから、そう怒鳴らないでよね』
しかし、レンの攻撃の直前に突然、目前の地面が割れ、その地割れの先からラミアの形をした何かが両者の間に姿を現し、そのままレンへ向かって奇襲をかけた。その正体は、今のいままで隙を伺っていたジャンヌだ。
「チッ、ここに来て姿を晒すか。今はお呼びじゃないんだけどな!」
『一対一で戦っても私達に勝機はないからね、これも立派な作戦のひとつ、常套手段よ』
「『英雄派』の名が聞いて呆れる。人間であるその身を捨ててまで、悪魔や天使、堕天使たち、人外の上に立ちたいか?そこまでして、成し遂げなければならないものなのかい!?」
レンはジャンヌの不意打ちを躱すと、一旦その場を離れて仕切り直そうとする。
ジャンヌはさっきの消極的な姿勢から打って変わり、攻勢に出た。負けじと蛇のようにピタリと食らい付き、レンの後ろを執拗に追った。彼女を覆っている鋼鉄の鎧からは、レンへ向けて大量の聖剣が斉射されていく。
『フフ、別に卑怯だと思ってくれても構わないわ。けどね、私達もこれ以上の失敗は許されない!もう後には引けないのよ!』
「……?それは、いったいどういうことだ」
『……どういうことも何も、言葉通りの意味よ!』
「うわッ!」
聖剣を二本の槍で捌き、叩き落していくレンだったが、ヘラクレスの攻撃も加えられていき、直撃こそしなかったものの、その際に発生した爆風の勢いによって、ユーゴのいる場所まで吹き飛ばされてしまった。
「おいレン、大丈夫かよ!?」
ユーゴは勢いよく飛んできたレンに声をかける。すると、顔についた砂埃を腕で払いながら、レンはゲイ・ボルグに力を込めながらユーゴに言葉を返した。
「とりあえずのところは問題ない。まだ時間が必要なら、もう一度仕掛けるけど、声をかける余裕があるってことは、そっちの準備はできたのか?」
「ああ、いつでもやれるぜ。……どうするレン、選手交替と行くか?」
「そうだな。だったら、今度は俺がサポートに回るとしよう」
ユーゴはレンの言葉に頷き、不敵に笑った。そして、掌を前に突き出して、とある
「……美しくも雄々しき翼を翻し、光の速さで顕現せよ!『エメラル』!」
詠唱が終わると、ユーゴの目の前に魔方陣が出現し、そこから強い光がこの一帯に放たれる。その後、ユーゴが創り出した魔方陣からは、一体の聖霊獣が姿を見せた。その聖霊獣とは、形状から察するにドラゴンの一種なのだが、ひとつだけ懸念材料があった。それはーー