ユーゴが召喚に成功したドラゴンは、全体的に見ると白と青。この二つの色を基調としていて、翼や腰回りなど、所々に宝石のような透き通った緑色の装飾が施されている。
「……なあ、ユーゴ。このドラゴンは、なんだ?」
「おう、よくぞ聞いてくれたぜ。こいつはな、『クリアウイング・ドラゴン』のエメラルだ」
(いや、そういうことを言ってるわけじゃなかったんだけどな。……これで本当に勝てるのか?ユーゴ)
そして、一番の特筆すべき点。レンが口にはしなかったものの、当惑していたその点とは、召喚したドラゴンの体長のことであった。その大きさを単純に比較すると、アーシアの使い魔であるラッセーよりかは少し大きいものの、一般的な成年女性よりは小さいという、ドラゴンにしては小柄な部類に属していたのだ。
『……テメェ、俺達のことを馬鹿にしてんのか?』
『クスッ、そんな可愛らしいドラゴン一匹で、いったいどんな手品を見せてくれるのかしら?』
当然のように、敵である二人も貧弱そうな小さいドラゴンを目にした途端、一人は怒り、一人は呆れかえっていた。それに対してユーゴの傍らにいるエメラルは、侮辱されていることを本能的に察してなのか、二人の敵を鋭い眼差しで睨み付け、唸り声をあげている。
しかし、ユーゴはそれに逆上することなく平静を保ちながら、静かに闘志をたぎらせていた。
「ハッ、たしかに、他のドラゴン達に比べると体こそ小さいエメラルだが、だからって馬鹿にすんなよ。……これからアンタらは、大火傷を負うことになっからよ!」
ユーゴはそう言い放つと同時に纏っているオーラを一気に高める。そして、モラルタとベガルタを天高く放り投げた。
天に放られた二本の機剣は、ある程度の高度まで昇っていくと自然に自由落下を始め、形状を歯車のような大きな輪に変化させると、そのままユーゴとエメラルを囲うようにして位置についた。
『何を企んでいやがるかさっぱりわからねぇが、そう容易く自由にやらせるつもりはねぇぞ!』
『ま、そんなのを見せても、お姉さん達だって油断するつもりはないからね!』
ヘラクレスは見えない爆発とミサイルによって、ジャンヌは聖剣とそれで形作った小さな龍によって。それぞれの攻撃がユーゴに向けて繰り出されていく。
「ユーゴ!ここは俺に任せーー」
「おっと、ここまで準備が整ってしまえば心配は無用だ。あとは任せておきなッ!」
敵の攻撃はすぐそこまで来ていたため、二人のやり取りは極めて短いものだったが、レンはユーゴのその言葉を信じ、そこから離れた。
聖剣やミサイルがユーゴのいる地点へと襲い掛かり、爆発や砂煙が巻き起こる中、その中心からは一筋の太い光の柱が空に向かって伸びていく。
『ヘッ、最後は何をしたかったのか、よくわからなかったが、やっとこさ一人くたばってくれたな』
『普通に戦えばなんとかなったかもしれないのに。もったいなかったわね』
攻撃を当てたというたしかな手応えを感じていた二人は、ユーゴを確実に仕留めたとその時は思っていた。しかし、二人はユーゴの実力……否、ユーゴとエメラルの本当の実力を見誤っていた。
『おいおい、勝手に殺してくれるなよ。俺達はこの通り健在なんだからな!』
ようやく視界が晴れて、突然発生した光の柱も収まると、そこには、白と青、そして透明な緑の三色をベースにした鎧を身に纏う何者かが、ほぼ無傷の状態で立っていた。体格から鑑みて、それの正体はユーゴ本人であることに間違いない。
『……ッ!?何よそれ!まさか、あなたもドラゴン系の神器使いだって言うの?』
ジャンヌが言うように、赤龍帝や白龍皇の鎧に酷似しているため、対峙したことがある者であれば、そう考えるのが普通である。だが、鎧を発現させた原理はそれと大きく異なっており、決してユーゴが神器を所有しているわけではない。
『いや、俺は神器なんか一つも所有しちゃいねぇし、その類いの何かの力でこの鎧を纏ったわけじゃない。……俺はただ、エメラルと
『シンクロ……だと?』
『ま、俺が勝手にそう呼んでるだけだから、正式な呼び方は知らないが、そのまんまの意味さ。……さて、無駄話はこれくらいにして、今度こそ速攻で終わらせてやるよ。はたしてアンタらは俺達のスピードについてこれるかな?』
ユーゴは透明な緑の翼を羽ばたかせて上空に飛び上がると、目にも写らぬ速度でヘラクレスの懐に潜り込み、凄まじい威力の右ストレートを叩き込んだ。
『グォォォォッ!』
ヘラクレスはユーゴの動きを目でこそ追えていたものの、薬で変質したその巨体では回避することがままならなかった。そのため、ユーゴの一撃をまともに食らい、その場から大きく吹き飛ぶ結果となった。
ただ、大きく変質したその巨体は、逆を返せば通常状態の肉体よりも堅牢なものとなっている。そのため、目立ったダメージの痕はなかった。
『ケッ、やってくれるじゃねえか。だがな、この戦いを終わらせるのはお前らじゃあねえ。俺達、英雄派だ!』
ヘラクレスは起き上がると、左腕全体を筒状のものに変質させ、それをユーゴに向けて照準を合わせる。ヘラクレスのその行動は、いままで見せたことのない新たな動きだっただけに、ユーゴはさらに身構える。
『俺のとっておきの秘策だ!遠慮なく食らいやがれ!』
その筒状の左腕からは、超高熱のレーザーのような熱線のようなものを照射されていく。
『クソッ、あのデカブツ!不可視の爆弾だけじゃ飽きたらず、極太レーザーまで撃ってくるなんて、もはやなんでもありじゃねえか!』
文句を言いながらもレーザーを一先ず上に回避したユーゴであったが、ヘラクレスの言葉通り、今のいままで秘匿していただけあって威力は凄まじいものだった。触れていなかったはずの道路のアスファルトが赤く発光して溶解していることが、それを物語っている。
外したことを確認したヘラクレスは、再び左腕の砲身を動かし、ユーゴに向けた。そして今度は、一発だけでなく、四発、五発と連続で空を切っていった。
『……もっとも、その程度の熱量じゃ俺にダメージは通らないけどな!』
降りかかってくる複数のレーザーに対して、ユーゴは回避する意思を一切見せず、その場から一ミリたりとも動こうとしない。そう、ユーゴにもヘラクレス同様、ある秘策があったのだ。
『……ダイクロイック・ミラー!』
ユーゴが気合いと共に技名を宣言すると、前方に己の身を守るための光の壁が形成されていき、それはヘラクレスが放ったレーザーを全て吸収した。
無傷な状態で凌がれるという結果は、ヘラクレスにとって想定外なものだったが、好戦的な意思はまだ消えていない。むしろ、対抗意識がより強く表れたことで、ヘラクレスの気性をさらに激しくさせた。
『ヘッ。だったら、俺も出し惜しみはしてられねえな。次はその面倒な盾ごとテメェをぶっ壊してやるからよ!』
『ハハッ、冗談抜かせよ。それはアンタにとって不可能な話なんだからな』
『あ?だったら、すぐに試してやるぜ!』
隙間なくユーゴの元へ降りかかるミサイルとレーザーの雨あられ。ユーゴは防戦一方の戦いを強いられており、かなり不利な立場にいる。
『う~ん、あともう一押しが必要ってところかしらね。私も加勢するわよ、ヘラクレス!』
さらに、攻撃の手を止めて、戦闘の様子を静観していたジャンヌもとうとう動き始め、ユーゴに突っ込んでくる。
『チッ、さすがに二方向同時に受けるのはキツイな。よし、そろそろ攻めに転じるとするか!……待たせたなレン、一気に畳み掛けるぜ!』
「……ああ!俺もいい加減、待ちくたびれてたところだ!」
ずっと一定の場所に留まり続け、守りに専念していたユーゴだったが、二人同時に相手をするのは辛いと判断したため、レンに声をかけると同時についに守りを解く。そして、構えを別なものに改めると、今度は己の分身を素早く生み出すのだった。
『……んだよ、これ!物量が馬鹿げてるじゃねえか!』
ユーゴが創り出した分身の一つ一つはどれも精巧で、かつ纏っているオーラも濃密なものである。しかし、何よりも驚愕すべきは、ヘラクレスも口にするほどの量。増えた数が2、3体だけで済む話ではなかったのだ。さすがに50や100とまではいかなかったものの、それでも、20を有に越すほどの分身が空を覆っていた。
『まさか、さっきまでの盾は、俺からの攻撃を防ぐだけじゃなく、力を蓄える役割まで担っていやがったのか!?』
『へぇ、根っからの脳筋野郎だと思ってたんだが、意外と察しが良いみたいで、助かったぜ。つまりは、そういうことさ。いままでのお返し、存分に食らいやがれ!』
戦慄するヘラクレスに対して、ユーゴが分身と共に容赦無用に接近していく。
『旋風の……ヘルダイブスラッシャァァー!』
ユーゴは、竜巻のような激しい突風を身に纏わせると、自分の体をさながら弾丸のようにして、そのまま突っ込んだ。さらに、ユーゴの分身体も本体と同様の攻撃方法をとり、波状攻撃を仕掛けた。
『……ハハッ。何が大火傷を負うことになる、だ。このインチキ野郎が……ッ!』
『そうだなぁ。結果的にそうなっちまったな。……なんだか騙したみたいで悪いね』
ヘラクレスは、ユーゴからの攻撃を全てまともに受け終えると、変質していた肉体も元々の人間の身体へと徐々に戻っていく。力無く膝から崩れ落ち、倒れ伏した。
ジャンヌ対レンの結末は次回に。