魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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開眼の兆し

 仲間のヘラクレスが倒され、さらに行く手をレンによって阻まれたジャンヌは窮地に立たされていた。それもそのはず、ジャンヌ側からすれば、数的に不利である上に、相手の片割れは、状況が違えど二度も敗北を喫しているレンだ。そうなれば、おのずと思考も慎重になってくるはずなのだが、その時の彼女は違った。

 

『まさか、ヘラクレスがやられるなんてね。……こうなってしまった以上は、曹操たちが援護に来るまでなんとか耐え凌ぐしか……。いや、ここは相討ち覚悟でいかせてもらうわ!』

 

 むしろ、後には引けないという状況だからこそ、強気に攻め行く、といった姿勢になっていたのである。ただ、相対しているレンもジャンヌに負けず劣らずの気合いを放っており、決して圧されているわけではいない。

 

「俺も今回ばかりは、見逃してやるつもりはない。この場でアンタを確実に仕留める!」

 

『……あなたもやる気十分みたいね。まぁ、あなたみたいな強いヒトと共に最後を迎えられるのなら、それもそれで良いかもしれないけれど』

 

「……アンタ、本気で言っているのか?それ」

 

『ええ、そうね。少なくとも半分は本気のつもりよ。……けどね、私は是が非でも、あなたに勝つ!それだけは絶対に譲れないの!』

 

 ジャンヌは、ついさっき打ったはずのピストル型の注射器を首元に近付け、さらに追加して注入させた。

 

「……凄まじい気迫だな。しかし、俺だって負けられない理由がある!だから力を貸せ、ゲイ・ボルグ!蜻蛉切!」

 

 対するレンも、『身槍一体』を発動。右腕に紅く具現化させたゲイ・ボルグの魔のオーラを纏わせて戦闘体勢をとる。

 

『聖剣よ、舞いなさい!』

 

 聖剣のラミアと化したジャンヌは、その大蛇の口を大きく広げながら接近しつつ、体中から大量の聖剣を一斉に撃ち放っていく。

 

 レンは、それらの攻撃を二本の槍で受けることはせずに確実に回避することを選択。そこからさらに、動いた勢いを保たせたまま、自分の戦える間合いに飛び込んでいった。

 

「そこだッ!」

 

 そして、間合いに侵入するや、すぐさま蜻蛉切による斬撃と、ゲイ・ボルグによる鋭い刺突をジャンヌ自身がいるポイント目掛けて繰り出していく。

 

「……チッ、この手応えは……ッ!」

 

『ええ。あなたが思っている通り、私に槍は届いていないわよ!』

 

 しかし、レンが放った渾身の攻撃は、束ねられた大量の聖剣によって防がれ、ジャンヌ自身を捉えるまでには至らなかった。それに重ねて、ジャンヌはレンに反撃を加えていったため、レンは後退せざるをえない状況となった。二人の距離はそれなりに離れ、一度仕切り直しとなると、次にレンは一撃の威力が大きい投擲、もしくは、紅い閃光を撃ち出すために隙を伺う。

 

『それじゃあ、これならどうかしら!』

 

 ところが、またしてもレンの思うようにはならなかった。それは、ジャンヌがその隙すらも与えぬような、絶え間無い怒濤の攻めを見せたからである。聖剣が飛び交うだけでなく、聖剣の龍、そして、ジャンヌ自身も空中を動き回り、レンの動きをその場で停滞させ、脚を釘付けにする。

 

「フゥッ、ハッ!……フン、どうした?これがアンタの限界かい!」

 

『……ッ!まだよ!もっと、もっと速く!』

 

 ーーしかし、『身槍一体』を発動して、ゲイ・ボルグと一体になっているレンの今の反応速度と運動能力は、『鉄血転化』を発動時と同じ、もしくはそれ以上のものに跳ね上がっている。だからこそ、高速の機動力を封じられ、二本の槍で捌いていくという、不本意な戦い方を強いられたレンであったのだが、戦況がジャンヌの方へ傾くことはなかった。

 

 むしろ、休みなく攻め立てていたジャンヌの方に、ある変調が起きていた。レンに攻撃をするたびにジャンヌの全身からは、血飛沫が舞っているのだ。

 

 その出血の原因が、薬による副作用なのか、過度な高速戦闘による反動なのか。それについての真相は、レンにはわからなかったが、これだけはわかった。ーー既に限界を越えている。このまま続ければ、彼女は死ぬだろう、と。

 

「これ以上の攻撃は無意味だ。もうやめろ!」

 

『先に言ったでしょう?相討ち覚悟、と。だから、これは決して無意味なんかじゃないの!』

 

「これ以上速度が上がらないことは、自分がよく理解しているはずだ。このまま続けても、俺を殺すことは絶対にできやしない!」

 

『そう言っているのは、あなたも限界が近いのではないのかしら?あなたが何をしようと、引くつもりは無いわよ!』

 

(……クソッ!今の彼女には、何を言っても無駄か!)

 

 レンが何と言っても、ジャンヌは死ぬまで引き下がるつもりは無い様子。ジャンヌからの攻撃を受け流し、耐え凌ぎながら打開策を必死に探し求めるレン。

 

 攻めあぐねるレンを端から傍観していた遊騎は、今のレンに最も合理的なアドバイスを促す。

 

『このままレンが受け流し続けていれば、相手は勝手に自滅してくれるのだろう?だったら、それで別にいいじゃないか』

 

(ああ、たしかにそうだな、ユウキ。お前の言っていることは間違いなく正しいよ。生き残るためなら、それが一番手っ取り早いと俺も思う。……けど、それは相手の思い通りにもなっているわけで、勝ち逃げされたようなことだ。それだと真の意味で彼女に勝ったとは言えない)

 

 ユウキの言うように、レンがこのまま耐え続けさえすれば、今すぐにとはいかないまでも、確実に勝敗は決することは、レンもわかりきっていた。たとえそうしなくとも、ジャンヌの攻め同様に大量の魔槍や魔槍の蛇龍を創造し、それで相殺させさえすれば、隙など作ろうと思えばいくらでも作れるだろう。しかし、レンはどちらも選ぶことはせずに、別の方法を詮索していた。

 

 レンのその返答は遊騎からすれば、不合理的なものだったようで、頭に疑問符を浮かべた。

 

『……?キミの言っていることには理解に苦しむ。つまりそれは、今、自分達と相対しているあの女のことを殺さずに無力化したい、と、そういうことなのか?』

 

(平たく言えば、そういうことになる。……それに、生かしたまま捕虜にでもすれば、有益な情報を得られるかもしれないだろう?)

 

『……お人好しな性格のキミのことだ。どうせ本当の理由はまた別にあるんだろうけど、まぁいいさ。それで納得しておくとしよう』

 

(無理に納得してもらわなくともいい。俺だって、危険な橋を渡ろうとしていることぐらい、重々承知しているつもりだから……な!)

 

 ユウキと会話をしながらも、ジャンヌからの攻撃を捌き続け、隙を伺うレンだったが、一向にチャンスが訪れる兆しは見えない。それを見かねてなのか、ユウキは、レンの考え方にあまり乗り気ではないはずなのに、レンにもう一つ、アドバイスをくれた。

 

『……この複雑な状況下で、そこまでして結果にこだわるのなら、何も考えず、ゲイ・ボルグの一撃必殺に全てを込めることに集中すればいい。……それと、先に蜻蛉切を地面に突き刺せ。あの程度の威力で、ほんの刹那の間だけなら、キミの視界を確保しつつ、聖剣の群勢を弾き飛ばせるだろうからね』

 

(……すまない、感謝する!)

 

『なに、主であるキミに協力するのは当然のことだ。何もキミが気にするまでもないだろうさ』

 

 レンは感謝の言葉をユウキに送りつつ、言われた通りに左手で持っていた蜻蛉切を眼前の地面に突き刺す。すると、レンの周囲には瞬発的な烈風が吹き荒れ、比較的に質量の軽い聖剣が次々と弾かれていった。聖剣の龍は重く、蜻蛉切が発生させた風圧では、侵攻を止めることは叶わなかったが、動きを遅らせるにはあまりにも十分すぎた。

 

 レンは、周囲からの攻撃が一気に消えたその瞬間に、後ろに大きく跳ぶ。そして、着地すると、すぐに腰を低く屈めてゲイ・ボルグを突き出すために構えるのだが、狙いを定めようと集中し始めたその瞬間、レンの視界には、ある変化が起きていた。

 

 紅い動線のような曲がりくねった何かが、ゲイ・ボルグからジャンヌに向かって伸びていたのである。ーーそれも一本だけではなく、複数本の紅いそれが入り乱れるようにして、彼女のあらわる体の部位へと伸びている。

 

(いったいなんだ?これは……)

 

 初めて体感した現象で戸惑いを見せるレンだったが、迷っている余裕はどこにも無い。しかし、だからこそレンは、自分の勘とゲイ・ボルグを信じることにした。ーーそれは、勝つためにゲイ・ボルグが自分に示した最適解であるのだと。

 

「これで決めてやる。ーー穿て!ゲイ・ボルグッ!」

 

 レンは迷いを振り切り、視認できた動線の一本をなぞるイメージで、紅い閃光を撃ち出していった。

 

 それの回避は不可能であると最初から知っていたのか、ジャンヌは、構うことなく前進していき、攻撃もより激しいものとさせていく。

 

『……ッ!?やっぱり純粋なスピード勝負じゃ、分が悪いみたい……ね』

 

 しかし、ジャンヌの聖剣がレンに到達するよりも先に、ゲイ・ボルグの紅い閃光が障害物を全てかわし、ジャンヌの左肩を貫いていた。そして、それと同時に、レンに襲い掛かろうとしていたはずのジャンヌの聖剣は、空中で全て砕け散っていた。

 

 攻撃の嵐が完全に止んだため、レンは『身槍一体』を解除。そこから、地面に墜落したジャンヌの生存確認のために、レンは彼女の方へと近付いていく。すると、ジャンヌは自嘲気味に笑いながらレンに言う。

 

「……フフフ、どうしたの?この通り、私は体を動かせそうにないし、早くトドメでも刺したらどうかしら?」

 

 ジャンヌのそれに対してレンは、肩を竦めるようにしながら、こう返した。

 

「女、子供を無闇に殺すことは、俺の師匠が嫌っていてね。どうも、それが俺にも伝染ったみたいだ」

 

「……あら、冷徹そうに見えて意外とお人好しな性格だったのね、あなたは。……曹操みたいな性格だと思っていたのは、どうやら私のただの思い違いだったみたい」

 

 ジャンヌはそれだけ言うと、いままでの緊張の糸がプツリと切れたのか、目を閉じて意識を手放した。レンもそれを確認して、ゲイ・ボルグと蜻蛉切を異空間に収納させていると、ヘラクレスと戦闘を行っていたユーゴがレンのいる方へと近づいてきた。

 

「そっちもようやく終わったみたいだな」

 

「なんだ、ユーゴ。お前が手伝ってくれれば、もう少し楽に片付いたかもしれないってのに」

 

「……う、そいつは悪かったよ」

 

「ま、どちらも殺さずに捕らえることができたわけだから、結果オーライってところか。……あ、そうだ。この後始末についてなんだが、ここから全部そっちに任せてもいいか?」

 

「それは別に構わねえけど……って、お前、もう行くのか?少しぐらい休んでいけばいいだろうに」

 

 レンはいつの間にやら近くに寄せていたシルバー・ゲイルに跨り、既に出立する準備が完了していたため、ユーゴはそれに軽く驚いていた。しかし、レンは当然だと言わんばかりの顔をしている。

 

「お前達みたく小隊で来ているわけじゃないからな。おちおち休んでなんかいられないさ。それじゃあ、あとはよろしくな」

 

 そして、ユーゴへ素っ気ない言葉を手短に言い残すと、ここから足早に去っていった。それは、レンが見つけた本来の目的を果たすために。

 

「……そういえば、さっきの戦いで起きたあの現象は魔眼の類い、それかもしくは……いや、今考えたところで無駄か。考えて出てくる答えではないだろうしな」

 

 レンの頭の中では、ジャンヌとの戦闘の際に発現した特殊能力についてふと過ぎり、なんとなしに独り言を漏らすが、すぐに頭を振って思考を切り替えた。

 

[刺シ、穿チ、貫キ、ーーーー抉ル!]

 

 レンに発現した、魔眼のような何かが、ここから先、レンに幸をもたらすか、あるいは災いを引き込むのか、まだ誰も知る由がない。




 もし、レンの暴走形態を出すとすれば、FGOのクー・フーリン・オルタのようなイメージで書きたいと思っている今日この頃。……早くピックアップ出してくれ。
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