魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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隼と幻影1

『ヤァァァァッ!』

 

 リアス・グレモリー達がジークと戦い、そして立ち直り、本格的に行動を開始させていたその頃、レンと共に冥界へと訪れていたフレイもまた、冥界の危機を救うために今も単独で戦っていた。フレイが相手にしているものは、主にバンダー・スナッチやジャバウォックが大量に発生させた小型モンスター達であり、戦い始めて既に1時間は経過していた。

 

『ふぅ、ようやく数が減ってきましたね。……それで、あなたはいつまで傍観しているつもりなんですか?この程度の魔物では私を倒すことなどできませんよ!』

 

 ーーただ、フレイがここで一人で戦っていたのには、もうひとつ明確な目的があった。それは、自分の家族の仇を討つため、ウェンディゴとの決着をつけるためだ。

 

「はぁ、まったくだらしのない。認めたくはありませんが、どうやらそのようですわね。それでは、あなたのお望み通り、わたくしがお相手するといたしましょうか!」

 

 今のいままで自前のペガサスに跨りながら、戦いを傍観していたウェンディゴだったが、ついに本格的な動きを見せた。彼女は手綱を引き、ペガサスを操ってフレイに攻撃を仕掛けてくる。それに対してフレイは、すかさず回避行動をとって、攻撃をかわしながらそのまま旋回。逆にウェンディゴの背後をとって反撃を試みた。

 

「あら、動きのキレが心無しか以前よりも増したみたいですね。……ですが、それくらいの速度と動きは読めていますわ!」

 

 だが、フレイがそのような行動をとるということを予測していたウェンディゴは、近くにいた小型の魔獣を操り、それを自分の盾として扱い、簡単に防いでみせた。

 

『今日こそ、今日こそみんなの仇を取る。……あなたを今度こそ殺してやる!』

 

「ふふ、それは不可能なことですね。あのレンさんがいるのならまだしも、あなた一人では、わたくしに敵わないことなど、勝負をする前からわかっていることではありませんか?」

 

『……前の私と一緒にしないで!』

 

「あらあら、恐ろしい形相ですこと。それでは、可愛いお顔も台無しですわよ」

 

 ペガサスを駆って挑発しながら逃げるウェンディゴの後を、フレイは執拗に追いかけながら、剣の如く堅い鋼の羽根を次々に射出していく。

 

「フフ、その羽根も私には届きませんわ」

 

 ウェンディゴは全方位から向かってくるフレイの羽根を、ペガサスを巧みに扱い、かわしてしまった。

 

「さて、今度はこちらの番で……ッ!」

 

 そして、身を翻しながら攻めに転じようとするが、突然その手を止める。それは、フレイの攻撃がまだ終わっていなかったからだ。

 

『いいえ、残念ながら、私の本命はこちらです。……ロスヴァイセお姉さん直伝の北欧式魔術、とくと味わってください!』

 

 フレイは翼を大きく広げると、そこから大量の魔法陣を発現させ、ロスヴァイセさながらの魔法によるフルバーストを撃ち放っていった。炎、雷、氷、光といったあらゆる属性の攻撃が、ウェンディゴに向かって飛んでいき、今にも突き刺さろうとしていた。

 

「さぁわたくしの可愛い魔物達、あの攻撃を迎え撃ちなさい!」

 

 フレイの攻撃を避けられないと判断したウェンディゴは、ペガサスや周囲の魔獣に命令を下し、迎撃させようとする。互いの攻撃がぶつかり合うと、激しい爆裂音が砂煙や烈風と共に巻き起こり、衝撃波が同時に発生した。

 

『どう?この物量なら無傷で済むはずが無いですけど』

 

 フレイは、元々いた場所からさらに上空へと飛び上がり、宿敵が倒れたのかを確認するが、それはまだ早かった。決して無傷というわけではなかったものの、致命傷とまではいかない浅い傷であり、ウェンディゴは未だに健在だったのだ。

 

「ーーええ。あなたの今の攻撃、なかなかのものでしたよ。……まあ、このわたくしを打倒するまでには至りませんでしたけどね」

 

『……また、あなた方お得意の禁 手(バランス・ブレイカー)ですか。まったく、やれやれですね』

 

 フレイは彼女が跨がっている()()な生物を目にして、そのように評した。

 

「ああ、そういえば、あなたには一度披露いたしましたわね。鳥頭だというのに覚えていらしましたか」

 

 ウェンディゴの持つ神器、『騎兵の手綱(ベルレフォーン)』の禁 手(バランス・ブレイカー)の正体は、自身が使役している魔物同士を融合させるというものである。つまり、フレイが目撃した異質な生物とは、既に融合し終えた一体の巨大な魔物だったのだ。

 

「これを初めてお見せしたのは、え~とたしか……」

 

『京都で匙さんと共闘した時。それにあなたはあの時、八坂さんの体の一部を使っていましたから、あんなもの見せられて忘れろという方が無理だという話ですが』

 

「あらあら、本当に記憶力がいいですのね。使っていたわたくしですら忘れかけたというのに」

 

『……あなたなりの挑発のつもりでしょうけど、そんな安っぽいものに乗るほど、私もそこまで馬鹿ではありません』

 

「もう、酷い言い草ですこと。わたくしは別に馬鹿にしたつもりはないのですが、いいですわ。そんな無駄話は置いといて、わたくし達の戦闘を再開いたしましょうか」

 

『あなたに言われるまでもありませんよ!……このッ!』

 

 ほんの少しの間、互いに向かい合って攻撃の手を止めていた2人だったが、ウェンディゴの一言によって戦闘は再び始まった。融合し、もはや四肢の判別すら困難となっていたウェンディゴの魔獣が、その無数にも増やした触手をフレイへ向けて伸ばしていく。それもまったく無駄のない動きで、効率よくフレイをジワジワと追い詰めていくかのように。対してフレイは、一旦高速で離脱しようと試みるが、その触手は存外に速く動けるようで、鋭く切り返しながら飛翔しているものの、なかなか振り切ることができない。かといって、羽根や魔術による攻撃を加えようにも、触手は即座に再生を始めていくため、進行が止まることはなかった。

 

『クッ!』

 

 そして遂には、魔獣の触手はフレイの体を捉えて捕縛し、自慢の高速移動を完全に封じ込めてしまった。フレイは体を動かし、必死にもがくが、その拘束を振りほどくことはできない。

 

 ウェンディゴは、見動きの取れないフレイの体を自分の眼前へと持っていき、その姿を嘲笑おうとしたが、決してそうすることはなかった。なざなら、フレイのまだ諦めていない姿勢が彼女ことを不愉快にさせたからだ。

 

「……まだ、わたくしに対抗する手段が残っているとでも言いたげな強気なお顔ですわね。もしそのようなものが本当にあるというのなら、それは大変興味深いですが、このまま諦めた方が幸せかもしれませんわよ?」

 

『フフ、つまらない冗談ですね。……私は、まだ負けてなんかいない!』

 

 このような絶体絶命の局面に立たされたフレイだったのだが、彼女はまだ諦めていない。手段はまだ残されていたのだ。その手とはーー

 

『……英雄の血潮に染められし鋼鉄の鎧よ、我の元に集い、力を貸したまえ!』

 

 何か呪文のようなものをフレイが詠唱し終えると、近くの地面が突然隆起しだし、無数の青色の金属片がそこからフレイに向かって飛び出してきた。そして、それらは魔獣の触手を斬り裂き、フレイを解放させると、フレイの体の至るところへと一人でに装備されていく。

 

 フレイが鎧の装着を全て終えると、一帯の空気を震わせる余波が発生し、ウェンディゴは顔を腕で覆いつつ、可愛らしい高い声を上げる。

 

「キャッ!……い、いったい何が?」

 

 腕をよけて、フレイがいるであろうところに目を向けると、そこには、進化を遂げたハヤブサの姿があった。元の体色が赤に近かったはずのフレイの体は紫に近い色へ変わり、さらに全体的なフォルムもより攻撃的な鋭い形状のものへと変化している。加えて、身に纏っている雰囲気もより圧倒的なものに変化しており、今までとはまるで比べものにならない。

 

『これがあなたを倒すために身に付けた私達一族の絶技。この力で、みんなの無念を晴らし、因縁に終止符を打つ!』

 

 フレイは、変化の全ての過程を完了させると、ウェンディゴの視界から一瞬にして姿を消し、瞬く間もなく手が届きそうな程の近い間合いに入っていた。

 

「……なッ!?」

 

『遅い!』

 

 咄嗟の反応を見せるウェンディゴだが、それは既に遅すぎた。魔獣の触手を全て斬り落とし、ウェンディゴが乗っている本体をおもいきり吹き飛ばした。

 

「なかなか派手にやってくれますわね。これは高くつきますわよ!」

 

 体こそ吹き飛ばされてしまったウェンディゴだったが、やはりダメージはそこまで負っていない様子。握っていた手綱をより強く引いて、自身の魔獣を復帰させようとする。……が、魔獣が体勢を立て直すよりも速くフレイは懐に入り込み、連続攻撃をさらに叩き込んだいった。

 

 そもそも、魔物使いの戦闘スタイルの長所は、自ら先頭に立って戦う必要がないこと。つまり、魔物使い自身の体が傷を負うリスクが圧倒的に低いということだ。

 

『動きの先読みなんか関係無いほどのスピードで、一気にねじ伏せてやる!』

 

 しかし、この戦闘スタイルが完璧といったことは当然なく、もちろん穴もある。それは、使役している魔物との意思の伝達にタイムラグが生じることだった。それがたとえ、相手の手を先の先まで読むウェンディゴといえど例外ではなく、その行為自体は、あくまでもその弱点を補っているに過ぎない。この弱点ばかりはどうすることもできないのだ。ウェンディゴが魔獣の体をいくら再生させようと、フレイは構うことなく、攻撃の手を止めない。いくら魔獣が反撃しようと、フレイはそれらをひらりとかわして、当たることはなかった。そして、少しずつではあるものの、フレイの度重なる攻撃により、体の再生が追い付かなくなっていった。

 

 ーーこのままの速さを維持して、魔獣の体を削っていけば勝てる。そう、心の中で思ったフレイ。しかし、まだ勝敗は決まらない。ウェンディゴは大量の魔法陣を辺り一面に形成させて、魔獣の数を大量に増やした。

 

『無駄な悪あがきを!ハァッ!』

 

 フレイがそう言うように、これは単なる時間稼ぎの手段に過ぎない。現に、召喚された魔物たちは出現した途端、フレイによって容易く屠られていき、お世辞にも機能しているとは言い難い。ただ、いったい何のための時間稼ぎをしているのか、フレイはそれを図り違えていたのもまた事実だった。

 

「はぁはぁ。……ふむ、なるほど。先程のあなたの言葉、まんざら嘘というわけでもなさそうですわね。ここから先は敬意を表して、あなたのことを強敵とみなし、全力で排除にかからせていただきますわ」

 

 いままで見せていた余裕の表情は消え失せ、冷ややかで、かつ狂気的な目つきに変貌しているウェンディゴ。彼女は、服の胸元から、ピストルのような形をした注射器を取り出しーー己の首元に針を深々と突き刺した。注射器内の液体を注入すると、彼女の体から血管が浮き出し始め、さらには場の空気が震えだす。

 

『思い通りにはさせない!』

 

「ーーおい、そこのライズ・ファルコン。今は奴に近付くべきではない。すぐにそこから離れろ!」

 

『……えっ!?』

 

 フレイは、彼女の異変を察知して近付いて行こうとするが、突然響く第三者の声と下からの黒い攻撃により即座に後退する。そして、次の瞬間、上空からとてつもなく重い何らかが振り下ろされ、大地が大きく抉れた。寸でのところで後ろに退いたフレイは無傷で済んだものの、あのままウェンディゴに接近していれば、大ダメージは免れられなかっただろう。

 

 大地を抉った張本人は、つい先ほどまでボロボロになっていたはずのウェンディゴの融合魔獣だった。さらに、その魔獣は、万全な状態で復活しており、身体の所々に強化が見られる。ーー頭は5つに増え、触手には鋭い刃が生え、肉体は硬質なものへと変化していた。

 

 フレイは、攻撃が当たらなかったことに安堵しつつ、気を引き締めなおしてから、下にいる謎の声の主に訊ねる。

 

『いったい、何者なんですか?』

 

「無駄口を叩いている暇など無いだろう?ほら、次が来るぞ」

 

 しかし、下の方から返ってきたものは、男の素性ではなくまたしても警告だった。魔獣は大きく口を開け、強力な熱線をフレイのいるところ目掛けて吐き出してきた。予備動作が見えたため、フレイは簡単にそれを躱すが、魔獣の攻撃は一発で終わることなく次々と連続で放ってくる。攻撃を躱していきながら、敵を注意深く観察していると、息を呑み、戦慄するほどの変貌を遂げていた部位がまだあった。なんと、ウェンディゴ本人が魔獣の頭頂部付近に体の下半分を埋めていたのだ。おそらくそれは、ウェンディゴが自身の使役している魔獣の一部となっているのだろう。

 

『そんなッ!?自分自身が魔獣と一体化したというの?』

 

『クスッ、驚いてくれたようで何よりですわ。そうでなければ、私がここまでした意味がありませんもの。これこそがわたくし達ーー英雄派が新たに創り出した禁 手(バランス・ブレイカー)のさらに上を行く力。さぁ、せいぜい足掻いてみせてくださいな!』

 

 文字通り、魔獣と一体化してしまった今のウェンディゴ。加えて、彼女自身は、透明なドーム状のもので体を覆っているため、先程のように付け入ることのできる簡単な糸口はーー今のところ無い。それでもなお、フレイの心は折れることなどなく、目の前にいる異形の強敵に向かって羽ばたいていこうとする。

 

『……たとえあなたの弱点がなくなったのだとしても、私は諦めない。これ以上、冥界で好き勝手にさせてたまるものですか!』

 

「ーーほう、よくぞ言った。なかなか見込みがある」

 

 フレイが立ち向かおうとしたその直前、またもや下からさっきと全く同じ声が響いてきた。今回は少しだけ余裕ができたため、フレイは視線を下に落として確認して見ると、そこには顔の上半分を白いフェイスガード、下半分を紺のマスクで覆い、全身を黒で着飾った男が立っていた。

 

「絶対的な力を目の前にしても、キミはまだ抗おうという姿勢。クハハハハハ、いいだろう。俺もキミに助勢しようじゃないか」

 

『だから、あなたは何者なんですか!?』

 

 ついさっき訊ねた質問を、再度フレイが訊く。すると、今度はまともに答えが返ってくるのだった。

 

「ああ、そういえば紹介がまだだったか。しかし、できることなら名乗りたくはないのでね。どうしても呼びたいのならば、……そうだな、俺のことは『ファントム』とでも呼ぶがいい」

 

『私は別に…………まぁいいです。まだ一人でも戦えますが、あなたが助けてくれるというのなら、その言葉に甘えさせてもらいます』

 

「復讐者の割にはいい判断だ。あとは気を抜かずに奴と臨むことだな」

 

『あなたこそ、今のその言葉そっくりそのままお返し致します』

 

 二人の間で交された淡白な会話が終わりを告げると、フレイは上空から、ファントムは地上から同タイミングで仕掛けていった。

 

『増援が一人増えましたか。それで勝てるようになるかは別ですけどね!』

 

「フン、随分となめられているようだが、まぁいい。初手は俺がもらうぞ」

 

 ファントムの両手から放たれた影のような塊が、第二ラウンドの、いや、最終ラウンドの始まる合図となった。

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