「今日は街に出かけてくるので、修行は夕方頃にお願いします」
今日はロスヴァイセとのデート(?)当日。レンはランサーと朝食を摂りながら、今日の自分の予定を話し始めた。
「お前が自分から進んで出かけるとか、はじめてじゃねぇか。そんで、誰とどこに行くんだ?」
ランサーは顔をニヤつかせて、水を飲みながらレンに訊ねる。レンは咀嚼していたものを呑み込んでから、それに答えた。
「隣の席のロスヴァイセって女の子とですけど」
「ブフーッ!」
ランサーはそれを聞いて、口に含んでいた水を吹き出した。そして、咳き込みながらレンに言及する。
「ゴホッゴホッ。冗談だろ、おい。お前、それデートだろう!」
しかし、レンは初めて耳にした言葉に首を傾げるだけだった。
「デートとは何のことですか?」
「おま……!あのなぁ、家族以外の親しい異性と出かけることそのものが九割九分九厘それのことを表しているんだ」
「へぇ、そうなんですか」
ランサーがかなりザックリとした説明をレンにするが、当の本人は口に料理を含ませながら、呑気に聞いていた。ランサーはそれを見て呆れ返っていた。
「……まぁいい。気をつけて行ってこいよ」
最近ではかなり上方修正してきたレンだが、一般的な視点から見れば、未だに世間知らずのままだったのである。
◼◼◼
平日であれば学校の鐘が丁度鳴り響く時間。
「レン君、やっと来ましたか。遅いですよ」
校門前では、すでにロスヴァイセがレンのことを待っていた。
「時間通りなんだからいいだろ?そんなことよりロスヴァイセはどこに行きたいんだ?」
「え~と、そうですね。とりあえず、街中まで歩いてから決めましょうか」
レンに要望を訊ねられて、ロスヴァイセは無難な提案をしてみた。
「よし、じゃあ行こうか。善は急げ、ってね!」
「えっ?きゃっ!」
その一言の後に、レンはロスヴァイセの手を掴んで、走り出し、街中へと繰り出していった。レンからすれば、早めに用を済ませたいと思っての行為なのだが、ロスヴァイセにとって、その大胆な行為は、心臓に悪い悪戯のように思えたのだった。
街に到着すると、ロスヴァイセがさっそく口を開いた。
「あのお店に行きましょう!」
やや興奮気味のロスヴァイセが指で示したその先には、安いことでここら辺では有名な雑貨屋さんがあった。そして、今度はロスヴァイセがレンの腕を引っ張るように進んでいき、この店に初めて入ったレンはその独特な香りに鼻をつまみ、顔を僅かにしかめさせていた。そんな些細なことはまったく気にも止めずロスヴァイセはもう既に、はしゃぎ回っていた。
「レン君、見てくださいこのシャーペン。色んな機能がついているのに、こんなに安いんですよ!あっ、あっちの方はオシャレなフォルムでどちらも捨てがたいですね!」
レンはロスヴァイセが初めて見せたそんな一面に苦笑いを浮かべるしかなかった。しかし、すぐに気をとり直して、今日の本題をロスヴァイセに訊く。
「それでロスヴァイセは何が欲しい?ほら、いつも勉強を教えてもらってるお礼って昨日も言っただろ?」
昨日、そのようなことを聞き逃していたロスヴァイセは急に驚いたような顔をする。
「そんな……!それじゃあレン君に悪いですよ。ここの売り物はどれも安いですし、自分で買えますから」
「いいって別に。何がいいか選んでよ」
「で、でも……!」
「だから、お礼って言ってるだろ?遠慮しないで。さ、早く早く」
ロスヴァイセの言ってることに構うことなく、レンは催促した。何を言っても無駄だと判断したロスヴァイセは、渋々折れて品定めを再開した。
……のだが、
「う~ん、どうすればいいでしょうか?」
ロスヴァイセは未だに決断できずにいた。この店に入って、もう既に一時間は過ぎようとしているというのにも関わらず。
「レン君は何がいいと思いますか?」
「……っ。俺に訊かれたってなぁ」
ロスヴァイセに質問を振られるレン。あまりにも突然のことに、腕を組んでから非常に困ったような表情を浮かべている。そして、ロスヴァイセから顔をそらすようにレンが周りをキョロキョロと見回した時だった。レンは何かを見つけると、それに近づき、手に取った。
「ちょっとの間だけ頭を動かさないで」
その手に取った何かをロスヴァイセの頭に近付けさせていくレン。
「えっ、な、何を?」
レンの顔が急接近したことによって、声が裏返ってしまったロスヴァイセだったが、レンはそんなことをまったく気にしていない。ーーむしろ聞こえていないのかもしれない。
「……よし、いいんじゃないかな。ほら」
レンはロスヴァイセの顔から遠ざかると、顔をまじまじと見てから感想を一言。それから、ちょうど近くにあった手鏡をロスヴァイセに差し出した。ロスヴァイセはその手鏡を覗き込むと、ようやくレンが何を持ってきたのかを理解した。
「これは……髪飾りですか?」
頭の左側には鳥の羽根に似たような形をした金属製の髪飾りが留められていた。
「俺は似合ってると思うけど、自分で見てどうかな?気に入った?」
「……はい!」
ロスヴァイセは言葉こそ少なかったものの、かなり嬉しそうにしていた。それはレンに選んでもらったことが一番の要因なのだろうが、そんなことにレンは気付くはずも無かった。
特に凝ったつくりでもなく、どこにでも売っていそうな普通の髪飾りだったのだが、レンは一目でロスヴァイセに似合いそうだと、なんとなく感じ取ったのだった。
それからしばらく経った後、その髪飾りを買って、その店を後にする二人だった。
◼◼◼
ずっと立ちっ放しだったこともあってか、ロスヴァイセが疲れたようだったので、二人は近くのカフェで休憩をとっている。ちなみに、レンはまったく疲れていない。
「えへへ……」
「そんなに気に入った?それ」
あの店を出てからずっと笑っているロスヴァイセにレンは訊ねると、
「はい。とっても嬉しかったです!」
「そ、そう。ならよかったよ」
余程嬉しかったのか、無意識に身を乗り出してレンに顔を近付けていた。しかし、すぐにロスヴァイセは正気に戻り顔を赤く染めながら、席に戻るとアイスティーを一口喉に通した。
「ロスヴァイセのあんな姿、俺初めて見たよ」
レンは頼んでいたハンバーガーを頬張りながら、ついさっきのことを振り返っていた。レンはあそこまで饒舌なロスヴァイセをいままで目にしていなかったので、そのことを言っているのだろうが、
「そうでしたっけ?」
本人はそのことを自覚していないようだった。そして、何かを思い出したかのように言葉を続ける。
「そういえば私、男の子とのデートはこれが初めてだったんですよね。レン君ってーー」
「俺も今日が初めて。じゃあ、俺達初めて同士だったんだな」
「そう、だったんですか?その割りにはかなり馴れていたような」
レンはそのようなことを言われるが、自分でも無自覚で行動しているので、その言葉には首を傾げている。そして、レンの頭にひとつの疑問がふと浮かんだ。
「ロスヴァイセも初めてのはずなのに、なんでそんなことがわかるんだ?」
「それは……レン君が常に冷静というか、ほら、今だってそうじゃないですか」
ロスヴァイセからの返答にレンは納得しているのか、していないのか曖昧な顔をしながら、それとなく頷き返した。
それから数分間。二人の間には無言の時間が過ぎていった。レンはハンバーガーを食べることに集中しているのか、そのことについて微塵も気に止めていないようだが、当然のようにロスヴァイセは違った。飲み物が無くなり氷だけになったコップをクルクル弄びながら、内心ではパニックになっていたのだ。
ロスヴァイセがやけにソワソワしていることにようやく気付いたレンだが、次の一言で彼女の状態をより一層酷いことにしてしまう。
「あ、やっぱりお腹空いてるんだろ。ほとんど食べちゃったけど俺のあげるよ」
「…………ッ!」
レンの言っていることは的外れどころか、180度反対の方向を射ている。ロスヴァイセはすぐさまそれを否定しようとするが、肝心の声が出ない。強く否定できない位の空腹感があるのも事実だったからである。
「恥ずかしがることはないだろう。誰だって勝手に腹は減るもんなんだしさ」
レンから見てもわかるほど、ロスヴァイセはさっき以上に顔を真っ赤にしていた。そして、レンは手に持っているものをロスヴァイセの口に近付けていく。目の前に差し出され、食べたいという衝動に勝てるはずもなく、ロスヴァイセは結局口まで運んでいった。
それからロスヴァイセはレンからハンバーガーを強引に奪って、残りを全部食べてしまった。
「さてと、次の店に行きますよ!」
「お、おい。どこに行くんだよ?」
「いいから、早くここを出ましょう!」
恥ずかしさを誤魔化すようにロスヴァイセは、レンの手を引っ張り、急ぐように店を出ていった。
二人の初めてのデートはその後、他の店を数ヶ所歩き回った後、普通に終わりを迎えた。
次回から時間軸がかなり飛ぶので、
ご了承ください。