魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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それぞれの歩んだ道

「あんなこともあったなぁ。にしてもあの時の俺は何がどうなってたんだか」

 

 レンは槍の素振りをしながら、ロスヴァイセと初デートをしたあの日のことを思い出していた。齢17になっていたレンはあの時どれだけ世間知らずだったか、改めて反省している。

 

 一般的に今のレンの年齢ならハイスクールに通っていてもおかしくは無いのだが、レンはヴァルハラからの特例で勇者(エインヘリヤル)として任命された(要因は主に戦闘能力)ので、一応、今は学生ではなく働く身なのである。

 

 しかし、レンは今ヴァルハラには居ない。エインヘリヤルというポストを自分から降りたのだ。業務内容がデスクワークばかりで退屈だったから、だとかレンがやめた理由は色々噂されていたらしいが、それがさだかではない。

 

 そして、今はランサーと同じく職業派遣組合(ギルド)に名前を登録していて、一応無職ではない。

 

「……元気かな?ロスヴァイセ」

 

 レンがボソリと一言呟いたその時だった。

 

「やっぱりここにいたか。レン」

 

「ユーゴか」

 

 レンの数少ない友人であるユーゴがレンに向かって歩いてきた。ユーゴもレンと同様にーーというわけにはいかなかったが、レンがヴァルハラに来て一年後に同じところへ配属されてきた(その時はレンは既に居ないのだが)。彼も高い戦闘技術を買われたのだろう。

 

「相変わらずだな。槍を本気で構えている時とでは別人というか、なんというか」

 

「そうか?」

 

 今のレンがどれだけ腑抜けているのかをユーゴは一目で感じ取った。

 

「俺から見れば、天と地ほどの差があると感じるぞ。って、んなことを話しに来たわけじゃねぇんだよ!あのなーー」

 

 ユーゴが本題を言いかけようとしたその時、レンの口がそれよりも早く反応して、動いた。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)、だろ?」

 

 最近になって動き出したテロリスト集団の名称である。今日からちょうど一ヶ月前、悪魔、天使、堕天使の三大勢力が和平のための会談を開いている際に、突如として邪魔に入った者達が禍の団(カオス・ブリゲード)だった。

 

 その時は退けることができたものの、白龍皇があちら側に寝返った、とか、他にも様々なことが言われていて、今、どの勢力からも悪い意味で注目されている組織である。

 

 ユーゴはレンのその言葉に頷き、言葉を続ける。

 

「知ってんなら、話は早い。ヴァルハラに戻って来たらどうよ?」

 

「断る。……とでも言ったらどうするつもりだ?」

 

 ユーゴの通告に対し、レンは間髪入れずに質問で返す。

 

「力ずくで連れていくつもりもなければ、別に強要させるつもりもねぇ。ただ」

 

 すると、ユーゴは苦笑を浮かべながら、それに答えた。しかし、急に真面目な顔になって言葉を続ける。

 

「お前の力が必要になる位に、あいつらは強い。……いや、それよりも問題なのが、俺達の仲間が少ないんだ。だからお前を誘ってみたんだが」

 

「……なるほどね。相当切羽詰まってるってことは大体わかった」

 

 レンはヴァルハラの現状を聞き、数秒間だけ瞑目した後に、ひとつ大きな決断した。

 

「万が一の時だけーーヴァルハラに攻め込んで来たときだけ、助太刀に行く。これでいいか?」

 

 レンの出した答えに、ユーゴは満足そうな顔をして、言葉を返した。

 

「ああ、その答えを聞けただけで俺は十分だぜ」

 

 それから、腕を組みながらやや苦笑い気味にこう続ける。

 

「しかし、彼女はお前に会いたがってたぜ。きっと残念がるだろうな」

 

「俺だって会いたいさ。でもーー」

 

 ロスヴァイセもユーゴと同様に飛び級でヴァルハラに就職していて、ロスヴァイセは大きな目標である戦乙女(ヴァルキリー)になることをひとつ達成させたのだ。そして、今は北欧の主神であるオーディンの付き人をやっている。当然のようにレンはそれを知っていた。

 

「俺の決めたことだ。こっちの方がやっぱり俺の性に合ってるような気がするから。あとーー落ち着いた頃に会いに行く、とだけロスヴァイセに伝えといてくれ」

 

「わかった、任せときな」

 

 ユーゴはレンから頼み事を聞くと、踵を返して手を振りながら、この場を去ろうとする。しかし、忘れていた何かを思い出したのか急に立ち止まり、懐から一枚のトランプ程度の大きさの紙をレンに投げつけた。

 

「これは?」

 

 レンはそれを受け取って正体を訊く。それには魔方陣が描かれていて、何らかの術式であることは理解したレンだが、どんな効果が発動するかまではわからなかった。

 

「お前が言う「万が一の時」に発動しな。それを使えばヴァルハラまでひとっ飛びできるって代物さ。これで用も全部済んだし、今度こそじゃあな」

 

 説明を簡潔に済ませると、再び後ろを振り向き直し、今回は振り返ることなく本当に去っていった。それを見届けてから、レンは再度紙に描かれた魔方陣を見つめる。

 

「何も起こらないことが一番なんだけど、な」

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「冥界も随分と勝手が変わったのぉ。わしも来てみてよかったわい」

 

 ユーゴとレンが久しぶりの再会をしていたその頃、ロスヴァイセはオーディンの付き添いで冥界にいた。そして、現在ロスヴァイセ達は悪魔達が行うチェスを模した実戦形式の対戦試合ーーレーティング・ゲームというものを観戦していたのだが、

 

「しかし、どの娘もデカいのぉ。ええのーええのー」

 

 オーディンは試合の内容なんかよりも女性の胸部ばかりに注目していた。ロスヴァイセはそんな主神の様子を見て、自分のものと映像に写っている他人のものを見比べて、小声で一言呟いた。

 

「うぅ、やっぱりレン君も大きい方が好きなんでしょうか」

 

 レンに会えない状況がしばらく続いていたので、普段なら考えないであろうことを彼女は考えてしまっていた。

 

(いや、レン君に限ってそんなことは……。そうです!オーディン様と現赤龍帝であるあの男の子がちょっとおかしいだけに違いありません!)

 

 そんな不安を払拭させるように、ロスヴァイセは明らかに言葉に出せない程の失礼なことを内心思いつつ、自分で自分を納得させていた。

 

「おい、お前さんはエロ主神様の付き人なんだろう?」

 

 自分の世界に入っていたロスヴァイセに何者かが突然声をかけてくる。その声の主は堕天使の総督であるアザゼルだった。

 

「ふぁっ、はい!そうですけど、それが何か?」

 

「あの爺さんここから出ていったぞ。追わなくてもいいのかよ?」

 

「えっ?」

 

 アザゼルに言われたことで、ロスヴァイセはようやく気付く。辺りを見回しても、この場にオーディンはいなかった。ただ、ついさっきまで閉まっていたはずの扉が開きっぱなしになっている。

 

「ああもう!」

 

 ロスヴァイセはうんざりしたような声を出して、この部屋を駆けるように出ていった。

 

 

 

 

 ロスヴァイセが探し回って数分後、意外と簡単に見つかった。オーディンはレーティング・ゲーム参加者がリタイアすると自動で転送される病室のようなところで現赤龍帝である少年ーー兵藤一誠と話していた。

 

 やっと見つけたと言わんばかりに、ため息をつきながら、オーディンに声をかけようとする。しかし、オーディンはそれだけではなく、紅髪の女性ーーリアス・グレモリーをいやらしい目つきで見ているのを確認したので、ロスヴァイセは病室に入りハリセンを何処からか取り出して頭を叩いた。

 

「もう、いつもいつもこれなんですから!客人として招待されてる身なのですよ。少しは北欧の主神としてしっかりしてください!」

 

「……まったく、それぐらいわーっとるよ」

 

 お小言をロスヴァイセから言われて、オーディンは頭をさすりながら、半眼で呟いた。それから、下ろしていた腰を上げて、この部屋を出ていった。

 

「ホントにわかっているのでしょうか?」

 

 ロスヴァイセもオーディンの後ろを追うように、この場から立ち去ろうとするが、兵藤一誠とリアス・グレモリーの様子を見て思わず立ち止まってしまった。

 

 その恋人のように(あくまでロスヴァイセの感覚)談笑しているところを羨ましく思ってしまったのか。あるいは、他の別の感情なのか。

 

 ひとつ言えることは、ロスヴァイセは気苦労の絶えない生活を送っているようだ。

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