「……とまぁ、最近のヴァルハラはいつも通り、平和に平常運転だったな」
『そうでしたか』
今、ロスヴァイセはユーゴにヴァルハラの現状を連絡用の魔方陣を通して教えてもらっている。本来このようなことをする義務は一切無いのだが、彼女がマメで真面目な性格だからこそ気になってしまうのだろう。もちろん、それ以外の何かを聞きたいがために、今回はいつもよりも急いでユーゴに連絡を寄越したことは言うまでも無いだろう。
『ところで、レン君は何か言ってましたか?』
当然ながらロスヴァイセが聞きたいことは最初からこっちだったので、かなり食い気味に質問を投げつける。
「あぁ、あいつなら、『落ち着いた頃に会いに行く』だとよ」
それを聞いて、ロスヴァイセは少しガッカリしたようにうなだれるが、
「ま、あの顔を見れば、すごく会いたがってたことは事実だな。すごく恋しそうにしてたぜ」
次の言葉を聞き、今度はドキリとしてしまった。そして、その心理の変化がわかりやすく顔に出ていたらしく、ユーゴはその様子を見て、口を抑えながら笑っていた。
「しかし、お前らってホントにいつまで経ってもグダグダした関係を継続、維持してるよな」
「うぅ、それは……その……」
ユーゴに非常に痛いところを突かれて、ロスヴァイセはモジモジとしてから、うつむいてしまった。
レンとロスヴァイセーーこの二人の関係は、周りで見てきた者達には恋人以外のなにものにも形容できないと口を揃えて言った。しかし、天然の唐変木であるレンと恋愛に関してのみ超がつくほど奥手なロスヴァイセ。そんな二人が出会ってたったの三年で恋仲まで進展するには至らなかった。それから、レンが別の道を歩んだことが、さらに追い討ちをかけたのだろうが。
「今に始まったわけじゃねぇから、しょうがないのかもな。じゃあ、通信切るぞ」
『は、はい。では、そちらも細心の注意を払うようにしてくださいね』
ユーゴはその言葉を最後に聞き、魔法を解除した。そして、一言小声で呟いた。
「言われなくとも、わかっているさ」
今回の連絡で当然ながら、ユーゴばかりが話していたのではない。もちろん、ユーゴもロスヴァイセから逆に冥界の様子を聞いたわけである。それで、冥界で『
場所はとあるパーティー会場。その場にいた重鎮達を暗殺しに来たわけでもなければ、一般人を無差別に襲ったわけでもない。おまけに、数が僅かに二人と計画性が無いに等しいものだった。とは言え、二人はなかなかの実力者である上に仮にもテロリストだ。侵入してきた時点で問題がある。
あの宣戦布告があってから本格的に動き出した。それが意味することは、彼らはそれぞれのどの勢力にも侵攻できるほど、力を有しているということなのだろう。
「しかし、爺さんが居ない間に来られると、こっちも色々と困るんだよな」
ユーゴは現在のヴァルハラにオーディンがいないことで士気が下がるのではないのか、ということを危惧していた。それは本当の戦場を知らないユーゴも同様に言えることなのだが。
◼◼◼
ユーゴがレンと久し振りに会いに行ってから、たった一週間後の出来事だった。不運なことにユーゴの不安が的中してしまったのである。見慣れない大量の転移魔方陣が空中に発生したかと思えば、そこから真っ黒のローブを被った謎の集団が下りてくる。彼らは殺気のような黒い何かを纏っていた。
ヴァルハラにいる戦乙女や勇者はそれらを迎え撃つように、各々それぞれの鎧を発現させて、武器を構え出した。
「クソッ、いくらなんでも早すぎるだろうが!」
もちろん、それはユーゴも例外ではない。ユーゴは愚痴るようにして吼えると、背中に着けた二つの鞘から納めてある青と赤の
機剣とは、太刀のように長くなければ、小剣のように短くもない。いわば両者の中間の長さをとった得物である。この得物の最大の特徴は、使用者の身体の一部として扱えるようになること。この特性を活かせば、刀身を鞭のように伸ばして遠くの間合いからの攻撃も可能となる。そして、この得物との接続方法は様々だが、ユーゴの場合は魔法を利用している。
「シャッ!」
既に抜き身の状態にある機剣の刀身を伸ばし、しならせながら振り払った。黒い集団はユーゴの斬戟を食らった途端に霧散していった。この言葉は大袈裟な比喩表現ではなくその通りの意味である。
「なんだ?こいつらは。薄気味悪いぞ」
ユーゴ以外の者の攻撃でもそれは同様で、いとも容易く消滅した。ところが、その黒い奴の頭数は桁外れに多く、ユーゴ達は敵が減っていく実感がまったく湧いてこなかった。むしろ、転移魔方陣が新たに創られてはそこから黒い集団がさらに湧いてきた。
無限とはいかないものの、ゴキブリのように数を増やしていく敵。それらをバサバサ斬り伏せていくユーゴ。他の者も得意のそれぞれの魔法や武器で応戦していった。
減らしても減ることのない、まるで人間味の無い敵が増えていく中で、特殊な異能を持った敵がこの場に介入してきた。
「ーー神器、『
突然聞こえた上空からの声は、戦いの途中にいたユーゴの腕を止めた。ーーより正確に言えば、二本の機剣が敵を全力で斬り裂けない程の重さとなり、変形していた刀身は通常の刃に戻っていた。そして、ユーゴの全身には呪いのような怪しい模様が浮かび上がっていた。刀身を伸ばそうにも機剣達は言うことをまったく聞いてくれない。
「ったく、面倒なことをやってくれるぜ!」
ユーゴは見上げると、この呪術らしきものを発動させた張本人を真っ先に確認して、ギロリと睨み付ける。ユーゴの機剣を封じた男は、笑いこそしているものの、マラソンを全力疾走したのかと思わせる程の疲労の色がやつれた顔からは見られた。
しかし、ユーゴの戦闘力が削られたのは事実。それを好機と思った黒い敵は他の者達をそっちのけで一斉にユーゴへと襲いかかってくる。
「もっとも、この程度の呪術、俺には通用しないがなぁ!」
ユーゴはニヤリと笑うと、左手に持っていた機剣ーーベガルタが赤い輝きを放ち出した。その光はユーゴの全身を覆っていた模様を弾き飛ばし、かけられていた呪いを完全に断ち切った。それを見ていたやつれた顔の男は驚愕の表情を浮かべる。
「なん……だと!?」
「ーー機剣ベガルタの能力はあらゆる呪術の類いを無力化させる」
ベガルタの力を使い呪いを強引に解いたユーゴは、何も考えずに突っ込んできた敵を一網打尽にする。
「くっ、ならもう一度ーー」
「二度も同じことをさせっかよぉ!」
もう一度呪術を発動させようとする男を見逃すはずもなく、ユーゴは機剣の一閃で速攻で仕留めた。
「オラオラァッ!ここは絶対に通さねぇ!」
アースガルズ陣営と『