魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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魔槍使いと猛者達

 それはユーゴがヴァルハラで戦闘を繰り広げていた時とほぼ同じくして起こった出来事だった。レン達の住む山小屋近くで爆発が起こったのである。

 

「……っ。これはまさか!」

 

「ああ。どうやら、奴等が出張って来たらしいな」

 

 二人は憶測ではあったが、同じことを思いつつすぐに現状を確認し合うと、外に飛び出ていった。外には白い鎧を纏った何者かが上空に浮いていた。

 

 他にも、中華風の服を着て、棒を担いでいる男性。大振りの剣を片手に持ち、眼鏡をかけた優男。頭から猫耳を生やした、黒い和服を着ている女性。とんがり帽子を被った魔法使いらしき少女。ーー全て足し合わせて計五名の敵がそこにはいた。

 

 レンもランサーも白い鎧の者の正体を知っていた。もっとも本物を見たことはこれが初めてなのだが。

 

「白龍皇であるヴァーリ・ルシファー殿がこんなど田舎に何の用だ?」

 

 ランサーは不敵な笑みを浮かべさせて訊く。それに対して、ヴァーリは顔を覆っている鎧のみを収納させてから答えた。ただ一言シンプルに。

 

「俺は強い奴と戦いたい。ただそれだけの話だ」

 

「ハッ、バトルマニアってのは噂通りなんだな」

 

 ランサーが皮肉めいたことを言うが、それを無視して、ヴァーリは話を続ける。

 

「アンタがあの魔槍使いなんだろう?なら、ぜひ俺と一対一で戦ってほしいな」

 

 何の脈絡のないヴァーリの決闘の誘いにランサーはため息を大きくついてからレンに言った。

 

「拒否権は鼻から無いと考えて良さそうだな。ったく、これだから最近の若者は気が短いだの言われるんだ。……レン、ここは俺に任せて、お前はヴァルハラに行け。約束したんだろう?」

 

「……いいんですか?」

 

 レンはその言葉が意外だったのか、思わずランサーに聞き返してしまう。

 

「自分の師匠を少しは信用しな。絶対死なねぇよ」

 

 ランサーは笑いながらそう言う。レンはそれを聞いて、頷くとすぐに転移魔法を発動させる。すると、たちまちこの場から消えていった。

 

「自分の愛弟子を逃がす、か。そういうの俺も嫌いじゃないよ。うん」

 

「生憎、あいつには必要とされている者達がたくさんいるってだけの話だ。ま、自由気ままな槍使いである俺とは違うってわけだな」

 

 今度はヴァーリが皮肉をランサーに言うと、ランサーは自嘲気味に自分のことを語る。その後、ランサーは特殊な結界を展開させた後、異空間からいつも使っている相棒(魔槍)を二本取り出して、ヴァーリに向けて構えた。

 

「では、行かせてもらうとしよう!」

 

 それを見て、準備を終えたと判断したヴァーリは顔を再び白い鎧で覆い、光速に近い速度でランサーに急接近していく。

 

「初手は取らせてもらう」

 

 ヴァーリは拳を使っての格闘、と非常にシンプルな戦法をとりながら、ランサーに攻撃をしていく。対するランサーはそれらをかわしながら、決まった言葉を呪文のように唱えていくのだった。

 

「ーー『我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを討ち滅ぼす凶器なり』」

 

 全ての言葉を言い終えると、ランサーは血のように紅いオーラを全身から発して、髪を、眼を、顔に浮かび上がった紋様を紅く染めあげていく。そして、ヴァーリの目の前から一瞬にして姿を消し、後ろに回り込んで、槍を振り抜いた。そんな死角からの攻撃をヴァーリはギリギリのところでかわした。

 

 ヴァーリも虚を突かれたかのようで、仮面に隠された表情は変わっていないものの、内心ではかなり驚いていた。

 

「ハハハ、面白いな。さしずめ、アースガルズが隠していたジョーカー(切り札)と言ったところか」

 

「それは買い被り過ぎだっての」

 

 ヴァーリはランサーのことを高く評価しているようだった。ランサー放った鋭い突きを避けると、用心するかのようにランサーから一気に遠ざかる。ヴァーリは次に戦術を変えて、遠距離からの砲撃を放ってきた。

 

 ランサーはそれらを全て赤い魔槍で受けていく。魔力で練られたであろうその弾丸達は、まるで風船を針でつついたかのように、赤い魔槍に当たった途端に一瞬で消滅していく。さすがの白龍皇もその光景には言葉が出なかった。

 

「どうした?白龍皇ってのも意外と大したことは無いようだな」

 

 ランサーは紅くなった瞳で睨み付けながら、ヴァーリを挑発する。無論そのようなことを本心では微塵も思っていない。ーーただ時間を稼ぐというそれだけのために。

 

「言ってくれるね!」

 

 ヴァーリは冷静さを保ちつつ、掌をランサーに向けた。すると、背中に生えている白色の翼が強烈な輝きを放ち出す。

 

『Half Dimension!』

 

 別人の声が聞こえてきたかと思うと、ランサーは気圧の僅かな変化を察知して、その場から一瞬でいなくなった。ランサーが元いた地面は通常以上の重力がかかったかのように大きく凹ませた。

 

「伝承通りの半減させる力ーーいや、これは物体を半分にさせる力か」

 

 ランサーはヴァーリの能力を確認しながら、その攻撃から逃げ回っている。そうしている中で、ランサーはあることに気付き、舌打ちをしながら訊く。

 

「チッ、お仲間さんは一体どこに消えた?」

 

 そう。ヴァーリと共にここへ来た他の四人が、ランサーの結界を抜けて、いつの間にかいなくなっていたのだ。ヴァーリは言う。

 

「俺達は単なる戦い好きの集まりだ。美猴やアーサーも己の敵を求めて、何処かに飛んでいったのだろうね」

 

「ケッ、ホント厄介な連中だな!」

 

 ランサーは忌々しそうに、吐き捨てるようにそう言った。そして、怒気を込めてこう続ける。

 

「だからこそ、お前だけはここで止める」

 

 その時、ランサーの持つ二本の槍はそれぞれ異なった色のオーラを発していた。ーー禍々しくも刺々しい、妖しい輝きを。

 

「見せてやる。俺のーー槍使いの戦い方を」

 

「フッ、面白い。では言葉通り見せてもらおうか!」

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 レンはヴァルハラに到着すると、すぐに異質な光景が目に飛び込んできた。別段目立った死傷者もいなければ、劣勢とも言えない。が、黒いローブを深めに被ったいかにも怪しい集団が勇者や戦乙女に襲いかかっていたのだ。

 

 一個体自体は大した強さではない様子だったが、数が多い上に何よりも人間のように考えて動いている様子が全く見受けられず、正体が謎で不気味な印象が見てとれたようだ。

 

 それから、状況を確認してレンは気付く。オーディンとその付き人であるロスヴァイセはまだ冥界から帰ってきていなかったことを。

 

「へっ、ようやく来やがったな。遅ぇんだよお前は」

 

 先程までは険しい表情だったユーゴが、笑顔を見せてレンに言った。

 

「遅れた分はキッチリ仕事をするつもりだ」

 

 レンはユーゴにそう言葉を返すと、右手で大きく空を凪いだ。すると、宙に大量の魔槍が創られ、それは敵の群贅に向かってまるで弾丸のように飛んでいく。黒い群贅はレンの魔槍に貫かれると、どんどん霧散していった。レンは敵の数が減ったことを視認すると、新しく両手に槍を創造して、今の攻撃で行動不能にできなかった、または後ろに隠れていたまともな兵士に向かって駆け出していく。

 

「俺もまだまだやれる。レンには負けてられねぇからなぁ!」

 

 ユーゴも改めて二本の機剣を構え直すと、レンの後ろを追うように勢いよく跳び跳ねていった。しかし、ユーゴの眼前に介入してくるものが現れた。棒を担いだ男性である。いきなりの乱入者にユーゴは後ろに跳び退いた。

 

「てめぇ何者だ?」

 

 ふざけたような笑いをしているその乱入者にユーゴは訊く。すると、黙る素振りもまったく見せずにすぐさま答える。

 

「俺は美猴ってんだ。さっきから様子を見てたんだが、アンタは他のより強いっぽいからねぃ。ってなわけで、俺と一丁戦ってくれや!」

 

 一通り言い終わると、持っていた棒を頭上で回転させてから、一度の跳躍でユーゴの懐に入り込んで突きを打っていった。ユーゴは大して驚いた様子を一切見せずに、打ち込んできた棒を捌くと、重心を一瞬で落としてから二本の斬戟を放った。しかし、その斬戟は美猴には当たらず空を斬った。

 

「チッ!どきやがれぇ!」

 

「へっ、久し振りに出会った強敵。これは楽しまないと損って話だぜぃ!」

 

「ユーゴ!」

 

 レンも第三者の介入があったことに気が付いていたものの、敵が数に物を言わせてレンの全方位を囲んでしまった。それによりレンはユーゴの助けに行こうにも行けない状況に陥ったのである。

 

「クソッ、なんだ、この霧は?」

 

 さらにこの状況に追い討ちをかけるかのように、特殊な霧がレンの周りを包み込んだ。

 

「レン!無事なら返事のひとつ返しやがれ!」

 

 美猴と戦いながらレンに対して声をかけるが、声が返ってくることはなく、霧が晴れるとこの場から消え去っていた。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「……元の場所ってわけでは無さそうだな」

 

 霧が晴れると、レンの目の前にはさっきとまったく同じ風景が広がっていた。ただ、唯一異なる点は先程までレンを囲んでいた黒い敵が一人も残っていないこと。その代わりに、両腰に合計六本の剣を携えた白髪の青年とレイピアを腰に帯刀させた金髪の女性が目の前に立っていること。

 

「ゲオルク、彼は人間じゃないのか?」

 

 突然青年の方がこの場にはいない誰かに話しかける。そして、レンにはまったく聞こえていないようだが、青年は納得するかのように頷いていた。

 

「ジー君、別に細かいことは気にしなくていいんじゃない?あの子は敵。ただそれだけのことよ」

 

「ジャンヌ、前々から言ってるが、その呼び方は個人的にやめてほしい」

 

 まるで、レンのことを無視しているかのように二人だけで話を進めていく。

 

「よくわからないが、アンタらは敵ってことで間違いは無さそうだな」

 

 レンがこの状況を冷静に分析して口に出すと、彼らはそれを肯定するように頷き、それぞれがレンに対して言う。

 

「たしかにそうなるね。おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。僕は英雄シグルドの末裔ジーク。仲間はみんなジークフリートって呼ぶけど、キミも好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

「私はジャンヌ・ダルクの末裔で名前はジャンヌ。出会ったところがこんな場所じゃなければ惚れてたかも♪」

 

 両者共にかなり軽いノリで話しかけてくる。特に、ジャンヌと名乗った女性はかなり酷い。レンも嫌そうな顔をして睨み付けている。そして、両手に魔槍を創り戦う姿勢を見せると、ジャンヌが不意に質問を投げかける。

 

「あなた、名前は?」

 

「……レンだ」

 

 レンは不機嫌そうに言うと、ジークフリートとジャンヌはうんうんと頷き、各々の得物に手をかけた。楽しそうな笑みを作ってジークフリートは言う。

 

「それじゃあ始めようか」

 

 その言葉がそのまま戦闘開始の合図となった。ジークフリートは黒い片手剣を、ジャンヌはレイピアを、レンは魔槍をそれぞれ構えて既に臨戦態勢に入っていた。

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