明るい未来を、君の隣で。(仮)   作:かぎゅ~

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中学時代(プロローグ)

 

大会で結果を残したい…そんな私の夢はあっさり終わりを告げた。

 

 陸上部に所属していた私は、中学生活最後の地区予選でケガをしてしまった。

 

 今までの人生で経験したことのない大きな怪我で、よく物語で聞いたことのある「目の前が真っ暗になる。」という表現が正しいと感じたのはこの時に身をもって知った。こんなドラマのような出来事が自分の身に起こるとは考えてもしなかった。

 

 元々、一年生の頃から大会でも結果を残していたし、全国大会にも毎回のように出場していた。そのおかげか、陸上が強い高校からからも推薦が来るほどの実力だった。

 

 怪我をしてしまって走れないことで精神的にも参ってしまって、部活動にも参加できなくなった。グラウンドで部員達が走っている姿を見ているのも嫌な感情を持つようになってしまった。次第にグラウンドに向かうのも怖くなって、足が遠のいていった。そして私は部活動にも参加しない、ただ部活に所属しているだけの幽霊部員と変わらなくなってしまった。

 

 そんな生活をしていると、高校から来ていた推薦の話も立ち消えになり、あんなに私をスカウトしようと綺麗事を言っていた指導者達も蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。

 

 好きだった走るという行為も出来なくなり、空っぽのようになった私はただ目的もなく、同じマンションに住む幼馴染の同級生の家に入り浸るようになっていた。

 

「久美子ってもう部活卒業したんだっけ?」

 

「私に興味無さすぎでしょ…最後の大会も金賞だったけど、関東へは進めなかったし、部内の演奏会が終わったら卒業かな?」

 

 そう答えてくれたのは同級生で幼馴染の黄前久美子。私が学校で一番付き合いのある女の子。小学生の頃から同じマンションに住んでいる腐れ縁のような存在だ。

 

「え、私も演奏会見に行きたい、暇だし。」

 

「別に来られると思うけど、千速に見られるのは何か恥ずかしいから嫌。」

 

 そう言って久美子は顔を顰めた。

 

  ここで初めて私の名前が出たが、私の名前は三橋千速と言う。自分でも思うが、凄く走るのに向いてそうな名前をしていると思っている。実際に両親は陸上の経験者で、その経緯があっての名前だった。

 

「じゃあ別に良いじゃん。久美子の最後の晴れ舞台を見に行けると思うと嬉しいよ。」

 

 私はそう言って、久美子に向かって少し笑いながら笑いかけると、久美子は眉間に皺を寄せながら嫌そうな顔のままで答えた。

 

「何か馬鹿にしてない?」

 

「馬鹿になんてしてないよ。今までは私も部活もやってたし、久美子の演奏をちゃんと見る機会があんまり無かったからさ、折角だから行ってみたい。」

 

「別に来るなとは言ってないけどさ…」

 

「じゃあ決定ね。」

 

 私がそう答えると、久美子は渋い顔をしながらも演奏会に見に行くこと自体には反対していないのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 

 ――――――――――

 演奏会当日

 

 何だかんだ言いながらも、久美子は気を利かせてくれて演奏会のチケットを確保してくれた。

 

 吹奏楽の演奏というものを、こういったコンサートホールのような畏まった場所で聞くと言う経験が初めてで少し緊張してしまうが、それ以上にこんなに良い場所で演奏を聞けることにワクワクしながら席に着いた。

 

 周りには自分と同じ様に、吹奏楽部の友達から誘われていたんだと思われる同じ制服を着ている生徒もまばらにいた。それでも、主に見に来ているのは保護者が多いようで、年齢層は高めだった。

 

 演奏の良し悪しは素人なので分からないが、そんな事は一旦置いておいて、この場を目一杯に楽しもうと私はステージに目を向けた。きっと、この経験はかけがえのないものになる、私の中でそう感じながら久美子達の演奏をまだかまだかと待っていた。

 

 

 ――――――

 

 いよいよ演奏が始まると、普段あまり吹奏楽を聞いたことのない人達にも興味を持ってもらうためなのか、最近流行ってる曲や保護者の年齢層に合わせたような少し懐かしい選曲などもあって、凄く見に来ている人全員が楽しめるようなセットリストになっていた。

 

 そして時間はあっという間に過ぎていき、曲と曲の合間を繋ぐためなのか、ちょっとした観客も参加するコーナーが始まっていた。

 

 司会をしていた部員がハキハキとした声でコーナーの進行していく。

 

 「このコーナーは、吹奏楽部の部員に質問がある人がいたら手を上げてもらって、質問したい部員を指名してください。指名された部員が出来る限りそれに対応する無茶振りコーナーです!」

 

 何だこの部員が地獄を見るコーナーは…と感じながらも、自分だったら絶対に参加したくないコーナーに部外者だからとノリノリで手を上げた。

 

 司会の部員から指名されて、質問をしたい部員の名前を聞かれる。私の中で答えは一つしか無いので、会場の全員に聞こえる声で指名した。

 

「黄前久美子さんです!!」

 

 すると周りから急かされるように、久美子が舞台の一番前に連れて行かれマイクを持って立たされていた。久美子は人前に立たされるという経験があまり無いのか、顔を真っ赤にしながら少し小さな声で話しだした。

 

「指名ありがとうございます。聞きたいことはなんですか?」

 

「黄前久美子さんが担当している楽器の名前を教えて下さい。」

 

 私から無難な質問を投げかける。

 

「これはユーフォニアムと言って、吹奏楽の低音パートを担当する楽器です。」

 

 久美子は真っ赤になりながらも、普段から自分の楽器の説明には慣れているのかハキハキと答えてくれた。

 

「次の質問なんですけど、黄前久美子さんは好きな人はいますか?」

 

 いきなりアクセルを踏み込んだような質問に、周りから冷やかしのような声が上がる。観客の保護者達からも笑い声が上がる。

 

「ノーコメントでっ!」

 

 久美子は顔を赤くして、質問をしている私の方をまっすぐ睨みながら、今まで聞いたことのないような大きな声で答えた。

 

「ありがとうございました。」

 

 私は笑顔でお礼を言って、質問を打ち切った。

 

 流石に司会をしていた部員も早めに切り上げたほうが良いと思ったのか、自然な流れで私から他の観客に質問を振っていた。その後は滞りなくコーナー進み次の演奏の準備へと移った。

 

 私は久美子の面白い反応が見れて満足したので、大人しく自分の席に座り直した。これから演奏される曲は今年のコンクールで演奏した曲らしい、私はワクワクしながら音が鳴り始めるのを待っていた。

 

 

 

 

 ――――――

 

 演奏会が終わって数日後。

 

 私はいつもと変わらずに、久美子の部屋に遊びに来ていた。久美子の部屋に置いてあった読みかけのマンガをペラペラとめくっていると、久美子の方から話しかけてきた。

 

「演奏会の時の質問ありえなかったんだけど、あんな大勢の前でさ…すっごく恥ずかしかった。」

 

「ちょっと久美子を恥ずかしがらそうと思って、やり過ぎちゃった…ごめんね。」

 

 私は読んでいたマンガの方から目線を外して、久美子の方に目線を向け直して答えた。反省はしているけど、凝りてはいないのでまたやってしまうかも…と言う気持ちは心の中にしまっておいた。

 

「いい加減にしてよね!」

 

 久美子は眉間にしわを寄せながら、口を尖らせて不服そうに言った。強い口調ではあるが、態度でそこまで怒っていないのは伝わってくる。

 

 「久美子が恥ずかしかったのはどうでも良いんだけどさ、演奏会めちゃくちゃ凄かったよ。大人数で合奏するとあんなに迫力があるんだね、圧倒されちゃった。」

 

 今、一番伝えたかった相手に演奏会の感想を興奮気味に話すと、一緒に寝転びながらマンガを読んでいた久美子が顔をこちらに向けて言った。

  

「私の事をどうでも良いで済ませて欲しくないんですけど…。まぁ千速が演奏会を楽しめたのなら良かったよ。これで私も心置きなく部活を引退できるってもんですよ。」

 

「久美子って高校でも吹奏楽は続けるの?」

 

 会話の中で、ふと私が気になった所を久美子に聞いてみる。

 

「高校に行ってまで続けるつもりは無いかなー。中学までで何となく満足しちゃってるし。」

 

「あんなに演奏上手いのに何か勿体ないね。」

 

 そう言うと、久美子はマンガを読むのを止めて、ムクリと体を起こした。そして、私の方を見ながら少し神妙に答えた。

 

「私はそんなに上手くないよ。部内で私より上手い人も多いしさ、マーチングの強豪校に行く子もいるしさ。トランペットの高坂さんとかは超上手くて推薦とか来てるって言うし。」

 

「演奏会で一人で吹いたりしてたトランペットの子でしょ?素人目にも演奏が上手いの伝わってきたよ。」

 

流石に私の印象にも残っている。トランペットを吹いていた子で、綺麗な黒髪のロングヘアをしていた。堂に入った立ち姿で演奏していて、とても格好良かったのを覚えている。

  

「本当に、あんな雲の上の人が近くにいるとさ、わざわざ高校に行ってまで続けるつもりも無くなっちゃうよ。それよりさ、千速は高校に入ったら、陸上再開したりしないの?」

 

「一旦、その話題は置いておこう。」

 

 私は箱を置いておくジェスチャーをしながら、おちゃらけるように笑って答えると、それが不服だったのか、久美子が私に飛びかかって来ようとしていた。

 

「たまには私の質問にも、ちゃんと答えろっ」

 

 掴みかかってくる久美子と笑いながらじゃれ合いながら、私のいつも通りの日常になっている放課後は過ぎていった。

 

 ――――――――

 とある日の放課後。

 

 この日は久美子が家族で出かけるということなので、特に目的もなく家の近くの本屋に来ていた。気になる本を探しながらフラフラとしていると、見たことのある同級生の姿を見つけた。

 

 こういう時に気兼ねなく声をかけにいける性格なので、あまり面識が無い人に対してでも、遠慮なく声をかけたりする。

 

「塚本じゃん。何してんの?」

 

 塚本秀一。同級生の男子で、私と久美子の幼馴染でスラッとした体格で人の良さそうな顔をしている。私が後ろから急に声をかけたので、それに驚いたのか、少しビクッとしてからこちらに振り向いた。

 

「ビックリしたな…三橋かよ。今日は受験勉強で使えそうな教本とかを覗きに来たんだよ。」

 

「流石にタイミング遅くない?」

 

 私がチクっと刺すようなことを言うと、塚本が少しバツが悪そうな顔をしながら答えた。

 

「受験勉強はもうしてるんだけどさ…この前、部活も引退したし、改めて受験に向けて気を引き締め直そうと思ってな。」

 

「そう言えば、塚本も吹奏楽部なんだっけ。高校は塚本って高校はどこ志望してんの?」

 

 正直、部活に参加しなくなってから極端に人間関係が狭くなってしまったので、周りの人間がどの高校を志望していうとかの情報に疎くなってしまった。

 

「北宇治だよ。」

 

「まじか、私も同じだわ」

 

 そう言うと塚本は露骨に嫌そうな顔をした。この原因については私にも心当たりがあるので、特には何も言わないでおいてあげる。

 

「うちの中学から志望してる奴多いよな。黄前とかも北宇治志望らしいし。」

 

 不意に出された名前に私は少し苛立った。

 

「今、私の前で塚本が久美子の名前出すのは辞めておいたほうが良いと思うけどね。」

 

 そう言いながら笑顔で話しかけると、塚本の顔が一気に青ざめた。それ以降、塚本が何も言わなくなってしまったので、会話を終わらせようと思って、黙ったままの塚本に私から声をかけた。

 

「まぁ取り敢えず、お互い志望校に受かるようには頑張ろうね。」

 

「あ…あぁ」

 

 仲良く?円満に塚本と別れた後は、先日の吹奏楽部の演奏会のことを思い出したので、興味が湧いて音楽系のコーナーを物色していた。ちょっと吹奏楽について知りたくなったので、楽譜の読み方でも勉強しようと簡単な音楽の教本を一冊手に取って読んでみた。久美子にも後で色々聞いてみよう。

 

 そんな堕落した日常を過ごしている内に、あっという間に時間は過ぎていった。高校受験も何事も無く無事に久美子と塚本も第一志望の北宇治高校合格し、これから入学式の朝を迎えようとしていた。

 

 そして、次の曲が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




次回から本編に入ります。
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