少年は愛したい   作:よヨ余

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 ヒロアカの方全然終わってないけど、今全然頭回らないので箸休めです。

 なので全然失踪する可能性あります。

 でも楽しんでくれると嬉しいです!よろしく~。

 ではどうぞ!


少年

 瞳を開ける。

 

 すると見慣れた天井が視界に入り、今日も日常がやってくるのだと自覚させられる。

 

 少年はだらしなく起き上がり、カーテンを開いた。

 今日は快晴のようで、刺すような眩しい日差しが色白の肌を襲う。

 

 少年はその日差しに顔をしかめ、右手を顔の前にかざした。

 

 浴びたいとは思えない日差しを浴びた後、少年は一人で暮らすにはかなり広い自宅を歩いた。

 少年の保護者に当たる人はとても裕福で、いわゆる上流階級の人間。だからこのような少年の身の丈に合わない家を簡単に用意することが出来たのだろう。

 少年は自分が恵まれていることを再度認識した。

 

 顔を洗うために洗面所へと歩く。少年の寝起きは悪く、大抵は不機嫌だ。彼は学生の身であるため、そのような状態で学校へと赴くのは体裁的によろしくない。少年の学校のキャラクターを照らし合わせるとよりそれを認識させられる。

 

 だから少年は入念に顔を洗い、目を覚ます。ここまで目を覚ませば、登校中にでも完全に目覚めるだろう。日々を過ごしていくうちに確信を持った経験則だ。

 

 染髪した髪をみて、頭頂部に染め残しが目立つことに気付いた。髪が伸びてしまったのだろう。少しだけ気になってしまったので愛用のスプレーで染める。彼は染髪を自身で行っているのだ。

 

 そして、鏡を見て口角を上げる練習をするのも忘れない。こういった日々の努力が実を結ぶことを彼は知っている。

 

 朝食は食べず、制服に着替える。彼の制服は少しだけ着崩している。そのためお堅い風紀委員の警戒人物として名を連ねているのだが、彼がぼろを出すことはそうないため要注意人物(ブラックリスト)登録はされていない。

 

 時計を見て、登校にはまだ早いことを認識した。

 

 スマホをいじる。今日はソーシャルゲームのアップデートがあることを思い出したのだ。0:00にアップデートされていたことに期待して起動したが、残念ながら開始時刻は11:00だった。少年は新しく開催されるガシャを引きたかったのだが、放課後にしようとあきらめた。

 

 そうこうしているうちに登校時間がやってくる。

 

 少年は二つ分のお弁当を持ち、忘れ物の有無を確認してから家の扉をくぐった。

 

 

 

 秀知院学園。

 

 かつては貴族士族を教育するための機関として創立され、200年にも及ぶ歴史を持つ由緒正しき名門校。幼等部、初等部、中等部、高等部、大学まで、基本的にエスカレーター式となっている。外部進学を希望しない限り、また進学試験に落ちてしまわない限りは秀知院と言う学園(はこにわ)に縛られることになる。

 その分、コネクションは深くなるのだが。

 

 貴族士族の教育という背景から、今も尚、富豪名豪の親の元に生まれてこれから国を背負うであろう人材が数多く就学している。

 ただ、ガチガチに固められた校則があるわけではない。近年では携帯機器の持ち込みが許可された上、染髪も許可されている。もちろん、それは校則が緩いということにはつながらないが。

 

 少年は、そんな学園に初等部の途中から通っている。つまり、大抵の学生とは幼馴染の関係に当たるだろう。もちろん、全員と仲がいいわけではないが。

 

 そんな彼がとりわけ仲がいい存在が。

 

「愛」

 

 少年は自分の少しだけ前を歩いている金髪のサイドテールの少女に言葉を投げかけた。その声色はとても柔く、彼と彼女が方向性はともかく深い関係であることが如実に表されている。

 

 愛と呼ばれた少女は可愛らしく振り返る。自分で短くしたスカートや、腰に結んだ上着、外した襟など、要所要所でギャルらしさが見える服装だ。

 

「あ、おはよー!今日も作ってくれたの?」

 

 少女――早坂 愛――は、少しだけ瞳を輝かせながらそういった。自然と体を前に傾け、自分が持つ女性の魅力がより引き出されていた。彼女にとってはそれは過剰だともいえるほどの美少女なのだが、そのしぐさがより彼女らしさを引き出していた。

 

「ああ、教室で渡そうと思っていたんだが、今日は珍しく会うことが出来たからな。せっかくだから渡しとく」

 

 少年は愛にお弁当を手渡す。持っていたお弁当の二つは大きさが違い、小さいほうを渡していた。このやり取りは高等部に入ってから行っていることなので、彼の手に迷いはない。いつも通りの日常だ。

 

「今日のフルーツはメロンだ」

 

「やったー!何切れ?」

 

 顔をほころばせて喜びをあらわにする。少年はその顔を見て「料理人冥利に尽きるな」と嬉しく思った。

 

「4切れ」

 

 愛はその言葉にもっと顔をほころばせた。彼女の日々の楽しみの一つは、毎日日替わりで入っているお弁当のフルーツ。特にメロンは彼女のお気に入りだった。普段は2~3切れであるため、今日は4切れと言う事実は朗報だ。特に今の時期はメロンが旬であるため、とても美味しく食すことが出来る。

 

「早坂またもらってんの~?」

 

「今日も愛妻弁当?」

 

「オレが妻になるのか?」

 

 そう口にするのは駿河すばると火ノ口三鈴。普段から愛と仲良くしており、少年もいくらか話す機会があった。特にお弁当を渡す際には絶対と言っていいほど話していた。

 

 そんな仲だからこそ、彼も砕けた口調で話す。まあ、いつも通りの会話だ。

 

「だって美味しいんだもん!それに愛華も好きで作ってくれてるわけだし、せっかくだからもらわないとね~!」

 

「…やっぱ付き合ってんの?」

 

 火ノ口は普段からほぼ毎回聞いている質問をぶつけた。

 いくら秀知院に通うお嬢様とはいえ、年頃の女の子なのだ。恋愛という話題には興味は尽きないし、それが仲の良い友達となれば言及も止まないというものだ。

 

 だが、やはりいつも通りの反応が返ってくる。

 

「そんなことはない。幼馴染だ」

 

「そうだし!」

 

 愛も愛華も、二人とも同じように答える。二人は再度疑惑の目を向けるのだが、彼彼女に推測されるような関係はない。

 

「じゃ、先行ってるから。今度は遅刻すんなよ」

 

「分かってるし!」

 

 愛華は三人に背を向けて歩き出す。

 

 愛は思い出したかのように声を上げ、愛華を呼び止めた。

 

「愛華!」

 

「なんだ、愛」

 

「いつもありがとね!」

 

 毎日お弁当を頼りにする彼女は、一度たりとも感謝の言葉を忘れたことはない。今日もその例にもれず、感謝の言葉を述べた。今日は恋愛関係の追求で遅れてしまったが、しっかり言葉を言えたことに安堵する。

 

「どういたしまして。食べ終わったらオレの机に置いておいてくれ」

 

 愛華は愛の言葉を聞かずに歩き出した。どうせ理解しているだろうという信頼からなる対応で、早坂もそれで邪険にされたと不安がることはない。本当に付き合っていないのか疑ってしまうが、本当なのだ。

 

 

 

 秀知院の授業も終わり、放課後になる。

 

 愛華は、いつもの場所へと赴いていた。

 

 そこは生徒会室。つまり、秀知院学園の高等部の中でトップに君臨する生徒が所属しているところだ。

 

 ちなみに、秀知院学園では生徒会長のみが選挙で選ばれ、その生徒会長が副会長、書記、会計等を指名するのだ。もちろん指名された人材はそれを拒否する権利を持ち合わせているが、選ばれた生徒会長は人徳に優れているため断られることは珍しい、というか、ほとんどなかった。

 

 そんな生徒会室にて。

 

「貴方の前に動物用の檻があります。その中に猫は何匹入っていますか?」

 

 心理テストをしていた。

 

 仕事はいいのかと言う疑問が浮かぶが、生徒会に属する人間は誰もが優秀であるためそのような心配はない。仕事は片手間で終わる程度の簡単なものだ。生徒会に属していない愛華を招いてもてなす余裕もあるのだから当然と言えば当然と言える。

 

 ちなみに生徒会長は『白銀御行』。彼は高等部から秀知院に入学した、いわゆる「混院」と言う人間だ。そのような人間はもともとあるコミュニティにあと入りすることになるので、基本的には疎遠となることが多い。

 彼は学力で勝負した。偏差値も高く難易度も高い秀知院の定期テストでは1位の常連となっている。

 それに加えて自身が持つ雰囲気によるカリスマ性で、晴れて生徒会長に選抜された。

 

 副会長は『四宮かぐや』。4大財閥の一つに数えられる『四宮グループ』の本家本流、『四宮雁庵』を父に持つ正真正銘の令嬢だ。その血筋にふさわしく、本人も超高校級と言える才能を持っており、文武だけでなく芸などにも精通した完全無欠の存在である。

 

 書記、『藤原千花』。政治家の父を持ち、自身も多くの言語能力を持つマルチリンガルの少女だ。

 ちなみに、今現在心理テストを行っている。生徒会で行われる遊びの多くは彼女が先導しており、生徒会に華を彩っている。

 

 会計、『石上優』。彼はデータ処理のエキスパートだ。事務作業の多くは彼抜きでは手が回らない。一度生徒会を抜けようと白銀に相談したが、白銀の第一声はそれを引き留める声だった。それだけで彼の優秀さがわかるだろう。

 

 ほかにも庶務や会計監査はいるのだが、負い目から顔を出したがらない。実質的には彼らが生徒会役員であると言えた。

 

 そして、意識は心理テストに戻る。

 

(これ、かぐや様の策か)

 

 愛華は状況を正しく認識していた。

 

 愛華がこの思考に陥った経緯を話すには、生徒会室で起こっている面白い出来事の話をする必要がある。

 

 生徒会長である白銀御行と副会長である四宮かぐやは、両者ともに好意を抱いている。本人たちは頑なに認めないが、外野であり、ある程度事情を知っている愛華からしたら一目瞭然であった。

 

 そこだけなら生徒会室での甘い青春のひと時である。ラブコメ漫画でえがかれるような王道のシチュエーションであると言えるだろう。

 そう、そこだけなら。

 

 なぜか彼らの中では、好きになったほうが負けであるという奇跡的な意図していない共通認識がある。

 それが発展して告らせるとまで飛躍しているのだが、今までたいした進展はない。

 愛華はとても理解に苦しんだが、それが彼らの方針ならあまり口出しをしないことにした。まあ、事情を知っている分ツッコミどころは多いので口出しはしているのだが。

 一番のツッコミどころは生徒会の誰一人としてこの珍事に気付いていないことだ。

 

 人の機微に多少敏感な会計の石上はある程度察したが、四宮に圧をかけられた後から考えないようにしている。自分を守るためには、正しい行動だと言えるだろう。

 

 四宮と藤原は中学からの付き合いである。そんな四宮にとって藤原の行動を読むのは容易いこと。…たまに想像の斜め上どころか背後から急襲してくることがあるので油断はできないが。

 

 四宮は図書館でこの本がオススメに入っているのを見て、藤原ならば確実に興味を持ち生徒会に共有するであろうことを完璧に予測していた。だから彼女は前もって予習をしていたのだ。心理テストのお題の中には恋愛に関係することもある。仮に『好きな人がわかる』お題で且つ、白銀の答えが四宮であったとしたらそれはもう告白と同等だろう。

 

 まったくもってそんなことはないのだが

 

「ん…9匹くらいかな」

 

 白銀は藤原の質問に素直に答えた。

 

「へー、多いですね!早坂君はどうですか?」

 

「オレもやるのか」

 

 愛華は藤原の質問に当惑しつつも、素直に答えることにした。ちなみに愛華はこの本を読んでいないため、お題がどんな心理を表すのかわかっていない。

 

「…ゼロ」

 

「…さみしいですね」

 

「バッサリ言うじゃんお前」

 

 愛華の言葉に藤原が引いたように言う。愛華からしたらとても心外だ。

 

 ちなみにこのお題でわかる心理は、貴方が欲しい子供の数らしい。

 白銀はドンピシャだったようで、心理テストの正確性に言葉を震わせた。しかも発汗して震えており、本当に驚いていることがよくわかる。

 四宮は白銀の思想に顔を赤らめた。大方、「そんなに……!?どうしよう……!」と言うものだろう。まだそこまで行っていないのに何を思っているのやら。

 

「へえ、オレもドンピシャだ」

 

「そうなんですか!なんで欲しくないんですか?」

 

 藤原の純粋な質問に愛華は顔をしかめ、言葉を詰まらせつつも何とか答えた。

 

「オレは残念ながら命の責任を持つ覚悟がないからな。自分とその周りで手一杯だ」

 

「なるほど~」

 

 藤原は心理テストに一時的にハマったようで、四宮と石上を誘って次の問題に進んだ。

 

 四宮の作戦通りだ。

 

「貴方は今薄暗い道を歩いています。その時後ろから肩をたたかれました。その人は誰ですか?」

 

もうちょいヒントくれ

 

クイズじゃないのでそういうのないです」

 

 四宮はほくそ笑んだ。これこそが、彼女の狙っていたお題だったからだ。

 あくまでも告白をさせたいわけで、告白をしたいわけではない四宮からして、ここで白銀の名を出すのは愚の骨頂。となると――

 

「そうですね…私は藤原さんです」

 

「えっ!?私ですか!」

 

 えへへ~と顔をだらしなく綻ばせる藤原。同性の親友とはいえ、好きな人からこれを言われるのは彼女にとって嬉しいのだろう。彼女は良くも悪くも純粋なのだ。

 

「……僕は四宮先輩…でした」

 

 石上は四宮の名前を出したが、彼は四宮に恋心を抱いているわけではない。むしろ恐怖の象徴だと言えた。薄暗い道と言う言葉から彼が思ったのは、誰かに追われているという非日常の出来事。何分想像力のある彼は物事を悪い方向に考えやすいのだ。

 

「オレは愛」

 

「愛…ああ!早坂さんですか!いつもお弁当手渡してますもんね~」

 

 藤原と四宮は愛華の言葉を聞いてニマニマと顔を緩めた。やはり女子たるもの、この手の話題は大好きなのだろう。

 

「そうだな、俺は……」

 

 ここで白銀は藤原の視線と表情に気付く。そして藤原の性格を考慮し、これが指し示すことが『好きな人』だったら?という結論にまでたどり着いた。

 それは正しい。白銀は奇跡的に正解にたどり着くことが出来たのだ。学年1位の秀才は伊達ではない。

 

 つまりここで四宮の名前を出すとそれはもう告白と言っても過言ではなかった。この辺りは、四宮と白銀はおそろいだ。早くどちらかが素直になればいいのにと、愛華は常々思っている。

 

「――うちの妹、かな」

 

 彼は苦せずして模範解答を見出した。四宮を避けて藤原と答えても、遺恨や誤解が起こる。なにより、白銀が認めることはできなかった。ウソはつきたくないのだ。

 

 そのような思考から妹と答えたのだが、それではシスコン認定されてしまう。実際されたのだが、本人はなんてことない風に答えていた。そうすることでそれが事実ではないように見せるためだ。

 

 まあ、愛華からすればシスコンであることは事実なのだが。

 

 ちなみにこのやり取りの中で石上は自問していた。そこで出した答えが恐怖であると認識したため、ストックホルム症候群の疑いがあるとして帰宅した。

 

 藤原は面白そうにしていたが、自分でも回答する側をやりたいようだ。本からではなくネットから探し始めた。

 

 ここで四宮のアドバンテージは失われる。答えを知っていないので、これからは四宮本人の本音が出てくるのだ。つまり、告白することにつながるということ。彼女は焦りだす。

 

「貴方は今、一面の花畑に居ます。そこの持ち主に好きなだけ花を持って帰って良いと言われました。どのくらい持って帰りますか?」

 

 答えの読めない問題だと、白銀と四宮は難色を示した。

 

 藤原は、ほんの少しだけ。イメージとしては数本だろう。

 四宮は、大きな花束を作れるくらい。

 白銀は、トラックに詰めても足りないくらいのようだ。彼の貧乏性がよく出ている。

 

「オレはいらないかな」

 

「えー…またそんな…逆張り好きなんですか?」

 

本音を言ったオレにこの仕打ちか?」

 

 愛華は藤原の容赦のない口撃にツッコんだ。別に特段気にしてはいないのだが、それはそれとして言いたいことはあるのだ。

 

 四宮がパソコンの画面を見てこのお題から見える心理を知る。愛華はその後ろから顔をのぞかせた。

 指し示すのは、『想い人に向ける愛の大きさ』。

 

 四宮は白銀の言葉を思い出して顔を赤らめるが、同時に愛華の方を見た。その瞳には、悲しみや寂しさと言った感情が見え隠れする。

 

(…随分と感情をお出しになるようになられた)

 

 愛華は率直にそう思い、彼女の成長を喜んだ。

 

「…想い人はいないので、正しいですね」

 

「そ、そう…?」

 

 四宮の不安を解消するために小声で答える。四宮は疑わしそうにそういったが、追求するのはやめた。

 

「答え何でしたー?」

 

「えっと…花の大好き度とか、そのようなものでしたよ?」

 

「えー!私お花大好きなのに!」

 

 納得いきません!と言って、彼女は不満げにそういった。

 白銀は、「下らん」と一蹴していた。これで彼が本当の答えを知ったらどうなるのだろうと愛華は好奇心を大きくしたが、四宮のことを思ってやめた。

 

 そんなこんなで解散となり、今日も一日が終わった。

 

 

 

 

 

 自宅にて、愛華はお弁当の片付けを終え、風呂や食事を済ませる。そしてソーシャルゲームの新ガシャを引き、神引きして上機嫌になった。その状態のまま風呂に入り、出てから数分したところで裏口からチャイムが鳴る。

 

「ああ、今日は早いな」

 

 来客に心当たりがある愛華は慣れたように扉を開けた。

 

 来客の正体は予想通りであったため、彼は挨拶するでもなく言葉を投げかけた。

 

「何飲む?」

 

「ハーブティー」

 

 来客の正体は早坂愛。実は愛華の自宅は愛の住む四宮別邸のちょうど隣に位置している。

 

 早坂愛の表の面は、明るいギャル。だが、その裏の面は四宮かぐやに使える近侍(ヴァレット)だ。

 現在時刻は22時。主人である四宮は遅くとも23時には床に就く。ほぼ一日中仕事で時間が失われている愛だが、この時間は本人が自由に使うことのできる時間なのだ。

 

 愛華からすれば、その時間を使って自分を労えばいいのにと思うのだが、本人が進んで行動しているから何も言っていない。愛華からしてもこの時間はかけがえのないものであるため、願ってもないのだが。

 

 大抵は、愛の主人に対する愚痴だ。彼女は主人を嫌っているわけでも疎んでいるわけでもないが、それはそれで自分に対する扱いに不満を覚えるというものだ。尤も、愛華はそれが照れ隠しに近いことだと気づいているし、彼女の事情全て知っているので、その四宮かぐやとの時間が彼女にとってかけがえのないものであると気づいている。

 特に未だに男性経験がない彼女からして、四宮の白銀との恋愛頭脳戦(のろけ)は当てつけのように感じてしまう。たまに愛華に救援信号を出してその場に居合わせさせることで、その被害を半分にさせるように動くほどだ。

 その際は愛華が裏口から四宮別邸を訪ねて四宮の部屋に赴くことになる。それを嫌悪感なくできるくらいには四宮と愛華の間には関係性がある。もちろん、毎日のように愛華の自宅まで赴く愛ともだ。

 

「あ、これキャラメルね」

 

 愛は愛華の家に行くときに2回に1回の頻度で手土産を持っていくのだ。本人は持ってこなくていいと言っているのだが、愛からすればお弁当の件があるのでその言葉は聞かない。一応本人の意向で「多くとも2回に1回にしろ」と言われているのでそれは守っている。

 

 愛華本人は3回に1回になると思っていたのだが。

 

「ありがとう。カモミールにしようか」

 

 愛華は愛からの土産に適した飲み物にすることにした。

 二人は飲み物と食べ物を食しながら雑談に興じる。

 

「今日は心理テストをしたんだとか」

 

「ああ、藤原の案でね。思ったより白銀がドンピシャだったみたい」

 

「愛華もでしょ?」

 

 なぜ知っているのか、と思ったが、恐らく先ほど四宮と会話をしていたのだろうと予測を付ける。夜寝るまでの1~2時間はよく白銀を告らせるための会話をしたり、雑談に興じたりしているのだ。

 

 愛は四宮のお手伝いや命令の遂行。簡単に言えば四宮の作戦のサポートや補助をするのだ。愛華はそのお手伝い。それとは別に生徒会には遊びに行ったりするため、その時にもアドリブで手伝ったりする。

 

 ちなみに今の愛は限りなく素に近い状態になっている。対四宮かぐやにおけるメイドモードでもなければ、朝の時や学校内におけるギャルモードでもない。敢えて言うのならば、幼馴染モードだろうか。

 

「まあ…うん……」

 

 途切れ途切れに愛華は答えた。『好きな人』が答えの質問で「愛」と答えてしまったのだ。恐らく四宮から聞かされている以上、気持ち悪がっている可能性もあったと思っていた。

 

 断じてそれはありえないのだが。

 

「…悪かったな」

 

「へ?何が?」

 

 杞憂だったようだ。

 

「何でもない」

 

「?」

 

(別に嫌ったわけではないのか。よかった)

 

 ちなみに、この考えは早坂愛に恋をしているから生まれたというわけではない。

 

 この自宅は早坂家と四宮家のご意向で提供されている。家賃は本来の1割にも満たないほどの値段で提供されているため、愛華からすれば手放すには惜しいのだ。別に本来の値段を払ったとしてもおつりがくるくらいには稼いでいるのだが、お得ならばそれに乗じない手はないだろう。

 だから、嫌われたくないというだけ。

 

「とにかく、私もやってみたいなと」

 

「なるほど、少し調べようか」

 

 ノートパソコンを開き、心理テストを調べてみる。

 

 適当なものをそれぞれ一つずつ見つけ、それを質問した。愛が見つけたものは、すでに愛が知っているものだったが、どうしてもこれがいいと通した。愛華もそれを了承している。あくまでもお遊びだから、気にすることでも無いという判断だ。

 

 まずは、愛華が見つけたものだ。

 

「貴方は信号待ちしています。横断歩道の先に何人の異性が信号を待っていますか?」

 

 これは見る人が見ればとても有名で、分かりやすいものだろう。ただ、二人はそのようなものに対して触れてこなかったため、真剣に考えて答えを出した。

 

「「一人」」

 

 二人とも同時に声を出す。答えたタイミングも内容も全く同じだった。

 

「理由は?」

 

「直感」

 

「同じく」

 

 その答えの真意を聞いて愛華は答えをパソコン画面に映した。

 

「『このテストが表すのは、生涯であなたが付き合う人数です』」

 

 二人は同時に顔を見合わせた。

 

「好きな人いる?」

 

「いない。そっちは?」

 

「いなーい」

 

「前の話し忘れたか?通じねぇよ?」

 

「う、うるさーい…」

 

 愛華は淡々と、愛はギャルモードの名残を残して答えた。

 

 同じ内容を話しているが、その心の中は違ったりする。

 

(……いないんだ)

 

 愛の脳内は、愛華の言葉の真偽で埋まっていた。その甲斐あって、愛華の言葉が真実であると判断する。それに嬉しいと思うと同時に、少しだけさみしく思った。複雑な気持ちだ。

 

 早坂愛は早坂愛華に恋をしている

 もしかしたら恋愛ではなく親愛の類かもしれないと思っていたが、愛は愛華に抱く思いが主人である四宮かぐやに抱く思いとは毛色が違うことを認識しているため、早坂愛華を特別で唯一の存在だと認識していることは間違いない。少なくとも親愛ではないだろう。

 

 愛華に自分ではない想い人がいる可能性が無くなったという朗報と、少なくとも自分にはその思いを抱いていないという悲報が混在しているのだ。複雑に思うのは仕方がないだろう。

 

 愛は自分の容姿にある程度の自信を持っている。彼女のすぐ近くには四宮という大和撫子がいるのだが、彼女には劣ると言えども準ずるくらいはあると自信を持っている。

 

 最初は恋かどうか疑っていた。ただ、これが恋であってもいい様に、愛華の気を惹くことを目標の一つに添えて行動を起こしたことが何度かあるのだが、彼はそれに靡かない。

 それは乙女のプライドをひどく傷つける。そのせいか彼女はムキになってしまい、何とか惚れさせようとして行動していたのだ。

 

 はじめはただ、恋というものを体験してみたかった。彼女は生まれてこの方誰かを好きになったことはなかったのだ。その対象として、抵抗がなかったのが愛華だった。

 

 ただそれだけのはず。だが、なかなか意識をしない愛華にムキになって惚れさせようとしていたはずが、愛の方が彼に惚れてしまったのだ。

 

(私の思いも知らないで……)

 

 愛は愛華にそれほど不満を持っていなかったのだが、この面においては文句しかないと言えるくらいには文句がある。

 

「次は愛のか」

 

 愛華はそのような愛の思いを知らずにそう言う。

 

 それがひどく愛のことを苛立たせるが、彼女はもうそれに慣れきっていた。

 

「これは私は知ってるやつだけど……『貴方の前には、四角い正方形の穴があります。深さはどれくらいですか?』」

 

「これはどう答えればいいんだ?」

 

「一応4択なんだけど、全部体の位置で示してるよ。肩まで~とか」

 

 4択は示してくれないらしいと判断した愛華は、一瞬だけ考えて即答した。

 

「もしその穴にオレが入るのを見た人がいるとして、その人がオレの姿を認識できないくらい」

 

 愛華の答えに、愛は――

 

「どうした?愛」

 

「――っ。ううん、何でもない」

 

 愛華は愛のこの言葉を信じなかった。この間は確実に何かがあることだったし、彼女の表情からして何か悪いことが起きたであろうと簡単に予測できたからだ。

 

「何もないことは――」

 

「ないのっ!」

 

 机を少しだけ乱暴に叩いた。愛華は珍しい愛の姿に驚いた後、「愛がそう言うのなら」と身を引いた。

 

 愛はつい感情的になってやってしまったことを後悔し、謝罪をした。それは簡単に承認され、両者の中では終わった出来事になる。…愛だけは、未だ罪悪感で胸がいっぱいいっぱいだったが。

 

 愛は淹れられたハーブティーを飲み干し、席を立った。

 

「…じゃ、帰るね」

 

「あれ?答えは?」

 

「――秘密!」

 

 投げやりにそう言って彼女は戸を閉めた。

 

 一応ネットで漁ったものであるため調べることはできるのだが、それは無粋だとしてやめた。それを愛に隠し通すことは容易いのだが、それで変にしこりを残すことはないだろう。

 

 そうだとしても気になりはするが。

 

「明日は朝食の用意の手伝いだったか」

 

 愛華は愛のようにすべてのメイド業を行っているわけではないが、日によって多くの業務を手伝うことがある。明日は少ない方だ。

 

 今日はもうやることもないので、歯を磨いて寝た。

 

 

 

 

 

 私は、夜道を歩いていた。

 夜道とはいっても、愛華の家から四宮別邸までは1分くらいしかないし、裏口から行ったため四宮別邸の敷地内だから特に心配するようなこともない。もしこれが敷地内でなければ、愛華に別邸まで送ってくれるというイベントがあるはずだったのでそこは不満だが、まあいいだろう。だからこそ気軽に遊びに行けるのだ。

 

 私は、その夜道で先ほどの心理テストのことを考えていた。

 

 あの心理テストで分かることは『内に秘める欲望』。それは自分の体の多くが穴に入るほど深いと大きくなる。

 

 例えば足元だったら、ちやほやされたい。 

 例えばひざ下だったら、周囲をコントロールしたい。

 例えば肩だったら、愛されたい。底なしの欲望を表す。

 

 ――では、他人が見えないほど深い穴だったら、どれほど大きい欲望なのだろうか。どんな欲望なのだろうか。

 

 私は、あの子の過去を知っている……と、言えると思いたい。

 

 前に身の上話をしてくれたが、その時の話が本当のことだとは思えなかったのだ。もし本当だったら私は罪悪感から死にたくなるだろうが、多分それはない。

 

 あの子は本当のことを言うのを強く恐れている可能性が高かった。自惚れでなければ、私と関係が絶たれることを恐れている。

 

 

 舐めるな。

 

 

 私は、大好きな彼にそんなことを思っている。愛華がどんな過去を持っていたところで、それによって離れることなどありえない。

 

 たとえ人殺しだったとしても、私は一緒にいる心構えだ。かぐや様の近侍としては失格もいいところだが、これが私の本音だった。

 もちろんかぐや様を蔑ろにするわけではない。だが、愛華も大事にしたい。

 

 過去を知っているからこそ、彼の答えに私は恐怖を覚えた。

 

 ――彼はどのような闇を抱えているのか。普段は少しだけヘラヘラしている彼は、どれほどの闇を抱えているのか。

 

 幼馴染として、彼に恋する一人の乙女として、知りたい。

 

 前までは、彼を惚れさせたかった。

 

 今は――

 

「彼を愛したい」

 




 感想評価よろしくです!



 主人公のプロフィール(興味なかったら飛ばしてくれて構いません)

 名前   早坂 愛華(あいか)(?? 愛華)
 年齢   17才
 身長   173㎝
 体重   66㎏
 誕生日  4/14

 容姿   
 金髪(染めている)に人によってはアレキサンドライトのようだとか、ペリドットのようだとか言われる緑色の瞳。染髪前の髪色は白。
 男性として見られることが多いが、10人に3人の割合でクール系の女性に見られることがある。完全に女装をすれば、一般的な女性が自信を失いかねないほどの美女に変貌する。名前もそれを後押ししていることだろう。
 実はロシア人とのクオーター。

 備考
  好き……愛、友達、甘い食べ物、カフェイン
  嫌い……辛い・酸っぱい食べ物、???
  夢………???
  趣味……ゲーム、読書、遊ぶこと、愛との夜の雑談、恋愛頭脳戦を見ること

 交友関係
  友人………白銀、石上、四宮、藤原、ほか(純院生とは大抵友達)
  特別な人…早坂 愛

 勉学、運動ともに才能アリ。才能のみで言えば四宮かぐやと同等かそれ以上。ただ、白銀のような秀才はなく、授業を聞くだけで460点を取ることが可能な程度。もちろん多少は勉強するため480点ジャストを毎回のように取る異常者。

 生徒会によく顔を出しており、主に藤原が主催するゲームに参加することがある。
 本人は白銀がもし次回も生徒会長を行う場合は、庶務に立候補すると宣言しており、白銀もそれを了承している。

 早坂愛の要請で四宮と白銀の恋愛頭脳戦に協力している。できることは少ないために頭脳戦を見守っているだけではある。たまに早坂愛と会議をするが、本人たちのプライドと意地に結果は依存すると判断を下している。なので大体は二人のお茶会となる。

 早坂愛を特別な人だと思っているが、それがとても怖い。それには、彼の過去が大きく関係しているのだ。

 彼は、夢をかなえることはできるのだろうか。

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