前話のタイトルを変えました!暗号モドキになっています。解いてみてね!
「かぐや様が風邪……」
愛華は前日に四宮が行った恋愛頭脳戦の策略を思い出していた。
四宮は昨日の台風に乗じてドライブデートを企んだのだ。台風でもなおバイトを控えている白銀を送ろうとした。だが、これでは自分から申し込んだことになり自らがデートに誘ったことになる。これはもう告白に等しかった。
愛と愛華は基本的に両方が――場合によってはどちらかが――四宮と送迎を共にする。四宮は習い事の類や会食の類で多忙を極めるため、そのスケジュールを確認するのがこの時間くらいしかないからだ。
ただまあ、その時はドライブデートの邪魔をしないように別のタクシーを呼ばれたのだが。
ちなみに、その日愛華は傘を忘れていた。ただ、愛がカッパと傘の両方を持っていたので、どうにか難を逃れた。
愛華は傘を借りようとしたが、愛は頑なに傘を貸さなかった。
なら、とカッパを借り、白銀が四宮に車を貸してもらうのを待つため、またタクシーを待つために校門前で待機していたのだが、白銀はまさかの行動に出る。
「あいつ、自転車で爆走しやがったなぁ……」
愛華はぼそりと呪詛を吐いた。
白銀は自転車で爆走してこちらを横切る際に、水しぶきを上げた。それが四宮と愛にかかってしまったのだ。
ただでさえ愛と四宮は白銀がくる以前に横なぎの風によって濡れていたのだ。その上でこのような仕打ちを受けては、そう思うのも無理ないだろう。
「今は愛が看病してくれてるんだよな」
愛華は四宮別邸を見る。
愛なら問題ないのだが、それはある懸念点に目を瞑ればの話だ。
「あいつも雨もろに浴びたよな……」
愛華は最悪の状態を考えて学校を休んでいる。
今は愛が看病してくれているとはいえ、いつ愛が体調を崩すかどうかがわからない。恐らく白銀か藤原あたりがお見舞いに来てくれるだろうからその時にでも休ませようと愛華は決意した。
ともすれば、四宮別邸に行ってお見舞い人が来るのを知る必要があるのだが…
「…それは簡単にできそうだな」
愛華は、バイブレーションした携帯をみてそう言った。
「そうして眠り姫は王子様のキスで目を覚まし、なんやかんやあって幸せになりました。めでたしめでたし」
オレが愛の部屋に来た時には、愛はかぐや様に読み聞かせしていた。題材はまさかの『眠り姫』。
ガキかよと思ったオレは悪くないはずだ。
「楽しかったですか?」
「たのしかった。――もっかいよんで」
「勘弁してください。もう4回目ですので」
「マジかよオイ」
愛は読み聞かせに集中してたせいか、体調が本調子ではないせいかは定かではないが、オレに気付いていないようだった。
「愛華、早いね」
「お前が助けてっつったんだろ。もしかして、これのことか?」
「うん。あと、女装してきて。多分会長さんか書記ちゃんが来るから」
「…はいよー」
オレは女装するのは本当に不本意なのだが、愛の頼みとあっては仕方がなかった。直接顔を見たら顔色が少しだけ悪かったし、限界が近いのもそうだろう。
オレは一度自宅へ戻り、簡単な化粧をした。ウィッグを被り服を変える。鏡で見て問題ないことを確認したら、もう一度別邸へ戻った。
「戻ったぞ」
「そうして眠り姫は王子様のキスで目を覚まし、なんやかんやあって幸せになりました。めでたしめでたし」
「ウッソだろオイ」
「――もっかいよんで」
「勘弁してやれ」
愛が心底疲れたような表情をしているのを見て、オレは思わず憐れんでしまった。
愛はオレの姿を見てからぼそりと言葉を零す。
「……ほんと、羨ましいくらいにイイ女」
「嬉しくねー……」
オレは愛の本心からの賛辞に空を仰いだ。
今のオレの容姿は、ただの美少女となっている。オレの周りには愛を筆頭として美少女が多いせいか簡単にイメージすることが出来、それをある程度模倣するだけでこのような正統派美少女になることが出来る。
……認めるのは甚だ不快だが、父上と母上の遺伝子が優れているせいだろう。もともと美にはある程度自信があった。
ああ、よくないな。黒い感情が噴き出てくる。これを表に出すと、愛に話した身の上話と矛盾が出てしまう。
すると、チャイムが愛のシュシュ型スマホから鳴り響く。何とか気をそらすことに成功した。
「誰だった?」
「…会長さんです。愛華も来て」
藤原よりはましだと思い、オレは素直についていく。そして、執事…ならぬメイドモードにマインドを切り替えた。
「いやああぁぁああぁ」と間抜けな声を上げて抗議するかぐや様を無視し、オレたちは外に出た。
「かぐや様のご学友の白銀様で御座いますね」
「四宮家当主様に代わり、歓迎致します」
オレと愛は横に並んで一礼した。白銀は本物のメイドを見て少しだけ興奮しているようだ。
なんか白銀の性癖を見せられたようで嫌だ。
あと、袋の外に少しだけ出てるの。あれポカ○じゃね?
「わたくし、かぐや様の務めさせていただいております。スミシー・A・ハーサカと申します」
やっべ、名前考えてなかった。
多分Aは愛から。ハーサカは早坂から来てるよな?
スミシーは……?
(あ。あれかな?)
オレなりに結論を出した。
「同じく、アラン・A・ハーサカと申します。以後、お見知りおきを」
オレは、アメリカの映画監督の名前としてよく使われていたアラン・スミシーだと結論を出した。架空の人名で、アメリカの映画監督が実名を乗せたくないときに利用する名だ。
監督降板や作品の出来に責任を負いたくないときなどに利用されることが多い。
あまりに有名になりすぎたために現在は利用を停止させられているが、多分愛はこれから取ったんだろう。
スミシー・A・ハーサカは、実在しない人間なのだから。
「姉妹…とかでしょうか?」
「似たようなものです。……して、本日はかぐや様の見舞に居らしたとお見受け致しますが」
「あっハイ。その通りです……」
「でしたら、かぐや様のお部屋へご案内致します。どうぞこちらへ」
オレは声を高くして猫撫で声でそう言った。ちょっとツライ。
オレたちは白銀を家に上げ、ついてくるように言った。
ただ、白銀は日和やがった。
「あ…いや、俺は四宮にプリント届けに来ただけというか、今日連絡もせず突然来たワケだし、これハーサカさんから渡しておいてもらえばとか……」
「ここまで来てビビるなよ……」
「愛の苦労が分かったわ……」
「そっちも大変でしょ……」
オレたちはバレないように悪態を吐いた。まあ、これくらいは許してほしい。
「いえいえ、かぐや様に直接お渡しするのが宜しいかと」
「そうですよ。かぐや様もご学友が来てくださったとなれば喜ばれます」
日和る白銀の背中をオレたちで押し、半ば無理やりにかぐや様の部屋前に連れてきた。
「かぐや様。客人がお見えです」
「女の子の部屋……」と気恥ずかしそうにビビる白銀を無視し、愛はノックしてから扉を開けた。
「あっ」
「コラーーッ!何しているのですかかぐや様!」
ごっちゃりしたかぐや様の部屋に、愛は 咤を飛ばした。白銀が「汚ッ」といっていたので、オレはかぐや様の尊厳のために少しだけフォローを入れる。
「普段はしっかり片付いていますよ!かぐや様は風邪をひいた際には情緒が不安定になられるので……」
「そ、そうなんですか……」
オレたちがそう会話している間にも、愛とかぐや様は会話をする。
「だってみつからないんだもん……」
「何がですか?」
「はなび」
「花火!?」
「はやさかたちもはなび……いっしょにするでしょ?」
「「しません」」
オレと愛の即答にかぐや様はギョッとした。
「もうすぐ夏休みで気持ちが先走っているのはわかりますが、お布団からでちゃダメじゃないですか。風邪を治すのが先決です」
「ぃじわるうぅうぅ……はなびするぅうぅぅ……」
「お部屋は片しておきますねー」
オレは主人の痴態を誤魔化すように部屋の片付けに着手した。
「それよりもお客様がお見えですよ」
「え…?……?」
かぐや様は三度見位していた。
「かいちょう、だ!」
遅ぇよ、ってつい思ってしまった。
「え、どぉしてかいちょがいるの?」
「いや、その…」
「え!きょうからうちにすむの!?きいてない!」
「住まない!住まないから!」
白銀はかぐや様をいなした後、愛に視線を向ける。
「ハーサカさん…話に聞いてはいましたが、これはいったい……」
「ジークムントフロイト曰く、人間の行動は『
オレは片付けをしながら愛の言葉を引き継いだ。
「人間の本能は『欲望』を生み出し続け、『理性』はそれらを抑制する『ブレーキ』の役割を持つ」
「ですが『理性』の源である思考力がなんらかの理由に拠って失われたとすれば…人は『欲望』のみに拠って動く獣……」
この先に愛が言う言葉はオレにはわからなかったので、黙った。
「――すなわちアホになるという事です」
「ブフッ!!」
「アホ!?」
やべ、笑っちった。
「良くも悪くも普段から脳をフル回転させている人ほどこういう時反動が大きいんですよね……一見起きているように見えますが、実際まだ夢の中のようなものです。元気になったら病気の記憶はきれいさっぱりなんです」
酔っ払いか?
「さて、私たちはそろそろ仕事に戻らないと……かぐや様のお相手をお願いします」
「分かりました」
オレが片付け終わったのを見て、愛はそう言った。
オレは先ほどまでの危惧が正しいことを理解した。あらかじめある程度の準備をしてよかった。
「イイですか?この部屋には少なくとも3時間は誰も絶対に入りませんが、変なことをしては絶対にいけませんよ?」
「絶対ですよ?」
「その上この部屋は防音完璧ですし、かぐや様の記憶は残りませんので何したってバレっこないですが、絶対に、絶対にヘンナコトしちゃダメデスヨ」
「ダメデスヨ」
「だからしないって!!」
オレたちはそんな白銀の言葉を背に部屋を出た。一応部屋を出る前に「お帰りになられる際にはこちらのボタンを押してからどうぞ」といっておいた。多分白銀が帰るときに対応できない。
「――さて」
オレは高くした声を戻し、ウィッグを外す。
「体預けろ」
「――うん…」
愛はすぐにオレに体を預けてくれる。オレは彼女の体をおんぶして自室へと運んで行った。
(白銀今日告ってくんねぇかな……あ、でも忘れるから意味ないのか)
「…悪いな。無理させて」
オレは思考と発言が逆にならないように注意した。愛のシュシュを外した後、お布団に入れ、あらかじめ作っておいたお粥を食べさせる。
「あーん」
「あー…」
風邪で弱った愛は、ビビるくらいに素直に食べてくれる。オレの
働いてくれるんだろうな。てか常に働いているか。
「ぎゅってして?」
「はーい」
怪しいか?
「お粥全部食べれる?」
「愛華がたべさせてくれたら……」
「……分かった」
オレはスプーンを持って愛に食べさせた。
愛はもしょもしょと口を動かして咀嚼する。とても可愛らしい。小動物を飼った気分だ。
「温度は大丈夫?」
「フーフーしてぇ……」
「似た者同士だな」
あまりにも話し方がかぐや様に似ていたのでちょっと面白かった。
愛の言葉通りに、フーフーしてから食べさせる。
「――えへへ、さっきよりおいしい」
「何だこの可愛い生物は」
やべ、ちょっと本音漏れた。
愛はお粥を食べ終える。正直オレは耐え切れなくなってぶっ倒れそうだったが、何とか耐える。
いやでも、食べるごとに「おいしい」とか「エヘヘ」とか言うのは反則だろう。しかも風邪ひいてるせいで上気している上に顔が赤いし、なんかエロイ。
オレだって男なんだぞと言ってやりたい。むしろ耐えたオレはバケモンだろ。
「体温計あったっけ……ああ、あった」
オレは体温計を取り出し、愛のわきに挟む。そして愛の腕を体温計に押し付けた。
体温自体は特に高いわけではないな。すぐによくなるだろう。
「そういや、愛が風邪ひいてんの見たことないな」
だが、多分かぐや様と同じだなと思い、オレは質問をしてみることにした。多分
「なんでオレにカッパを貸したんだ?お前が使えばよかったろう」
「だってぇ」
愛は少しだけ恥ずかしかったのか言葉を詰まらせた後に言った。
「カッパに愛華のひおいをつけておしくてぇ……」
―――?
―――え?
―――なかなかやばいこと言ってね?
多分愛が言いたかったことは、「カッパに愛華のにおいを付けてほしくて」だと思うんだけど……。
(――)
オレは心の中で声にならない叫びをあげた。
……臭うだろうか?今日はちょっとしっかりと洗おう。
「愛華のにおいは……おちつくから……好き」
「――っ。またこいつは……」
オレは愛の頭をガシガシとしようとしたが、病人であるという事実と、愛の顔を見たことで毒気が抜かれてやめた。
代わりと言っては何だが、オレは頭を撫でた。愛はそれを受けて「えへへ…」と間抜けた声を出す。可愛いが、同時に危機感を抱いた。こいつ、多分酔っぱらったらこうなる。
「……あんま隙見せんなよ」
「なぁんで?」
「…他の奴らに襲われるぞ」
「……?なぁんで?」
「……可愛いから」
「かわ……」
オレは少し気恥ずかしくなって顔をそらした。愛も、意識があいまいながらも恥ずかしくなって顔をお布団で少し隠した。
「愛華にしかしないよ……」
「おまっ…ハァ……」
オレはそういう意図で言ったんじゃないが、まあ、他の男にこの姿の愛を見られないのならよかった。
「……まあいいや。何かしてほしいことあるか?」
「ちゅー……」
「なあ、オレいじめられてんの?」
思わず本音が漏れ出る。弱った愛はオレの本音に対する特攻を持っているのかと疑う。
オレ一応看病関係でしてほしいことを聞いたんだけど。冷え○タとかさ、氷嚢とかさ。あるじゃん。
「いじめてない…」
「そうは言うけどな!お前甘い声でそれ平然と言うからビビるんだよ!」
病人にも関わらずオレは大声を出してしまった。愛が少しだけビビったように肩を震わせたので、口を手でふさいだ。
愛はウルウルとした目をこちらに向ける。
だが、そんなに求められても、オレには覚悟がないし、正直怖さが勝つ。その出来事を眼前にしたら吐く自信がある。決して愛を拒むわけではないが、ソレはソレだ。
「……ハグで我慢しろ」
「え~!やだやだぁ!」
「ぐっ…」
駄々っ子のようにじたばたする愛。
ぐうかわ。少しはオレの気持ちも考えろ。
もろもろ流されてしまいそうだったが、オレは鋼の精神で耐えた。この感じ、何回目だろう。
そして、オレは天命を授かる。そうだ、こいつの判断能力は今赤子以下ではないか。
オレは顔を近づけることなく、多分1mくらい離れた状態でこの言葉を言った。
「ちゅー」
「えへへぇ……」
「――マジでこれで騙されんのかよ」
オレは愛の判断能力が本当に赤子以下であることにビビった。今日はいろんな意味でビビっている気がする。この子本当に危険だな。
「他にしてほしいことは?」
「ひざまくらぁ……」
「お、さっきよりマイルドになった」
これくらいならオレでもできる。掛け布団を一度はがし、オレの膝に愛を乗せる。そして愛の体に再度掛け布団をかけた。
「これでいい?」
「頭なでてぇ」
「ハイハイ」
何となく扱い方がわかってきた。多分オレなら何しても大丈夫だし、何しても納得する。だからと言って如何わしいことをするつもりはないし、出来ないが。
まあ、愛は普段から色々苦労しているし、本来ならオレも負担すべきことまで負担してくれている。オレは愛を労う義務があるだろう。
この際だ。好きなだけ願いを聞いてやろう。
「他は?」
「耳かきぃ」
「取ってくるね」
「はなれないでぇ」
「どうしろと」
なんと即行で困難になってしまった。いや、本当にどうすれば……。
いや、最初に受けたお願いを遂行すべきだろう。オレはウルウルする愛の目に心を鬼にして背を向ける。振り返らなかった。多分泣いているからオレの心が揺らいじゃう。
オレは耳かき棒を即行で取り、ソッコーで愛のもとに戻った。
「はーい、お耳かきかきしましょうねー」
「ぅあーい」
……やばい。本当に可愛いかも。母性ってやつかな。
「…思ったより手入れしているな。やっぱり抜かりない」
耳かきをしてもしなくとも、愛の耳はとてもきれいだった。もはや意味がない。まあ、愛にとってはこの行為自体に意味があるのだろうが。
ひとしきり耳をかいた後、オレは耳かき棒をおいて愛の耳を撫でた。その上で願いをもう一度聞く。
「あとは?」
「耳ハムしてぇ……」
「突然アクセル踏まないで」
しかし、オレは対処法を知っている。
「ハムハム」
「ふわぁ……」
ほんっとにチョロいなこの子。本当に他の男に見せちゃダメじゃん。
「ちゃんとやってぇ……」
ウッソダロオイバレヤガッタ。
「……勘弁して」
「ぃやだぁあぁ」
「うえぇえぇぇ……」
オレは回避するために全力で頭をぶん回したが、残念ながら解決策は出ない。
オレは愛の心変わりに縋った。
「ホントにやんなきゃダメ?」
「ダメ、ちゃんとやって」
「お前本当は正気だったりしない?」
あまりにも真剣な即答にオレは思わず疑いの声を上げた。でも多分正気じゃないんだろうな。後になって恥ずかしがりそう。
その時は全力でからかい、可愛い可愛い愛ちゃんの写真を撮りまくろう。そして額縁に飾ろう。
そう思えば、オレは少しだけ大胆になれた。
「――っ」
「んぅ―――」
――エロい声出すんじゃねぇ……!
マジでこの子いつか襲われんじゃねぇの!?なんなのこの子!?自分に興味ないの!?自分の魅力分かってないの!?
……いけない。少し調子が狂った。
でも仕方ないだろう……!?こんなエロいの男だったら耐えられんて!
マジで、心から不能でよかったと思う。もし勃ったの知られたら嫌われる。マジで、マジでよかった。
「……次は?後3個までだけど」
「体ふいてぇ」
「ッス――――」
オレの口から息が漏れる。大声を出すのをこらえた時によく出る声だった。
なんかエロいの続いてね?味しめた?
…オレは耳ハムの時の愛の鋭さを考え、素直にタオルを持ってきた。
「背中だけな」
「まえ――」
「絶対にやらないから」
愛が何を言おうとしたのかわかってしまったため、オレは先回りした。絶対に許してたまるものか。風邪をひいて弱っているからと言って何でも許すわけではないのだ。
「はーい、うつ伏せになりましょうねー」
「むー」
「むーじゃありません。お背中拭けないよー」
「だって愛華の顔みれない~」
「またお前はそういう…」
オレは顔を赤くするのを認識しつつも、愛をうつ伏せにした。そして、服の中にタオルを突っ込む。断じて肌に手を触れさせることはない。多分決壊する。
「うへへぇ…」
「これそんなにいいのか……?」
こんな喜ぶなら前もやるか?と思ったが、うん。やめとこ。
「次は?」
「だっこぉ」
「おし、楽だ」
オレは愛を抱っこした。愛はオレの首に手を回し、でへでへとだらしのない笑みを浮かべる。
が、少し不満を感じた。もしかしたら少し違っただろうか。
「これでいい?」
「お姫様がいい……」
「ああ、そっちだったか」
オレは、愛の体勢を急激に崩すことないように配慮して愛の体を横にする。
「ありがとぉ」
愛は、そう言ってオレの頬に口を付けた。
「―――」
オレは、シャットダウンされたように体の信号が消え去ったことを認識させられる。これは、lupjojsmmpiだった。
「あまり、じぶんをやすうりするのはやめなさい」
オレは、カタコトでしかそう言うことが出来なかった。
「――してない」
愛は、少し怒っているようだった。
「…愛?」
「私、自分を安売りするなんてしてない」
愛は、オレの首に顔を近づけた。またキスされるのではと思ったが、そんなことはない。オレの顔に頭を押し付けただけだった。
「してないの」
「うん…ごめん」
「う~」
「ごめんて。頭ぐりぐりしないの」
マジで子供あやしてる気分になる。いやまあ愛は子供ではあるんだけど、この子大体の時間仕事してるから感覚が狂う。
オレは愛を下ろし、最後のお願いを聞いた。
「最後は?これ終わったら寝なさいね」
流石に寝かせないとよくならないしな。
「……最後?」
「最後」
「どうしても?」
「どうしても」
「うー…」
文句たれつつも、最後であることは納得したようだ。多分愛は本能的にオレが願いを聞いてくれるのが今くらいと判断している節があるので、何やらせるか選んでるんだろう。
なんで選べるほどあるのって感じだけど。
「……あ」
「『あ』?」
オレはこの『あ』が気付いたときに思わず言った言葉なのか、それともお願いの言葉の一部なのか判断がつかなかった。だからオレは聞き返す。
――lolsmslrtrnsよかったと、lpilsoした。
「愛してるって言って?」
―――。
オレは、思考が止まってしまう。
思考が止まって復活した後、真っ先に現れたのは疑いだった。
言葉を疑った。
耳を疑った。
脳を疑った。
だが、そのどれもが事実だと言っている。前に「好きです」と言われたときよりも、それはオレの体を刺激した。
口がjitirys。
身体がjitirys。
オレの脳裏に現れたのは、おぞましい過去の記憶だった。未だ乗り越えられていないこの過去が、オレを締め付ける。苦しめる。オレを殺していく。
「それは――」
「くう……」
――寝やがった。
「……んだよ」
悪態を吐く。
だが、これでよかったのかもしれない。
オレは、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る愛にしっかりお布団をかける。
「ホント、可愛いやつ…」
オレは愛の額に手を当て、体温が低くなったことを確認する。あまり寝ていないが、愛自身の体の強さである程度は回復したのだろう。もしかしたら熱を出したのにも関わらず働いていたことがあるのかもしれない。
――罪悪感に押しつぶされた状態で。
「もっと自分を大事にしてくれ。……なんて、オレの口から言っても意味ないか」
頭を撫で、置き手紙を置いてから白銀のもとに戻った。
「さて、手ぇ出してるかな。むしろ既成事実くらい作ってほしいものだが」
オレはそんなことを言いつつ、女装した状態でかぐや様の部屋に行った。
「最低!!今すぐ出てってください!!」
「やったか!?」
オレは典型的なフラグを建てつつかぐや様の部屋に急いだ。
「あっハーサカさん…」
「あの子の方をハーサカと呼んでやってください。私の方はアランと」
「アランさん……」
「お帰りになられますか?でしたら、そのままお帰りになられて構いません。家の者には話を通していますので」
「あっはい。ありがとうございます。おじゃましました……」
「何かありました?」
「いっいや!?何でもないです!!」
白銀は早歩きして帰っていった。走らないことに白銀の常識がうかがえる。でも早歩きである面からしてなんかあったんだろうな。かぐや様も取り乱しているみたいだし。
「いかがしましたー?」
オレはお部屋に入り、かぐや様の容態を確認する。
「あ、愛華……私どこまで会長と……?」
「わっかんないです。でもその調子だともうすっかり本調子みたいですね。よかったです」
かぐや様はオレの目を考えず服を自分でめくりあげる。もちろん大事なところは隠しているが、オレ女装しているとはいえ男なんですけど。
目逸らしといてよかった。
「あ、あれ?早坂は?」
「風邪ですよ。今はオレの家で寝ています」
「まさか…二人はそこまで!?」
「オレ不能っす」
「そぉなの!?」
なんか邪推していたので思わず完全否定する言葉を言ってしまったが、これセクハラじゃね?
まあいいか。かぐや様は白銀にお熱だし、オレに欠片もそういう興味ないし。
「ところで、白銀に何されたんですか?」
「……ベッドに入られた」
おお、やるな白銀。
……ん?でも白銀はちょっと違う反応してたような。「やっちまった」って反応じゃなかったんだけど。
どっちかっていうと「なんで!?」とか「耐えたのに!」とかそういう反応だった気がするんだけど……。
コレかぐや様から誘ってね?
「白銀に限ってそういった不純異性交遊はしないと思われますが……」
ちなみにオレは不純異性交遊に交際を含まない派だ。そういうのは性交だけ。
「ちゃんと確認して!じゃないと安心できません!」
「ハイハイ」
体調がよくなったこと確認したら愛の方に戻りたいんだけど……ま、これやったら戻れるか。
「これ終わったら戻りますね。愛が心配」
「分かったわよ…」
オレは虫眼鏡を取り出し、布団をしっかりと検閲する。かぐや様も一緒に見ている。
「チッ、シロかよ」
「なんで今舌打ちしたの?」
したくもなるだろう。これで手を出してたらかぐや様がそれを利用して白銀に告白まで持っていけるはずだし、そもそも白銀は責任感あるから既成事実を作った時点でチェックメイト。クロの方がこちらとしては都合がいいのだ。
かぐや様にとっては良くないだろうが。
「ま、白銀にそんな度胸あるはずないか」
オレは白銀に毒を吐き、かぐや様に向き直る。
「それでは、オレは戻るので」
「あ、ちょ、愛華」
「如何しました?」
かぐや様がオレに何かあるのだろうかと思い、そう言ったのだが、言いたいことが予想できてしまったためにちょっと後悔した。
「その恰好は…?」
「対秀智院生徒専用装備です。意外と使う機会ありますよ。以前かぐや様が白銀と映画デートした際に変装として使いましたし」
「えっそうなの?」
「ハイ」
「デートにはツッコまないんですね」という言葉はギリッギリでこらえた。
かぐや様はオレの言葉を聞いて納得したようだが、ちょっと不満そうに頬を膨らませた。
「……い」
「イイ女とかいったら吹き飛ばしますよ」
「なんでわかったの!?」
「やっぱり似た者同士ですね」
オレはため息をつき、かぐや様の部屋を出た。
「んぅ……」
瞳を開ける。
すると見慣れない天井が目に入る。だけど、周囲を見渡せば見慣れた光景が目に入る。
愛華の家だった。
「ん……!?」
私は意識が急に現実に戻される。先程までは夢見心地でちょっと意識があいまい……
だったらよかったのに。
私はかぐや様と違い、記憶が残るタイプだったみたい。残らなかったらどんなに良かったろう。
「ん~~~――!!!」
私はバタバタと布団の中で暴れた。
(まってやばくない?私色々やばいことやっちゃったし、でも愛華はやってくれたし、え~~!?)
赤く上気した顔を必死に抑制する。多分できていないけど。
置手紙を見たら「かぐや様の状態を見てくるね」って書いてあったから、せめて愛華が来るまでには……
と、思っていると扉が開いて愛華が帰ってきた。
「愛起きてるかな…?」
――寝たふりしよ。
私はすぅすぅと寝息を自然に立て、愛華に眠っていると誤認させる。
「って、まだ寝てるか」
ギリッギリまで薄目で愛華を見る。愛華はこちらに慈愛の笑みを浮かべていた。
「――今日は泊まらせるしかないかな……」
ちょっとまって。
ちょっとニヤケそうになるから勘弁してもらいたいんだけど。
でも泊まりたい……!!
「……」
パシャリ、と音が聞こえた。
「……可愛い」
寝顔撮られた!?てか可愛いって…風邪ひいてた時も言ってたけどなんでそんなことサラッと言えんの!?自分の魅力分かってないの!?
「……熱はもうないな。ちょっと軽いものなら食べれそうかな…一応お粥も作るか」
腕を触られて脇に体温計を挟まれる。腕がガチガチに固まっていたかもしれなく、起きていることがバレたかと思った。
頭を撫でられ、愛華が離れた気配を感じた。
薄目をまた開け、確信を持ってから寝返りをうつ。
「…ばーか」
少しだけ文句を言った。
私は最後に、『愛してる』を求めた。愛華はこんなこと言わないから。まあ、かぐや様も言わないけど。お母様からも聞いたことないし。
私は彼に恋しているし、彼を愛している。彼からも、形式上とはいえそれを言ってほしかったのだ。
「なんでそんな、おびえるの」
ああいけないな。また少し熱が出てきた。
でも、いつか。いつか。
「本当の愛華を、知りたいな」
「――全部、晒してほしいな」
そう言った後、私の意識は闇に沈んだ。
オレはお粥を作りながら、出来事を反芻していた。
特に、愛の最後のお願いだ。
「愛してるって言って?」確かに愛はそう言った。
オレは、それに応えることが出来なかった。
オレは、あの子の健気で何処にも不純な要素はなかったあの言葉に応えることが出来なかった。
オレは、一般的に見ればごみクズに値するのだろう。
それが、たとえ愛が寝てしまったとしてもだ。オレに言う覚悟も、意志もなかった以上それは仕方ない、甘んじて受け入れよう。
なぜならば――
――愛してるの言葉は、オレにとって禁忌である。いけない。少し喋りすぎたな。
忘れてくれ。
文中の文字化けモドキも前話の暗号と同じです!
矛盾、誤字などあったら報告よろしくです!