評価感想よろしくです!
夏休みは終わり、オレたちの学校生活が再開する。
少ししたら定期試験も待っている。夏中に勉強していなかった連中からすれば悪夢にも等しいものだろう。
そんなオレたちの今日の予定は――
「ウィンドウショッピング~!今日は秋物しこたま揃えちゃいますよー!」
かぐや様の護衛です。
「夏中ではなかったけど、デート二回目だな」
「そうだね」
あれ、からかうつもりで言ったのに愛は取り乱してない。
「取り乱してない、とか思ってる?」
愛の言葉はオレにとって図星だった。
「はは、バレた?」
愛はおちゃらけるオレの手をつなぎ、自身の方に引き寄せた。
「ちょ――」
慌てるオレに、愛は「してやったり」とでも言いたげな勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ほーう?」
オレは愛の意図を察し、悪戯好きの子供のような愛を可愛いなと思った。
それはそれとして虚を突かれた上に、少しも意識していないような愛の様子はかなり悔しく感じるので絶対にやり返す。
――と、思ったが愛の耳が赤くなっているのを見た。
勝ち誇ったような笑みを浮かべ、余裕そうな表情をした愛。だがすぐに恥ずかしくなったのだろう。
もちろん、からかわない手はないだろう。
オレは愛の耳に息を吹きかけた。
「ひゃ――!?」
甲高くも可愛らしい声を上げた愛は周囲の注目を集める。周囲は奇怪なものを見る目をしており、愛はその視線に顔を羞恥に染めた。その後にオレの方をキッと見た。ていうか睨み付けた。
そして、からかいが過ぎたオレは愛に説教を受けました……。
「愛さ~ん…そろそろ機嫌を……?」
「知らない」
デパートの中は完全に屋内というわけではなくて、屋外もある。そこではちゃんとしたウィンドウショッピングが出来る。
屋外デパートに入って数分経っても、愛の機嫌は直らないままだった。
百ゼロでオレが悪いから何も言い訳ができないので、その内何も言えなくなった。
だが、この程度と言うのは失礼になるが、これで関係が悪化するのも嫌だ。
どうしたものか。
「あ……」
愛が視線をある場所に留めた。
それはクレープ屋だった。ただの、とある特徴のあるキッチンカータイプのクレープ屋。
オレは愛の手を引いてクレープ屋に立ち寄った。幸いにも並んでいなかったのですぐに買うことが出来そうだ。
「いらっしゃいませ!何をお求めですか?」
「何がいい?」
オレは愛にそう聞いた。変に媚びるようなことはしなかった。多分それは愛の精神を逆なでするから。さっきの愛を見るとそれが強く感じられた。
「え…でも……」
「遠慮しないでくれ。むしろオレが悪かった。…ちょっと、からかい過ぎた」
オレは頭を掻いて恥ずかしく思いながらそう言った。店員さんも何かしら喧嘩でもしたのだろうと推察する。流石に足を踏み入れることはしなかったが。
「じゃ、じゃあ……」
愛が指をさす。オレはその指先が指し示した先を見て、店員さんに伝えた。
「カップル割で」
「ッ!?」
愛はオレの方をとてつもない速度で見て、驚きを露わにする。
「いいだろ……?」
「ッ―――!!」
オレは自分が行った行動が今になって恥ずかしくなり、自分でも自覚できるくらいに顔を赤くした。
愛も、オレの乞うような言葉と視線に悶えた。ちょっと、いや、本当に恥ずかしい。
「はい、どうぞ!楽しんでくださいね!」
「ありがとうございます」
店員さんは俺たちのことを察したようで、何も言わずにただ店員としての責務を全うしてくれた。おありがたい。
オレたちはクレープ屋を離れ、ちょっとした休憩所に座った。
護衛の任務はサボっていない。ちゃんとかぐや様の姿は視界の中に入っている。
だが、今は愛のために時間を使いたかった。
「……ほら、食べな」
オレは購入したクレープを愛に突きつけ、愛に手渡した。
「あ……」
ちょっと俯くオレに愛は意外なものを見る目をした。
「……こういうことで悲しむ愛華、初めて見たかも」
「……そうか?」
「うん。こういう、くだらないことでさ」
思えば、そうかもしれない。
悲しむ姿や、ネガティブな姿はあまり見せないようにした。そう配慮していた。
もちろん少し自分を曝け出したときは違う。普段に比べると暗い雰囲気を醸し出していたはずだ。それは、愛も承知の上だろう。
普段のオレ、というよりも、以前までのオレならそんなことは起きなかっただろう。人に見せる気分じゃないときは極力知り合いに会わないようにしていたし、多少のことなら無理やりにでも表に出さないようにしていた。
オレを心配してほしくないっていうよりも、オレに興味を持ってほしくないからだった。ヘラヘラしたところだけを見せ、ちょっと冷静なところも見せ、掴みどころのない普通の人間になるつもりだった。
あの夏の日からだ。オレが少しだけ変わったのは。
愛に対して限定ではあるが、些細な本音を出すようになった…気がする。
そうであってほしい。
「ちょっとやりすぎじゃったからな。オレだって省みるのさ」
この言葉は少しだけ以前のオレに似ているか。余計なことを言って心象を下げる。だから発展しないし、させない。
「私も…ごめん。少し怒りすぎた」
「愛は悪くないだろ。全面的にオレが悪い。始めたのも、元はと言えばオレだしな」
「……愛華って、本当に自分のせいにするよね」
「愛には負けるさ」
愛は、オレが絶対に折れないことを確信してくれたようだ。でも、それはオレが悪いという事を認めるという事。愛がその認識になれば、双方が認めたことになる。
「じゃあさ、愛華が悪いってことにしとくね」
「おう、そうしとけ」
「じゃあ、悪い人にはお仕置きが必要だよね?」
愛が悪知恵使ってる……!
そう言えば、愛の性格って悪いんだった。もちろんそのことを承知の上で関係を持っているが、最近は鳴りを潜めていたので忘れていた。
「……なんなりと」
オレはあきらめる。とはいっても、そんな大したことはされないだろうという考えもある。
「――クレープ、一口食べて」
愛はそう言って二回ほど口にしたクレープを突き付けた。大したことあった。
「―――」
オレは3秒くらい放心した。放たれた言葉を認識するのに時間がかかった。
だが、ここで慌てることで愛を上機嫌にするのはちょっと悔しい。それではまるでオレが純情ボーイではないか。いやまあ、それが嫌と言うわけではないが、変に可愛いと思われるのは男としてちょっと……。
「じゃあ、いただこうかな」
オレは愛の手にあるクレープに口を近づけ、クレープを一口だけ口に含んだ。クリームの甘みとバナナが丁度良くマッチしていておいしい。……と、思う。
今は冷静であまり取り乱さない姿をしているのだが、内心では色々体裁を保つのに苦労していた。
愛は少しだけリップを塗っていたようで、少しだけリップの苦みが口に残る。味覚に優れているオレだから気付けた。だが、気付きたくはなかったな……。
間接キス、というやつだろう。マンガの中だけの出来事かと思っていたが、どうやら現実でも起こりうる現象のようだ。
「……御馳走様」
オレは口についたクリームを指でぬぐい取ってから言った。愛はオレが乗ると思っていなかったのか、口をパクパクさせている。
少し調子を乱したことで注意が散漫になったのだろう。オレが食べた後にクレープをもう一口食べた後、口元にクリームがついたままになっていた。
「クリーム、ついてんぞ」
オレはそう言った後に愛の口についたクリームを指で拭った。
その後、そのままの流れで口に運んだ。
「なっ――……!!」
愛がさらに口を開ける。パクパクさせることはなく、開いた口が塞がらないという感じだった。
そして、オレも自分がやらかしたことに気付いた。
「――っ悪い!困らせるつもりはなかった……」
オレは愛から視線を外し、顔を下に向けた。恐らく表情が崩れているからだ。
「こ、困っては、ない……」
愛はオレがぬぐったところに指をあててそう言った。
困ってないのはいいけど、ソレはソレで…ちょっと……。
「……かぐや様たち移動してるから行くぞ」
「うん……」
気まずい空気が流れて会話が途絶える前に、都合よくかぐや様たちが移動を開始した。護衛の任務を考えてすぐにオレたちは移動する。
そのあとは大したことはしていない。かぐや様の安全をかげながら確保し、ゲーセンに行ったりお昼ご飯を食べたりした程度だ。
かぐや様もなかなかなじむことが出来たらしい。買い物のメンバーは藤原次女と三女、そして白銀妹である白銀 圭だが、その中でも圭とはほぼお初。仲良くすることが出来たようでよかった。
「かぐや様…外堀から埋めようとしてるよな」
「ですよねー……」
オレも愛も少しだけ引いた。いやまあ、外堀から埋めるのは交際まで持っていくうえでこの上なく効果的な手段なのだが、かぐや様って白銀に告らせたいんじゃないの?って感じだ。もはや外堀まで埋めにいったらそれはもう婚約間際だろう。
服を選んでいた際にほぼ初めて話すことが出来たのだが、それからはどこか白銀を見るような目で圭を見ている。てかあれほぼ白銀を見てね?完全にメスの顔してる気がするんだけど。
まあいいか。とりあえずかぐや様は大丈夫そうだし、オレもオレの目的を果たすとしよう。
「愛、ちょっと小物見てきていい?」
「なんか買うの?」
「二つだけ。一個は秘密、もう一個は白銀の誕生日用」
オレは愛にかぐや様のことを任せてから少しだけ一人になった。
(白銀は……下手にいい奴渡すと遠慮するんだよな……。あいつ守銭奴な上にそういうの受け取らないからプレゼント渡しづらい。てかもはやあいつはプレゼントいらないとすら思ってそう。受け取りはするだろうけど)
オレは意外にもプレゼント選びに難航する。もう一つの買うものもまだ決まらないのでちょっと焦り始めた。
「石上は…万年筆か。いいもん渡すな」
あいつこういうのセンスあったりするんだよな。
ん……オレはどうするかな。
「……いや、別に形が残らなくてもいいのか」
オレは菓子折りを見てそう思った。これで白銀…ひいては白銀家に益があるものと言えば……。
「質か…量か……」
オレとしては質のいいものを送りたいものだ。白銀とは友達やってもらってるし、家の状況も考えて誕生日くらいは貴重な体験をしてもらたい。
だが量も捨てがたい。白銀の家の状況から、間食とはいえきちんと栄養は取ってほしい。
「……両方買うか」
オレは栄養に気を使った量重視のお菓子のパックに、味や見た目に気を使った質重視のお菓子を買う。二日後に渡すとしてもその時まで日持ちするだろう。最悪また買えばいい。
「あとは……あ、いいの発見」
あとはもう一つの探し物だったが、すぐに見つかった。時間はあまり使わずに見つけることが出来たのでよかった。待たせてしまっているからな。
「愛~おまた……どしたお前」
オレは愛に手を振りながらそう言ったのだが、愛があまりにも疲れたような、引いたような目をしていたのでびっくりした。何かあったのだろうか。
「……見てみて」
愛が指をさした先には、圭に抱き着いている藤原の姿。
と、まるで男(白銀)に抱き着いた女に向けるような目をしたかぐや様。
圭は男じゃねぇだろ。
「……オレ達の主は面白いな」
「愛華は主従関係じゃないけどね」
「そうだけどな」
オレたちは、藤原姉妹に誘われて圭に抱き着き始めたかぐや様を見てそう言った。先程までのごみを見るような目は何だったのか、今はとても幸せそうな顔をしている。
そこでお開きになった。かぐや様たちは解散し、それぞれ帰路に就く。かぐや様はオレたちを待つためにそこにとどまっている。3人が見えなくなったらオレたちも合流しよう。
その前に、目的を済ませようか。
「愛」
オレが愛の方を見てから言った。愛もこちらに視線を合わせてくれる。
「……どうぞ」
オレは愛に包装されたものを渡した。その中には二つのものが入っている。
「これ……」
入っていたのは、リップとハンドクリームだ。結構いいやつ。
「欲しいって言ってただろ。いい機会だから買おうかと」
オレは顔をそらし、言い訳がましくそう言った。ただ、「新しいの欲しいな~」と言っていたのは事実だし、これがいい機会だったのも事実。事実と違うのは、あたかも今日突発的に買おうとしたというニュアンスを含んだことだ。前々から買おうとは思っていた。
まあ、それを伝えたところで意味はない。
逸らした顔を元に戻し、愛と視線を合わせる。
愛は、どこか満たされたような顔をしていた。このプレゼントをとても嬉しく思ってくれているのがとてもはっきりと伝わってくる。
「……ありがと」
「…おう」
顔を赤らめた愛をみて、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。再び顔を逸らす。
(……なんなんだろうか、これは)
オレの中で何かしらの変化が訪れているような気がする。もしかしたら本当に気がするだけかもしれないし、事実なのかもしれない。オレには、判断がつかなかった。
だが、今そのような感覚があるのは事実。言語化しようのない感覚がオレの中に存在している。
愛を見るたびにそうなる。
オレは、客観的に見ればその感覚に名前を付けることが出来る。が、主観としてみるとそれに名前を付けることが出来なかった。
それは、知らないからなのか。それとも、受け入れがたいからなのか。
(……いずれ、分かるか)
「……そろそろ、行くぞ」
オレは愛の手を引いてかぐや様のもとへと向かった。
「御迎えにあがりました」
「ああ、愛華…何があったの?」
「プレゼントを渡しただけです」
かぐや様がオレたち――愛――を見て怪訝な視線を向けた。オレとしてはプレゼントを渡しただけでこのような現状になるとは思わなかったので、結構戸惑っている。
「とりあえず帰りましょう。幸いオレはかぐや様と接点がありますし、愛も学校のキャラ的に問題なし。誰かが来てもとやかく言われないでしょう」
「ええ…そうね」
オレたちも帰路に就く。
その間、オレと愛の手は繋がれたままだった。
その夜。
「それで、肝心の会長用のプレゼントのリサーチは上手くいかなかったと……」
「でもちょっとだけ見えてきたわ。会長はお金に厳格な家で育った。だから、あからさまに高価なものは受け取ってもらえないと思うの」
「となると気持ちの問題……でしたら話は簡単ですよ」
「えっ本当?」
愛の吉報にかぐや様は嬉しそうな声を上げた。
「これをこうして……」
愛は、かぐや様にひもをぐるぐると回す。軽くで、その緩さが男の思いをそそることだろう。
オレは、愛がやろうとしていることを察して後ろを向いた。
「はい読み上げて」
「えと?」
オレは耳をふさいだ。あまりにも強く塞いでしまったせいでバチンという音がオレの側頭部から響く。
「プレゼントはわ、た、し?」
とか言ったと思う。多分。
「は…早坂――――!!」
その夜はかぐや様の叫び声が響いた。
そして、9月9日。
今日は白銀の誕生日だ。かぐや様も二日前までは構想を固めていなかったが、何とか構想を固めることが出来たようだ。
今は昼休み。白銀は生徒会室には居ない。逆にかぐや様が生徒会室でプレゼントを用意している。愛も生徒会室にいるはずだ。…いや、今はいないか。移動中だろう。
オレもかぐや様のプレゼントを見てみたいので、すぐに向かうとしよう。
……一応、オレはかぐや様のプレゼントを知ってはいる。ただ、それは昨日のうちに用意したものだ。もしかしたら、かぐや様のなかで心変わりがあったかもしれない。ていうか、そうあってほしい。
兎にも角にも、まずは白銀に渡さねば。
「お、いたいた。白銀、誕生日おめでと」
「早坂、ありがとな」
オレは白銀に紙袋を渡す。量的に、よくあるような包装タイプは無理だったからだ。
「愛華先輩、ちわっす」
「よっす石上。お前もプレゼントか」
「ええ、はい。万年筆を」
石上もプレゼントを渡すところだったようだ。包装された箱が白銀の手にある。先程石上が言ったように、万年筆が入っているのだろう。
「愛華先輩はなに渡すんですか?」
「ん、お菓子。量重視のやつと質重視のやつ両方。多分白銀は家族も食えるようなやつ渡した方が無難かなって」
「ぶっちゃけ死ぬほどありがたい……!」
白銀も喜んでくれたようだ。ただ、少しだけ持ち帰りに配慮していなかったか。確か自転車通学だったし。
「悪い、ちょっと自転車に配慮がなかったな、郵送する。一応伝手はあるから金もかからん」
「え、いや。そこまでしてもらうのは悪いというか…」
やはり渋る白銀に、オレは当てつけのように大げさにため息を吐いた。
「誕生日なんだから祝わせろって。お前の普段の行動からしたらこんなの足りねぇくらいなんだからよ。なあ石上?」
「そうですよ会長。会長は働きすぎなんですから、今日くらいはいいじゃないですか」
オレが石上に協力要請をすると、石上もオレに協力してくれた。石上は白銀に恩がある。白銀に何回か羽根を伸ばしてもらいたいと思っているし、もっと自分をいたわってほしいと思っているのだ。
そして、それはオレも同じだ。恩はないが。
「……分かった。お言葉に甘える」
「そうしとけ」
オレは白銀から紙袋を受け取り、二人のもとを去った。
校門前に四宮別邸の使用人さんを呼ぶ。緊急時にすぐ対応できるようにその場にいたのだろう。すぐに来てくれ、オレが指定した場所に荷物を届けてくれた。
野暮用を終えたオレは、生徒会室に向かう。かぐや様と愛の様子を見るためだ。
生徒会室の扉を開けたオレを待ち受けたのは、とんでもない光景だった。
それは、『17』という数字を表す蠟燭と、『Happy Birthday 白銀』と言う文字が書かれたチョコレートが乗っかったケーキ。そこだけなら不思議ではない。
ではなぜ、オレは生徒会室に入った瞬間にそれを認識したのだろう。愛でもかぐや様でもなく、ケーキを。
その理由は、まるでウエディングケーキのような大きさと飾りつけを誇るケーキだったからに他ならない。しかも三段ある。
(ダメだったか……)
オレは自分の願いがはかなくも叶わなかったことに空を仰いだ。
このウエディングケーキ、何を隠そうオレが作ったものだ。もはやこれは誕生日ケーキではない。オレも、かぐや様から詳細を受け取った時にウエディングケーキだと判断したくらいの大きさと飾りつけだ。
これを一日で作ったオレを褒めてほしいくらいだ。
「どうでしょう、特別に愛華に作ってもらったケーキです。会長ケーキ食べたがってる感じでしたから、とっても喜ぶに違いないわ」
まるで語尾に音符が入っているような陽気で楽観的な声。普段とは全く違うかぐや様の言葉だ。
「苺も買い付けから行なって、糖度17で苺の味が濃厚な物を運よく見つけられてですね。このスポンジにも秘密があって……」
かぐや様は正常な判断能力を失っているらしい。愛が「重い 超引く 超恥ずかしい 私の主人はもうだめかもしれない」と、今まで見たことないくらい絶句した顔をしているというのに、それに気づいていないくらいだ。
あと、苺の買い付け行なったの俺なんですけど。どんだけ大変だったと思ってんスか。
「どうしたの早坂?」
「いえ…かぐや様が良いなら私は特に口出しをしませんが……」
「何よ歯切れが悪いわね~」
なんだか今のかぐや様はほんわかしていてフワフワしている。まさかこのマインドで白銀に渡すわけではあるまいか。
「昔はこんなにアホじゃなかったのに……」
「アホ!?」
ため息をつきながら主人に失礼な言葉を吐く愛に、かぐや様は驚きを露わにした。
(オレもそう思う)
オレは心の中で愛に同意を示しつつ、二人に話しかけた。
「取り合えず、コレ隠しましょ。バレたくはないでしょう?」
「愛華…ええ、そうね!」
うっわすげぇ元気じゃん。
「愛華…放課後にお話があります……」
こっちは真逆だな。
その後、オレたちはケーキを生徒会室の空き扉にしまい、予鈴が鳴ったので教室へと急いだ。
そして放課後。
オレと愛は誰もいなくなった教室で、お話――もとい、オレの説教を行っていた。
「――弁明を聞きましょうか」
「オレは後悔しかしていない。まさかかぐや様があんなに阿呆だとは思っていなかった」
「……作っているときに思ったことは?」
「超楽しい」
「――
「罰は甘んじて受け入れますとも……なんなりとお申し付けください」
説教というよりも裁判に近いか。そして判決は有罪。オレへの罰は何だろうか。
「……ハグして」
やっぱ愛、こういう悪戯するよね。ていうか、これは罰になっているのだろうか。少なくとも罰ではないと思うんだけど…いやでも、恥ずかしいという意味だったら罰なの…かな?
「……はいはい」
オレは経験則からここで反抗するのは無意味だと知っているため、素直に従った。
愛を自分の体に寄せ、ぬくもりを感じる。とても温かい。心がポカポカとするような感覚を覚える。
思えば、こうも幸せな日常を過ごせるとは思っていなかったな。かぐや様の対白銀誕生日のケーキのように非日常の時もあるが、愛と過ごす日常は、オレの中で他の何にも代えがたいものになっていることは理解している。
オレは別に感情がないわけではない。ただ、愛するや恋するがわからないだけ。
楽しい、面白い、悲しい、辛い、ムカつく。
そう言った感情はある。幸せ、という感情もある。今のオレがそういう状態にあることも認識している。
「……愛してるは、分かりますか?」
愛の言葉が聞こえる。あの夏の日から、数週間が経っている。
その程度では変わらないと気づきつつも、愛はオレの言葉に縋るのだろう。
「まだわからない。アイシテルは、オレにはわからない」
オレは愛に抱き着いたまま、そう言った。愛を抱きしめる腕の力が強くなる。
愛もそれに呼応するように、力を強めた。
お互いの存在を確かめ合うように。お互いだけが視界に入って、二人だけの世界に集中する。
すると、何処か違和感を感じた。
(もう少しで…何かが……わかる?)
オレはそう思い、感覚を集中させる――
――前に、扉からこちらを覗くちびっこの存在が見えた。
「ふ、不純異性交遊ですっ!!」
そう言ってそいつはこちらに近づいてくる。恐らく愛用であろうクリップボードを掲げている。彼女の後ろには、もう一人。メガネをかけているせいで瞳がよく見えない女生徒だった。
「…伊井野、だったか」
クリップボードを持ったちびっこの名前は「伊井野ミコ」。ちなみに後ろにいたのは「大仏こばち」だ。二人とも1年生で、風紀委員に属している。
うちの学園の風紀委員はお堅い連中が多く、その中でも伊井野は頭一つ――いや、もはや三つ以上抜けた堅物だ。その上、思い込みが激しく人の話を聞かずに誤解することが多い。根は悪い子ではないのだが、融通が利かない幼い子という印象だ。
愛は校内擬態としてギャルをやっているため、その見た目は校則に違反したものが多い。スカート丈にネイルなどがその筆頭だ。そのせいで
今回は服装だけでなく、オレたちがハグをしていることに対する警告だろう。真実なので何も言い訳できない。
だが、素直に認めるはずもなし。
「幼馴染としてのスキンシップの範疇だ。何か問題でも?」
オレは強気にそういい、愛を抱きしめる力を強めるが、彼女の勢いは衰えることを知らなかった。
「そう言うのは校内でやるべきことではありません!ちゃんと節度を持って……そもそも!幼馴染としての範疇を超えているでしょう!!」
正しい。それもそのはず。彼女の発言には客観的な正しさが、そして大衆が認める正しさという正義が根底にある。しかも、彼女はそれに殉じることが出来る。ここまで傾倒できるのは稀有な存在だろう。少なくともオレは初めて見た。
普段のオレなら彼女が正しいとして折れる。すぐに謝罪して、次は気を付けるとでも言って許しを乞うたはずだ。
オレと彼女は今回が初対面だが、きっとそう行動するだろうと予測した。
だが、残念なことに今は虫の居所が悪い。せっかく新しく分かることがあったかもしれないのに、それを邪魔されてしまったからだ。伊井野に悪気がないとしても、少しだけ当たってしまうのは仕方ないだろう。無理に正当化しているだけだから、もしこれが表面化したら方々からの非難は免れないだろうな。
それでもいいのだ。
「離れなさい!」
伊井野がオレたちに手を伸ばす。もしかしなくても引きはがすつもりなのだろう。
オレは伊井野から伸びた手を払った。
「他人にオレたちの関係を邪魔されるのはいい気がしないな。こっちにも事情がある。汲めよ」
オレは少しだけ威圧してそう言った。
伊井野はビクリと肩を震わせる。伊井野はただの人間であるため、このような強硬策に出られると弱い。特に先輩という存在ならなおさらだろう。高校生での年上という存在は、その差がたった一つであっても大きな差が生まれるものだ。
「まあまあミコちゃん。先輩たちもこの時間にやってるってことは周りに配慮した結果なんだろうし。それに、何回か見回りしてもこんな現場見たのは今日が初めてでしょ?たまたま偶然だったんだから、今回は注意で済まそ?」
静観に徹していた大仏から助け船が入る。伊井野からしても、オレ達からしても。
「ありがとう大仏……今日が、そして今が、特別だったんだ。許せとは言わないが……悪かったな伊井野、乱暴した」
「い、いえ……こちらも……で、でも!これからは気を付けてくださいね!!」
伊井野はそう言って逃げるようにこの場を後にする。大仏は少しだけ残っていた。
「伊井野のメンタルがやばそうだったらケア頼む。厄介ごとを押し付けて悪い」
「大丈夫ですよ。今に始まったことじゃないですし」
大仏もそう言って、教室を出ていった。
「……珍しいね、こういうので反発するなんて」
愛がハグの状態を維持したままそういう。少し体勢に疲れたのか、顎をオレの肩に置いた。愛の頭の重量がオレの肩に残る。
「……なんだろうな、あと少しで何かがわかるような気がした。それを邪魔されたのだから……まあ、当然だろう」
「……」
愛は黙り、数秒してから答えた。
「……そっか」
その声は、不思議と安堵したような、成長した子供に向けるような声をしていた。
少しのトラブルの後、オレたちはかぐや様のもとに向かう。とはいっても、生徒会室には入らず、その扉の前に待機していた。
待機してから数秒、かぐや様が出てくる。そして、その直後に生徒会室の扉に背を預けて座り込んだ。
顔は赤く、どきどきとしたことが表情から読み取れる。どうやらちゃんと白銀に渡すことが出来たようだ。
今日はちょっとしたお祝いだな。
――と、思っていたが、かぐや様はどうやら白銀に渡す前に正気に戻ったようで、ケーキから一切れ分だけ取り分けたらしい。つまり、ケーキは生徒会室にあるという事で……。
オレと愛は、夜の内に秀智院の生徒会室に忍び込んで、ケーキを回収。そして、ケーキは主にオレと愛で美味しくいただいた。
「美味しいけど…これ、何百キロカロリーだろ……」
「オレは下の二段食うから、二人で最上部食べて……」
オレの体重は増えなかった。
誤字、矛盾あったら報告よろしくです!
テストつらいよ……