少年は愛したい   作:よヨ余

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評価感想などよろしくです!


少年は割とガチで止めたい/少年は描きたい

「お見舞い、花火大会、誕生日、月見。これだけイベントがあって進展がないってどういうことですか」

 

 愛はタブレット端末を操作しながら、かぐや様に物申す。かぐや様はぐうの音も出ないようで、少し顔を俯かせた。

 

 オレが知らないイベントは月見だが、どうやら十五夜に白銀主導で月見を行ったようだ。曰く、白銀以外は花より団子状態だったようだが。

 

 そう言えば、あの日は星がかなりキレイに見えた気がするな。

 

「もう生徒会も解散なのにどうするんですか。あーもう本当にダメダメですね。どうしてここまで下手を打てるんでしょうか」

 

 愛の容赦の欠片もない言葉にかぐや様は体をプルプルと震わせる。悔しいのだろう。

 

「――じゃあ何、早坂だったら会長を落とせるって言うの?」

 

「まあ、恐らく

 

 かぐや様は愛のこの言葉にカチンときたようだ。表情が物語っている。

 

「ですがやりたいとは――」

 

「言ったわね!じゃあやってみなさいよ!」

 

 かぐや様は怒りで周りが見えていないようだ。愛の言葉も聞こえていないようで、愛の話を聞かずに言葉を紡ぎ続ける。

 

「私にかかればどんな男もイチコロって言うなら、会長を1日で落としてみなさいよ!!」

 

「イチコロとは言ってないです。あとやりたいとも――」

 

「他人事だと思って簡単に言ってくれますけどね!」

 

「イチコロとは言ってないです」

 

「実際やってみれば私の苦労も判るってものですよ!」

 

「イチコロとは言ってないですよ」

 

 話が成立していないな。どうやら重症らしい。

 

「口では幾らでも言えますからね。大言壮語も程々にして欲しいわ!!」

 

 大言壮語。この言葉によって愛も怒りに支配されてしまったようだ。

 

「…………かぐや様がやれって言うなら、やりますよ」

 

「……やれるものなら、やってみればいいわ」

 

 どうやら、白銀を落とすという方向性で話はまとまってしまったようだ。

 

 オレは白銀と愛がくっついてしまった時を想像する。白銀がかぐや様を好いているのは知っているし、多分揺るがないと思うが、かぐや様が色々やらかして、それを白銀に推測されている現状、万が一があるかもしれないのだ。

 

(ん……)

 

 少し、胸にしこりがあるような錯覚を覚えた。

 

(愛のプライドには悪いが、失敗してほしいな)

 

 オレは、恐らくすぐに来るであろう運命の日を思ってため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 そして時と場所は変わって書店。

 

 白銀は目的の本を買ってレジに並ぶところだった。

 

「並んでんなぁ」

 

 そうため息を吐く白銀の肩をたたく存在が現れた。たたくと言っても力は弱く、ポンとたたいて存在を示すための行動だ。

 

「あ~やっぱり白銀くんだ~!」

 

「あ……えっと、たしか四宮の所のメイドさんの……スミシー・A・ハーサカさん?」

 

「ピンポーン!よかった、覚えててくれたんだ~!」

 

 その存在とは、もちろん早坂 愛。白銀が四宮のお見舞いに行った時の『スミシー・A・ハーサカ』として接触を図ったのだ。流石に『校内擬態 早坂 愛』として接触すると後々面倒があるからだ。

 

 ちなみに愛華と四宮は変装してすぐ近くにいる。愛華に至っては基本的に嫌がる女装もするという徹底ぶりだった。

 

「いや前の時と雰囲気が大分違うから一瞬わからなかった」

 

「あははっ、今日はオフだもん。いつもあんなに肩肘張ってたら疲れちゃうよ~」

 

「ああ、そうだよな……」

 

 楽しそうに談笑する二人に、監視している二人はそれぞれの考えを巡らせていた。

 

(上手いわね……レジの列で話しかけられたら逃げようがないもの……確かに早坂にはテクニックがあるようです。だとしてもあの会長を落とすなんて絶対に出来っこない!!心配するだけ無駄でしょう)

 

 一人は、けしかけた張本人。彼女は今の現状を面白く思っていないものの、終わりよければすべて良しの精神で何とか平静を保っている。

 

(あんな愛初めて見たな……可愛い。でも、いつもの方がいいな……あっちは素だし、基本的にオレにだけ見せるものだし……でも、いい機会だからちゃんと目に焼き付けとこ)

 

 もう一人は、普段とはかなり違う早坂の姿にドギマギする女装男子。表に出ないとはいえ、はたから見れば彼の感情ははっきりとしていて分かりやすいものなのに、なんのプライドなのか知らないが分かっていないふりをしている。怖いだけなのか、なんなのか。答えが見つかるのはもう少しだけ時間がかかるだろう。

 

「かぐや様から聞いていたけど、本当に勉強熱心なんだね」

 

「いや、そんなでもない……」

 

 どうやら白銀は『学校以外でも四宮が自分のことを話している』という事実を認識していないらしい。もったいない。

 

「それに比べて私が買う本は俗っぽくて恥ずかしいなぁ。参考書の一つでも買っとけばよかったよ」

 

「PCが好きなんですか?」

 

「いやー、ノートPCが欲しいんだけど、どれ買えばいいかわからなくって」

 

 愛が持っている本は、『PCと人生』という月間の雑誌。ちなみに無知を装っているが、彼女は休日で小型のパソコンを組み上げるくらいには機械に詳しい。もはや趣味の次元を超えているとすら考えることが出来る。

 

「あっそうだ!こういうのって男子の方が詳しいよね!白銀くん選んでよ!」

 

 教えて作戦!

 

 片付けをしない子供に『片付けなさい』ではなく『どこに片付けるの?』と質問形式で指示すれば、子供は親に『教え』ながら片付けをする!

 

 人間の本能的な教えたがりの心理を巧みに利用する愛!

 

(上手っ)

 

 愛華も思わず嘆息してしまった。白銀を落とす以上、愛と白銀は会話をする必要がある。もちろんそれ抜きにして外見で落とすといった戦法も採ることはできるが、白銀はそれで落とすことは難しいだろうと思えた。それは、四宮から話を聞いているだけの愛でもよくわかる。

 

 だからこそ、会話をするためにそれを切り出すためのきっかけが必要。そのための『教えてもらう』だ。あくまでも口実。

 愛は休日で機械をいじるほどの人間だと知らない白銀にとって、これは大きな効果を及ぼす。しかも、白銀は頼られたら断ることがあまりできない。それはプライドからもそうだが、もともとの彼の性分によるものだ。

 

「ていうかハーサカさん、その制服…」

 

「うん、うちフィリス女学院。高2でタメだよ。四宮さんの所にはOBの紹介でね。人手が足りないときにバイトでメイドやってるんだぁ」

 

 四宮が愛の言葉を聞いて顔をしかめる。『よくもまあ顔色一つ変えずに大嘘連発できますね』といった感じだ。実際、彼女は幼少期から住み込みで働いている生粋の使用人だし、通っている学園も秀智院。ウソばっかだった。

 

「それで~今まで親のPC借りてたんだけど、やっとバイト代貯まったから自分のPCが欲しくて」

 

(親に頼らず欲しいものはバイトで買う。偉いな!)

 

 白銀は微笑んでそう思う。外野からは詳しい心の声を感じることはできないが、その表情から四宮と愛華はなんとなく察してしまった。

 

(あれ?もしかして万が一ある?)

 

 愛華は愛の上手な立ち回りと、白銀の好反応に息を呑んだ。

 

「で、PCでどんな事するんだ?」

 

「ん~レポートの作成とかが出来れば良いんだけど……あ!動画は見たい!動物の動画とか超見ちゃうよね!猫とかさ」

 

(猫…良いよな。わかる)

 

 白銀はまたもや愛の言葉を信じたようだ。

 

 本来の彼女は物をプレス機で潰すような動画を見ているというのに。

 その上、猫は嫌いだし。以前に猫に傷つけられた過去があるためだ。そのせいで四宮と愛華も猫を嫌っている。愛華は特に。

 

「まあ最近のパソコンなら大体動画は何でも観れると思うぞ」

 

「あ!よかった!じゃあデザインで選んじゃお~!」

 

 どうやらPCの話題は終わったようだ。

 四宮はそのことに安堵する。会話が尽きた以上白銀を落とす行動をとることは至難。ゲームセットだと思われた。

 

 その判断は早計である。

 

 愛は白銀に勉強を教えてもらっていた。

 

 勉強を教えるという行為は白銀にとって得意分野になる。勉強が得意な人が全員教えるのも得意と言う方程式は成り立たないが、白銀は人より努力を続けたことによる成績なので、教える行為に関して優れている。

 その上、彼の言語能力など、基本的な能力は人より優れている。それは彼が勉学以外でも必死に取り繕うために努力を重ねたことから来ている。広い分野で努力を重ね、『出来ない』を『出来る』にした経験が人よりも多いため、脳が成長しているのだ。

 

 愛はその中で白銀と自分の行動を共通のものにした。一日に10時間勉強しているという言葉も白銀は信じてしまう。

 

 その中で、愛は眠ってしまった。もちろん狸寝入りだ。彼女は薄目で白銀の様子をチラチラと伺っている。

 

「かぐや様。オレ、これ以上見たくないですよ」

 

 愛華は四宮に物申す。この作戦を行うことが決まった時は何も言っていなかったが、愛が眠ったことで進展がしばらくなくなるから、四宮と会話するだけの時間が出来たのだ。

 

「私も、少し嫌な予感がしたから見たくないわね……」

 

「止めていいですか?」

 

「私は止められないからあなた次第だけど……」

 

 四宮は一度発言した内容を撤回することはほとんどない。もはやないと言ってもよかった。それは、『四宮かぐや』という存在がとても重たいからこそだ。それと、彼女自身のプライドもある。

 だからこそ、彼女は止めることが出来ない。

 

「でも、少しいいかしら」

 

「…何でしょう」

 

 愛華が動こうとしたときに四宮は止めた。愛華は少しだけ疑問に思いながらも四宮と会話を始めようとする。

 

「どうして止めたいのか、聞いてもいい?」

 

 四宮は少しだけわくわくしながら聞いた。愛華はその感情の出所がわからなかったので戸惑うが、思ったことを伝えることにする。

 

「白銀に愛を取られる可能性があることが、嫌です」

 

「行ってきなさい!」

 

 四宮は愛華の言葉に驚き、それでいて喜びながら愛華に許可を出した。

 

 愛華はその言葉を受けて着替えができる場所に移動する。5分ほど頂戴してから愛のもとに戻った。

 

「あーちゃん、ここにいたんだ」

 

「アランさん」

 

「あら、会長さん。お見舞い以来ですね、お久しぶりです。あーちゃんのこと、ありがとうございました。お時間を取らせて申し訳ございません」

 

「い、いえ……」

 

 愛華はアラン・A・ハーサカ(私服バージョン)にて白銀と相対する。

 

「あーちゃん、起きれる?」

 

 愛華は愛にそう問いかける。起きてることは知っているが、白銀が目の前にいるが故の言葉だった。

 肩を揺さぶるも、愛はなかなか起きない。

 

(抱っこしろってか)

 

 愛華は心の中でため息をつき、愛の荷物を片付ける。幸いその荷物は肩にかけることが出来るタイプだったので、バックを肩にかけてから愛をお姫様抱っこした。

 

「それでは、私たちはこれで。よい休日をお過ごしください」

 

「ええ、ありがとうございます…?」

 

 白銀は何と言えばいいのか分からなかったためにどもった声を出してしまう。愛華はその言葉を背に店を出て行った。

 

 店を出て白銀から愛華たちの姿が見えなくなってから、愛華は愛を降ろした。

 

「……なんで止めたの」

 

 愛は少しだけ不満そうに、それでいて期待したように聞く。

 

 愛華は愛の心境を正しく把握しつつも、素知らぬ顔で答えた。

 

「万が一を警戒したんだ。白銀が了承したら愛が取られるだろう。それは嫌だった」

 

 愛はその言葉にギョッとし、それでいて嬉しそうな表情をする。

 

「……それは、本音?」

 

「…ああ、作戦の話をしているときも、胸にしこりがあるような錯覚を覚えた」

 

「……そっか!」

 

 愛はとても上機嫌になってそう言う。

 

 愛のプライドや四宮の恋路をかけた話が、どうやら愛華の本音を引き出すための土台になってしまったようだ。

 

 

 未だ、全てを晒したわけではないが。

 

 

「…帰ろっか」

 

 そう言って、三人は帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 生徒会も解散し、愛華は生徒会に足を運ぶことが無くなった。

 

 白銀は生徒会選挙のために行動をしているが、愛華がそれを手伝うことは未だない。恐らく手伝わないだろう。白銀が生徒会長になることはほぼ既定路線だからだ。

 

 ただ、それは白銀との接点が無くなったというわけではない。そもそもが友人の関係と言うのもあるが、クラスは違えど授業で関わることがあるからだ。

 

 選択授業!

 

 秀智院の選択授業は、『情報、音楽、美術、書道』で構成され、各人が選択する。クラス内で異なる選択授業となり人数が足りなくなるため、他クラスとも関わるのだ。

 

 ちなみに例のごとく白銀と四宮は同じになろうと画策していたりする。

 

「えー今日は最初の授業という事で、遊び感覚で美術に親しんでもらえたらと。出席番号が近い二人で似顔絵を描き合ってもらおうかな」

 

 

 美術の先生の言葉で、ペア分けが始まる。

 

 愛華のペアは……

 

 本日は欠席です。

 

「早坂は他の奴らと混ざってもらって構わない。そうだな……近いから藤原の所でいいんじゃないか」

 

「りょーかいです」

 

 愛華は先生の指示を受けて動く。

 

「と、いうわけだから、混ざるぞ」

 

「分かりました!となると、誰が誰を書けばいいでしょう……?」

 

「時計回りでいいだろう。時間が無くなっちゃう」

 

 愛華の提案は採用され、愛華が藤原を、藤原が愛を、愛が愛華を描くことになった。

 

 しばらくは無言の時間が続き、まず最初に書き終わったのは愛華だった。

 

「終わり」

 

 そう言って愛華は書き物を置く。僅か7分ほどでの出来事だった。

 

「早いですね~!でも、私も終わりそうです!」

 

「へー、どんなのか見てみてもいい?」

 

「もちろんです!ぜひ見てください!」

 

 愛華は藤原の了承を受けて顔を覗き込ませる。

 

「――オイ」

 

 愛華の低い声を聞いて藤原だけでなく、愛も驚きを表に出す。

 

「こりゃ、どういうことだ?」

 

 愛華は藤原が描いている用紙を反転させ、愛の方に向ける。

 

「う――っわ」

 

 愛も思わずといった具合に反応してしまった。

 

 その絵は、もはや女児が描いたかのような絵だった。いや、確かによくよく見ればこの絵が愛を表していることはよくわかるし、全く的外れではない。

 ただ、美術の授業で描くものとしては適していないだろう。

 

「えと…早坂くん?」

 

 戸惑う藤原に、愛華は容赦の欠片もなく淡々と言葉を連ねた。

 

「あのな藤原。愛はもっと可愛い綺麗なんだよ。こんな幼稚園児が描いたような絵で表すことなんて到底できないし、しちゃいけないんだ。愛がしっかり手入れしている髪と肌の質感も、宝石のように輝いている瞳も表現できていないし。絶対愛の事見ずに描いただろ?あとお前、似顔絵なのになんではやさまで書いているんだ?多分だけどはやさかさんって書こうとしてるよな?趣旨ズレてるぞ。まさかとは思うが、『私も終わりそう』ってこれのこと言ってないよな?」

 

 多分今までで一番長い言葉だった。

 

「なんでわかるんですか!?」

 

「出直してこい。論外だ」

 

「早坂くんが石上くんみたいなこと言う……」

 

「これに関しては藤原に責があるように思うが?」

 

 愛華と藤原が言い争い(藤原が言い返せていないことは重々承知の上)をしている間、愛は顔を下に向けて俯いていた。顔はキャンパスで隠している。

 

(……可愛いって言われた……綺麗って言われた)

 

 顔を赤らめながら、愛は愛華の言葉を反芻する。顔はニヤけていないだろうかと不安になるが、そこは普段から演技をしているプロ。あまり苦も無く取り繕うことに成功した。

 

 そんな愛のことも知らず、藤原と愛華の言い合いは続く。

 

「そんなに言うなら、早坂くんも書いてくださいよ!!」

 

「……まあ、暇だからいいが」

 

 愛華は藤原の文句を受け止め、愛を描くことに集中する。

 とは言っても、改めて愛の顔を凝視する必要はない。普段から見ているからだ。

 

 藤原は顔をちょくちょく見ながら描いていたので7分使ったが、愛の場合は4分程で描き終えることが出来た。

 

「ほら」

 

 愛華はそう言って描いた作品を二人に見せる。

 

「おー!上手ですねー!」

 

「藤原に言われても嬉しくはないかも」

 

「なんでですか!?早坂さん、早坂くんの絵上手ですよね!?」

 

 藤原に冷たい言葉を浴びせる愛華。ただ、誤解されるかもしれないが、愛華は藤原を嫌っているわけではない。確かに四宮の告らせ作戦を悉く破壊していくその姿には殺意を覚えることもあるが、基本的には仲のいい女子生徒という認識だ。

 ただ、「愛のこと描くんだからどうせなら上手く描けよ」という、しょうもない嫉妬から冷たくなってしまっているだけだ。

 

「うん…上手」

 

 愛は少しだけしどろもどろになりながらそう言った。

 

 そして続けて言葉を紡ぐ。

 

「これ…もらってもいい?」

 

「良いんじゃないか?別にオレの課題ではないから提出するわけでもない」

 

 少しだけズレた発言をする愛華の言葉に、藤原は思わずツッコミを入れた。

 

「多分そういう事じゃないと思いますよ……」

 

「……?どういう事なんだ?」

 

「ぷぷぷー。絵は上手ですけどこの面に関しては下手ですね~」

 

「……?」

 

 愛華は藤原の言葉の真意が理解できなかったが、特に意味はないだろうとして考えるのをやめた。

 

「早坂くん、ちょっと…」

 

「どうした柏木……ホントにどうした」

 

 柏木が愛華の袖口を掴んで引っ張った。

 

 その動作を見て愛の目がを見るような目に変わったが、誰もそれに気づくことはなかった。

 

 愛華は柏木の様子を見て本当に何があったのかと驚愕する。明らかに普通でない様子だったからだ。

 

「見て……」

 

 柏木が指をさした先は、白銀と四宮のペアだった。

 

「二人がどうか――」

 

 愛華はそう言いながら二人の姿を見る。

 

 柏木が愛華を呼んだ理由が、すぐにわかってしまった。

 

 白銀は、自身が描いた絵を見て自分の力量不足を嘆いている。

 四宮は、自分が描いた絵を見てその絵の格好良さに見とれている。

 

(あー、そういう感じね)

 

 白銀は、芸術家気質である。星や花を愛でるような感性豊かな男子であるため、そんな自分が描いた絵にも厳しい評価を与えるのは当然だろう。完璧主義ともいえた。

 簡単に言うと、『どうして俺は可愛いものを可愛く描けないんだ』というものだろう。

 

 四宮は四宮で複雑だ。

 愛華は四宮の絵を見てみた。目と鼻筋はかなりよく描けているのだが、それ以外が壊滅的……ただ、それは意図したものだろうと認識できた。

 これがかっこいい?と愛華は思ったが、四宮の感性は彼女にしかわからないのでツッコむのをやめた。

 

「あ……愛華、どうすればいいのかしら……?」

 

「最初にかぐや様がどう描いたのかは知りませんが、もっとかっこよく描いてもいいと思いますよ。白銀は芸術関係へのこだわりが強い節があるので、かぐや様が描いたものをおちょくるようなことはしませんし、頭脳戦に持っていくこともしません。純粋に喜んでくれると思います」

 

「背景に花は……?」

 

「描いてもいいですけど、多分後悔しますよ」

 

 愛華は四宮の相談に真摯に乗った。流石に人目があるので小声での会話だ。聞かれる心配があるのは柏木と白銀くらいだが、二人は二人で何やら話しているので問題ない。

 

 白銀が自身の無能を嘆いていた。全くもって無能ではないのだが。

 

「早坂。お前絵上手だったよな?この絵を見てどんな改善点があるか見てほしい」

 

 白銀が愛華に自身の描いた四宮の似顔絵を手渡す。愛華はそれを一瞥したのち、白銀が描いた跡であろう紙を何枚か見た。

 

 最初に描いたであろう絵は正直に言うとだろう。ただ、それは下手というわけではなく、四宮の可愛らしさなどは表すことが出来ている。事実、柏木もその絵を「可愛く描けてるね」という評価を下していた。

 愛華も十分に及第点を下すだろう。

 

 藤原のせいで感覚がマヒしている可能性もあるが。

 

 ただ、白銀が妥協しない男である以上、この絵で満足できないのは道理。彼らしいと言えた。

 

 それはそれで恋愛頭脳戦はどうしたって感じなのだが。

 

 それよりもツッコミどころは……

 

(上手くなり過ぎじゃね?)

 

 そう。白銀が描いた四宮の似顔絵はせいぜいが10~20枚。まあこれもこれでおかしいのだが。

 だとしてもその程度の枚数では指数関数を思わせるような上達の仕方をするわけがないのだ。その道のプロと言うわけではない愛華でも、その程度のことはわかる。

 

(恋愛ってすごいなー)

 

 愛華は半ば思考放棄して白銀を称賛した。もちろんこれを表に出すことはない。

 

「……そうだな。お前が感じたままに描けばいいんじゃないか?オレはこれにアドバイスとかできない」

 

「クッ…難しいことを……それをやったとしても満足できんのだ!」

 

「ほお?それはなんで」

 

「四宮の魅力を表現しきれていないからだ!」

 

(直球~)

 

 愛華は思わず嘆息した。ここまで本音を吐露できるのならさっさと告白しろよという思いも込められているが。

 

「大変だったな、柏木」

 

「分かってくれる?」

 

 柏木は両手で自分の顔を覆いながらそういう。その顔は羞恥で赤くなっていた。少しの時間とはいえこれを一人で耐えていた彼女には脱帽するものだ。

 

 白銀がまた新しく描いたので、それを見てみた。

 

 また一段と上手になっている。

 

「お前…すごいな」

 

「うん…この短期間で成長してる……」

 

「愛華に言われて改めて描いてみて実感したんだ。絵は心……自分の心の中を…そのまま描けばいいってことにな」

 

「ふっ…ふ―――ん??」

 

 白銀はどこか悟ったようにそう言う。その目はとても純粋で、普段醸し出している目つきの悪さが軽減されていた。

 

 柏木はどこか気恥ずかしい白銀のセリフに赤面する。彼女はこの言葉を真正面から受け止めることが出来るほどピュアではないのだ。

 

「やっぱり題材が良いんだろうな…。美しいものを描くには自分の殻……限界を超える必要がある。俺は今…を描くことに強い(よろこ)びを感じている…」

 

 白銀は四宮の方を見てそういう。明らかに美しいものが四宮を指している。それは外野であり恋愛頭脳戦を知らない柏木からしても簡単にわかった。

 

(こいつ、この後すっげー恥ずかしがるんだろうな)

 

 愛華は近い未来を予測し、白銀のことを哀れに思った。完全に自業自得ではあるのだが。

 

 白銀と四宮がお互いの似顔絵を描いていると、当然対象の顔を見るために視線を向ける。本来ラブコメの類ならば視線があったときにお互いに恥ずかしがって視線を逸らす、という王道展開が待ち受けているのだが、芸術に気を取られている白銀のせいでそれは成立しない。

 

(か…かっこい……)

 

(くっ…やっぱり実物の方が可愛い……)

 

(もうかんべんして!)

 

(柏木かわいそう)

 

 四者四様の思考で混沌する。

 

 愛華は少し四宮の絵が気になったので、断りを入れてからキャンパスを覗き込んだ。

 

「おお、上手ですね」

 

「そ、そう?ちゃんとかっこよく描けてる?」

 

「ええ、さっきに比べたら天地な程に」

 

 愛華は今の四宮の絵と先程の四宮の絵を頭の中で比べてそう言った。恐らく今の彼女の絵は最初に描いた白銀とよく似ているのだろう。

 やはり四宮の才能が光っている。文武両道に芸も追加された完璧人間は伊達ではない。

 

「じゃ、オレ戻るね」

 

「ちょ、まって。私一人じゃ受け止めきれない」

 

 愛華は柏木の声を都合よく聞き流して愛たちのもとへと生還した。

 

「柏木さんと何かあったんですかー?」

 

「柏木じゃなくて二人のピュアッピュアな男女がな……」

 

「?」

 

 愛華の抽象的な発言では、恋愛脳の藤原でも詳細は分からなかったようだ。

 

 ただ、愛はその限りではない。柏木に愛華が連れられた時からずっと見ていたからというのもあるが、その先が白銀と四宮のところというのはずっとわかっていたのだ。

 

(柏木さんかわいそう)

 

 似た者同士の二人であった。

 

「あっそうだ!早坂さんのこと描き直してみたんですよ~!」

 

「ほう?嫌な予感しかしないが……」

 

ぶん殴りますよ?

 

「前科持ちのくせに言うじゃないか」

 

 藤原が愛華にキャンパスを手渡す間にそんな会話を挟み、愛華はキャンパスを見る。

 

 確かに、そこには愛の可愛らしい姿が描かれており、同一人物が描いたとは思えなかった。

 

「……及第点」

 

「こんなに可愛く描けたのに!?」

 

「いや、愛はもっと可愛いから」

 

 先程と同じ愛華の発言に、愛は同じように顔を俯かせて赤らめた。

 

「早坂さん!よかったですね!」

 

「……うん」

 

 藤原が愛華に聞こえないように愛の耳に顔を近づけてそう言った。愛はぼそりと返答し、愛華に言葉を悟らせない。

 

「ところで、愛はオレの事描いてくれたのか?」

 

「あ……うん。見る?」

 

「見たい」

 

 愛華の即答を聞いて愛はすぐにキャンパスを手渡した。

 

 そこには、何故か花に囲まれた愛華の姿が。

 

「―――あっ」

 

 愛は遅れてから気付く。いつの間にか描いてしまったラベンダーの花を消し忘れていたのだ。

 

「ごっごめん……!」

 

 愛は奪い取るようにキャンパスを愛華の手から手放させた。そして、消しゴムで乱雑にラベンダーの花を消していく。

 

(愛……)

 

 愛華は、しっかりと目に焼き付けてしまった愛の絵を見て、思考の海に落ちて行く。

 

(……ごめんな)

 

 それは、何に対する謝罪なのだろうか。

 

 愛が恥ずかしがってしまう状態だというのに、愛の絵を見てしまったことだろうか。

 

 それとも、sohs,syyrlitryrotiypoimpmolpysrtilohsmsoことだろうか。

 

 ――真意を正しく理解しているのは、本人に他ならないだろう。

 

 




 どんな話だろうと最後にシリアスが混ざる……なぜ?


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