Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 作:ローレンシウ
(練達の魔術師よ、我が剣でその首貰い受けるぞ!)
タバサらの背後に迫る姿なき凶手の正体は、《エーテル化(イセリアルネス)》の能力によってエーテル状態になったナイトメアと、その忠実な愛騎の背に跨る地獄の騎士ナルズゴンであった。
他の者たちは、事前に瞬間移動によって立ち位置を変えていた者も含めて全員が荒れ狂う竜巻に呑み込まれてしまったが、竜巻が発生する直前に物質界と並存するエーテル界へ移動していた彼らだけはその影響を受けなかったのだ。
他の者たちはみな敵に翻弄されるばかりの状態になってしまい、戦況は既に敗色が濃厚だったが、忠烈果敢なナルズゴンには退却という選択肢はなかった。
『一足飛びに奴の背に斬り付けられる距離まで移動したところで、物質界へ戻れ。共に攻撃を加えて、反撃の暇を与えずにあのか細い体を貫いてくれようぞ』
頼れる愛騎に、そう命令を下す。
特に知識を誇るタイプのデヴィルでもないナルズゴンには今起こっている事態が完全に把握できているわけではなかったが、どうあれあのドラゴンに跨った魔術師がこの竜巻を起こしている張本人なのは間違いないと思えた。
ならば、自分が今ここでこやつの息の根を止めれば、他の者たちを解放できるかもしれない。
他に現状を打開する方策も思いつかない以上、忠実な兵はそれを成すのみである。
だが、そんな彼らの前に『眠れる者』が立ち塞がった。
「フィーンドどもよ、姿を現すがいい。お前たちがそこにいるのはわかっているぞ」
常に《真実の目(トゥルー・シーイング)》の魔力を帯びている彼の目には、エーテル界に存在する者の姿もはっきりと見えているのだ。
奇襲の目論見が破れたと知ったナルズゴンはしかし、さしたる狼狽も見せずに素直に物質界へ戻った。
「よかろう。相手を所望なら、貴様の首から先に叩き落としてくれる!」
剣を掲げて軽く一礼しながらそう宣言すると、速やかに目の前の天使に向けて斬りかかっていく。
彼の忠実な乗騎も、鼻腔から噴煙を噴き出し、燃え上がる蹄を振り上げて、恐れた様子も見せずに主と共に突撃していった。
しかし、突撃を迎え撃った『眠れる者』はナイトメアの蹄を難なくかわし、ナルズゴンの振り下ろした剣も己の大剣で軽く弾き返すと、馬上の騎士の懐へ飛び込んでその胸板へ叩きつけるように大剣を振るった。
ナルズゴンは咄嗟にわずかに身を引くことでかろうじて致命傷を避けたが、棘だらけの鎧が光り輝く刃によって紙のように裂かれ、どす黒い血が溢れ出す。
「ぐぅっ……!」
剣では勝てぬと判断したナルズゴンは、咄嗟に武器を持っていないほうの手を突き出した。
普通の人間ならば一舐めで瞬時に黒焦げにする《灼熱の光線(スコーチング・レイ)》が二条、その掌から至近の敵に向けて立て続けに放たれる。
だが、熱線は彼のエメラルド色の肌に触れることさえできず、その身を包む防御のオーラによって水のように受け流されてしまった。
にもかかわらず、『眠れる者』は顔をしかめた。
突然どこからともなく濃密な霧が発生して、周囲を覆ったのだ。
もちろん、いくら中央の“目”の部分は風が穏やかだとは言っても、すぐ周囲に竜巻が荒れ狂っているような状況で突然に濃霧が発生するなど自然現象ではありえないことだろう。
(これは、《濃霧(フォッグ・クラウド)》の呪文か?)
だが、目の前のフィーンドたちが何かした様子はなかった。
では一体、誰が発生させたのか……。
「……む」
予想外の事態に気を取られて注意が散漫になったことと、霧によって視界がぼやけたこととのために、回避が遅れる。
ナイトメアの燃え盛る蹄が彼の頬をかすめ、ルビーのように輝く鮮血が滴った。
タバサもまた、突然周囲が濃密な霧に覆われたことに戸惑っていた。
(これは、敵の攻撃?)
だとすれば、毒が含まれている可能性もある。
そうなると、なるべく吸い込まないように気を付けながら、早く風で吹き払ってしまわなくては。
タバサがそう考えて杖を握り直し、風を吹かせる呪文を唱えようとした、次の瞬間。
「……!?」
彼女は突然周囲に不自然な空気の流れを感受して、大きく目を見開いた。
「エ……?」
ほぼ同時に、ディーキンも異変に気が付く。
それまではタバサの他に誰もいなかったはずの自分の背の上、彼女のすぐ背後の空間に、別の気配が唐突に現れたのである。
(もらったぞ、小賢しいメイジが!)
周囲に霧を満たして『眠れる者』らの視界を奪い、その後瞬間移動によってタバサの背後を取ったのは、まるで影から削り出されたような黒く朧な人影であった。
ドガイと呼ばれる、バートルきっての暗殺者デヴィルである。
件の『ヘクサゴン・スペル』を使った王族二人がまた出てくることを想定して、奇襲をかけるために待機していたのだ。
彼らの呪文の完成を妨げ、暗殺し、その屍を“蘇生”させて利用するために。
残念ながらその予想は外れたものの、他のデヴィルらから距離を置いて隠れ潜んでいたのが幸いして竜巻に巻き込まれずに済み、こうして襲撃をかける機会を窺っていたというわけである。
(まあ、あのナルズゴンと二人がかりで挟撃できるのが理想的だったがな……)
とはいえ所詮は下級デヴィル、邪魔立てされぬようセレスチャルを引き付けられただけでも上出来だろう。
今頃はもう死んでいるかもしれぬが、自分の知ったことではない。
今更このメイジを討ち取ったところでこの戦いに勝てるかどうかは怪しいとは思うが、それも知ったことではない。
そんなことは前線指揮官のオルニガザールや、あの総司令官の不手際だ。
あくまでも暗殺者である自分は、こいつの屍を持ち帰りさえすればそれで十分である。
別に一人でも、こうして瞬間移動で瞬時に背後を取り、呪文を唱える間を与えずに刺し殺してしまえば問題はない。
ろくな防具も身にまとっていなメイジの命など、不意の一撃で抉り取れるだろう。
乗騎のドラゴンも自分の背に乗っている者を払い落とすには手間取るだろうから、襲われる前に屍を抱えてさっさと離脱してしまえばよいのだ。
ドガイは一息に心臓を串刺しにせんと、タバサの背後から冷たい鉄製の長剣で突きかかった。
(……うっ!?)
しかし、急速に間合いを詰めて心臓に刃を食い込ませようとした瞬間、それまでは自身の発生させた濃霧によって緩和されていた、タバサが身にまとう鎧状の光輝によって目が眩んだ。
この戦いに臨む前に城内のウルシナルが施してくれた《輝く鎧(ルーマナス・アーマー)》の効果である。
加えて、空気の流れの変化を鋭敏に捉えるタバサはドガイが背後に現れた直後にその存在に気付き、背後から刃が迫ってくるのを感じて、咄嗟に倒れこむようにして身をかがめていた。
そのため、突き出した刃は彼女の背をわずかにかすめただけで急所を外れる。
(ちっ。だが……)
紙一重で致命傷を避けられたとしても、刃には必殺を期すために強力なデスブレード毒が塗ってある。
ひとかすりでもすれば、定命の存在にとっては致命的なはずだ。
「……なに?」
しかし、あと一撃追撃をかけて確実なとどめを刺そうとドガイが刃を返したその時、タバサが体を捩るようにして彼のほうに顔を向けた。
毒による耐え難い苦痛に苛まれている様子も死の影が迫っている様子も微塵もない、平然とした表情と冷たい眼差しをしている。
「ラナ・デル・ウィンデ」
タバサは苦痛によって集中を乱すこともなく、速やかに使用する呪文を切り替えて詠唱を終えると、杖をドガイの胸に押し付けるようにして『エア・ハンマー』を叩き込んだ。
「ぐぅ……!」
至近距離からの強烈な衝撃に、ドガイはたまらず吹き飛ばされて、ドラゴンの背から地面に落ちる。
急いで立ち上がろうとしながらはっとして顔を上げると、目の奥に怒りの炎を燃やしながら自分を見下ろしているドラゴンの姿が目に入った。
「ぐぼっ!?」
瞬間移動で逃れる暇もなかった。
横合いから振るわれた丸太のような太い尻尾の一撃によってドガイは周囲に渦巻く竜巻の中まで吹っ飛ばされ、暴風に巻き上げられて姿を消す。
『タバサ、大丈夫? 怪我してない?』
心配そうなディーキンの呼びかけに、タバサは即答した。
『平気。かすっただけ』
刃が背中をかすめたときに鋭い痛みはあったし、それなりに派手に血も出たようだったが、決して深手ではないのは経験からわかる。
おそらく傷自体は皮一枚切れた程度だろう、戦いが終わってから手当てをすればそれで十分だ。
『ごめんなの。もうちょっと早く、何とかできればよかったんだけど……』
『違う、あなたのおかげで助かった』
自分が今の攻撃で深手を負わなかったのは、明らかにレコン・キスタ軍の攻撃が始まる前に彼の用意してくれた《英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》を食べて、その恩恵を受けていたおかげだ。
おかげで刃に塗られていた毒(タバサはドガイを吹き飛ばす直前に、その剣に何らかの毒物らしき液体が塗布されているのを見た)は効果がなかったし、ダメージもそれによって得た一時的ヒット・ポイントによって大半が相殺されたのだから。
もちろん、それ以外にも城内のセレスチャルたちからいくつかバフをかけてもらっていたおかげもあるが、それらの仲間たちが今この場にいるのも、元はといえば彼の力によるものである。
(この人に助けられたのは、これで何回目だろうか)
タバサはしかし、ともすれば感傷に浸りそうになる気持ちを努めて抑えて小さく首を振ると、周囲を確認した。
まだ、戦いは終わっていない。
他にも伏兵はいるかもしれないし、竜巻の中から敵が抜けだして襲ってこないとも限らない。
しかし、特に問題となりそうなことは見当たらなかった。
タバサがあらためて風を起こして霧を吹き払ってみると、少し離れた場所にナルズゴンとナイトメアの屍が転がり、その傍に『眠れる者』が立っているのが見えた。
彼は頬に浅手を負っているようだが、大したことはないだろう。
上の方では、光球形態をとったウィルブレースが絶え間なく電撃を放ってデヴィルらを焼き払っているのが見える。
先ほどディーキンに吹っ飛ばされて巻き上げられていったドガイも、早々にとどめを刺されていた。
正面の方では、ゴーレムが氷嵐に苛まれて体を軋ませながら、這いずるようにしてこちらに近づいてくる。
しかし、ゴーレムとこちらとの間には《力場の壁(ウォール・オブ・フォース)》が立ちはだかっているので、真っ直ぐにここまでたどり着くことは不可能だ。
魔法に関する知識などないゴーレムは、おそらく壁にぶつかるとどうにかして壊そうとひたすら殴りつけ、どうしても破壊不可能だとわかってから、やっと迂回しようとするだろう。
だがもちろん、竜巻に打ち倒されて這いずりながらそれだけのことをやり終える遥か前に、氷嵐によって完全に破壊されてしまうはずだ……。
「……、…………!!」
ごうごうと渦巻く竜巻の中で、ル・ウールは頼みのヘルファイアー・ヨルムンガンドに行動変更の指示を与えようと、必死に声を張り上げていた。
壁を迂回するように角度を変えて、もう一度ブレスを吐け。
それから、破壊されないうちにとにかく、この竜巻から脱出しろ……。
だが、それらの言葉は唸りを上げる風音にすべてかき消されてしまい、ゴーレムまではどうやっても届かない。
デヴィルはテレパシーを使うことができるのだが、知性を持たず言語を話せないゴーレムは口頭による命令しか理解できず、テレパシーでは指示を与えられないのだ。
そうこうしている内に、ゴーレムの体は逆巻く氷嵐によってますます軋み、ついには装甲がひび割れて、隙間から眩い白色光と蒸気が噴き出し始めた。
(い、いかん! このままでは……)
ヘルファイアー・ヨルムンガンドは、ベースとなったヘルファイアー・エンジンと同じく、特殊な処理を施した装甲の内部に動力源となる超高エネルギーの地獄の業火を凝縮して閉じ込めている。
その装甲が破壊されてしまえば、内部のエネルギーが一気に噴き出して大爆発を起こすのだ。
巻き込まれれば、ひとたまりもない。
(……こっ、こうなれば、とにかくこの場を脱出するのが先だ!)
上級デヴィルの精神集中力をもってすれば、荒れ狂う竜巻の渦中でも疑似呪文能力を使用することは、やや難しいが不可能というほどではない。
頼みの綱であったゴーレムはもう駄目だし、部下どももまるで役に立たない。
自分自身でも、あのドラゴンやそれに跨ったメイジを篭絡できないものかとどうにか精神を集中させて《怪物魅惑(チャーム・モンスター)》の疑似呪文能力を試したりもしてみたのだが、効果はなかった。
おそらく、精神に作用する効果から身を守るための呪文かアイテムか、何らかの手段を事前に講じてあるのだろう。
もちろんセレスチャルどもには試してみるまでもなく効くはずがないし、誘惑や堕落の術が効かないとあっては自分にできることはほとんどない……。
忌々しいが、この戦いはもう負けだ。
ひとまず敗戦の責任は、想定外のセレスチャルどもの存在と、あとは爆発に巻き込まれて全滅するであろう役立たずの部下どもに、特に前線指揮官のオルニガザールあたりにできる限り負わせられるよう、言い訳を考えておくとして。
あとは、何か少しでも埋め合わせとなる手柄を立てられる、別の方法を探すしかない。
ル・ウールがそう結論し、努めて精神を集中させて、どうにか離れた場所へ瞬間移動しようとしたちょうどその時。
ウィルブレースから放たれた電撃が、彼の体を捕らえた。
「ぐ、ぐあぁぁあぁっ!?」
彼の立場と状況からいってある程度は仕方なかっただろうが、逃走の決断があまりにも遅すぎたのである。
苛烈な電撃が一瞬にして頭の先から爪先まで突き抜けてその体を焼き尽くし、たちまちに意識と命とを刈り取った。
それと同時に、英雄“ル・ウール侯”への偽装が解けて、デヴィルがその本来の姿を現す。
整った容姿であることは変わらないものの、身長は5フィートほどにまで縮み、性別さえ変化していた。
青白い皮膚、赤い髪、黒い目。
背中には革のような黒い翼が生えている、堕天使めいた姿だった。
エリニュス(堕天使)の昇格した存在である、ブラキナ(快楽悪魔、プレジャー・デヴィル)と呼ばれるデヴィルであった。
ウィルブレースはデヴィルの総指揮官が息絶えてその魂がバートルへ送還されていったのを確認すると、その一撃を最後に、ディーキンらの元へ戻っていった。
竜巻の中で息絶えた“ル・ウール侯”……本名は、もはや知りようもないが……の正体は、おそらく離れた場所で見守っているレコン・キスタの兵たちには確認できなかったことだろう。
英雄の名を騙り、上辺の美しさを誇っていた欺瞞に満ちたデヴィル化けの皮を、彼らの目の前で剥がしてやれなかったことは残念だが……。
(しかし、もはやその必要もないだろう)
上空から見ていたウィルブレースには、レコン・キスタの陣地で騒ぎが起こっていることがわかった。
反乱軍に属する人間の将兵たち、少なくともその一部がついに決起して、後方にまだ残っているデヴィルや不死の傀儡たちに対して攻撃を加え始めたのだ。
ホーキンスやボーウッドの説得を受けて改心したのか、それとも自らの意思によってか。
あるいは、件の『烈風』の力に恐れをなしたのか、単にもはや勝ち目はないと見て保身に走っただけなのかもしれない。
理由はさまざまだろうが、いずれにせよ彼らが完全な決着を見る前に自らの意思でデヴィルどもと袂を分かち、それと戦うことを決めてくれただけでも嬉しく思う。
(これで、当面の戦いは終わった)
人間は、ひとまずデヴィルどもを退けたのだ。
・
・
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「ちっ……」
その様子を遥か離れた場所からじっと窺いながら、オルニガザールはいまいましげにカチカチと顎を鳴らした。
竜巻に自軍の兵たちが全員呑まれた時点で彼我の戦力の圧倒的な差を悟った彼は、手遅れになる前に速やかに瞬間移動して戦場の外へ逃れていたのである。
それでも完全には間に合わず、ウィルブレースの電撃を受けて青白い外骨格の一部が醜く黒く焼け爛れ、剥がれ落ちかかっていた。
善の属性を帯びた攻撃でつけられた傷はデヴィルの再生能力をもってしても塞がらず、筋肉が引きつってずきずきと痛む。
「……まあいい。今は祝福しておいてやろう、人間どもよ」
この傷は、敗戦の釈明をする上では自分が確かに戦闘に加わって負傷を顧みずに戦ったのだということ、敵には圧倒的な戦力があってどうにもならなかったのだということの証になってくれるだろう。
その折には、敗戦の主たる責任は総指揮官どのに被ってもらうことにしようか。
別に嘘ではないし、処刑ないしは降格が確定的な無能者がずいぶんと後になってバートルに帰還してから弁明してみたところで信用されまいから、好都合というものだ。
まあ、篭絡専門の素人に指揮をとらせたから負けたのだなどと本気で言う気はない、いかんせん相手が悪かったのは間違いないのだが、責任は転嫁できるところへ押し付けておくに限る。
確かに連中は強かったが、自分がレコン・キスタの本陣営にいる上官の元へ敵の情報を持ち帰れば、対策は立てられよう。
それで失態を帳消しにできるほどではあるまいが、挽回の機会くらいは与えてもらえることだろう。
自分としても、今日の屈辱とこの傷の礼はいずれ、是非ともしてやりたいものだ。
(せいぜい、露の間の勝利に酔い痴れておくことだ)
心の中でそう嘲ると、オルニガザールは事態を報告し、受けた傷を癒すために、戦場を後にした……。
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ウィルブレースが地上にいるディーキンらと合流した、その直後。
ついにヘルファイアー・ヨルムンガンドの強固な装甲が氷嵐に耐えかねて弾け、その内側から眩い閃光が炸裂した。
「………!!」「ギャイィィイン!?」「ヴぢうッ!」
未だ竜巻の中で生存していたわずかなデヴィルやヘルハウンドらも、その白い爆発に呑まれて断末魔の叫びを上げながら、次々に消滅していった。
皮肉にも、彼らの持ち出してきた頼みの新兵器が、彼ら自身を最終的に全滅させることになったわけである。
「お、おおおぉっ!?」
「こ、これは……!?」
デヴィルが、そして天使や『烈風』らが白い閃光に呑まれたのを見て、両軍の兵士たちが目を見開いた。
しかし、その閃光が、そして逆巻く竜巻が消え去ったとき。
そこには、なんら変わらぬ姿で立っている天使、ドラゴン、『烈風』、そして始祖の姿があった。
偽りの“天使”たちも、その恐ろしい戦争兵器も、すべて姿を消していた。
無論、ブリミルは幻影なのでどんな攻撃にも影響は受けないし、ディーキンらは全員《力場の壁》を盾にして地獄の業火の爆発から身を守ったのである。
『……我が子らよ。地上に遺した、愛おしい者たちよ』
ブリミルの幻影が、両軍の兵士たちに重々しく呼びかける。
『誇るがよい。お前たちの勝利だ!』
それに合わせて、タバサが杖を、『眠れる者』が剣を、誇らしげに宙に突き上げた。
ウィルブレースが虹色の輝きをまといながらくるくるとドラゴンの姿をしたディーキンの周りを旋回し、ディーキンは雄々しく翼を広げて天を仰ぐと高らかに咆哮を上げる。
「……う、うおぉぉぉっ!!」
「始祖万歳! アルビオン万歳ッ!」
歓声がどちらの軍からともなく沸き起こり、いつまでもずっと続いた……。
フォッグ・クラウド
Fog Cloud /濃霧
系統:召喚術(創造); 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:中距離(100フィート+術者レベル毎に10フィート)
持続時間:術者レベル毎に10分
術者の指定した地点から濃密な霧が発生し、半径20フィート、高さ20フィートの範囲に拡散する。
霧の中では5フィートよりも遠くにあるものはまったく見えなくなる。
この呪文による霧は軟風なら4ラウンド、疾風なら1ラウンドで拭き散らすことができる。
この呪文は水中では働かない。
ルーマナス・アーマー
Luminous Armor /輝く鎧
系統:防御術; 2レベル成聖呪文
構成要素:犠牲(1d2ポイントの一時的【筋力】ダメージ)
距離:接触
持続時間:術者レベル毎に1時間(解除可)
この呪文はその対象となった者を、フル・プレートの形をしたちらつく光の防御オーラで包む。
対象はブレストプレート相当の利益(AC+5)を得るが、この防御オーラには重量はなく、対象の動きをまったく妨げない。
なお、この呪文の対象は善のクリーチャーでなければならない。
この防御オーラはデイライトの呪文と同等の光を放ち、2レベル以下の[闇]呪文を相殺する。
また、非常に眩しいので、対象に対して行われる近接攻撃は-4のペナルティを受ける。
なお、より上位の4レベルの成聖呪文として、フル・プレート相当の利益(AC+8)を与えるグレーター・ルーマナス・アーマーの呪文がある。
ドガイ(アサシン・デヴィル、暗殺者悪魔):
上級デヴィルの一種。
灰色の肌をした屈強な人間のような体躯をしているが、その顔は赤く輝く小さな目やわずかな鼻の痕跡らしきものがあるだけでのっぺりとしており、白い歯を剥き出しにした邪悪に歪んだ笑みが張り付いている。
瞬間移動能力や霧を発生させる能力、透明化する能力などをもち、疑似視覚によって目で見ずとも獲物の位置を知ることができる。
彼らはバートルの歪んだ法によって公式な処罰を受ける恐れなく他のデヴィルの暗殺を請け負うことが許されている、生来の暗殺者である。
そのような特権をもつ彼らのバートルの階層社会における地位はかなり高く、ゲルゴンやブラキナよりも上であるが、暗殺者であるために他のデヴィルと依頼者や標的以外の関わりをもつことは少なく、下位のデヴィルに命令を下すような立場になることは滅多にない。
暗殺能力に特化していることもあってか地位の高さの割には脅威度は低めで、ブラキナと同値の11である。
アークデヴィルの中でも特に偏執的に用心深いことで知られているディスパテルは、自身の安全のために多くのドガイを配下においているという。
ブラキナ(プレジャー・デヴィル、快楽悪魔):
上級デヴィルの一種。
堕落したセレスチャルの末裔であるエリニュスが昇格し、誘惑者としての能力をより一層伸ばす方向に特化した種族で、高潔なる者を堕落させることをその使命とする。
そのため多くの者は物質界に住み、日常的に変身して正体を隠している。
彼女らは触れただけで獲物の意思を破壊する猛毒を分泌し、疑似呪文能力によって獲物を魅惑し、道徳観を崩壊させ、魂すらも奪うことができる。
性別も種族も関係なく、どんなものでもためらわずに誘惑し、肉体的な快楽を約束することで定命の存在の弱い意思をたやすく挫いて悪に染め上げる専門家である。
ピット・フィーンドやアークデヴィルはブラキナを慰みものとして手に入れては使い捨てるので、彼女らはその主人との肉欲的な関係を避けるためならどんな任務でも喜んで引き受けるという。
脅威度は11だが、バートルの階層社会における身分は脅威度13のゲルゴンよりもひとつ上である。
バートルでは基本的には脅威度が高い強力なデヴィルほど上位の身分なのだが、脅威度5のバルバズゥよりも脅威度2のインプの方が上の階級であるなど、例外はしばしば見受けられる。
戦闘派のデヴィルではないものの、知力が高く交渉やはったり、演技等に長けているので、作中ではその点を買われて“ル・ウール侯”に成りすまし、軍の指揮をとっていた。
ゲルゴン(アイス・デヴィル、氷悪魔):
上級デヴィルの一種。
青白い体色をした二足歩行の昆虫のような姿をしており、身長は約12フィートもある。
全身から弱小な敵を恐慌状態に陥れるオーラを発し、致死的な冷気をまとった鋭い槍や棘だらけの尾の一撃は、傷つけられた者の動きを著しく鈍らせる。
その異様な外見にもかかわらず知力も非常に高く、手にした鋭い槍や棘だらけの尾、力強い顎による打撃に加えて、飛行・瞬間移動・幻影・冷気による障壁や範囲攻撃などの多彩な疑似呪文能力を駆使して戦う。
善の属性を帯びた呪文か武器による攻撃でなければ決して致命傷を負わず、それ以外のいかなる負傷も高速で再生してしまう。
地獄においてもその能力は高く評価されており、彼らが部下を率いる士官以外の役職に就いていることはまずない。
脅威度は13。
ヘルファイアー・エンジン(地獄の業火の機械):
デヴィルによって作られた人造兵器であり、ゴーレムの一種。
あらゆる耐性を無視する高威力の地獄の業火のブレスを吐いて敵を蒸発させ、地獄の業火の熱を帯びた拳で敵を焼きながら粉砕する。
どうにかして破壊したとしても、最後に大爆発を起こして周囲の者を道連れにする。
脅威度は19と、最上級のデヴィルであるピット・フィーンドにも迫るほど高い値である。