Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 作:ローレンシウ
ニューカッスル城最後の、盛大な宴の終わった夜のこと。
タバサは元レコン・キスタの陣地から自分に与えられたニューカッスル城の部屋に戻って、寝台に横たわっていた。
明日はこの城を発つのだから、身体を休めておかなくてはならない。
どのくらい眠ったのか……。
タバサは突然、部屋のドアがノックされたのを感じて、はっとして身体を起こした。
「……誰?」
ノックの主は返事をする代わりに、ゆっくりとドアを開けた。
普段ならすぐに杖を手に取って警戒を怠らないはずなのに、なぜかそうしようという考えが思い浮かばず、代わりにどきどきと胸が高鳴った。
「こんばんはなの」
はたして、部屋の外に立っていたのはディーキンだった。
タバサは反射的に、毛布を引き寄せた。
別に、異種族である彼は、自分の、人間の女性の寝間着姿などを見ても、何とも思わないのだろうけど……。
「……どうしたの?」
そう尋ねると、ディーキンはまたしても言葉で返事をせず、代わりにとことことベッドの傍にやってきた。
そのままぴょんとタバサの近くに飛び乗って、腰を下ろす。
「こんな夜中にお邪魔して、ディーキンは申し訳ないの」
「いい。用事は、なに?」
なにやら得体の知れない期待に胸を震わせながら、タバサは尋ねた。
ディーキンはなぜか、照れたように頬をかきながら話し始める。
「うん。さっきの、ウィルブレースお姉さんの歌はよかったよね。ディーキンはすごく興奮して、目が冴えちゃって……」
なんだそんなことかと、タバサは軽く落胆した。
でも、確かに、彼女の歌は素晴らしかった。
あれがただの作り話ではなく、自分で本当に経験したことだというのだから、尚更感嘆されられる。
グレイ王、スレイ王はもちろんだが、彼女自身も、これまでにたくさんの本で読んだ壮大な叙事詩の中からそのまま出てきたような人物なのだ。
ちょうど今、目の前にいる彼と同じように……。
タバサはそんなことを思いながら、寝ている間外していた眼鏡をかけ直して、ディーキンのほうを見た。
すると、同じように自分のほうをじっと見つめていた彼と目が合った。
どきっとして、反射的に毛布をより強く引き寄せながら、顔を背けてしまう。
ディーキンはほんの少し顔をしかめて、首をかしげた。
「……ンー。もしかして、ディーキンはあんまり、タバサのほうをじろじろ見ちゃいけなかった?」
「別に……、そんなこと、ない」
そう、もちろん彼に対する拒絶の意思などないし、見られることにしても、理性的に嫌ったわけではない。
ただ、なんだか無性に恥ずかしかっただけなのである。
「そうなの? じゃあ、どうして毛布をしっかりつかんでるの。今日は、そんなに寒くないと思うけど……」
「……あんまり、見せるものじゃない。見苦しいから」
少しばかり言い訳がましく、タバサはそう答えた。
慣習上、人間の女性が見苦しい寝間着姿などをむやみに人に見せるものではないというのは嘘ではないが、少し前までの彼女はおよそそんなことを気にしたためしがなかった。
「別に、見苦しくなんかないの。どんな格好でもタバサはきれいだし、寝る時の格好も新鮮でいいと思うの」
ディーキンがにこにこしながらさらりとそう言うと、タバサは表情こそ変わらないものの、かすかに頬を染めた。
そんな彼女の様子に気付いているのかいないのか、彼はそのまま言葉を続ける。
「ねえ、もっとよく見せて?」
タバサは、かあっと頬が熱くなるのを感じた。
「……そんな、こと」
「ダメなの?」
「……」
少し逡巡したものの、彼から上目遣いでじいっと見つめられてそう言われては、とても断れない。
小さく首を振って、おそるおそる、毛布を下に置いた。
元より、冗談ならともかく本気でそう言っているのであれば、自分は彼の頼みを断れるような立場にはないと思っているのだ。
けれど、自分の今着ている寝間着なんて飾り気も色気もない、野暮ったく子供っぽいものでしかない。
中身にしたって、異種族である彼の好みはわからないけれど、人間の女性として見た場合にはとても魅力があるとは思えない。
もう十五歳だというのに、こんなに小さく、やせっぽちで、幼い身体つきをしているのだから。
タバサは恥ずかしいのと、彼の表情を確認したくないのとで、俯いたままそわそわと落ち着かなげに体を揺さぶった。
よく見てみたら、なんだこんなものだったのかと、彼ががっかりしなければいいのだが。
(せめて、服と髪を整えよう)
そう思って、自分の体に手を伸ばしたとき……。
ディーキンがベッドの上で立ち上がって、自分のすぐ前に立った。
はっとして顔を上げて、彼のほうを見る。
ディーキンは自分よりもずっと背丈が低かったが、さすがに寝台に腰を下ろしていると、立ち上がった彼を少し見上げるような形になった。
その目に失望ではなく賞賛の色合いが浮かんでいるのを見て、少し安堵したのもつかの間のこと。
彼の手がすっと、こちらの顔に伸びてくる。
「……何を?」
うろたえるタバサの顔に、ディーキンの手が触れる。
硬い鱗に包まれた冷血動物めいた姿にもかかわらず、その手は火のように熱く感じられた。
実際に熱いのか、それとも自分の錯覚なのだろうか。
「眼鏡を外したところも、よく見せて?」
答える間もなく、ディーキンはタバサの眼鏡にひょいと手をかけて、それを外させた。
「やっぱり、きれいだよ」
「……!」
いつにないディーキンの行動に、タバサはしばし言葉を失って、体を震わせた。
ややあって、少し震える声で呟く。
「……ないと、よく見えない」
あなたの、顔が。
でも、かけないほうが、きれいに見える?
「じゃあ、こうしたらいいの」
ディーキンはタバサの背に無造作に腕を回すようにして、その体をぐっと引き寄せた。
弾みで、彼女の頬が彼の胸にぽふっと埋まる。
「近くなら、ディーキンの顔がよく見えるでしょ?」
タバサは、目を大きく見開いた。
体が震えた。
「……あなた、は、歌の話を、しにきたはず……」
別に今はそんな話なんてしたくもないのに、かすれた声でそう抗議する。
頬をぴったりとくっつけたままで、彼が感じ取れたかどうかもわからないほどの、抵抗ともいえぬ形ばかりの身じろぎをする。
ディーキンはそれに答える代わりに、タバサの顎に指をあてて、くいっと上向かせた。
彼女のぼやけた視界の中に、彼の顔が大きく鮮明に飛び込んでくる。
彼はなんだかいたずらっぽい笑みを浮かべて、その目を少し熱っぽく輝かせていた。
それは、これまでに見たことがないような種類の輝きだった。
「ディーキンは、ちゃんと勉強してきたの。人間の男は、女の人の部屋に忍んで行くときには、何か別の口実を用意するものなんだよね?」
「……!!」
その瞬間、訓練を積んで氷像のように崩れなくなったはずの、崩せなくなったはずの無表情が融けたのが、自分でもわかった。
今の自分の顔は、りんごのように真っ赤になっているのではないだろうか。
「でも、ウィルブレースお姉さんのお話に感動したのは本当なの。人間でも、エルフでも、オークでも、種族の違いなんて結局関係ない、でしょ?」
ディーキンはそう言いながら、今度はぐっと上からのしかかるように、タバサの体を押した。
そっと、やさしく押しただけだったが、タバサは抵抗することができなかった。
「だからね。あのときの、続きをしない?」
そう言われ、顎をくいとつかまれると、体が震えた。
頭の中がぐるぐるする。
あのとき?
それって、あの、ラ・ロシェールのときのこと?
あれの続き、って……。
「~~!?!?」
タバサは息が止まりそうになって、思わず彼を押しのけようとした。
「……イヤなの?」
ディーキンは首をかしげて、まじまじとタバサの顔を見つめながら、そう尋ねた。
彼の顔は、なにか興味深そうな、面白がっているような感じだったが、そんなことを考えていられるような心の余裕は彼女にはなかった。
タバサはあわてて、ぶんぶんと首を振る。
それから、自分のそんな振る舞いが恥ずかしくなって顔を伏せようとしたが、顎を押さえられていて目を逸らすことができなかった。
「……あなたが、望むなら。私に、断る理由はない」
かすれた声で、どうにか体面を繕ってそう返事をした。
「それって、答えになってないと思うの。ディーキンは、自分の望みはよくわかってるの。そうじゃなくて、タバサの望みを聞きたいんだよ」
「あなたの望みに沿うのが、私の望み」
それを聞いたディーキンは、じいっとタバサの顔を見て、肩をすくめた。
「ンー……、なんだか、気のない言い方だね」
そして、タバサの顎から手を離す。
「ぁ……」
「なら、その気がない人に無理は言いたくないから、やめておくよ。ディーキンは夜中にお騒がせして、申し訳なかったの」
そう言って呆然とするタバサの前でぺこりと頭を下げ、体を起こそうとする。
「ま、……待って!」
タバサは焦って、涼しげな態度をかなぐり捨て、自分からしがみついて彼を引き止める。
にじみ出した涙に曇った彼女の目に、なんだか意地悪げな、勝ち誇ったような笑みを浮かべたディーキンの顔が映った。
「タバサって、嘘つきなんだね」
くすくすと笑いながらそう言って、改めて指をタバサの顎に伸ばす。
「……あなたは、意地悪」
タバサは潤んだ目で恨めしげに、軽く彼の顔をにらみながら、泣きそうな声でそう恨み言を呟く。
でも、その言葉とは裏腹に、心の中には大きな安堵感と歓びが広がっていた。
確かに、自分は嘘つきだ。
彼の体が自分の上に覆いかぶさり、顔がさらに近づいてくるのが見える。
ぎゅっと目を瞑ったが、今度はもう、抵抗はしなかった。
タバサは口が触れ合う直前に、ついに覚悟を決めたように、自分からも顔を前に動かして――。
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目を開けると、まだあたりは薄暗かった。
「……ゆ、め?」
タバサは少しの間ぼうっと天井を見つめてから、ゆっくりと身体を起こした。
現実に唇を押し当てていたのは、いつの間にか自分の顔の上にまで引き上げていた掛け布団であったらしい。
夢の中で毛布を引き寄せ、そして離したときに、顔の上に落としてしまったのだろう。
どうりで、彼にしてはやわらかすぎると思った。
「……~~っ!」
頭がはっきりして状況を理解するや、恥ずかしさと腹立たしさとがかあっとこみ上げてきた。
タバサは罪なき布団を乱暴に引き剥がすとベッドの外に放り出し、ベッドの上で膝を抱えて、ぎゅっと唇を噛んだ。
自分がこんな夢を見るようになったきっかけは、わかっている。
あの、ラ・ロシェールでの一件が原因だ。
あれ以来、既に何度か、似たような夢を見たことがあったから。
それ以前にも、ディーキンの出てくる夢を見たことはある。
でもそれは、決して生々しいものではなかった。
例えば、在りし日の父や母、その他の友人たちと共に彼も自分と一緒にいてくれて、みんなで温かく穏やかな時を過ごす夢。
あるいは、かつて読んだ物語の中の勇者のように、彼が自分を迎えに来て、日常からどこか非日常の世界へと連れ出してくれる夢。
たまに少しどきどきするような内容があっても、それは露骨なものではなくて、絵本で描かれる王子さまとお姫さまのような、ロマンチックで曖昧でふわふわとしたものだった。
彼がとても印象的な人物であり、自分にとっては大きな恩義のある相手で生涯仕えると決めた相手でもあることを考えれば、たまにそういった夢を見ても不思議ではないだろう。
仕えるべき騎士と決めた相手に擬似的な恋愛感情を抱くのはよくあることだというし、自分の場合もそんなことに過ぎない。
あるいは、恋に恋をしているのかもしれない。
大体、なんといっても彼は異種族なのだから、それに対する感情は敬意や憧れ以上のものにはなりえない。
タバサは知識や常識に照らし合わせて冷静にそう分析し、それを楽しい夢として受け入れはしても、自分の感情をあまり本気にして深入りしようとはしなかった。
けれども最近の彼は、ただ友人とか恩人とかいっただけではなく、また騎士とか勇者とかいっただけでもなく、生身の一人の男性としても、自分の夢の中に出てくるようになったのだ。
ロマンチックなだけではなくて生々しさもある、そんな夢を見るようになったのだ。
そんなことは、以前には決してなかった。
ラ・ロシェールでの、あの忌まわしくも忘れがたい、甘い痛みと熱を伴った夜の出来事。
忌まわしい毒に侵されていたとはいえ、赤面せざるを得ない、恥ずべき振る舞い。
あんな出来事がなければ、彼に対する自分の気持ちは、今でも物語の中の英雄に対するようなものだっただろう。
異種族である彼のことを、生々しい実体のある現実の男性として意識することはなかったはずだ。
タバサは幾度となく、あの夜のイメージを頭から追い払ってしまおうとした。
けれど、脳裏に深く焼き付いているものを消せはしない。
今夜見た夢は、特にひどい。
月明りの差し込むテラスとか、舞踏会の後の散歩とか、絵本に出てくるようなロマンチックな場面ではなくて、ベッドでキスをする夢だなんて……。
「……あさましい」
タバサは自己嫌悪に苛まれて、ぽつりとそう呟いた。
彼は異種族だからということよりも何よりも、大恩のある相手を無意識下であってもそんな欲望の対象に見るだなんて、まだ初々しい少女である彼女にはどうにも汚らわしいことに思えたのだ。
もちろん知識としては、たとえどんなに高潔な人であってもそのようなことはあるものなのだと知ってはいる。
だが、自分自身がそれを経験する身になってみると、知識と感情とはまた別なのだということがよくわかった。
タバサは先ほど自分が八つ当たりして放り出した布団をばつの悪い思いをしながら拾い上げると、もぞもぞとそれに包まった。
まだ朝まで時間はあるのだから、今度こそ余計な夢を見ずに体を休めよう。
そう、思ったのだが……。
(……寝付けない……)
寝床の中でじっとしていると、またあれやこれやの考えが次々に頭に浮かんできて、どうにも眠気が訪れてくれる様子がなかった。
タバサは仕方なく、自分に『スリープ・クラウド』の呪文をかけて眠ろうかと考えた。
そうして、一旦は杖に手を伸ばそうとしたものの。
(どうして、そこまでして眠りたいの?)
もしかしてそれは、またあの夢の続きが見たいから?
違う、呪文で眠れば途中で目が覚めることもなく、朝まで体を休めていられるからだ。
それだけのことで、他意はない。
そうすれば、今度は途中で夢が終わることもなく、最後まで……。
「…………」
タバサはまた自分自身への嫌悪感を感じてわずかに顔をしかめると、小さく溜息を吐いて、もぞもぞと寝床の中から抜け出した。
今はもう眠ろうという気にはなれないし、時間はまだ早いが仕方ない、起きよう。
けれど、部屋で本を開いていても頭に入りそうにはないし、また要らぬことを延々と考えてしまいそうだ。
ここは外に出て早朝の澄んだ冷たい空気を吸ってくれば、少しは雑念も払われることだろう。
タバサはそう考えて、着替えをして身だしなみを整えるために、壁に据え付けられた鏡の前に立った。
その中に映る、かすかに頬を紅潮させた、熱っぽく潤んだ目をした女……。
「……あなたは、一体誰?」
もちろん、答えはなかった。
その女とずっと顔を突き合わせているのが嫌で、タバサは最低限の身だしなみを整えると、さっさと部屋を後にした……。
・
・
・
「ンー……」
ディーキンは早朝のニューカッスル城内を、てくてくと歩いていた。
見回りにあたってくれているセレスチャルの姿をたまに見かける他は、まだほとんどの者が寝ているようで、静かであった。
王党派の軍は今日、ここを発って新たな拠点へ向かい、そこから最終的にはレコン・キスタの本拠地を落として、アルビオン全土の奪還を目指すことになっている。
しばらく過ごしたここともお別れであり、もしかしたらもう二度と来ることはないかもしれない。
そんなわけで、彼は最後のお別れにと思って、少し早く起きて改めてあちこちを見て歩いてみることにしたのであった。
一通り城内を見て回った後、ディーキンは最後に礼拝堂に行くことにした。
自分自身は別にブリミルの信徒なわけではないが、彼の像の前で改めて先日の戦いでその名を借りさせてもらったお礼とお詫びをしてから、皆の旅の無事を祈っておくというのもいいだろう。
(……あれ?)
そうして礼拝堂に入ったディーキンは、そこに先客がいるのに気がついた。
ブリミル像の前で、祈るように跪いているのは……。
「タバサ?」
「……!?」
彼女は声をかけられた途端に、電流でも流されたみたいにびくっと体を震わせた。
別に敬虔な性質でもないのだが、あてもなくそのあたりを彷徨っているうちに行きついた礼拝堂で、タバサはふと、始祖に祈りを捧げていこうかと思いついたのだった。
そうして夢の件について懺悔していた、そこへ当のディーキン本人が現れていきなり声をかけたものだから、心臓が跳ね上がったように感じたのである。
いつもの彼女なら誰かが近づいてくれば空気の流れからそれを感じとれるはずなのだが、今は注意が自分の内面に向いていたためかまるで気付いていなかった。
「……はい」
それでも、努めてさりげなく返事をして立ち上がると、彼のほうに向き直った。
見苦しいところは見せたくない。
こんなことなら、もう少しちゃんと身づくろいをして来ればよかった。
「おはよう。……タバサも、お祈りをしてたの?」
ディーキンはそう挨拶をしながらも、内心では不思議そうに首をかしげていた。
タバサとしてはさりげなくしたつもりだったが、彼の目から見ると、振り向いた後の彼女のそわそわした様子はまるで悪いことをしている最中に見咎められた子供みたいだったし。
なんだかこちらの顔を真っ直ぐに見ようとしないで、顔を伏せたままちらちらと様子を窺うようにしているし。
とにかく、明らかに挙動不審に見えたのだった。
「そう」
タバサはかろうじてわかるかどうかくらいに小さく頷きながら、ぽつりとそう答えた。
それから顔を伏せたまま、逃げるように礼拝堂の外へ出ていこうとする。
「あ、待って」
ディーキンは、そんな彼女を呼び止めた。
彼に待てと言われて無視するわけにもいかず、タバサはぴたりと足を止める。
「タバサはこの後、何か用事はあるの?」
「……ない」
「じゃあ、ディーキンはここを出る前に、いろいろ見て回りたいと思ってるんだけど。一緒に、外に散歩に行かない?」
この後城の外も少し見て回りたいと思っていたのだが、何か万一のことがあった場合のことも考えると、野外では二人の方が安心である。
それよりも何よりも、一人よりも二人の方が楽しいというものだろう。
「…………」
タバサは逡巡したものの、彼の誘いをそっけなく断って、つれない女だと思われるのは嫌だった。
たとえ、それが事実なのだとしても。
結局、こくりと頷いて、親鳥の後ろをついて歩く雛鳥よろしく、彼に従って散歩をすることにした……。