Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia   作:ローレンシウ

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第百四十九話 Incompetence king

 

 ニューカッスル城を出て新しい拠点に移ったアルビオン王党派の軍勢は、そこから連日進撃を続け、順調に勢力を回復していった。

 

 ルイズらは学生の身でもうずいぶんと長く学院を離れていることになるが、大した問題ではなかった。

 なにせ学院長であるオールド・オスマン自身が、国の最高権力者である王女や枢機卿の求めに従うという形で彼女らの遠征を許可しているのだから。

 それに勉学の遅れに関しても、せっかく地上とアルビオンを瞬間移動で一瞬にして行き来できるセレスチャルが幾人もいるのだから、ディーキンが彼らに頼んで手の空いているときに地上と連絡を取ってもらい、定期的に課題などを持ってきてもらえるように手筈を整えた。

 まあ、生徒らが姿をくらましている同級生たちに関する噂を囁きあったり、アカデミーにいるルイズの姉が「あのおちびどもは一体どこに行ったのよ!」と問い合わせてきたりもしたが……。

 それもディーキンが、適当に誤魔化したり説得して丸め込んだりしてなんとか対処しておいた。

 

 それに、もし本当に必要となれば、ルイズらを一時的に地上に戻らせる事や、逆に地上から誰かを連れてくることだって、さほどの苦もなくできる。

 

 実際、ディーキンは一度ならず、密かにアンリエッタ王女とウェールズ皇太子とを逢引させてやったりもした。

 瞬間移動というのは、実に便利なものなのである。

 

 対するレコン・キスタ側は、侵攻を続ける王党派の軍に対して直接戦うのではなく、それまで拠点としていた各地の住民たちから食料をはじめとする物資を悉く取り上げた上で撤退するという作戦をとった。

 そうすれば王族たちは自国の民を見捨てるわけにも行かず、施しを行うことで時間をとられ、奪還した町や都市で補給を行うどころかかえって消耗することになるというわけだ。

 尋常な人間だけから成る軍隊が相手なら、それはかなり効果的なやり方だったかもしれない。

 しかし、現在の王党派には異世界の魔法を用いるディーキンと、彼が招請したセレスチャルたちの助力があった。

 

 モヴァニック・デーヴァたちは《食料と水の創造(クリエイト・フード・アンド・ウォーター)》の擬似呪文能力を用いて、無限に食料を生成することができるし、トゥラニ・エラドリンであるウィルブレースは、《物体変身(ポリモーフ・エニィ・オブジェクト)》の擬似呪文能力を使って、ただの土くれや石ころをさまざまな食材に変化させることができる。

 最下級の呪文である《奇術(プレスティディジテイション)》を用いれば食料に味付けを施して単調な食味で兵士たちに飽きが来るのを防ぐことができるし、なんであれば《上級瞬間移動(グレーター・テレポート)》の擬似呪文能力を使えるセレスチャルたちに、各地を往復して他所から必要な物資を運びこんできてもらう事だってできるのだ。

 実際ウェールズ皇太子は、ディーキンの計らいでアンリエッタ王女と対面させてもらったときに彼女やマザリーニ枢機卿と交渉して、戦の終わった後には相応の返礼を約束するという条件でのいわば信用貸しでそういった物資の補給面で協力してもらうという約束を取り付けていた。

 表立って正式な同盟を結んで大々的な輸送部隊などを組まなくても、ある程度の物資なら瞬間移動で運び込むことで裏から密かに援助することができるというわけだ。

 

 そのためレコン・キスタ側の作戦は大した成果をあげることができず、それどころか各地の民衆はそれまで自分たちの解放者を自称していたレコン・キスタの者たちの非道な振る舞いに怒り、王族たちの寛大な振る舞いに涙を流して感謝した。

 王党派への支持はいや増すばかりであり、またセレスチャルらの光輝に満ちた姿や力にも感銘を覚えて、自分もぜひ王党派の軍に加わりたいと申し出る者が各地で相次いだ。

 そうした志願兵を加えて、軍はごくわずかな時間の足止めと引き換えに、ますますその規模と士気とを増してゆく。

 

 レコン・キスタ軍の内部からも、どちらに正義があるかを考え直して、あるいはもはや勝ち目はないと悟って、武器を捨て投降してくる部隊がでてきた。

 王党派は協力者であり恩人でもあるセレスチャルらの勧めに従って、武器を捨てて帰参する者は決して処刑せずに慈悲をもって迎え入れることを公言し、少なくとも組織としてのレベルではその約束を忠実に守った。

 降伏した仲間たちがそうやって寛大に扱われていることを知れば、また別の部隊が投降してくる。

 

 誰の目にも、既にレコン・キスタの終焉は時間の問題であると見えた……。

 

 

「……あの悪魔どもは、一体今何をしておるのだ?」

 

 戦況の好転とディーキンやセレスチャルらによる看護を受けたこととでずいぶんと活力を取り戻したジェームズ王は、しかし自軍の快進撃にも関わらず、依然として険しい顔をして軍議に臨んでいた。

 

 レコン・キスタのとっている策が人間によるものなのか、背後にいるデヴィルのものなのかは不明だが、いずれにせよ裏目に出ているのは明らかだ。

 それを何も手を打たずに指を咥えて見ているような連中ではないはずなのに、ニューカッスル城での敗戦以来デヴィルどもが一向にその姿を見せてこないのが不気味だった。

 

「既にこのアルビオンの地での勝算はないと見て、手を引いたのではありませんかな?」

 

 将軍の一人がそう意見を述べたが、本人もあまり自信はなさそうだった。

 

「そうであれば、それに越したことはないが……」

 

 ウェールズが納得していないような顔でそう言いながら、父王の方をちらりと窺う。

 ジェームズは、首を横に振った。

 

「いいや。悪魔どもが完全に手を引いたというのであれば、取り残されて為す術をなくした者たちは降伏を打診してくるはずだ」

 

 少なくとも今のところ、そのような気配はない。

 レコン・キスタの指導者たちのほとんどは、領土も戦力も衰える一方で、もはや風前の灯火としか思えぬ自軍にいまだに留まり続けているのだ。

 

 もちろん、一般兵はともかく上層部の者たちは、いかに処刑を行わず慈悲深い扱いをすると約束されても、現実的にはやはり投降した後の人生がかなり厳しいものになるであろうことを案じずにはいられまいが……。

 それにしても、勝算が完全になくなったなら、投降なり自害なり、玉砕覚悟の決戦なりを考えて、何がしかの行動を起こしてもよさそうなものである。

 ところが連中はのらりくらりと戦いを避け続けながらも、降伏する気配もなく本拠地であるロンディニウムに閉じこもったままで、うんともすんとも言ってこないのだ。

 

「思うに、彼奴らにはこの期に及んでも、まだ何らかの勝算があるのだろう」

 

 だが、その勝算とは一体何なのだろうか。

 ロンディニウムへ物資や人員を溜め込んで篭城戦をするにしても、既にこちらの方が圧倒的に優位である。

 

 だが、思えば自分たちも、ニューカッスル城では圧倒的に優位な敵軍に対して奇跡的な逆転勝利を収めたのではなかったか。

 まさかとは思うが、向こうも同じようなことを狙っているのではあるまいか。

 追い詰められた状況から一発で状況をひっくり返すような、何かがあるとでもいうのだろうか……。

 

「……まさか」

 

「ううむ……、しかし……」

 

 一同は答えを見出せぬまま、不安げな様子で顔を見合わせた。

 

 

 

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 ガリアの沿岸部にある街、サン・マロン。

 

 ここはハルケギニア随一の大国ガリアの中にあっては王都から離れた田舎の部類に入るものの、一方でガリア空海軍の一大根拠地でもあった。

 鉄塔のような飛空船の桟橋をはじめとした、さまざまな軍事関係の施設がいくつも立ち並んでいる。

 

 この街の市街地から離れた一角に、一風変わった施設があった。

 煉瓦と漆喰で造られた土台の上に木枠と帆布でくみ上げた、円柱を縦に半分に切って寝かせたような形状の建物である。

 周囲を昼夜問わず衛兵が巡回し、近郊の市民たちが容易に近づけないようにしていることから、何か重要な施設であることがうかがわれた。

 

「……おや? あれは、『シャルル・オルレアン』じゃあねえか?」

 

 一隻の巨大な船がその建物の前に建てられた鉄塔へと近づくのを見て、巡回中の衛兵の一人がそう呟いた。

 

 三年前に亡くなった王弟の名がつけられたその船は、全長百五十メイルにもなる、王室の誇るガリア最大の空戦艦である。

 もっとも、大きさでは空の大国アルビオン空軍の艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』には及ばない。

 かの船は一時期、『レコン・キスタ』と名乗る叛徒どもの手に落ちていたときには、彼らが初めて勝利した地の名をとって『レキシントン』と改名されていた。

 だが、先日勢力を盛り返した王党派が、無事に奪還したのである。

 とはいえ、進空したのがつい最近のため、戦闘力という点では艦齢の古いロイヤル・ソヴリンよりも遥かに勝るであろうと目されていた。

 片舷だけで百二十門、合計二百四十門もの大砲を備えており、その他にも魔道具を改良した数多くの武器が備えつけられている。

 

「おい、あの旗を見ろ。王さまが乗ってなさるぞ」

 

 マストに翻る王室の座上旗を見て、衛兵は息をのんだ。

 

「ほんとだ。こんな田舎に、視察に来たのかな?」

 

「やっぱり、あの薄気味の悪い『実験農場』を、かねえ……」

 

 衛兵たちは、顔を見合わせてそう囁き合う。

 

 自分たちの守らされているこの不気味な建物の中で何が行われているのかは、彼ら自身も知らなかった。

 だが、この建物ができてからというもの、何かがおかしい。

 見慣れない怪しげな連中が、時には物語に出てくるような化物か、魔法の実験で作られた合成獣かなにかとしか思えないようなおぞましい姿をしたモノまでが、街に出入りするようになったのである。

 そして今日はついに、この国の最高権力者までがやってきたというのだから!

 

「そういえば……、ここだけの話だがな。こないだイルマンの野郎が、あそこでエルフを見たって言ってたぜ?」

 

 一人が、低い声でそう言った。

 

 他の衛兵たちは、ぎょっとした様子だった。

 エルフといえば、ここハルケギニアでは始祖と敵対した最強の妖魔として悪名高い。

 

「まさか! いくらなんでも、そりゃあほら話だろ?」

 

「そうそう、でなきゃ見間違いだぜ。あの酔いどれで老いぼれのイルマンの言うことなんざあ、あてになるものかよ」

 

「いや、そんときゃあ珍しく素面だったそうでよ。夜中に取り巻きを引き連れて『実験農場』の中に入っていった野郎は、間違いなく帽子の隙間から長い耳を覗かせてたんだって、がたがた震えながらそう言いやがるのよ……」

 

 衛兵たちがそうして話し合っているうちに、飛行船は鉄塔に取りつき、集まった基地付きの楽団が王を迎える演奏を開始した。

 

 儀杖兵が鉄塔から延びる石畳の通路の左右にずらりと並び、杖やマスケット銃を構える。

 船から延びたタラップに、堂々たる偉丈夫が姿を見せた。

 遠目にも明らかな、その鮮やかな青髪は、まごうことなきガリア王族の証だ。

 

「見ろよ、『無能王』だ」

 

 衛兵のひとりが、その様子を眺めながらぽつりとそう呟く。

 王族でありながら魔法が使えず、奇矯な行動を続ける現国王ジョゼフに対して、国民が陰で囁き合っている蔑称だった。

 

「あの王さまは、ここで一体、なにをやらせてやがるんだ?」

 

 

「焼けた金属の嫌な匂いがしますわ……。でも、ずいぶんと暑そうな場所ですのに、意外に快適な温度ですわね?」

 

 恋人に連れられて『実験農場』の中に入った、その薔薇のように美しい貴婦人は、半ば不快そうな、半ば不思議そうな表情で、きょろきょろとあたりを見回していた。

 

「ああ。それは余があなたの傍にいるからだよ、モリエール夫人」

 

 青みがかった髪と髭に彩られた整った彫刻のような面立ちに、均整のとれたがっしりとした長身。

 今年で四十五になるにもかかわらず、どう見ても三十過ぎ程度にしか見えない若々しさ。

 この美丈夫こそが、ガリアの現国王であるジョゼフであり、モリエール夫人がその胸を焦がす愛人でもあった。

 

 彼の言葉を恋人からの甘い囁きの類だと解釈した夫人は、軽く頬を染める。

 

「まあ……。そうですわね、頼もしいお方。陛下がおられれば、きっとわたくしは地獄の業火の中でも平気でしょうとも!」

 

 実際にはジョゼフの言葉は、文字通りの意味だった。

 

 彼はいま、メイジが身に着ける普通のマントの代わりに、古代の遺構から発見されたマジックアイテムのひとつである《快適な外套(クローク・オヴ・コンフォート)》と呼ばれる品を身に着けている。

 ジョゼフの使い魔である、寵愛する『ミューズ』ことミョズニトニルンのシェフィールドが見つけてきて、その主に贈ったものだ。

 この一見何の変哲もない外套を身にまとっているだけで、着用者はもちろんのことその近くにいる同行者も全員、酷暑や極寒の被害を免れて快適な体感温度で過ごすことができるのである。

 

「ほう? 本当にそう思うかね」

 

「ええ、もちろん」

 

 ジョゼフは、ふむ、と頷く。

 

「それは素敵だな。地獄の業火なら用意がある、ひとつ試してみようか」

 

 真顔でそう言ってから、きょろきょろとあたりを見渡した。

 そうして目当ての人物を見つけると、嬉しそうに手を上げて、そちらへ駆け寄っていく。

 

「おお、ビダーシャル卿! 例のものが量産に入ったらしいな?」

 

「ああ」

 

 顔を隠すようにして大きな帽子を被ったやせぎすのその人物は、そっけなくそう言って頷いた。

 相手を王とも思わぬその態度にモリエール夫人は思わず眉をひそめたが、ジョゼフは気にした様子もない。

 

 それはそうだ。

 

 ゴーレムのような疑似生命体の物言いなどに、いちいち腹を立てるメイジがいようか。

 

 この人造生命体の元となったビダーシャルという名のエルフは、異界から来た『シャイターン』どもにこの世界を侵略させるわけにはゆかぬといい、協力を求める使者として先日ガリアにやってきたのだった。

 ガリアは彼らが蛮族と呼ぶ人間たちの国家群の中では最も力をもつ存在であり、また『シャイターン』の活動する姿が目撃されたのも、その地においてのことだったからである。

 

 だが、当のガリアの国王自身が、止めるべきその『シャイターン』の活動の最大の後援者であったとは、彼にも思いもよらぬことだったようだ。

 

 不意を打って殺害した彼の屍を元に、シェフィールドが古代の遺構より発見された希少なスクロールを用いて自分に隷属する《氷の暗殺者(アイス・アサシン)》を作成し、エルフたちの間で用いられている高度な技術を提供させた。

 ついに『ヘルファイアー・ヨルムンガンド』の作成・量産が可能になったのも、その技術供与に依る部分が大きい。

 

「余のミューズがここに居らぬのが残念だ。しかしあなたがいる、モリエール夫人」

 

 ジョゼフはそう言うと、モリエール夫人の手を引いて、古代のコロシアムを思わせるような円形の造りをした場所に導いた。

 そうして、そこに用意された席に着くように促す。

 

 何が何だかさっぱりわからないものの、恋人が楽しそうにしているのと熱心に手を引かれたのが嬉しくて、モリエール夫人は言われるままに従った。

 

「さあ、スペクタクルを見せてもらおうか」

 

 ジョゼフの言葉を受けて、ビダーシャルが小さく頷く。

 

 彼が手を振って合図をすると、まずは西百合花壇騎士団の精鋭たちが作り上げた、スクウェア・クラスの土ゴーレムが三体、姿を現した。

 土ゴーレムなど別段珍しくもないが、さすがに腕利きのメイジたちが作り上げただけはある。

 高さ二十メイルはあろうかというその大きさといい、そのサイズにもかかわらず総じて鈍重なゴーレムにしてはかなり滑らかに動くことといい、見事なものだった。

 

 次いで、別の金属製のゴーレムが姿を現す。

 目や口がその体内にこもった熱のために白熱して輝く、どこか禍々しくもあるが見事なデザインの施されたゴーレムだった。

 モリエール夫人が目を疑うほどの、まるで人間のような滑らかな歩みだったが、大きさは先に現れた土ゴーレムたちに比べればずいぶんと小さくて十メイルもない。

 

「あれが、ここで私に見せたかったというものですの?」

 

「さよう。あの金属のゴーレムが、余の『ヘルファイアー・ヨルムンガンド』だ」

 

 ジョセフが誇らしげにそう答えた直後に、ゴーレムたちの戦いが始まった。

 

 金属ゴーレムを取り囲み、土ゴーレムたちが唸りを上げて拳を振り下ろす。

 だが、それをまともに受けてもヘルファイアー・ヨルムンガンドはまるで堪えた様子がない。

 逆に高熱を帯びた拳を立て続けに振るい、硬度では劣るとはいえ自分よりはるかにサイズの大きい土ゴーレムを一体、たちまち融かし砕いて土くれに還してしまった。

 さらに、なおも襲い掛かろうとする残るゴーレムたちに向けて大きく口を開き、自身の体よりもはるかに大きな白い業火のブレスを吐きかけた。

 

「ひっ!?」

 

 あまりの眩しさに、モリエール夫人は思わず手で顔を庇う。

 ややあって、おそるおそる目を開けてみると、ゴーレムたちのいたあたりには融け固まった土の塊があるばかり……。

 

 そんな信じられない光景を前にしたモリエール夫人は、完全に言葉を失った。

 しばしの沈黙のあと、やっとのことでぽつりと呟く。

 

「……陛下は、なんというモノをお作りに……」

 

「気に入ったかね? 先住と伝説、そして異界の技と魔法とが幾千年の時を経て再び巡り合ったことでもたらされた、奇跡の産物だよ。地獄の業火をその身に宿す、冥府の機械の再現品だ!」

 

「こんな怪物が十体もいれば、ハルケギニアを征服できるでしょうね」

 

「十体? ははは、少ないな。余は、この人形で騎士団を編成するつもりだよ」

 

 ジョゼフは楽しげにそう説明しながら、モリエール夫人の方を指さして、ビダーシャルになにか指示を送る。

 命令に背かぬその人造生命体はそっけなく頷くと、軽く手を振った。

 

「……え?」

 

 きょとんとするモリエール夫人のほうに向き直った地獄の業火の機械は、その白熱した口を、再び大きく開き――――。

 

 

「なんだ、骨も残らなかったではないか。地獄の業火にも平気だなどと、口先ばかりだな」

 

「……お前の、恋人ではなかったのか?」

 

「ああ。だから、多少は胸が痛むのではないかと思ったのだがな。無理だった。今回も無駄だった。どの道、向こうも地位や金が目当てだったのだろうがな。でなければ、国内外からそしられるこの『無能王』にすり寄るはずもあるまい?」

 

「私の創造主も、お前を愛しているはずだ。お前はそれも、いつか殺すつもりか」

 

「シェフィールドが? まさか。あやつは余の使い魔だ。あやつも契約に縛られて、余に忠義を尽くしているだけのことだ」

 

「そうか。殺す気がないのならば、私はそれで構わぬ」

 

 その様子を遠巻きに見つめていたデヴィルたちのくすくすという嗤い声が、闇に響く……。

 





クローク・オヴ・コンフォート(快適な外套):
 着用者、およびその周囲30フィート以内にいるすべての仲間を常にエンデュア・エレメンツの呪文で保護する魔法の外套。
保護された者は-46℃から60℃までの環境下で、一切暑さ寒さの害を受けることなく快適に過ごせる。
また、外套には着用者のセーヴィングスローに抵抗ボーナスを与える効果もある。
 冒険者にとっては人気の一品で、おそらくディーキンも一着もっているかもしれない。

アイス・アサシン
Ice Assassin /氷の暗殺者
系統:幻術(操影); 9レベル呪文
構成要素:音声、動作、物質(雪か氷でできた対象の像と対象の体の一部、20,000gpの価値のあるダイヤモンドの粉末)、経験(5,000xp)
距離:接触
持続時間:瞬間
 アイス・アサシンは多くの点でシミュレイクラムの強化版にあたる呪文である。
この呪文は生きて呼吸する、既存の生物のほぼ完全な複製を作り出す。
この呪文で作り出された似姿は本体がもつすべての技術、能力、記憶を有しており、常にテレパシーのリンクで結ばれている作成者の命令には絶対服従する。
ただし性格は歪んでいて、その元となったオリジナルへの強い憎悪を抱いており、オリジナルがまだ生存していてかつ作成者の命令に従っていない場合には、常にオリジナルを見つけ出して殺害しようとする。
作成者が似姿の距離一マイル以内にいない場合には、似姿は作成者の制御を離れて行動することができるようになる。
似姿はロケート・クリーチャーの呪文に相当する能力を用いて、オリジナルの居場所を探し出すことができる。
似姿は作成されたときよりも強大に成長する能力はもっておらず、負傷した場合には設備の整った実験室で修復しなければならない。

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