Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia   作:ローレンシウ

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第六十六話 Shop in a Bottle

「身代わり……」

 

タバサは、ディーキンの言葉に僅かに首を傾けて、しばし考え込んだ。

だが、じきに思い至る。

 

「あの御伽噺?」

 

「そうなの。神様のお話によると、身代わりがあればしばらくはばれずに済むみたいだからね!」

 

タバサはやや当惑げに、机の上の品々とディーキンの顔とを、交互に見詰めた。

彼には、これらの品物から本人の身代わりとなるような何かを作り出せる能力もあるのだろうか。

 

そのような用途に用いられそうなもので、タバサの知識の範囲内で真っ先に思いあたるのは、スキルニルと呼ばれる魔法人形だった。

血を一滴垂らすだけでその者と寸分たがわぬ姿に化け、魔法的なものを除けば殆どの能力をも複写することができる、という代物だ。

 

非常に有用なマジックアイテムだといえるが、製法は既に遺失しており、新たに作られることはない。

だが、古い遺跡から見つかることは稀にあるし、伝統ある王家や貴族家の中にはこの品を所蔵しているところもある。

古代の王の中には多数のスキルニルを用いた戦争ごっこに興じていた者が何人もいたらしく、ある程度の数は現存しているのだ。

彼がスキルニルと似たような品を所有している、もしくはその作り方を知っているとしても、さほど不思議ではないだろう。

 

(そのために、爪や髪の毛を……?)

 

血の代わりに爪や髪の毛を用いて本人そっくりに化ける魔法人形、というのはありえそうに思えた。

 

ただ、スキルニルは一度作れば永続的に動き続けられる、というような代物ではない。

動かすための燃料として、製作時に『土』の精霊力の結晶である“土石”が組み込んであるのだ。

当然、力の強いスキルニルほど燃料切れも早くなる。

メイジが自分の魔力を注ぎ込んで維持することもできるが、その場合は操作する者が常に傍に居なくてはならない。

したがって、永続的な身代わりとして用いるのには向いていないといえる。

 

その他には、精巧に作られたガーゴイルでも、同様の役目がこなせるかもしれない。

ハルケギニアにおけるガーゴイルは、傍で操作せずともある程度の自由意志を持ち、自律的に動けるゴーレムの仲間だ。

 

優秀な『土』の使い手であれば、外見が人間とそっくりなガーゴイルを作ることも可能だろう。

作成時に自分の精神力を注ぎ込むだけではなく、土石を用いることで、稼働時間を延ばすことができる。

スキルニルのように元となった人間の技能を再現するのに力を消費しなくてよい分、長持ちさせることができよう。

ただ動いて話せる程度で、何も特殊な能力を持たないものであれば、大きめの土石を用いれば数十年でも稼働させ続けられるかもしれない。

彼はそういった、ガーゴイルに相当するようなものを作ろうとしているのだろうか?

 

それも、あり得なくはないかもしれない。

彼の用いる、ハルケギニアの常識を遥かに逸脱した呪文やマジック・アイテムの数々には、既に何度も驚かされてきたのだから……。

 

そこまで考えて、タバサは小さく溜息を吐いた。

 

(……きっと、考えても無駄)

 

これまで、彼は常に自分の予想を裏切り続けてきたではないか。

ならば結局のところ、こんな推測の試みは虚しいものでしかないのではないだろうか?

これまでに私の得てきた知識や常識は彼には通用しないと、既に十分証明されているのだから……。

 

タバサはそう結論してあれこれ考えるのを止めると、素直にディーキンのすることを見守ろうと決めた。

 

母の命運がかかっているというのに不謹慎だとは思うが、なんとなくワクワクする。

そういえば幼いころ、トーマスが手品を披露してくれる前にも、こんな気持ちになったものだった。

 

(それが、彼の狙い?)

 

ふと、そんな考えが頭を掠めた。

昨夜は彼と一緒に話し合ったものだが、こんなことをする予定だとは聞かされていない。

 

情報はぎりぎりまで味方にも伏せておいた方が安全だというような、慎重な思惑もあったのかもしれない。

しかしどちらかというと、内緒にしておいてびっくりさせようという子どもっぽい悪戯心の方が彼には似合うような気がした。

もしくは、その両方なのかもしれないが……。

 

いずれにせよ、私のためを思ってのことで、悪意に基づく行為でないことだけは確かだろう。

そう考えると、タバサは妙に嬉しいような気分になって、微かに口元を緩めた。

 

そんな彼女の思惑をよそに、ディーキンは机に並べた品物の中から、まずは小さなボトルを手に取った。

それから、部屋の天井にちらりと目をやる。

 

「……ウン、この高さなら問題ないね」

 

ディーキンはそう呟くと、手の中のボトルを大事そうに握りしめて、目を細めた。

 

これは、ラヴォエラがボスから預かってきてくれた品物の中に入っていたものである。

最初それを見た時は驚いて、これは何かの間違いで混ざったのだろう、早く送り返さなくては、と思った。

極めて貴重な物だし、自分が用意してくれるように頼んだ品々の中には入っていなかったからだ。

 

しかし、ラヴォエラはボスがディーキンのことを案じてそれを渡すように言ったのだ、と言った。

大きく文化の違う異界で、これがあれば非常に有用なはずだから、と。

ボスは他にも、旅の間に手に入れた貴重なマジック・アイテム類をいくつも、ラヴォエラに託して贈ってくれていた。

 

断りもいれずに突然旅に出た自分のために、ここまでしてくれるとは。

ボスの寛大な気遣いに、ディーキンは改めて感動した。

 

ディーキンはしみじみとその事を思い返しながら、勿体ぶった仕草でひとつ咳払いをする。

そして、おもむろにボトルをこすり始めた。

 

その動作に応じて、たちまちボトルが彼の手の中で振動しはじめる。

あわせてボトルの口から、煙がもくもくと立ち上りだした。

 

それを見て、タバサは咄嗟に杖を握り直した。

が、ディーキンが落ち着いた様子なのを確認すると、すぐに警戒を解く。

 

(これは一体、何?)

 

タバサがそんな内心の疑問を口にするより先に、変化が起こった。

立ち上った煙がぐるぐると渦を巻いて集まり、ぼんやりとした人型の形状を取り始めたのだ。

 

やがて煙が晴れると、その中からひとつの人影が現れた。

 

「……!」

 

それを見たタバサは、驚きで僅かに目を見開いた。

 

その人物は、立派な口髭と長い顎鬚を生やし、肌浅黒く頑強な体つきをした、中年の男性のような姿をしていた。

頭にはターバンを巻いており、エキゾチックな衣類や、高価そうな装身具類を身につけている。

 

そこまでなら、ロバ・アル・カリイエ(東方)のどこかの地方からやってきた貴人か富商だとでも言えば通りそうな身なりだった。

しかしながら、この人物の背丈は見上げるように高く、タバサの優に2倍はある。

明らかに、普通の人間ではない。人種の違いや個体差などで説明のつく範囲を超えていた。

 

「巨人……?」

 

その男はタバサの呟きを聞き咎めると、哀れむような目で彼女を見下ろした。

 

『私はジャイアントなどではないぞ、定命の者よ。

 お前の無知の程度を推し量って、それを私に対する侮辱であると捉えることは差し控えるがな』

 

穏やかな調子だが、大きく轟くような声が、タバサの頭上から降り注いできた。

いや、それは実際には、彼女の頭の中に直接響いたのである。

 

巨大な人影は、それからディーキンの方にも目をやると、勿体ぶった仕草で2人に向かって御辞儀をした。

次いでその声が、2人の頭の中に轟く。

 

『そちらのコボルドには改めて言うまでもないだろうが、名乗らせて頂こうか。

 私はヴォルカリオン・アーセティス、王家の血をひく有力なジンだ。

 ジンは誇り高き魔人(ジンニー)の一種族であり、決して野卑な巨人(ジャイアント)の仲間ではないということも付け加えておこう』

 

「お久し振りなの、ジンのおじさん。

 じゃあディーキンも、言うまでもないだろうけど名乗っておくね。

 ディーキンはディーキン、竜族の血を引く愉快な詩人のコボルドで、バードで、冒険者で、今は使い魔もやってるよ」

 

「……私は……、タバサ。『雪風』のタバサ。

 貴族で、メイジをやっている」

 

ディーキンが丁寧にお辞儀を返したのを見て、タバサも慌てて自己紹介をして頭を下げた。

それから顔を上げると、またまじまじと目の前の巨大な人物を見つめる。

 

「魔人……の、王族?」

 

いわゆる“高貴な魔人”に関する御伽噺ならば、ハルケギニアにもある。

もちろんタバサは、今の今まで魔人が実在するなどとは思っても見なかったが。

それらは、古い壺の蓋を開けたり、指輪やランプをこすったりすると、中から出てきて……。

 

(そして、願いを……)

 

そんなことを考えていたところへ、またヴォルカリオンから声が送られてきた。

 

『ふむ。王族だというのは、誤解を招く恐れがあるかもしれんな。ジンであれば誰でも、何らかの形で王家の血筋をひいているものだ。

 私の家系はとても尊敬されているのは確かだが、権力の座からは遠いのだ。

 ジンの社会における私の地位をお前たちの階級社会に当てはめてあらわすなら、私は貴族の類ではない』

 

それから、咳払いをして付け加える。

 

『……それと、新顔のお嬢さんのためにあらかじめ言っておくが。

 私は、定命の存在の3つの《望み(ウィッシュ)》を叶えるようなことはせんからな!』

 

いままさにそんな期待を少しばかりしていたタバサは、思わず僅かに顔をしかめた。

ヴォルカリオンはそれを見ると、腕組みをして小さく鼻を鳴らす。

 

『ふん、おまえたち定命の者は妙な先入観から、我々に会えばいつでも願いを叶えてもらえるはずだと信じているようだがな……。

 残念だろうが、そう都合よくはいかんぞ。

 第一、どうして我々が出会ったばかりの他人の願いを、さしたる理由もなく気前よく叶えてやらねばならんと思うのだ?

 私としても、いちいち初対面の相手から願いを言われるのにはもううんざりしておる!』

 

「……」

 

タバサは、少しばかりばつの悪い思いがしてヴォルカリオンから顔を逸らすと、問い掛けるようにディーキンの方を見つめた。

願いを叶えてもらうためにこの魔人を呼んだのではないとするなら、一体何のために?

 

ディーキンはタバサの視線に対して少し悪戯っぽい笑みを返すと、ヴォルカリオンの方に向き直った。

 

「それで、ヴォルカリオンさん。

 これからはディーキンとも取引をしてくれるっていうのは、本当なの?」

 

ヴォルカリオンはその問いに対して、鷹揚に頷いた。

 

『コボルドという種族が、尊敬を受けるようなものではないということは知っておる。

 長年商人として活動をしてきた私としても、正直に言ってコボルドの顧客というのは初めてなのだ。

 だが、ドロウどもから私の召喚の瓶を取り戻してくれた解放者であり、今や良き顧客でもあるあの“カニアの英雄”の紹介とあればな。

 ……ああ、もちろんお前に渡した瓶の代わりに、彼にもすぐに新しい瓶を用意する手筈になっておるから、心配は無用だぞ』

 

それを聞いて、ディーキンは嬉しそうにうんうんと頷いた。

自分がこの瓶を預かったせいでボスに迷惑がかかるのではないかと思っていたが、そうでないのなら一安心だ。

 

しかも、自分とボスの両方がヴォルカリオンを呼び出せるということになれば、彼に伝言などを頼むこともできるだろう。

そうすれば、今後は連絡をとろうと思うたびにラヴォエラを召喚したりする必要もなくなるはず……。

 

そう考えていたところへ、タバサが口を挟んだ。

 

「……商人?」

 

どうやら今のヴォルカリオンのテレパシーは、彼女にも送られていたようだ。

ヴォルカリオンは、ひとつ頷いてそれに答えた。

 

『いかにも。私は、強力で貴重なアイテムを扱っている次元間商人でな。

 様々な世界を歩き回り、すばらしい品々を有り余るほど集めて、厳選した少数の客に売っているのだ。

 顧客は、商品を見たい時にはいつでも召喚の瓶をこすって、私をどこの世界からでも呼び出してよいということに取り決めてある』

 

タバサはそれを聞くと、首を傾げて考え込んだ。

 

つまり、この魔人は目の前の瓶の中に入っていたのではなく、どこかの世界からこの瓶で召喚されているということか。

それにしても……。

 

「魔人も、お金を使うの?」

 

タバサの素朴な問いに、ヴォルカリオンは少し首を傾けた。

 

『ふむ……。使うことがあるのかと問われれば、その通りだと答えるしかないな。

 我ら魔人も、時と場合によってはお前たち定命の種族と同様、金を使って取引をすることはある』

 

それから、口髭を弄りながら付け加える。

 

『ただ、私の商売に関して言えば、金自体よりもそれが象徴するものをより重視している。

 ゴールドは定命の者にとって貴重で、手放すには犠牲が伴う。

 つまり私の扱う品物には価値があるから、買うには代償を伴うということで――』

 

そこで少しの間言葉を止めて、適切な説明の仕方を考え込んだ。

 

『――言うなれば、金を渡せば犠牲の価値、おまえたちにとっての価値が、私へと移ることになるのだ。

 とても複雑な話だから、完全に理解してもらえると思ってはいないがな』

 

「えーと。とにかく、必要なお金を払えば、普通のお店と同じに商品が買えるってことだよね?」

 

ディーキンが横から口を挟んで、簡潔にまとめた。

 

『まあ、そういうことになるな。

 結局のところ、お前たちにとって重要なことは、アイテムの値段は私が決めるのであって交渉の余地はないということだけだろう』

 

「わかったの、ディーキンはあんたから値切ろうとは思わないよ。ボスだって、値切ったりはしないからね」

 

『よろしい。それから、わかっているだろうが、私が呼び出しに応じるのは最大で1日に3回までだ。

 その回数以内なら、私がその時点でどの次元界のどんな場所を探検していようと、瓶を使えば呼びかけには一瞬で応えよう』

 

「大丈夫、ディーキンはしっかり覚えてるよ」

 

『後は……、くれぐれも私の瓶を、不埒な輩に奪われないように気を付けてもらいたい。

 ハラスターのような不注意な顧客は、もう御免こうむりたいのでな!』

 

この“ジンのボトル”は、元々はかのアンダーマウンテンの大魔道師、ハラスターが所有していたものである。

 

ヴォルカリオンは他次元界から商品を呼び出すことができ、瓶を使うことで彼を召喚して、それらの在庫を見せてもらうことができるのだ。

ボスは、ディーキンらと共にアンダーマウンテンを旅していた時に、倒したドロウの一人がこの瓶を所有しているのを発見した。

おそらく、ドロウたちがハラスターを捕えた時に、彼から奪い取ったのであろう。

 

ヴォルカリオンは顧客にする気もないドロウたちからしつこく瓶を使って呼び出されていたらしく、解放したことに大変感謝していた。

その返礼として、彼はボスを自分の顧客の一人に加えたのである。

 

わざわざ他次元界からやって来てくれる手間賃を取られているのか、彼の店の品物は概して相場より高めだし、買い取りは安めだ。

それでも、ヴォルカリオンは瓶をこすりさえすればほとんどどこにでもやって来てくれるので、商品の売買に大変役立ってくれた。

アンダーマウンテンでも、アンダーダークでも、九層地獄でも、ボスは幾度となく彼の店の世話になっていたものである。

 

『ハラスターがあれほど不注意だとわかっていれば、召喚の瓶を作ることに絶対に同意しなかったのだがな……。

 だが、“カニアの英雄”は良い客だ。彼との取引では、私も相当な利益を上げることができたよ。

 彼からは、ハラスターが死蔵していた貴重な宝物や、九層地獄下層部の珍品なども、数多く仕入れることができたからな』

 

ヴォルカリオンは満足そうに顎鬚をさすりながら、目を細めた。

 

『お前も、そうなってくれるものと期待しているぞ。

 この物質界のことは私も知らなかった、まだ足を運んだことがない地だからな。

 他の世界では見られぬような品物が見つかれば、私の店にどんどん売りに出してくれ。高値で買い取ろう』

 

「オオ、それは嬉しいの。

 じゃあさっそく、こっちの世界で見つけたものがいくつかあるんだけど……」

 

ディーキンは背負い袋の中から、先だってカジノで回収した品物をいろいろと取り出し始めた。

それらの中には、フェイルーンにはない、この世界で作られた器具や薬品、マジック・アイテムなどの類が含まれている。

 

タバサは得心がいった思いで、その作業の様子を眺めていた。

なるほど、彼がこの魔人を呼び出したのは不用品を売却し、身代わりを作るだのといった作業に必要な品物を買い入れるためか。

 

「……私も、何か用意してくる」

 

タバサはそう言って小さく頭を下げると、部屋の外へ向かおうとした。

ペルスランに事情を伝えて、この屋敷の中から金になりそうなものを集めてこようというのだ。

 

彼は自分や母のために力を貸してくれているのだから、必要な費用はこちらも可能な限り捻出するべきだろう。

それにあのカジノでも、彼はデーモンとやらと戦うために、巻物などを消費した様子だった。

おそらくその分を買い足す必要もあるのだろうし、あれも自分の仕事を手伝ってくれた結果なのだから、こちらが負担するべきだ。

 

王族の権利を剥奪されて以来、この屋敷にはそれほど大したものは残っていない。

残ったものにも祖先から受け継いだ縁のある品々が多く、本来ならば売り払ったりするべきではない。

 

しかし、この人の力になるため、母を救うための手助けとするためならば、きっと祖先たちも許してくれることだろう……。

 

「ンー……、」

 

ディーキンはタバサを止めるべきだろうかと、少し悩んだ。

 

確かにこのところ、普段ならば仲間に任せているような事でも自分でこなさねばならなくなったこともあって、出費はかさんではいる。

とはいえ、まだまだ余裕はあるし、金欠で困っているというほどではない。

だから、タバサに無理に金を捻出してもらう必要は、ないといえばないのだが……。

 

しかし彼女の気持ちを考えれば、自分も母親のために何かしたいと思うのは当然だろう。

無理に引き留めても、かえって彼女の思いを無下にすることになる。

そう思ったディーキンは、素直に申し出に甘えることにしてタバサを見送った。

 

それから、ヴォルカリオンの方へ向き直る。

 

「それじゃ、タバサが用意してくれてる間に、在庫を見せてもらえる?」

 

『もちろんだ。ただし、金を払うまでは手を触れないようにな』

 

ヴォルカリオンがそう言って、さっと手を一振りすると、たちまち周囲の様子が一変した。

がらんとした室内が、どこからともなく出現した、眩いばかりの魔法の品々で埋め尽くされたのだ。

 

展示棚に広げられた数々のスクロールに、戸棚に並べられた色とりどりのポーション。

かさ立てのような容器に詰め込まれたロッド、ワンド、スタッフ。

鎧掛けには大小さまざまな鎧が飾られ、台の上には手入れの良い武器がずらりと陳列してある。

他にも、外套、籠手、手袋、長靴、魔除け、首飾り、指輪、鞘、聖句箱などなど、あらゆる種類の魔法の品々が揃っていた。

 

ボスがこの店で売買を行うのを何度も目撃していたので、ディーキンにとっては既に見慣れた光景だ。

最初の時には、目を丸くしてはしゃいだものだったが。

 

(イヒヒ……、タバサが戻ってきたら、驚いてくれるかな?)

 

そんな悪戯っぽい思いを胸に、ディーキンはゆっくりと品物を見て回った。

 

まずは、タバサの母親や執事のペルスランの身代わりを作るため、《似姿(シミュレイクラム)》の呪文が必要になる。

とはいえ、最低でも2人分で2回使う必要があるわけだが、はたして在庫があるだろうか。

もしも足りなければ、《望み》か《奇跡(ミラクル)》あたりで代用することも考えねばなるまい。

あるいは、必要な呪文を使ってくれそうな来訪者を招請するか、だ。

 

それに、いずれ身代わりがばれた時に見つからないようにするための方策も、できれば用意しておきたい。

理想は露見するほどの時間が経つ前に、この問題の根を絶ってしまえることだが……。

 

あとは、これまでに消費したスクロールなども買い足しておかねばなるまい。

これからデヴィルを相手にすることも予測される以上、《次元界移動拘束(ディメンジョナル・アンカー)》などの呪文は必須だ。

 

(ええと、他に必要そうなのは……。手持ちのお金は足りるかな?)

 

ディーキンは、入用な品物を優先度順にさらさらと羊皮紙に書き出しながら、費用の計算をしていった……。

 




ジンニー(魔人):
 ジンニーは地水火風の元素界に住む精霊めいた来訪者であり、いくつかの種族がある。
風のジン、火のイフリート、水のマリード、地のダオ、そして物質界に住み四元素すべてから成るジャーンである。
彼らの一部には、御伽噺に語られるように、定命の存在の願いを叶える力を持っている者もいる。

ジン(風の魔人):
 風の元素界に住むジンは、混沌にして善の気性を持つジンニーである。彼らは自在に空を飛び回り、その身を竜巻やガスに変じられる。
また、透明化したり、幻覚を作り出したり、飲食物やワインを生み出したりすることができる。
永続する植物性の物質を無から作り出したり、一時的になら宝石や貴金属等の様々な品物を作り出したりすることもできる。
 彼らの100人に1人は“高貴なるジン”であり、同族以外の存在の3つの《望み》を叶えてやることができる力がある。
ただし、一般的に彼らがそうするのは、誰かに捕えられて解放と引き換えに奉仕を約束した場合だけである。

ジンのボトル:
 NWNに登場する、特殊なマジック・アイテム。
使用することでほぼどんな場所でもジンの次元間商人であるヴォルカリオンを召喚し、商品の売買をすることができる。
ヴォルカリオンがしてくれるのは基本的には商取引だけで、戦闘への参加などはしてくれない。

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