Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia   作:ローレンシウ

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第九十九話 Deadman's house

 

「……どうするの?」

 

 詰め所から出た後、ひとまず人気のない場所へ移動してから、タバサはディーキンに端的に質問した。

 

 手元にはこの街で流通している麻薬の現物があり、それを売っていたという傭兵の住処も突き止めた。

 敵が傭兵を雇って今夜自分たちの借りている宿へ襲撃をかける計画を立てていること、そいつらが麻薬組織とつながりがあるらしいこともわかった。

 自分たちが動くのを阻止したがるということは、おそらくそいつらはアルビオンの反乱軍とも関係しているはずだ。

 それを踏まえた上で、この後どう動くべきか、ということである。

 

 ディーキンはタバサと向き合い、首をかしげて考え込んだ。

 

「ウーン、そうだね……。ディーキンにもこうしたらっていう考えはあるけど、タバサはどう思ってるの?」 

 

 そこで2人は、それからしばらく互いに意見を出し合ってみた。

 一方がなにがしかの案を提示し、もう一方がそれに対して難点を指摘したり、改善案を出したりする。

 

 ガデルから聞いたボックという傭兵の家へ行き、彼を問い詰めてどこで麻薬を仕入れているのか聞き出すというのが、まず一番順当な流れとして考えられる。

 順繰りに糸をたどっていけば、いずれは麻薬組織の黒幕の元まで辿り着くだろう。

 ボックは他所へ仕事に行かねばならなくなったらしいとか言う話だったが、それがアルビオンならば船は明日まで出ないのだから、まだこの街にいるはずだ。

 

 ただ、自分たちは明日出立する予定で、既にかなり時間を使っている。

 夜には襲撃があるというのだから、その前に他の仲間たちの元へ戻らなくてはならない。

 順々に糸を手繰っていっても、今夜の襲撃の前に大本へ辿り着いて潰すというようなことまではまず無理だろう。

 

 では、今夜の襲撃にガデルを加わらせるために彼を解放しにくるであろう件の商人を待ち伏せして捕らえるというのはどうだろうか?

 傭兵たちを集めて指示を出している人物を捕らえれば、襲撃の予定を中止させられるかもしれない。

 ボックとかいう傭兵に麻薬を売ったのがその人物だというのならば、おそらくはかなり詳しい事情も知っているはずだ。

 

 しかし、やってくるのがその商人本人だとは限らない。

 何も知らない雇われ者か下っ端の使い走りをよこすかもしれないし、そもそも誰も来ないかもしれないのだ。

 既に商人から買収されていると思われる衛視の誰かが時間になったら牢を開けてガデルを逃がし、彼に集合場所を伝えるだけ、ということも十分考えられる。

 仮にその買収された衛視を突き止めて締め上げたとしても、おそらくガデルから聞いたのと大差ない程度のことしか知らない可能性が高い。

 それに、ガデルによれば前回よりもさらに多くの傭兵を集める予定だという話だったが、まさかその商人一人でそれだけの数を手配して回っているわけでもあるまい。

 他にも襲撃計画を指揮する人員は当然いるだろうし、商人が途中で姿を消してもおそらくは残りの連中が指示を出して計画を実行させるはずで、襲撃全体を阻止できる望みは薄い。

 せいぜい、商人が担当している分の傭兵が動員できずに襲撃の人数がいくらか減るという程度が関の山だろう。

 

 敵が来るというのなら正面から迎え撃つまでだ、という考え方もあるだろう。

 こうして事前に敵の段取りを察知した以上は、あらかじめ迎え撃つ準備を整えておき、逆に奇襲するつもりでいる相手の不意を打つことだってできるのだ。

 返り討ちにして締め上げ、敵の情報を吐かせた上で後顧の憂いを絶って悠々とアルビオンへ渡ればいい。

 

 だが、その場合はおそらく同じ宿に泊まっている無関係な他の宿泊客たちを襲撃に巻き込んでしまうことになる。

 もちろん他人の迷惑を顧みずに襲撃してくる連中がそもそも悪いのだが、こちらにしてもわかっていて何も対策を取らないのは問題だ。

 

 ならば襲撃を避けるために、明日を待たずにすぐアルビオンへ出立するというのはどうか。

 通常の船は明日にならないと出ないが、今からでも港へ行って停泊している船の持ち主に金を積んで頼み込めば、おそらくなんとかなるかもしれない。

 

 とはいえ、そうすれば本当に宿の客を巻き込まずに済むのかというのはいささか疑問だった。

 敵の側はこちらが既に発ったのを知らずにそのまま宿を襲撃するかもしれないし、そうなれば結局は同じことになる。

 それに、ワルドが敵の内通者だという疑いもまだ晴れてはいないのだ。

 彼が今回の襲撃を手配した連中と通じているのであれば、予定をどう変更してみたところですべて敵側に筒抜けとなるであろう。

 その場合は宿の客を巻き込むことは避けられるかもしれないが、こちらが襲撃を受けること自体は避けられない。

 こちらが掴んだ予定通りに敵の襲撃が行われればそれに備えておけるのに、計画が変更されて予期せぬタイミングで仕掛けられたのではかえって不利になってしまう。

 

「ンー……。やっぱり、まずはボックっていう人のところへ行ってみるしかないんじゃないかな?」

 

 一通りの意見が出尽くしたあたりで、ディーキンはそう結論した。

 

 大本の組織までは至れなかったにせよ、糸を手繰ってこの街で麻薬を取り引きしている連中だけでも発見して潰しておけば当面の流通は食い止められるかもしれない。

 その後のことは、何もすべて自分たちだけでやらなくてはならないということもないだろう。

 後日手に入れた薬のサンプルを持参してアンリエッタ王女やマザリーニ枢機卿に説明し、トリステイン国内での取り締まりを強化してもらえば麻薬の件についてはなんとかなるはずだ。

 

 今夜の襲撃に関しても、この街で傭兵を動かしている商人やその他の連中を可能な限り糸を手繰って発見し事前に取り押さえてしまえば、あるいは防げるかも知れない。

 首尾よくいけばそれに越したことはないし、もし駄目そうならば襲撃の時間近くになったら宿の周辺を警戒してこちらから先に襲撃者たちを発見し、無関係な人々を巻き込まずに倒せばよい。

 なんにせよ、単に時間までのんびりと宿で待ち構えるだけというよりはいくらかましだろう。

 

「あなたが決めたのなら、私はそれに従う」

 

 タバサはまるで彼の従者のように従順な態度で頷いた。

 

 方針が決まった以上、タイムリミットまで時間がないのだから迅速に動かなければならない。

 2人は早速、ボックの家があるというスラムのほうへ足を向けた……。

 

 

 

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 ガデルから聞いた場所に向かった2人は、そこで思いがけない事態に遭遇した。

 なぜか、件の家の入り口に衛視が立っているのだ。

 

「アー……、こんにちは、衛視さん。ディーキンたちは観光で散歩してるんだけど、あんたはこんなところで何をしてるの?」

 

 昨夜傭兵たちを引き渡しに行った際に顔を合わせた衛視だったので、ディーキンはとりあえず通りすがりを装って話しかけ、事情を聞きだそうとしてみた。

 衛視は一瞬胡散臭そうな目をしたものの、友好的で人懐っこい態度が功を奏したのか、あるいは貴族であるタバサが一緒にいたからか、会釈をして質問に答えてくれた。

 

「この家で、人が死んでいると隣人から通報があったのですよ。まあ卒中か何かでしょうな、身よりもない傭兵崩れです。いずれ埋葬屋が来て死体を運び出し共同墓地へ埋めますが、それまでけしからぬ盗人などが入り込まぬよう見張っておるのです」

 

 それを聞いて、タバサとディーキンは思わず顔を見合わせた。

 

 このタイミングで、訪ねようとしていた男が死ぬとは。

 果たしてこれはただの偶然だろうか、あるいは先程の会見の情報が漏れていたのでは……。

 

(だとしたら、口封じのために……?)

 

 しかし、監視の目がないことは重々確かめたのだからそれはまずないだろうと、タバサは考え直した。

 

 それにガデルによれば、彼をスカウトに来た商人は「ボックが来れなくなったのでこれからは自分が取り引きをする」といったらしい。

 その言葉から考えるに、ボックはその時点で既に死んでいたか、少なくとも死ぬことは確定していたと見るほうが自然だ。

 ガデルが嘘をついてこちらをはめようとしたという考え方もできなくはないが、先程彼がディーキンに感謝していた様子はとても演技だとは思えなかった。

 第一、こっちを騙す気ならそもそもボックの本当の家を教えた上で彼を殺すなどという回りくどい真似をする必要はあるまい。

 偽の場所に向かわせて、そこで待ち伏せでも仕掛けたほうがよっぽど効果的なはずだ。

 彼はこちらとは直接関係のない組織内の内輪もめか何かで処分されたか、もしくは単に麻薬を吸いすぎて死んだとかで、それが偶然自分たちの訪問と重なっただけと考えていいだろう。

 

 それにしても、こちらにとっては実に不運で間の悪い偶然である。

 手繰ろうとしていた手掛かりの糸が切れてしまったことを思って、タバサは僅かに顔をしかめた。

 

 ディーキンは少し考え込むと、荷物の中からリュートを取り出す。

 

「それはお気の毒なの。できれば、その亡くなった人のために家の中で鎮魂歌を弾かせてもらえないかな? ディーキンはこれでも、ちょっとした詩人なんだよ」

 

「……私からもお願いする」

 

 胸を張るディーキンを見て、タバサもそう口添えをした。

 

 なるほど、彼は何か手掛かりが残っていないか家の中を調べてみるつもりらしい。

 現実の人間は月並みな小説の登場人物とは違うのだから、そう都合よく黒幕の居場所がわかるようなメモや日記を書き残したりしているものでもあるまいが、とはいえ可能性はゼロではない。

 まだいくらか時間はあるのだし、試してみる価値はあるだろう。

 

 衛視は渋い顔をしたが、少し考えた後で頷いた。

 ただし、自分もその間は同席させてもらうという条件付きでだ。

 

「その、貴族の方に無礼かとは思いますし、もちろんあなた方が何かを盗むなどとは思っていません。ですが、これも務めの上のことですので……」

 

 恐縮したように頭を下げる衛士を見て、タバサは困ったことになったと思った。

 麻薬商人に買収された疑いが強いことからこの街の衛視は腐敗した連中ばかりなのかと思っていたが、少なくともこの衛視はかなり職務に忠実で真面目な人物らしい。

 

 それは結構なことには違いないのだが、今の場合は困る。

 家の中にいる間中横にくっつかれていたのでは、ろくな調査はできまい。

 とはいえ、演奏に立ち会うななどと要求すれば、余計に疑われるに決まっているし……。

 

(……どうするの?)

 

 タバサは目で問い掛けるようにして、交渉の得意な同行者の方を窺ってみた。

 しかし、意外なことにディーキンはあっさりと頷いて、衛視の提示した条件を受け入れたのである。

 

「もちろん。じゃあ、中に案内してくれる?」

 

 その言葉を受けて衛視は先に立って2人を先導したが、実際のところはごく小さな家なので案内などは不要だった。

 

 傭兵のボックは、彼の私室で椅子から転げ落ちたような状態で死んでいた。

 舌を垂らし、赤黒く変色した凄まじい形相であった。

 唇は一見したところ、青く汚れてはいないようだったが……。

 

 タバサとディーキンはそんな屍を目の前にしても平気だったが、衛視は顔色が悪く、目を背けてなるべく死体を見ないようにしている。

 まだ若く、こんな現場には不慣れであるらしい。

 外の扉の前で見張っていたのも、おそらく死体のある家の中になるべく入りたくなかったためだろうか。

 それでもディーキンらが入る時には同行したあたり、やはり生真面目な性格なのだろう。

 

「ん……」

 

 ディーキンはまず、死体の前で手を組んで、しばし黙祷を捧げた。

 それから、手を伸ばしてそっと目を閉じさせ、舌をしまって口を閉じさせてやる……。

 

 その時、こっそりと唇の端のあたりを掠めるようにしてこすってみた。

 すると案の定、色が剥げてうっすらと青みがかった地肌が露わになる。

 

 この男がサニッシュを売るだけでなく、自分でも使っていたことは明らかだった。

 気取られないように、普段は化粧をしていたらしい。

 

(でも、サニッシュでこんな死に方はしないはずだけど……)

 

 ディーキンの知る限り、サニッシュの副作用は体に致命的なものではない。

 仮に誤って過量を摂取したとしても、そうそう死に至るようなものではないはずなのだ。

 してみると、この男は普通に麻薬を摂取していて過ちで死んだのではなく、誰かに何らかの方法で殺されたのだろうか。

 

 それを調べるには明らかにもっと別の調査が必要で、そのためには部外者に監視されていてはまずかった。

 だがもちろん、そんなことはどうとでもなる。

 

「じゃあ、演奏するね。あ、タバサは歌が外に聞こえないようにして。近所の人がなんだろうって思うかもしれないから――」

 

 ディーキンはそれからしばらく、荘厳な鎮魂歌を奏でた。

 その不思議なほど澄んだ美しい響きに、ただ厳粛な気持ちで死者を悼むという以上に、衛視やタバサは惹き込まれていく。

 

 一区切りつくと、ディーキンは衛視にふと思いついたように提案をした。

 

「――あ、衛視さん。もうちょっと演奏とかお祈りとかを続けたいんだけど、もしも外に演奏が聞こえてたら誰かが覗き込んで来るかもしれないから……『家の外に立って、ディーキンたちが出るまで誰も入ってこないように見張っていて』くれないかな?」

 

 ディーキンは演奏を交えながら、気取られることなく衛視に《示唆(サジェスチョン)》の効果を投げかけた。

 

「あ……、そうですね。外に漏れ聞こえていたら、何事かと思って人が集まって来るかもしれません。では、私は見張りを……」

 

 衛視はあっさりと示唆された行動を受け入れて、部屋から出ていった。

 

 正面から呪文を使えば万が一抵抗された場合に、あるいは呪文の効果が切れた後に厄介なことになる可能性があるが、これならばまず問題は起こるまい。

 普通に説得して衛視を説き伏せることも不可能ではなかっただろうが、呪文によって行動を限定しておけばなかなか出てこないことや家の中を引っ掻き回す音がすることを不審がって中を覗くなどということはありえなくなるので、この方が確実である。

 

 これで、呪文の効果が切れるか自分たちが外に出るかするまでは、衛視がここに戻ってくる心配はないわけだ。

 

「……お見事」

 

 衛兵が出ていってしまうと、タバサは呟くようにそう言って、ディーキンの手並みを賞賛した。

 彼は普段は控えめな機知を示す程度でそこまで並外れて鋭敏な方だとも思えないのだが、こういう時の手並みはいつもスマートだ。

 自分では、とてもこうはいかない。

 

「手分けして調べる」

 

 タバサはそう言って、さっそく手近な戸棚などを調べにかかろうとした。

 彼女としては何か手がかりが残っていないかどうかこの家の中を片っ端から調べて回るつもりだったし、ディーキンもそのつもりで中に入れてもらったのだろうと考えていた。

 

 しかし、ディーキンは首を横に振ってタバサを引き止めた。

 

「待って、闇雲に探してもなかなか見つからないと思うの。まず、この人に聞いてから何を調べるべきか考えた方がいいんじゃないかな?」

 

 そう言って横たわる死体を示すディーキンを見て、タバサは困惑した。

 

 一体、何を言っているのか。

 死人にいまさら何を、どうやって聞くというのだ。

 それとも、彼が言っているのは何かの比喩なのだろうか……?

 

「……どういうこと?」

 

 さっぱりわからずに、屍とディーキンとを交互に見比べるタバサ。

 

 ディーキンはそれに答える代わりに、荷物の中からワンドを一本取り出した。

 金管楽器のような真鍮色をした杖で、先端が少し膨らんでいる。

 

「見てて」

 

 そう言って短杖の先端を横たわっているボックの骸に向け、コマンドワードを唱えた。

 

「《レンシスジ・ダウター・ロークス》……」

 

 合言葉を唱え終わると、喇叭から音が飛び出すように広がった杖の先端から魔力の輝きが流れ出し、屍の体に浸透していく。

 ややあって魔力の輝きが消えると、なんと、死体がかっと目を見開いたではないか!

 

「……っ!?」

 

 多少のことでは動じぬタバサも、目を疑うような光景に思わずびくりと身を震わせた。

 

 目を開いたにもかかわらず、それが屍であることは依然として明らかだった。

 その眼球は濁っていて何も映しておらず、焦点もあっていない。

 まるで、幼い頃に読んで眠れなくなった恐怖物語に出てきた、恐ろしい幽霊のようだった。

 

 そいつは……ボックの屍は、焦点の合わぬ目を虚空に向けたままで、唇を震わせながら虚ろな声で話し始めた。

 

 

 

「――――俺は見た……。燻る葉巻、歪む光景、嘲笑う悪魔の鴉……」

 

「……俺の望み。悪魔どもへ復讐し、故郷の家族に連絡と詫びを……」

 

「……薬に浸した葉巻を吸った。いつもより濃くて、何かが混じってた。すぐに投げ捨てたが、心臓が痛んで、気が遠く……」

 

「……吸ったのは俺だが、死ぬ気はなかった。渡したのは、鴉だ。悪魔の使い魔、悪魔の鴉……」

 

「……俺は、悪魔に魂を売った。やつらはすぐに、俺の魂を欲しがったんだ。あの鴉が、そう言っていた――――」

 

 

 

 ディーキンとタバサは、すぐに屍の語った情報に基づいて調査を開始した。

 

 彼が投げ捨てたという葉巻は燃え尽きてしまったのか、それとも“悪魔の鴉”とやらが持ち去ってしまったのか見つからなかったが、床から燃え殻と思われる灰などをいくらか掻き集めることができた。

 それに対して《毒の感知(ディテクト・ポイズン)》を発動したところ、濃密なサニッシュに加えてモーデインと呼ばれる別種の麻薬が混入していた痕跡が確認されたのである。

 

 モーデインは希少な薬草の葉から作られる美しい幻視を体験させてくれる麻薬で、サニッシュよりも遥かに強力で致死的な代物だ。

 通常は粉にしたものを使って淹れた茶の、その蒸気だけを吸入することで使用する。

 粉や茶を直接摂取したりすれば、過剰摂取によってモーデインは致死性の猛毒となるのだ。

 

 おそらくボックはサニッシュに加えてモーデインの粉末が混入させられた葉巻をそれと知らずに火をつけて吸い、過剰摂取によって絶命したに違いない。

 そして、やはり麻薬を流していたのは悪魔……デヴィルらしいということも、わかった。

 悪魔の鴉というのが何かは不明だが、鴉に姿を変えられる小型の悪魔だとすればインプやスピナゴンなどが考えられる。

 麻薬を与えて堕落させ、魂を売る約束をさせた上でわざと致死量の麻薬を与えて死に至らしめたというわけだ。

 死の間際にそのことを本人に伝えたのは、悪魔らしい残虐さから……といったところだろうか?

 

 ディーキンは他にも必要なことをいろいろと調べた上で、いくつかの品物……調査の役に立ちそうなものや、部外者の目に触れさせてはまずそうなもの……をこっそり回収して、荷物袋の中に仕舞い込んだ。

 最後に、家探しをしている時に見つけた彼の実家の場所がわかるメモ書きを机の中のわかりやすい場所にしまっておいた上で、去り際に表の衛視にもうひとつ示唆を吹き込んでおいてやる。

 

「身寄りが本当にないかどうか、『すぐに机の中とかを調べてみて、家族がいたら事情を伝えて残っている財産だけでも渡してあげるように』するのがいいよね?」

 

 これで、ボックの死に際の望みはいくらかなりとも叶えられることだろう。

 勝手に家の中を調べたり死体に呪文を掛けたりさせてもらったせめてものお礼だった。

 

 そうしてするべきことをすべて済ませると、ディーキンとタバサは急いでこの場所を後にして、次の行動にとりかかった……。

 





レヴァリ
Reveille /死人に口あり(起床喇叭)
系統:死霊術[言語依存]; 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:接触
持続時間:5ラウンド
 術者は、死後3日以内のクリーチャーの死体1つに、死に至る経緯に関する情報を死体の母国語で簡潔に語らせる。
この呪文は死体に残った記憶の痕跡を読み取るのであって、死者の霊魂を呼び戻したり死体をアンデッド化したりするわけではない。
 最初のラウンドに、死体は最後に見たものについて説明する。
2ラウンド目に、死体は最後の望みについて語る。
3ラウンド目に、死体は自分がどのような攻撃で殺されたのかについて語る。
4ラウンド目に、死体は誰が自分を殺したのかについて語る。
5ラウンド目に、死体は自分が殺された理由について、自分がこうだと信じるところを語る。
 なお、この呪文はバード専用である。

ディテクト・ポイズン
Detect Poison /毒の感知
系統:占術; 0レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:瞬間
 術者はクリーチャー1体、物体1つ、あるいは効果範囲1つが毒に侵されているかどうか、もしくは毒を持っているかどうかを知ることができる。
難易度20の【判断力】判定、ないしは〈製作:錬金術〉判定に成功すれば、毒の正確な種類を判別することもできる。

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