(トレーナーさんの)賢さが不足しているようですね   作:龍角散ガム

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イナリワン

 

 

「コン……コンコンッ! ……ん〜、なんか違ぇなぁ……。コンコン、コンッ!!」

 

 『あなた』の目の前で、イナリワンが手で狐を作りながら、あれこれポーズを試しています。

 

「どうでぃ、ダンナ! この“お狐様ポーズ”ってやつぁ!」

 

 ぴしっと決めてみせるものの、本人はまだ納得していない様子です。

 

 現在、トレセン学園ではいかに観客(トレーナー)にアピールするかが流行になっていました。

 特に最近は、レース後のオリジナルの決めポーズを披露するのが流行っているらしいのです。

 

 以前のイナリワンなら、「流行りに乗っかるたぁ、イナリ様の名折れでぃ!」なんて啖呵を切っていたはずなのですが、最近は妙に流行へ敏感でした。

 

 どうやら友人たちから、「イナリはカッコいい系なんだから、たまに可愛いことするとギャップ萌えするよ!」と吹き込まれたらしいのです。

 

 その結果、江戸っ子気質全開のイナリワンへ、“キュート属性”を組み込み化学反応を起こさせるという結論に至ったのでした。

 

 そして、悩みに悩み抜いた末に辿り着いた答えが、“手で狐を作る”なのです。

 

「うぅ〜ん……。なんか、あと一押し足りねぇ気がするんでぃ……」

 

 あーでもない、こーでもないと唸るイナリワンを見ているうちに、『あなた』もつられて手で狐を作ってしまいます。

 

“コン……”

 

「おっ、ダンナもやるのかい! へへっ、いいじゃねぇか♪ ほら、コンコンッ!」

 

 嬉しそうに笑ったイナリワンは、『あなた』のすぐ目の前までやってきました。

 

 二人並んで、狐を作ります。

 

“コンコン”

 

「コンコンッ!」

 

 なんだか楽しくなってきた『あなた』は、狐をイナリワンの狐へ近づけました。

 

「っ……!」

 

 一瞬だけ、イナリワンの身体がぴくりと震えます。

 

“……?”

 

 不思議そうに首を傾げる『あなた』。

 ですがイナリワンは、誤魔化すように視線を逸らしながら、再び狐を作りました。

 

「……こん、こん……」

 

 今度は、イナリワンの方からゆっくり近づいてきます。

 

 いつもの勢いがありません。

 どこか妙に大人しくて、妙に緊張しています。

 

 そんな様子を見た『あなた』は、「調子が出てないのかな」と考えました。

 だから、元気づけるつもりで——

 

“コンコン!”

 

 勢いよく、自分の狐をイナリワンの狐へぶつけます。

 

Chu♡

 

「っっっ♡!?」

 

 その瞬間。

 イナリワンの尻尾がビーンッ! と真っ直ぐ立ちました。

 慌てて狐を引っ込めるイナリワン。

 顔はみるみる真っ赤になっています。

 

“???”

 

 ですが、『あなた』には理由がわかりません。

 そんな『あなた』をちらりと見たあと、イナリワンは小さく息を呑み、再び狐を近づけてきました。

 

Chu♡

 

 そっと。

 まるで小鳥が啄むみたいに、狐同士が触れ合います。

 『あなた』も楽しくなってきて、そのたびに狐をくっつけ返しました。

 

Chu♡ Chu♡ Chu♡

 

「〜〜〜っ♡♡♡」

 

 イナリワンの耳がぴこぴこ揺れ、尻尾は落ち着きなくばたばた動いています。

 

 それでもやめません。

 むしろ、どんどん距離が近づいていきます。

 気づけば何十分もの間、『あなた』とイナリワンはキツネキスを続けていました。

 ※なお、『あなた』はこれをキスだと思っていません。

 

「……っ♡ はぁ……♡」

 

 やがてイナリワンは狐を解き、今度はそっと『あなた』の手を握りました。

 

 ぎゅっ。

 

 優しく。

 けれど、熱を確かめるみたいに。

 

 『あなた』もまた、流されるまま握り返します。

 するとイナリワンは、嬉しそうに指先をにぎにぎ動かしました。

 

「へへ……。ダンナの手ぇ、あったけぇなぁ……♡」

 

 その声は、いつもの威勢の良さとは違います。

 

 どこか甘くて。

 どこか蕩けるようで。

 

 『あなた』は、イナリワンの呼吸が少し荒くなっていることに気づきました。

 

 ですが、“楽しく遊んでテンションが上がっているだけ”だと判断します。

 なので、『あなた』も負けじとにぎにぎし返しました。

 

「っっっっっ♡♡♡♡♡♡」

 

 イナリワンの肩が大きく跳ねます。

 そして——

 

 ガバッ!!

 

“うおっ!?”

 

 ついに限界を迎えたイナリワンは、『あなた』を勢いよく押し倒しました。

 

 尻尾はぶわんぶわん。

 顔は真っ赤。

 呼吸は熱っぽく乱れています。

 

「だ、ダンナってやつぁ……ほんっと、人たらしでぃ……♡」

 

 そう呟きながら、イナリワンの顔がゆっくり近づいていき——

 

 

 

Chu♡♡♡

 

 

 




たづな「ウマ娘相手にキツネキスはやめましょう。それはもう、うまぴょいアピールです」
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