2013年に転生して、5年が経過した2018年。
俺こと竜ヶ崎輪廻は彩葉と共に5歳となり、にじり寄ってくる小学校入学に向けて準備を始めていた。
「りんちゃん、ランドセルの色、何色にするん?」
「うーん、どうしようか。ボクまだ迷ってる。そういう彩葉は決めた?」
「うん、わたし赤!かわいいし!」
「いいじゃん。じゃ、せっかくだしお揃いにしちゃおっかな〜」
「ほんと?お揃い嬉しい!」
この5年間、思ったことがあるんだよね。
彩葉、可愛すぎん?
今、彩葉は選んだランドセルを抱きしめながら、こちらに満面の笑みを向けている。やばい、可愛い。そりゃね?8000年彩葉の魅力ってのはヤチヨから耳が腐るほど聞いたよ?でも、いざ本人を目の前にしてしまうとね、やばいよね(語彙力消失)。
「2人とも、色決まったなら、行こか。お昼ご飯食べて帰るで」
「「はーい!」」
本日の引率は彩葉のお父上である酒寄朝久さん。プロの作曲家で、とても優しい人だ。俺たちの前では常に笑みを浮かべており、俺のことも実の娘のようによくしてくれている。今日だって、俺の両親が急な仕事が入ってランドセルを一緒に見にいけなくなってしまったのを聞いて、引率を申し出てくれたのだ。まじで、頭上がらへんよ。
俺と彩葉はほとんど毎日と言っていいほどよく遊んだ。
公園で砂遊びしたり、朝久さんの引率で遠足のおやつを買いに行ったり、彩葉の家でお泊まり会をしたり、とても楽しい毎日だった。
でも、俺は知っている。朝久さんが亡くなるのは、彩葉が6歳の時。つまり、近いうちに亡くなってしまうということを。朝久さんが死んでしまうことで、酒寄家の家庭環境はズタボロになってしまうということを。
俺は朝久さんの死を変えることはできないし、酒寄家の家庭環境を救うことも、きっとできない。
もちろん朝久さんには亡くなって欲しくないし、酒寄家の家庭環境も救えるなら救いたい。でも、もし朝久さんが亡くならなかったら。もし酒寄家の家庭環境が修復されてしまったら。彩葉は東京に出て行かないだろう。
8000年生きていたって、どうにもできないことはある。わかっていた。
8000年生きていれば戦争を止められるってわけでもないんだし。
それでも、8000年生きた俺でも、やっと出会えたかけがえのない友人が、その周りがどんどん壊れて行くのを、ただ見ることしかできない。
その事実に、俺は無性に腹が立った。
ある日、彩葉の家で曲を作るところを見学することになった。彩葉は楽しそうにキーボードを弾き、朝久さんは隣で、彩葉の兄である朝日も、お母上である紅葉さんも、遠くからそれを見て笑っていた。
俺は、その光景をもっと遠くから見つめていた。
『彩葉、音楽は自由に楽しむんやで』
その言葉を聞いて、俺はとあるシーンを思い出す。
映画館で観た、あの回想だと。
俺は無力だ。こんなに幸せそうな家族が壊れて行くというのに、何もできないだなんて。
そう思っていると、聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。そして、聞こえるはずのない言葉が聞こえてきた。
“大切なメロディは流れてるよ あなたのハートに”
なんでだろう。いるはずがないのに、俺の目には、映っている。
“あの曲”を歌う、ヤチヨが。
歌い終わったヤチヨは、こちらを見て少し微笑み、姿を消した。
わかっている。彼女が本物のヤチヨではないことなんて。でも、
『したいでしょ?ハッピーエンドに』
こう、言われた気がした。
後日、俺は朝久さんにみんなに内緒で二人きりで話がしたいと申し出た。朝久さんは快く了承してくれて、朝久さんの部屋で、俺と朝久さんの二人きりになった。
「輪廻ちゃん、話って?」
そう朝久さんに問われる。それに俺は、こう答えた。
「朝久さん、無理してますよね」
「っ⁉︎……なんで、そう思うん?」
俺が答えた瞬間、朝久さんは見てわかるほどに驚いた。しかし、それも一瞬で、すぐにいつものような笑顔で、再び問いを投げかけてくる。
「まず、目の隈がひどいです。これに関しては見たらすぐわかります。」
「……そっか。でも、まずって、どういうことなん?」
「あともうひとつ。8000年の勘です。」
「8000年?」
「……信じてもらえないだろうけど、ボク、いや俺は、転生してるんです。8000年前の縄文時代だから、この現代まで。」
言ってしまった。他人に、俺の秘密を。
「俺は8000年の間に、いろんな人を見てきました。良い人も、悪い人も。面白い人もいたし、めちゃくちゃな人もいた。その中に、今のあなたのような人は、たくさんいた。その人たちは、決まって破滅しました。」
「……」
「信じてもらわなくても良いです。子供の戯言だと無碍にしてくれて構いません。でも、これだけは、これだけは覚えておいてください。『あなたは一人なんかじゃない。抱え込まないで』ってことを」
「……輪廻ちゃん」
「…ごめんなさい、変なこと言って。帰ります、さよなら」
「いや、信じるで。輪廻ちゃんが言うたこと。輪廻ちゃんがそんな嘘つくような子じゃあらへんのはわかってる。それに、娘と同じ歳の子に見事に当てられてもうたら、8000年なんて信じてまうよ」
「朝久さん……」
「話してくれて、ありがとう。でも、きっともうあかんと思う」
「え?それは、どういう」
「なんとなくわかるんや。近いうちに死ぬんやって。彩葉達にもそれは隠してた。凄いな、8000年って。人が隠してるもんあっさり暴いてまうんやから」
「多分、無意識に諦めてたんやと思う。でも、輪廻ちゃんが言うてくれたおかげで、もうちょっと、頑張ろうって思えた。だから、ありがとう。」
そう言った朝久さんは、何か憑き物が落ちたような、清々しい表情だった。
そして、彩葉が6歳の時、朝久さんは亡くなった。
彩葉は、泣いていた。俺は後ろの方の席で、彩葉の泣いている声を静かに聞いていた。
その日からだ。紅葉さんが感情をあまり出さなくなったのは。
その日からだ。彩葉が今までみたいに笑わなくなったのは。
『やるんやったら勝ちに行きぃ言うてるやんな?』
『形無しで成功するんはホンマに一握りや。楽しんでる場合やあらへん。お父さんからもらったもん、遊んで食い潰すんか。』
紅葉さんの人の心のない正論火の玉ストレートマシンガンも火を吹き始めた。心をすり減らしていく彩葉を見るのは、とてもじゃないが辛かった。
そして、朝日が上京して、酒寄家にいるのは彩葉と紅葉さんの二人だけになってしまった。
俺は彩葉の側に居続けた。一緒に帰ったり、宿題をやったり、夏休みには一緒に遊びに行ったりした。
そんなこんなで彩葉と過ごしているうちに、彩葉は月見ヤチヨを知った。厳密には、俺が教えたんだけどね。
「彩葉、月見ヤチヨって知ってる?え?知らない?絶対見た方がいいよ!面白いんだよ〜」
そんな感じで押しに押して彩葉にヤチヨを勧めた結果、彩葉は__
「ヤチヨーーッ‼︎‼︎今日も最高ーッ‼︎」
推しに推した。俺の布教もあってか、彩葉は熱狂的なヤチヨのファンになってしまった。学校が終わって家に帰る時も、一緒に宿題する時も、なんなら学校でも、ずーーっとヤチヨの話をしている。いやぁ、ヤチヨは果報者だねぇ。
そして俺はというと。
「株価急上昇!よっしゃーーッ‼︎」
バリバリ資産運用をしていた。いや、ね?なんで唐突に資産運用なんてやってんのって話だよね。安心しろ。これにはちゃんとした理由がある。
俺は勿論、彩葉が上京して東京に行くのについて行く気だ。じゃあそのためには何が必要だと思う?そう、金なんだよね。
生活費に、学費。あとその他諸々で、まあ大金が必要なのよね。でも、親にそれらを出してもらうってのも俺のエゴに巻き込んでしまうわけだからそれも避けたい。だから、今のうちに自分の金を増やして生活に困らないようにするってわけ。
そして、俺にとって、資産運用以上にやらなければいけないことがある。それは__
「やっと手に入ったぜ、スマコン」
スマコンをゲットした。資産運用のおかげだね。
スマコンをゲットしたということは、ツクヨミに行けるということ。ツクヨミに行けるということはつまり、
「待ってろよヤチヨ。いや、かぐや」
2013年に転生して十数年。やっと、会える。さあ、再会の時だ。