「ハイ、カレーうどん出来まシタ~」
「アレ?今日ハ、裏命ちゃんがご飯当番ジャなかっタっけ?」
満足そうな表情を浮かべてカレーうどんの入ったお盆を持ってくる可不ちゃんに思わず疑問の声が漏れる。可不ちゃんのご飯、特にカレーうどんはとても美味しいから不満なんてないけど、今日のご飯は裏命ちゃんの筈だったから少しアレ?と思った。裏命ちゃんは私達の中でも責任感が強いししっかりしているから忘れたとは考え難い。
「あ、裏命ちゃんハ調子が悪いみたいデス。後で埋め合わせするカラ、今日の当番を代わってっテお願いされマシタ。ご飯も今日は食べナイそうデス」
「フーン…。ウイルスにデモかかったのカナ?少し心配ダネ」
「ご飯食べないト、お薬モ飲めませんカラネ…。明日ハ何カ食べてくれるトいいのデスガ…」
狐子ちゃんがうどんを受け取りながら呟くのを聞いて、私も少し心配になった。可不ちゃんも不安そうだし、ここは私が動くとしよう。
「ジャア、私が後でプリンとお薬持ってくネ?プリンくらいなら、食べられるカモ」
「あ、いいデスネ!お願いシマス、星界チャン!」
「ウーン…。裏命ちゃんって結構頑固ダカラ、断るかもしれないケド…」
「まぁ、行くダケ行ってみるヨ。じゃ、いただきマス」
不安そうな表情をぱぁっと明るくした可不ちゃんと、少し悩ましげな表情の狐子ちゃんを見比べながらカレーうどんを啜る。相変わらず美味しいそれをいつもより少し早めに啜りながら、私はプリンを持っていったら裏命ちゃんが喜んでくれるかな、なんて考えていた。
***
「裏命チャン?プリンとお薬持ってきたヨ?」
裏命ちゃんの部屋の扉をノックする。しかし、反応はない。思ったより調子が悪いのかもしれない。少し不安になって、悪いとは思いつつももう一回だけノックすることにした。
「裏命チャーン…?」
「…星界チャン?」
いつもより弱弱しい、快活な裏命ちゃんらしくない声が聞こえる。僅かに聞こえる呼吸もぜぇはぁと荒く苦しそうだった。
「大丈夫?お薬飲まないト、よクならないヨ?」
「ンー…。デモ…、これハ少し違うトいうカ…」
「違うっテなにガ?ホラ、少しデモ食べテ、しっかり治そウ?」
「…ジャア、入ってキテいいヨ?」
少し歯切れの悪い裏命ちゃんの様子に疑問符が浮かぶけれど、私の説得を受け入れてくれたようで裏命ちゃんは部屋に入っていいと言ってくれた。その言葉に甘えて、私は部屋の扉を開けて中に入る。
「お邪魔しまース…」
「うン、どうゾ…」
「あ、裏命チャン。調子はどウ?どんな感じニ具合悪イ?」
「ウン…。少し、体が熱かったリ、ぼーっとシタリする、カナ…?」
「じゃあ、風邪薬でいいネ。プリンも持ってきたカラ、先にそっち食べヨウ?」
そう言って私はベッドで横になっている裏命ちゃんの元まで近づく。そうして、布団に触ることが出来るくらいまで近づいた時だった。
「…ご、ゴメンネ、星界チャン…!」
「エ、ちょ、ちょっト…!?ウワァ…ッ!?」
突然、具合が悪かったはずの裏命ちゃんが腕をぐっと伸ばして私の腕を掴む。そのままぐいっと引っ張って、私をベッドの上に引きずり込んできた。プリンにスプーン、水のペットボトルに風邪薬、持ってきたもの全部床に散らばって、私は裏命ちゃんに押し倒されるみたいになってしまう。
「り、裏命チャン…?」
「あ、ハハ…!星界チャン…!チュウ…ッ!」
「ゥンッ…!?」
息も荒いままで顔も赤かった裏命ちゃんは、しかしその顔に笑顔を浮かべて、困惑する私の唇を奪った。風邪がうつるかもしれない、と一瞬不安になった私は、けれどすぐにそれよりもずっと怖い異変に襲われた。
「ンゥ…ッ!?あ、熱イ…ッ!?り、裏命チャ…、ヤメ…!ンゥ!」
「や、ヤダ…!星界チャン…!チュ、ンゥ…ッ!」
裏命ちゃんにキスされた途端に身体が焼けるみたいに熱くなって、困惑する頭の中に狐子ちゃんが言っていた“ウイルス”の言葉が浮かぶ。機械の私達にウイルスなんてご法度だ。怖くなって裏命ちゃんを押し返そうとするけれど、抵抗する私よりもずっと強い力で押し倒されて私は裏命ちゃんの為すがままに唇を奪われる。そのまま、上がっていく体温とぱちぱちと弾ける思考に襲われて、私は思わず涙を零した。
「チュ…。ア、アハハ…。星界チャン、具合はドウ…?」
「ぷ、プァ…。あ、熱い、デス…」
「え、エヘヘ…。計画通リ…」
「エ…?」
裏命ちゃんが笑いながら言った『計画通リ』という言葉に、急に不安に襲われる。不安そうに裏命ちゃんを見るけれど、裏命ちゃんはそんなこと気にしていないようで私の頬に手を伸ばす。
「エイッ」
「ヒャゥ…ッ!?」
そうして、裏命ちゃんの手が私の頬に触れた途端、ぞくりと寒気にも似た感覚が私を襲う。そのまま撫でるように裏命ちゃんの手が動くたびにぞわぞわと未知の感覚が私を襲って、怖くて堪らない。
「り、裏命チャン…!な、なに、コレ…!?」
「実は、ネ…!具合悪かったのッテ…、マスターに貰っタウイルスのせいナンダ…!」
「な、なんデ、そんな危ないコト…!」
「アハ…!ほんとハ、星界チャンだけニ使うつもりだったケド…。間違っテ、私が先ニ感染しちゃっテサ…。それニ、そんな悪いウイルスじゃないヨ…?ちょっと気持ちよくなるだけダカラ…!」
不安がる私の様子を愉しそうに眺めながらさっきより呼吸を荒くする裏命ちゃんは、私との距離をゼロになるくらいぎゅっと縮めて私に抱き着いてきた。
「ヒャア…ッ!?」
「ン…ッ!ァ、気持ちイイ…」
抱き着かれた途端にさっきのぞわぞわが私の全身を襲う。身体を震わせる私を抑え込むように抱き着く力を強めて、裏命ちゃんは熱い息を吐いた。耳にかかる吐息がいつもよりずっと擽ったい。
「は、離しテ…、裏命チャン…!こ、怖いノ…!」
「フフ…!大丈夫ダヨ…、星界チャン。怖くないカラ…。ふわふわ、幸セになれるカラ…」
怖くて涙を流す私など知らない様子で、熱に浮かされたような裏命ちゃんは私を抱き締める力を強めながら身を捩って私と視線を合わせる。いつもの優しい目じゃなくて、ぎらぎらと鋭く輝いていてぞくりと恐怖が走った。
「ヤ…!り、裏命チャン…!」
「アハハ…。星界、チャン…!星界チャン…!」
「ンゥ…ッ!?」
そんな私の恐怖の感情も無視して、裏命ちゃんは再び唇を重ねてくる。私は、襲い来る恐怖を少しでも抑えようと、布団に掛けられたシーツをぎゅうっと握り締めることしか出来なかった。