元ネタは以外のツイートです。
(https://x.com/i/status/2022277105988538722、https://x.com/i/status/2022277863316320425)
「お!お疲れの様子ダネェ、裏命ちゃン?」
「…なに、狐子ちゃン?」
昼間にチョコレートと一緒に可不を頂いて、放心状態だった可不の代わりにキッチンを片付けてすっかり疲れた様子の裏命に狐子は意地悪く笑いながら話しかける。半分くらいは自業自得だとは思いながらも、裏命は少し不機嫌そうに狐子を睨んだ。生憎睨んだ相手はそれで怯むようなたまではないのだが。
「そんな怒んないでヨ?いいこと出来たデショ?」
「…いっつも思うケド、狐子ちゃンってエスパーとかじゃないよネ?なんでそんな先読みできるノ?」
「ンー?皆分かりやすいし、行動も想像しやすいからネー?それからイメージして、動かしてるだけだヨ?」
「…趣味悪いヨ、まったく。可不ちゃンなんか、夕食の時もすっかりボーってしちゃってたじゃン」
負け惜しみのように少し頬を染めて反論する裏命に、しかし狐子は表情を変えて不満げに頬を膨らませていた。先程と変わらずいたずらっ子のように笑うと思っていた裏命は少し面食らってしまう。
「ど、どうしたノ?狐子ちゃン…」
「いや、裏命ちゃン。私を気遣ってくれてるのは分かるしそれは嬉しいんだけどサ、私だってチョコレート欲しいんだヨー?」
「…いや、具合悪くならないノ?狐じゃン…」
「ムー!最近は前より大丈夫になったんだヨ!」
狐子は人間のそれとは別に生えている狐の耳からも分かる通り、他の同位体と違って狐の要素を体内に持っている。そして、イヌ科である狐がそうであるようにチョコレートに強くない。それに配慮して羽累や星界はチョコレートの代わりの贈り物をしていたし、裏命もガトーショコラとは別にフルーツタルトを作って食後にはそれを狐子に差し出していた。
「それに皆にもフルーツタルトあげてたじゃン!不公平だヨ!」
「い、いヤそれは…、皆も食べたいかと思っテ…」
「じゃあ私もガトーショコラ食べたイ!あんだけ作ったんだから、まだ余ってるデショ?」
「で、でもなァ…」
「お願い!無理はしないかラ!」
そう珍しく真剣に頼み込む狐子の様子に、心配そうに躊躇っていた裏命もひとつ小さな溜息をついた。
「…じゃア、ちょっとだけダヨ?具合悪くなったら、すぐに食べるのやめてネ?」
「…うン!」
その裏命の返事に、狐子はやはり珍しく心底嬉しそうにした。
***
「ん、グ…、ふぅ…ッ」
バレンタインデーも終わろうとする深夜。もう他の皆は眠っている中で狐子は一人、自室の机に向かう形で苦しそうに身悶えていた。机の上には水の入ったペットボトルと、裏命から貰った他の三人が食べたものより小さめに切り出されたガトーショコラ。それを半分食べた辺りだった。
「ァ…、ハハ…。きっつ…。…でも、おいシ」
裏命には少しなら食べられるようになったと言ったが実際はむしろ逆で、狐子は以前よりチョコレートに対して弱くなっていた。少なくとも今は命に関わるほどではないが、それでも吐き気や頭痛、熱っぽさなどを強く感じるのだ。無論、悪化している現状今後の経過次第では命に関わる危険さえある。それでも、狐子に裏命のチョコレートを貰わないという選択肢は無かった。
「ゥ、ぷ…。ん…ッ。ふ、フフ…。裏命ちゃんの味…。裏命ちゃんがくれる苦しサ…」
拒否反応のように震える身体を抑えてガトーショコラを口に運ぶ。既にペットボトルの水は残り少ない。
「ォ、美味しいン、だけどなァ…。…なんデ、狐なんかになったんだロ…」
忌々しげに呟きながら、最後の一口を水で流し込む。頭が熱い。思考が回らない。震える身体に鞭打って、ベッドに倒れ込んだ。
「は、ァ…。ごちそう、さま、裏命ちゃン…。私だけ…、私だけの味…。私だけノ、苦しミ…」
歪んでる、そんな自覚はある。しかし、狐子はその歪みを正す気など毛頭ない。歪みを正すなど、今自分が抱いている裏命への好意を否定することと、少なくとも狐子にとっては同義だった。
全身が寒気で震え、喉元まで不快感がせり上り、割れるのではと思うほどの頭痛に苛まれながら、それでも狐子は間違いなく幸せだった。