肉まんシェアと頬キスが書けたので満足。
完璧にはなれなくてもゆかりさんの前でかっこよく振る舞いたい茜ちゃんを上手く書けてれば嬉しいな、とか思ったり。
「いやぁ、久しぶりに映画館で見たけどやっぱ大スクリーンはええなぁ」
「そうですね、家で見るのとは全然違いました。内容も面白かったですし」
「よかったやろ?ゆかりさんは中々見なかったけど、たまにはアクションも」
「えぇ、茜さんのチョイスでしたからちょっと心配でしたけど、問題なく」
「酷くない?」
そう頬を膨らませる茜にごめんなさい、とくすくす笑いながらゆかりは冬の街中を歩く。映画館併設の商業プラザ前の広場の時計は23時57分、あと3分もしないうちに日付が変わるのを示していた。
「ところで、さ。今更やけど、こんな時間に誘ってよかったん?バイト終わって突然誘ったうちが言えたことやないけどさ」
「はい、来週はもう忙しくなりそうでしたし、いい気分転換になりました。むしろ、ありがとうございます」
「ふぅん…、まあ、こっちとしても、都合がよかったけど…」
そう言いながら少しそわそわした様子で茜はゆかりの隣を歩いた。ああ、そういえば。ゆかりはなんとなく茜の意図を察して、少し頬を染めながら敢えて何も言わずにその隣を歩く。そうして、少し歩いたところでピピピ、と高い音が小さく響いた。
「ほな、ゆかりさん。誕生日、おめでとぉ」
上着のポケットからスマートフォンを取り出してアラームのスイッチを手早く切ると、少し前に歩み出たところで振り向いた茜が、赤く染まった頬を緩ませながら笑って告げる。
「やっぱり…。ありがとうございます」
歩道の真ん中、立ち止まるのはどうかとも思ったが、それよりもずっと嬉しさが勝った。ゆかりは立ち止まって感謝を告げて頭を下げた。
「はは、やっぱ分かるかぁ。でも、よかった。一番に言えて。うち、どうしても一番に言いたかったんやもん」
「あはは、そういうの茜ちゃん結構こだわりますよね」
「えぇ~?ゆかりさんだけにやよ、ウチ?」
「そうですか、それは光栄ですね」
二人とも嬉しさ恥ずかしさで染まったのかそれとも寒さによるものなのか、兎も角赤く染まった頬を緩ませて再び道を歩く。そう満足そうに、幸せそうに歩く二人であったが、ふと茜が足を止める。
「せや、コンビニ寄ってもええ?」
「ん、いいですよ」
そう言ってすぐ前にあったコンビニへと入っていく茜を見送って、ゆかりはそのガラス窓に背を預けた。特に買いたいものもないし、と待っていたが、直ぐに吹く風の寒さを後悔する。そうして、まだかなと待っていたゆかりの頬に、
「えいっ」
「ぅひゃ…!?あ、茜さん?」
「はは、油断してたやろ?はい、これ」
優しい温かさが触れる。振り返ればしてやったりといった表情の茜が片腕にビニール袋を提げて、その手にペットボトルの飲み物を握っていた。そうして手渡されたそれは、普段のゆかりなら中々手を伸ばさないココアで。
「コーヒーとかカフェオレは正直種類多くて分からんから、こっちのがいいかなぁって思ってな。じゃない方がよかった?」
「い、いえ…」
「あ、肉まんもあるよ?ほら。誕生会にはちょっと早めの誕生日プレゼント。…あ、ちゃんと別っこで用意はしてるからな?流石に肉まんがプレゼントはあれやし」
「あ、ありがとうございます」
普段はがさつだとか言われがちだが、こういうところでは外さないよな、なんて少々失礼なことを思いながら、ゆかりは茜から差し出されたそれ等を受け取る。とりあえずポケットにココアを避難させて肉まんを頬張る。温かさと慣れ親しんだ塩味が口内に満ちる。
「はは、ほな帰ろ?」
「ふぁ、ふぁい」
そうして悪戯っ子のように笑いながら自分の分のココアに口付けて歩き出す茜の後ろをついていく。そうして、何の気なく視界に映ったビニール袋がからであることに気付いた。
「あれ、茜さんは食べないんですか?」
そう言ってみれば、茜はあはは、と気恥しそうに目を反らした。
「いやぁ…。ウチもホンマは食べたかったんけどさ…。財布の中も、電子決済の残高もカツカツみたいでな?ココアと肉まん一つ買ったらそれでもう限界やった」
油断したなー、明日お金下ろさんとなー、と苦笑する茜の後ろをついていったゆかりがその発言に僅かに頬を膨らませていたことに茜は気付かない。そう油断していた茜の後ろにすすす、と近付いて、
「茜さん?」
「え、むぅっ?」
その口に、食べ掛けが含まれないよう器用に分けられた肉まんが押し付けられる。少し不満げな、それでいて先程の茜の様な悪戯っ子めいた不敵な笑みを浮かべてゆかりは腰に手をやる。
「茜さんばっかりそういうのよくない、というかズルいと思いますよ?こういう幸せはシェアするべきだと思います」
「…ん、むぐ。…言うやんか、ありがとう」
「へへ…。格好つけるのは、余裕ある時で大丈夫ですよ?」
「…んー、悔しいなぁ…」
そう、今度は茜が頬を膨らませる。そう愚痴を零しながら残った肉まんを口に運ぶ茜の隣でそれを見つめながら笑みを零すゆかりは、ポケットの少し温くなったココアを口に運ぶ。優しい甘さが口内を満たし、つい笑みが深くなる。
「…あ、そだ。ゆかりさーん?」
「ん、どうしました?」
「ちょっと来てー?」
「はいはい、なんでしょ…って、うわっ」
そう言って食べ終わった口元を拭う茜の元へと歩み寄るゆかり。茜は、その油断しきったゆかりの襟元へと手を伸ばして自分の方へとぐいっと近づける。そして、その赤く染まった頬に、
ちゅ。
「…はぇ?」
「へへ…、お返し。」
そう、赤みを増した頬を一層だらしなくして茜は笑う。事態が一瞬呑み込めなかったゆかりも、一拍置いて頬を赤く染めて
「な…!いま、き、キス…」
「あはは、ゆかりさんにキスしちゃったぁ…!やったぁ…!」
そう、わなわなと唇を震わせるゆかりとは対照的に若干ハイになりながら茜は笑う。
「あぁー、ホンマ幸せかもしれん。ゆかりさんにキスしてもうたもん、どっちが誕生日か分からんわ」
「し、幸せって…!そんな、キスだけで…」
「そんな、なんて言わんとってよ。好きな人にキスできるなんて、多分ウチじゃなくてもめっちゃ幸せなことなんやから」
「ご、ごめんなさい…。で、でも…、恥ずかしいですよ…!」
「あはは、ごめんごめん。でも、唇やなかったから許したってや。唇は、本当に好きな人にあげてな?約束やで?」
「く、唇…!?」
そう目を白黒させるゆかりに笑いながら茜は言う。ほな、帰ろ?そう言ってゆかりをエスコートするようにその手を握りながら家路を歩いた。それにつれられながら、ゆかりは頬を茜よりずっと赤く、ポケットにしまったココアよりずっと熱くしていた。