それを愛と希望の物語という   作:指輪のかけら

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いつもの日常3

夕方のボーダー本部は、昼間とは少し違う騒がしさがある。

 

訓練を終えた隊員たちが戻り、廊下には談笑の声が増え始める時間帯だ。

 

その喧騒から少し離れた医務室では、ロマンが机に向かって黙々と書類を整理していた。

 

「……よし、終わり」

 

最後のファイルを閉じ、軽く肩を回す。

 

健康診断の結果整理、生活指導記録、睡眠不足常習犯への警告文作成。

 

今日も医務室らしい仕事はほとんどしていない。

 

そこへ、控えめなノックが響いた。

 

「どうぞー」

 

扉が開く。

 

「失礼します」

 

入ってきたのは、木崎レイジだった。

 

「あれ、レイジくん。珍しいね」

 

「少し相談を」

 

相変わらず大きい。

 

ロマンは毎回そう思う。

 

体格だけならどう考えても医務室より前線向きだ。

 

実際その通りなのだが。

 

レイジは椅子へ座ると、少し言いにくそうに口を開いた。

 

「最近、玉狛の連中が訓練を詰め込みすぎている気がしてな」

 

「あー……」

 

ロマンは即座に察した。

 

「誰?」

 

「大体全員だ」

 

「だろうねぇ……」

 

玉狛第二の顔ぶれを思い浮かべる。

 

真面目な修。

 

負けず嫌いな千佳。

 

そして遊真。

 

努力する理由を持った人間ばかりだ。

 

「特に修だな」

 

レイジが続ける。

 

「自分が足を引っ張っていると思い込みすぎている」

 

「……うん」

 

ロマンは苦笑した。

 

否定できない。

 

「あの子、頑張りすぎるタイプだからね」

 

「止めても聞かん」

 

「レイジくんが言っても?」

 

「ああ」

 

それはかなり重症だ。

 

ロマンは少し考え込む。

 

「……まあ、でも」

 

「?」

 

「頑張れるっていうのも才能だからね」

 

レイジが静かに視線を向ける。

 

ロマンは椅子へ深く座り直した。

 

「止めなきゃ壊れる時は止めるべき。でも、自分で進もうとしてる時に無理に止めるのも違うと思うんだ」

 

「……難しいな」

 

「うん。難しい」

 

ロマンは苦笑する。

 

「人間って、だいたい難しい」

 

レイジは少しだけ笑った。

 

「先生が言うと妙に重いな」

 

「そう?」

 

「長生きしてそうだからな」

 

ロマンの動きが、一瞬だけ止まる。

 

だがレイジは特に気づいた様子もなく立ち上がった。

 

「相談に乗ってもらって助かった」

 

「こちらこそ」

 

「また頼るかもしれん」

 

「医務室はそういう場所だからね」

 

レイジは軽く頭を下げ、そのまま部屋を出ていった。

 

扉が閉まる。

 

ロマンはしばらく無言で天井を見上げていた。

 

「……長生き、か」

 

ぽつりと呟く。

 

その声には、どこか曖昧な響きが混じっていた。

 

 

 

 

◾️月◯日

 

医務室の扉が勢いよく開いた。

 

「ロマン先生ー!」

 

「うわびっくりした」

 

入ってきたのは小南桐絵だった。

 

その後ろから、少し疲れた顔の烏丸京介も続く。

 

「どうしたの?」

 

「聞いてよ先生! とりまるが!」

 

「はいはい、落ち着いて」

 

ロマンは慣れた様子で椅子を勧める。

 

小南は不満げな顔で座った。

 

「とりまるがまた女子人気利用して変な仕事増やされてる!」

 

「コナミ先輩、それ言い方悪いです」

 

「事実でしょ!」

 

烏丸が深いため息を吐く。

 

ロマンはなんとなく事情を察した。

 

「シフトの穴埋め?」

 

「ええ……」

 

烏丸は疲労の滲む声で答えた。

 

「最近、モールモッドの出現数が増えてまして。」

 

「あー……ボーダー最強チームの隊員は大変だ」

 

「しかもこいつ、断らないのよ!」

 

「必要な仕事ですから」

 

「真面目!」

 

小南が机を叩く。

 

ロマンは苦笑した。

 

「でも、烏丸くんも無理しすぎは駄目だよ?」

 

「気をつけます」

 

「それ言う人、大体気をつけないんだよなぁ」

 

「耳が痛いです」

 

珍しく烏丸が少し困ったように笑う。

 

その時、小南がじっとロマンを見た。

 

「先生ってさ」

 

「ん?」

 

「なんか時々、おじいちゃんみたいなこと言うわよね」

 

「えっ」

 

ロマンが固まる。

 

烏丸が吹き出しそうになるのを堪えていた。

 

「いや、でもわかります」

 

「わかるんだ……」

 

「妙に達観してる時ありますし」

 

「そんなつもりないんだけどなぁ」

 

ロマンは肩を落とす。

 

小南はケラケラ笑った。

 

「まあでも、そういうとこ嫌いじゃないわよ」

 

「それはどうも」

 

賑やかな空気が医務室に広がる。

 

戦場から離れたこの部屋では、皆少しだけ肩の力を抜いていた。

 

ロマンはそんな光景をぼんやり眺める。

 

笑い声。

 

他愛のない会話。

 

誰かがいて、誰かが返事をする。

 

それだけのことが、どうしてこんなに騒がしくて、温かいのだろう。

 

昔は理解できなかった。

 

理解する必要もなかった。

 

ただ記録し、観測し、管理するだけだったから。

 

「先生?」

 

「……あ、ごめん。聞いてるよ」

 

小南が不思議そうに首を傾げる。

 

「疲れてる?」

 

「ちょっと書類多くてねぇ」

 

半分は本当だった。

 

ロマンは笑って誤魔化す。

 

その時、窓の外で夕焼け色の光が揺れた。

 

三門市の空。

 

守るために戦う人たちがいる街。

 

ロマンはその景色を静かに見つめる。

 

「……綺麗だなぁ」

 

ぽつりと漏れた声に、小南が窓の外を見た。

 

「夕焼け?」

 

「うん」

 

「普通じゃない?」

 

「そうかもね」

 

ロマンは笑う。

 

だがその目だけは、どこか遠くを見ているようだった。




なんか薄っぺらい内容ですみません

どの隊と絡ませる?

  • 風間隊
  • 嵐山隊
  • 加古隊
  • 三輪隊
  • 二宮隊
  • 影浦隊
  • 生駒隊
  • 東隊
  • 那須隊
  • 弓場隊
  • 鈴鳴第一
  • 荒船隊
  • 香取隊
  • 諏訪隊
  • 柿崎隊
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