それを愛と希望の物語という 作:指輪のかけら
( ・∇・)⤴︎ yea
午後の医務室は比較的静かだ。
午前中の健康診断ラッシュも終わり、訓練組は外へ出ている時間帯。
ロマンは一人、机に積まれた書類へ視線を落としていた。
「……なんでこんなにあるのかなぁ」
睡眠不足報告。
生活習慣改善指導。
栄養バランスの偏りについて。
ほとんど学校の保健室である。
そんなことを考えながらペンを走らせていると、不意にノックもなく扉が開いた。
「やっほー、ロマン」
「うわっ」
顔を上げる。
そこに立っていたのは、迅悠一だった。
片手には紙袋。
「……迅くん、ノック」
「したら驚かせられないじゃん」
「医務室でやることじゃないんだよそれ」
迅は悪びれもせず笑いながら部屋へ入ってくる。
「差し入れ持ってきた」
「お?」
机の上へ置かれた袋からは甘い匂いがした。
「お饅頭とぼんち揚」
「組み合わせどうなってるの?」
「オレのセンス」
「不安になるなぁ」
そう言いながらも、ロマンは素直に饅頭を受け取った。
迅は勝手知ったる様子で椅子へ座る。
「いやー、最近忙しくてさ」
「迅くんの場合、本当に忙しいのかサボってるのかわからないんだよね」
「ひどいなぁ」
「事実でしょ?」
迅は笑ったまま否定しなかった。
医務室に静かな空気が流れる。
ロマンは饅頭を一口食べ、少し目を丸くした。
「あ、美味しい」
「だろ?」
「ぼんち揚も食べる?」
「なんで交互なの……」
意味がわからない。
だが迅は満足げだった。
しばらく他愛ない話が続く。
最近の訓練のこと。
太刀川のレポートのこと。
玉狛支部の鍋のこと。
いつも通りの雑談。
だが、迅はふと笑みを薄くした。
「……ロマンさ」
「ん?」
「最近、眠れてる?」
ロマンの手が止まる。
「藪から棒だなぁ」
「いや、なんとなく」
迅は軽い調子のままだった。
だが、その目だけは妙に静かだった。
ロマンはぼんち揚を袋へ戻す。
「まあ、普通かな」
「普通、ねぇ」
迅が小さく笑う。
「未来が見えるとさ」
空気が少し変わった。
ロマンは何も言わない。
「嫌でも色んなもんが目に入るんだよね」
迅は天井を見上げる。
「見たくないものとか」
「……」
「止めたい未来とか」
ロマンは静かに視線を落とした。
迅は続ける。
「でも結局、選ぶのは人間なんだ」
軽い口調だった。
いつもの迅悠一そのもの。
だからこそ、その言葉は妙に重かった。
「どれだけ先が見えても、最後は本人が決めるしかない」
「……迅くん」
「オレはさ」
迅は笑った。
「誰かに“正しい答え”を押し付けるの、あんまり好きじゃないんだよね」
その言葉に、ロマンは少しだけ目を細める。
迅は知っている。
全部ではない。
だが、確実に何かを見ている。
ロマンにはそれがわかった。
「ただ」
迅は続けた。
「数週間後くらいかな」
その言葉で、ロマンの呼吸が僅かに止まった。
「三門市、たぶん大変なことになる」
静かな声だった。
冗談の欠片もない。
「……そう」
「うん」
迅はロマンを見る。
まっすぐに。
「その時、ちゃんと選んでよ」
ロマンは返事をしなかった。
迅は少し困ったように笑う。
「かなり残酷な選択になると思うけどさ」
「……」
「でも、たぶんロマンしかできない」
医務室に沈黙が落ちる。
窓の外では、夕方の訓練を終えた隊員たちの声が聞こえていた。
いつもの日常。
変わらない景色。
ロマンはゆっくり俯く。
「……未来が見えるって、嫌な力だよね」
迅は少しだけ笑った。
「今さら?」
「だよねぇ」
だがロマンの声には笑いが混ざっていなかった。
迅はそれ以上何も言わず立ち上がる。
「じゃ、お仕事頑張って」
「迅くん」
「ん?」
「……ありがとう」
迅は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「どういたしまして」
扉が閉まる。
静寂。
ロマンはしばらく動かなかった。
やがて、ゆっくり顔を覆う。
「……厳しいなぁ」
ぽつりと漏れた声は、酷く小さかった。
数日後。
医務室には静かな雨音が響いていた。
ロマンは書類整理をしながら、ぼんやり窓の外を見る。
頭の片隅から迅の言葉が離れない。
選べ。
その一言が、ずっと残っていた。
不意に、扉が開く。
「失礼する」
入ってきたのはヒュースだった。
「あれ、ヒュースくん。珍しいね」
「少し聞きたいことがある」
ロマンは軽く笑う。
「医務室で?」
「お前だからだ」
ヒュースは遠慮なく椅子へ座った。
相変わらず真っ直ぐな視線だ。
「……ロマン」
「うん?」
「お前、玄界の人間じゃないな」
空気が止まる。
ロマンは一瞬だけ目を瞬かせ、それから苦笑した。
「急だなぁ」
「誤魔化すな」
ヒュースの目は鋭い。
ネイバー。
異世界の住人。
だからこそ、違和感に敏感なのだろう。
「お前は時々、“距離”がある」
「距離?」
「人間を見る目だ」
ロマンは黙る。
ヒュースは続けた。
「嫌悪ではない。だが、どこか客観的すぎる」
「……鋭いね」
「お前ほどではない」
ヒュースは腕を組む。
「何者だ、お前は」
その問いに、ロマンは少しだけ視線を落とした。
答えられない。
答えるわけにはいかない。
だが、完全な嘘ももう難しかった。
「……ただの、お医者さんだよ」
「嘘だな」
即答だった。
ロマンは困ったように笑う。
「遊真くんにも似たようなこと言われたなぁ」
「やはりか」
ヒュースは小さく息を吐いた。
「だが、お前に敵意は感じない」
「それは安心した」
「だから余計に不気味だ」
容赦がない。
ロマンは苦笑するしかなかった。
雨音が静かに続く。
ヒュースは立ち上がる直前、ふと口を開いた。
「……もし何か抱えているなら」
「?」
「一人で抱え込むな」
ロマンが目を見開く。
ヒュースは視線を逸らしたまま続ける。
「それで壊れる人間を、俺は何度も見てきた」
それだけ言って、ヒュースは部屋を出ていった。
扉が閉まる。
ロマンは一人、静かに椅子へ座り込む。
迅の言葉。
ヒュースの言葉。
遊真の言葉。
全部が胸の奥へ沈んでいく。
「……参ったなぁ」
自分は観測者だった。
見るだけの存在だった。
関わらないはずだった。
なのに。
「どうしてこんなに、苦しいんだろう」
窓の外では、雨が静かに降り続けていた。
アンケート取ります。
他のどの隊と合わせますか?
どの隊と絡ませる?
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加古隊
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三輪隊
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二宮隊
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影浦隊
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