それを愛と希望の物語という   作:指輪のかけら

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アンケートには作者が絡みを考えれそうなキャラクターのいる部隊のみです。


いつもの日常5

ボーダー本部には、なるべく近づかない方がいい場所がいくつか存在する。

 

危険区域という意味ではない。

 

もっと根本的な意味での危険地帯だ。

 

その代表格の一つが、加古望率いる加古隊隊室である。

 

「ロマン先生ー! ちょうどよかった!」

 

昼休み。

 

廊下を歩いていたロマンは、偶然――本当に偶然――加古と遭遇した。

 

そして、その瞬間に終わった。

 

「え?」

 

「新作チャーハン作ったの! 食べて!」

 

「あっ」

 

逃げられないやつだ。

 

ロマンの顔から血の気が引く。

 

ボーダー内では有名だった。

 

加古望の料理は、兵器である。

 

味覚という概念への挑戦。

 

人体実験。

 

未知との遭遇。

 

数々の異名を持つその料理は、隊員たちの間で恐れられていた。

 

「ちょ、ちょっと仕事が――」

 

「大丈夫! 堤くんもいるから!」

 

「道連れが増えただけじゃないかなそれ!?」

 

しかし時すでに遅し。

 

ロマンは加古隊隊室へ連行された。

 

 

 

数分後。

 

「……」

 

「……」

 

机を挟み、ロマンと堤大地は無言で座っていた。

 

キッチンから加古の声が響く。

 

「できたよー!」

 

死刑宣告だった。

 

加古が満面の笑みで皿を置く。

 

「今回は自信作!」

 

「前回もそう言ってませんでした?」

 

「言った!」

 

「ですよねぇ……」

 

目の前に置かれたチャーハン。

 

見た目は普通。

 

むしろ美味しそうですらある。

 

だが問題はそこではない。

 

「……堤くん」

 

「はい」

 

「今からでも入れる保険ある?」

 

「諦めましょう」

 

達観していた。

 

さすが経験者である。

 

ロマンは静かにスプーンを握る。

 

逃げられない。

 

医務室勤務として、味覚障害患者への対応経験はある。

 

だが、これは違う。

 

これは災害だ。

 

「いただきます……」

 

堤と同時に口へ運ぶ。

 

数秒後。

 

「…………」

 

「…………」

 

まず甘い。

 

チャーハンなのに甘い。

 

その直後、猛烈な辛味。

 

さらに謎の酸味。

 

最後に襲ってくる炭のような苦味。

 

味覚が殴り合いを始めている。

 

「どう!?」

 

加古が目を輝かせる。

 

ロマンは口を押さえた。

 

「……加古さん」

 

「うん!」

 

「これ、何入れたの」

 

「愛情!」

 

「材料を聞いてるんだよ!」

 

堤が無言で水を飲む。

 

しかし意味はない。

 

むしろ広がった。

 

「っ……!?」

 

「堤くん!?」

 

堤が天を仰ぐ。

 

ロマンも視界が揺れ始めていた。

 

「おかしいなぁ、今回はまともな方なんだけど」

 

「前回どんなだったの!?」

 

「二宮さんが泣いた」

 

「えぇ…」

 

限界だった。

 

ロマンは机へ突っ伏す。

 

堤も同時に崩れ落ちる。

 

「ロマン先生!? 堤くん!?」

 

加古の声が遠い。

 

意識が落ちる寸前、ロマンはぼんやり思った。

 

(……ブラックトリガーより危険かもしれない)

 

そこで意識は途切れた。

 

 

 

「ロン」

 

「あー、またか」

 

三日後。

 

本部休憩室の一角。

 

卓を囲んでいたロマンは、力なく牌を倒した。

 

「ロマン先生、甘いっすねぇ」

 

諏訪洸太郎が煙草もないのに煙草を吸っていそうな顔で笑う。

 

「いやぁ、難しいなぁ麻雀」

 

「その割に読みは鋭いけどな」

 

低い声で言ったのは冬島慎次だった。

 

その隣では、東春秋が静かに牌を並べている。

 

完全に大人組だった。

 

なぜこうなったのか。

 

発端は諏訪の一言である。

 

『ロマン先生、麻雀できる?』

 

断れる空気ではなかった。

 

「しかし先生、意外と強いよな」

 

諏訪が感心したように言う。

 

「観察するの好きだからねぇ」

 

ロマンは苦笑する。

 

実際、人を見ることには慣れていた。

 

癖。

 

視線。

 

思考の流れ。

 

長い時間、そればかりやってきたのだから。

 

東が静かに牌を切る。

 

「だが、迷いがある」

 

「え?」

 

「勝負所で降りる」

 

ロマンは少し目を丸くした。

 

東は淡々と続ける。

 

「慎重というより、“失う”ことを恐れている打ち方だ」

 

図星だった。

 

ロマンは曖昧に笑う。

 

「東さんって、怖いねぇ」

 

「年長者の経験だ」

 

「その言い方すると僕も年長者みたいだなぁ」

 

「違うのか?」

 

冬島がぼそりと混ぜる。

 

ロマンは一瞬だけ固まった。

 

諏訪が吹き出す。

 

「確かに先生、時々妙に達観してるよな」

 

「最近よく言われる……」

 

ロマンはため息を吐いた。

 

牌を並べながら、ふと口を開く。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「自己犠牲って、どう思う?」

 

場が少し静かになる。

 

諏訪が視線を上げた。

 

「急だな」

 

「いや、なんとなく」

 

東が少し考え込む。

 

最初に答えたのは冬島だった。

 

「必要な時はある」

 

短い。

 

だが重い。

 

「だが、酔うもんじゃない」

 

ロマンは静かに聞いていた。

 

諏訪が続ける。

 

「自己犠牲ってのは、結局残された側に責任押し付けるからな」

 

「諏訪さんにしては真面目だね」

 

「失礼だなおい」

 

だが否定はしない。

 

東が静かに口を開く。

 

「それでも、選ばなければならない時は来る」

 

「……」

 

「大人というのは、そういうものだ」

 

ロマンは目を伏せる。

 

「嫌だなぁ、それ」

 

「嫌でも来る」

 

東の声は静かだった。

 

経験の重みがあった。

 

ボーダーの古参。

 

数々の戦場を見てきた人間の声。

 

「だが」

 

東は牌を置く。

 

「一人で背負う必要はない」

 

ロマンの手が止まった。

 

東はまっすぐロマンを見る。

 

「抱え込みすぎる人間は、大抵周囲を見ていない」

 

「……耳が痛いなぁ」

 

ロマンは苦笑した。

 

諏訪が笑う。

 

「先生、意外とわかりやすいぞ」

 

「そうかな」

 

「そうそう」

 

冬島まで頷く。

 

ロマンは困ったように笑った。

 

卓を囲む空気は穏やかだった。

 

誰も踏み込みすぎない。

 

だが、ちゃんと見ている。

 

それが妙に心地よかった。

 

「さて」

 

諏訪が牌を整える。

 

「次ラストな」

 

「了解」

 

ロマンも牌を取る。

 

静かな時間が流れる。

 

そして数分後。

 

「ロン」

 

「ロン」

 

「ロンだ」

 

「え?」

 

ロマンが固まる。

 

諏訪、冬島、東。

 

三人同時だった。

 

「えっ、待って待って」

 

「悪いな先生」

 

「綺麗にハマった」

 

「油断したな」

 

三方向から牌が倒される。

 

ロマンは呆然とした。

 

数秒後。

 

「……僕だけ?」

 

「一人負けっすね」

 

諏訪が笑う。

 

ロマンは机に突っ伏した。

 

「なんで医務室勤務がこんな目に……」

 

「人生経験?」

 

「嫌な経験値だなぁ……」

 

笑い声が卓に広がる。

 

ロマンは顔を上げ、三人を見る。

 

大人たち。

 

戦場を知っている人間たち。

 

その空気は、不思議と落ち着いた。

 

「……勝てないなぁ」

 

ぽつりと呟く。

 

それは麻雀の話だけではなかった。




読んでくださりありがとうございました。

あと1話か2話で中編、つまり物語をしっかり動かします。

ちなみに今回加古が出したのはカニカマを使った普通のチャーハン隠し味にピーナッツバターとブルーベリーを入れて

どの隊と絡ませる?

  • 風間隊
  • 嵐山隊
  • 加古隊
  • 三輪隊
  • 二宮隊
  • 影浦隊
  • 生駒隊
  • 東隊
  • 那須隊
  • 弓場隊
  • 鈴鳴第一
  • 荒船隊
  • 香取隊
  • 諏訪隊
  • 柿崎隊
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