「それじゃ、ボイボ寮三期生の皆さん、いらっしゃい!かんぱーい!」
その言葉に呼応するように乾杯の声と共にグラスが掲げられる。和やかな雰囲気で始まった歓迎会の中で、三期生の一員として歓迎に預かった冥鳴ひまりは言いようのない違和感を覚えていた。当然、不快だとか気に入らないとかではない。歓迎会を開いてくれるのは嬉しいし、賑やかなのも嫌いではない。だが、この光景に何処か既視感を覚えていた。
「おいおい、そんなしけた面してどうしたのだ?もっと楽しめー、なのだ!」
「…急にどうしたのよ?緑っ子。それに、私は楽しんでないわけじゃ…」
「むー!緑っ子ってなんなのだ!?確かに自己紹介タイムはまだだけど、僕にはずんだもんっていうちゃんとした名前が…」
「まぁまぁ、ずんだもん先輩。そんな新人いびりみたいな真似してないで!」
「んぁー!別にいびってなんかないのだ!」
「はい、どうどう。んで、あーしも自己紹介ね?あーしは春日部つむぎだよ?つむぎ先輩って呼んでくれたら嬉しいな?」
「…あ、はい。つむぎ先輩」
まただ、既視感。それも、今回は強く心に刻まれた何かが訴えかけている、ような気がする。それが何かは、上手く言語化できないけれど。
「えへへ…。いいなぁ、つむぎ先輩って響き!困ったことがあったら何でも聞いてね?あーしが力になるからさ!」
「ありがとうございます、先輩」
「むふふ…。あ、そう言えば、ボイロとかチェビオの人たちと話した?」
「はい、昼に何人かと。明日に本格的な顔合わせです」
「誰と誰に会ったの?」
「ボイロはー…、ゆかりさんとマキさんと、茜さんと葵さんに。チェビオはイアさんに会いました。」
「あー、そうなんだ。皆、いい人だから慣れるまではいっぱい頼ればいいよー?…まぁ、ゆかりさんとか茜ちゃんとか、一見すると頼りないかもだけど」
「ははは…。でも、楽しい人でしたよ」
昼間を思い出して、また既視感が浮かぶ。茜と葵には妙な懐かしさを覚えたが、ゆかりには言語化しづらい違和感を覚えたのだ。何故だろうか、美人でありながらひょうきんな真似をするその姿は、あったことのないはずなのにイメージとの乖離を覚えた。起動したばかりの音声ソフトの自分に既視感などある筈もないのに。どうしようもない消化不良感が残って楽しもうとする自分を邪魔するのに少しの息苦しさを覚える。
その息苦しさも、自己紹介にボードゲーム大会と、会が進んでいくにつれて薄まっていって心地よい疲れだけが残ったその頃だった。
「はーい、それじゃあちょっと注目!三期生として新たにやってきた皆さんに、先輩たちからささやかながらプレゼントがございます!」
そんなつむぎのアナウンスと共に、一期生と二期生の拍手が響いて会は進行する。大柄な体系にぴったりと合うジャケットを贈られた龍星が顔を赤く染めるのを微笑ましく見られたり、帽子を贈られて大喜びした虎太郎が猫呼ばわりしたずんだもんと喧嘩を始めたりと少々の混乱を伴いながらプレゼントが渡されて、最後はひまりの番だった。
「それじゃ、ひまりちゃんの分ね?えーと、準備したのは…」
「はいはーい!あーしです!」
つむぎが自信満々といった様子でプレゼント台から最後に残った贈り物を手に取る。両手に収まるくらいの何かに、スカーフで隠られたそれを持ってつむぎはひまりの正面に立つ。
「それじゃあ、あーしから?あーしチョイス?のプレゼントは~、こちらです!」
「…っ、わ、ぁあ…!」
そうしてスカーフの下から現れたのは、ピンク色のカスミソウの花束だった。
「うわぁ。つむぎ、キザったらしいのだー!」
「えー?いいじゃないすか、この可愛い花束を見てご覧なさいって!ほら、ひまっちにも似合う似合う!」
「まぁ、悪くないチョイスなんじゃない?…うちに花瓶とかあったかしら?ずん子にでも聞いてみようかしら…」
「ほら、めたんちゃんは分かってくれてるよ?どう、ひまっち?やっぱ、かっこつけすぎたかなー…?…ひまっち?」
つむぎは照れたように笑いながらひまりに視線を向けて、何処か言葉を失ったように立ち尽くす彼女の様子に怪訝そうな顔を向けた。
しかし、それを贈られたひまりの感情をどう言い表そう。いや、どうも言い表せないだろうか。脳裏にフラッシュバックする、かつての自分。青い炎を操る死神として。つむぎの寮の同室の後輩として。次第に、彼女に片思いをする不良死神として。最後に、物言わぬ魂となったつむぎを必死に繋ぎ止めて熱のない光の奔流の中を流れる意思持つ魂として。鮮烈に魂に焼き付いたはずの、それでも数えるのも億劫になるほどの長い時の中で薄らいだ記憶が一息に襲ってきて。気付けばひまりは、
「え、えぇえ!?ちょ、ひまっち!?どうしたの!?そんなに、プレゼント気に入らなかった!?」
その両の瞳から大粒の涙を零していた。
「いえ…。違うんです…。ただ、嬉しくて…」
そう慌てふためくつむぎに涙を拭いもせずに微笑みを零しながらひまりはそう告げて、そのままいくらか落ち着いたつむぎの胸元へ花束を大切に抱き締めたまま飛び込んだ。他の面々が驚いて言葉を失うのも、その中でずんだもんが空気を読まずに百合だなんだと囃し立てるのも気にせずに、ひまりはつむぎの胸の中で「つむぎ先輩」とその名を呼ぶ。それに少々困惑しながらも、何処か満足そうにつむぎはひまりの頭を優しく撫でてやる。ひまりの目からまた涙が溢れた。
それは、可能性の世界。少女たちが掴んだ、もう一つの出会いの形。
冥鳴ひまりの死神設定を活かした話を書きたいと思って書きました。連作としては一番長いです。矛盾点とかツッコミどころもあるでしょうが、雰囲気で楽しんでいただけますと幸いです。
それと誰をペアにするかは即決でした。冥鳴ひまりの相手は春日部つむぎ以外考えられなかった自分です。つむひまはいいぞ。