学マスアイドルを曇らせたい! 作:曇らせP
……佑芽に、負けた。
今まで、どんなことでも勝ち逃げしてきた。佑芽が成長するよりも早く成長して、あの子にとって「無敵のお姉ちゃん」であるために。
……なのに。
一番負けたくなかった、アイドルとしてのパフォーマンスで負けた。
不思議と、その場では涙は出なかった。1人の姉として、妹の勝利を喜んであげられた。
控室に戻った途端、堰を切ったように涙が溢れ出してきた。手毬やことね、プロデューサーがいるのも気にせず、小さな子供みたいに泣きじゃくった。
しばらくして、涙が収まった私は外の風にあたろうと控室を出た。
そのまま俯き加減で廊下を歩いていると、その先に人影があるのを見つけた。
「……佑芽」
「お姉ちゃん!」
佑芽は私の方へ駆け寄ってきてくれた。
「……改めて、優勝おめでとう、佑芽」
「……うん、ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふっ……これであなたが、名実共に最高のアイドルね」
「お姉ちゃん、気が早すぎるよ……あたし、もっともっと頑張って、今度は世界でトップアイドルになるって、プロデューサーさんと決めたんだ」
「佑芽なら、きっとなれるわ。だって、私の自慢の妹だもの」
「えへへ、照れちゃうな〜……」
「……ごめんなさい。ちょっとだけ、外を散歩してくるわ」
「……お姉、ちゃん……?」
後ろ髪を引かれるような佑芽の声に聞こえないふりをして、私はその場を後にした。
次の日から、私は悪夢を見るようになった。
気が付いたら私はステージに立っていて、隣にいる佑芽の優勝が盛大に発表される。
「みんなありがと〜〜!!!」
観客に手を振って、ひとしきり笑顔を振りまいた後、佑芽は私の隣に戻ってきてこう囁く。
「お姉ちゃんって、意外と弱っちいんだね」
「はっ!?」
そこで、目が覚める。背中は汗でびっしょりになっていて、肌に張り付くような感覚が気持ち悪かった。
次も、その次の日も悪夢を見た。
内容は、決まって佑芽に失望される夢。日を経るごとに、佑芽の落胆は大きくなっていく。
「お姉ちゃん、張り合いがないなあ」
「あーあ。お姉ちゃんは嘘つきじゃないって思ってたのになー」
「お姉ちゃん、弱すぎて話にならないや」
「お姉ちゃん、アイドルやめたら?」
「あたし、もっと尊敬できるお姉ちゃんが欲しかったなー」
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
本物の佑芽はこんなこと言わない。でも、その顔も、声も、全部現実の佑芽と一緒で。
「あっ、お姉ちゃんだ! おはよう、お姉ちゃん!」
溌剌とした笑顔を向ける現実の佑芽と、夢の中の佑芽が重なって。
『なんであたし、出来損ないのお姉ちゃんに構ってあげなくちゃいけないのかな?』
「ちが────」
『こんな人、もうお姉ちゃんでも何でもないや』
「うっ、おえええええぇぇっっ!! ゲボッ、げぇぇっ…………」
「お、お姉ちゃん!? お姉ちゃん!!」
私は、その場で吐いたらしい。ここ数日の体調不良と、不規則な生活の影響が重なったのだという。
私が学業に復帰するのに、そう時間はかからなかった。これまでと変わらない生活を送れるようにもなった。
……佑芽のことを除いて。
あれから、私は佑芽を見るだけで吐き気が込み上げてくるようになってしまった。3回に1回くらいは、そのままその場で吐く。その度に佑芽を心配させて、迷惑をかけて……やっぱり、私はあの子の姉失格だ。
自然と早退の回数が増え、欠席の回数が増え、やがて私は学園に行かなくなった。
佑芽との楽しかった思い出も、悲しかった思い出も、何もかもがあの悪夢に侵食されてしまった。
窶れていく私とは対照的に、佑芽はテレビに出演する機会が増えていった。あの子の魅力を持ってすれば、それも当然だろう。
きっと、私は花海佑芽というアイドルの汚点として、未来永劫最愛の妹の足を引っ張ることになる。
それでも佑芽が私との縁を切らないでいてくれてるのは、同情か、憐憫か、それともまだ私に利用価値があるのか。
「……一つだけ、あった。失敗作の私でも、できること」
「……ごめんなさい、佑芽。迷惑をかけるのも、これが最後だから……」
「…………幸せになってね」