学マスアイドルを曇らせたい! 作:曇らせP
花海咲季編と同じ世界線のため、咲季編→佑芽編の順での閲覧を推奨します。
「優勝は…………花海佑芽さん!!!」
……ついに。ついについについに!!!!!
お姉ちゃんに、勝った!!!!!
「や……やったあああぁぁぁ〜〜〜!!!!!」
あたしがお姉ちゃんに勝ったことなんて、一度もなかった。お姉ちゃんは何をやってもすぐ上手くなるのに、あたしはダメダメで……
でも、あたしは「アイドル」に出会った。絶対に、お姉ちゃんに負けたくない競技に。
お姉ちゃんは、やっぱりアイドルでも凄かった。ギリギリで補欠入学だったあたしに対して、お姉ちゃんは学年主席。スタートから違った。
プロデューサーさんがついてからは、それまでよりずっと成績が良くなった。ちょっとえっちなところもあるけど、あたしのことをちゃんと考えてくれる、そんな人。2人でお姉ちゃんに勝って、トップアイドルになるって決めたんだ。
そして今日……ついに、お姉ちゃんに勝った。15年戦い続けて、ようやく……ようやくお姉ちゃんに勝った。
嬉しいはずなのに……涙が止まらないのはなんでなのかな。嬉し涙?
「ほら佑芽、私に勝ったんだから、泣くんじゃなくて笑いなさい。あなたのファンが……待ってるわよ」
「うん……!」
……次の日から、お姉ちゃんの様子がおかしくなった。ぼーっとしていて、心ここに在らずって感じ。
……分かってる。お姉ちゃんは、あたしに負けたのが堪えてるんだ。あたしは、お姉ちゃんが「無敵のお姉ちゃん」でいるために頑張ってくれていたのを知っている。「お姉ちゃんは無敵なんです!」って、大好きなお姉ちゃんを自慢するあたしを、嘘つきにしないために。
きっと、あたしじゃ想像もつかないくらい頑張ってきたんだと思う。だから、お姉ちゃんにはちょっと休んでてもらいたかった。
……正直、今のお姉ちゃんは見てられないから…………
それから、お姉ちゃんの様子はどんどんひどくなっていった。学園に姿を見せることもなくなっていった。
あたしの前で吐いちゃった日から、あたしを見ると吐き気が止まらなくなるって噂を聞いた。それが本当なら……お姉ちゃんを追い詰めたのは、他でもないあたしだ。
「やはり……咲季さんのことが気になりますか?」
「……えっ?」
レッスンの途中、プロデューサーさんがそんなことを言ってきた。
「態度に、出ちゃってますかね……」
「はい。以前と比べて明らかにパフォーマンスが落ちています。……お気持ちは、察します」
「……プロデューサーさん」
「なんでしょう?」
「……あたしって、お姉ちゃんに勝っちゃ駄目だったんじゃないかな、って思ってるんです」
「それは─────」
「お姉ちゃんは、ずっとあたしのために頑張ってくれてた。でも……あたしは、お姉ちゃんのことを考えてあげられなかった」
「……」
「確かに、お姉ちゃんにはずっと勝ちたかったです。でも……それ以上に、お姉ちゃんとの勝負が、楽しかった」
「佑芽さん……」
「でも、それももうできないんですよね。……あたしが、お姉ちゃんに勝ったから」
バチンッ!!
あたしは、自分の頬を強く叩いた。
「なっ、佑芽さ─────」
「……あたしのせいだ。あたしがお姉ちゃんに勝ったから……あたしのせいでッ!!!」
あたしは何度も自分の頬を叩く。叩いたところが赤くなるとか、痛いとか、そんなの気にならなかった。
「あたしがお姉ちゃんを追い詰めたんだ! あたしが勝たなきゃ、こんなことにはならなかったんだ!!」
「佑芽さん、それ以上─────」
「あたしなんか、いなければ!!!」
「ふざけるな!!!!!」
それは、今まで聞いたことのない怒号だった。プロデューサーさんが、見たことないくらい怖い顔をしている。
「……自分の存在を否定することだけは、やめてください。これはプロデューサーとしてではなく、1人の人間としてのお願いです」
「……プロデューサーさん……」
「……ひとまず、今日はもう休んで─────」
ピリリリ、とプロデューサーさんの携帯が鳴った。プロデューサーさんは慌ててその電話に出る。
「……はい……はい…………」
「……は?」
プロデューサーさんの表情が変わった。どうやら、電話の内容は良くないみたい。
「それは……佑芽さんには……」
「……プロデューサーさん。その電話、あたしが代わっちゃ駄目ですか?」
「えっ?」
何か、凄く嫌な予感がする。
あたしはプロデューサーさんから携帯を取って、代わりに話を聞いた。
「……え? お姉ちゃんが…………自殺した…………?」
「……それで、佑芽さん。話というのは……」
「ごめんなさい、プロデューサーさん。あたし、アイドル辞めることにしました」
「……そうですか」
「2人で頑張ってトップアイドルになるって約束したのに……ごめんなさい」
「……辞めた後は何を?」
「陸上に戻ろうかなって思ってます。走ってたら、辛いことも忘れられるかなって」
「……分かりました。あなたのその夢を、応援します」
「ありがとうございます」
「そして……申し訳ありませんでした。最後まで、あなたのプロデュースをできず……」
「気にしないでください。あたしは、大丈夫ですから」
陸上に戻ったあたしは、ひたすら練習に打ち込んだ。千奈ちゃんや広ちゃんからの連絡も全部無視して、ただひたすら走った。
……でも、いつまで経っても心のモヤモヤが晴れない。……お姉ちゃんのことが、忘れられない。
「忘れられるわけ、ないよ……!」
お姉ちゃんは、いつもあたしのずっとずっと前を走ってた。時には、並んで一緒に走ることもあった。
でも、お姉ちゃんはもういない。
「……そっか。そうだよね……あたしは、いつもお姉ちゃんを追いかけてた。でも、もうお姉ちゃんはいなくて……一緒に、走れなくて…………こんなの、楽しいわけないよ……!」
「何泣いてるの? 佑芽。あなたらしくないわよ」
「……っ! お姉ちゃん……!?」
振り返ると、そこにはお姉ちゃんが立っていた。いつもと変わらない、勝ち気な表情のお姉ちゃんだ。
「ほら、スタートラインに並びなさい。お姉ちゃんが一緒に走ってあげる!」
「……! うんっ!」
それから、私はお姉ちゃんと色んな勝負をした。やっぱりお姉ちゃんは凄くて、負けてばっかりだったけど……それでも、凄く楽しかった。
「はぁ〜、疲れたわ……佑芽、家に帰って休みましょう」
「え〜? あたし、まだ動き足りないよ……」
「休養もトレーニングの一環よ。ほら、帰りましょう?」
「……は〜い」
久々に握るお姉ちゃんの手は暖かくて、柔らかくて……懐かしい気がした。
お姉ちゃんが戻ってきてからは、また前みたいに色んなことをした。2人でスイーツのお店を巡ったり、勉強を教えてもらったりもした。
やっぱり、お姉ちゃんはあたしにとってなくちゃならない存在みたい。
「それじゃあ、私はやることがあるから先に帰ってなさい」
「え〜? 一緒に帰ろうよ〜」
「だ〜め。先に帰ってなさい」
「ぶー、分かったよぅ……」
あたしはトボトボとした足取りで家路を辿った。
「あれ……お父さんとお母さん、まだ帰ってないのかな」
薄暗かった家の電気をつけると、リビングの机に大きな封筒があるのを見つけた。
気になったあたしは、机の方まで歩いてそれを手に取る。
「何だろう、これ?」
封筒の中には、何枚かの紙が入っていた。その一番手前にあった紙には、『近隣の精神病院のご案内について』と書かれていた。