学マスアイドルを曇らせたい!   作:曇らせP

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時系列は親愛度コミュ20話前後です。
花海咲季編と同じ世界線のため、咲季編→佑芽編の順での閲覧を推奨します。


花海佑芽

「優勝は…………花海佑芽さん!!!」

 

……ついに。ついについについに!!!!!

お姉ちゃんに、勝った!!!!!

 

「や……やったあああぁぁぁ〜〜〜!!!!!」

 

あたしがお姉ちゃんに勝ったことなんて、一度もなかった。お姉ちゃんは何をやってもすぐ上手くなるのに、あたしはダメダメで……

でも、あたしは「アイドル」に出会った。絶対に、お姉ちゃんに負けたくない競技に。

お姉ちゃんは、やっぱりアイドルでも凄かった。ギリギリで補欠入学だったあたしに対して、お姉ちゃんは学年主席。スタートから違った。

 

プロデューサーさんがついてからは、それまでよりずっと成績が良くなった。ちょっとえっちなところもあるけど、あたしのことをちゃんと考えてくれる、そんな人。2人でお姉ちゃんに勝って、トップアイドルになるって決めたんだ。

 

 

そして今日……ついに、お姉ちゃんに勝った。15年戦い続けて、ようやく……ようやくお姉ちゃんに勝った。

嬉しいはずなのに……涙が止まらないのはなんでなのかな。嬉し涙?

 

「ほら佑芽、私に勝ったんだから、泣くんじゃなくて笑いなさい。あなたのファンが……待ってるわよ」

 

「うん……!」

 

 

……次の日から、お姉ちゃんの様子がおかしくなった。ぼーっとしていて、心ここに在らずって感じ。

……分かってる。お姉ちゃんは、あたしに負けたのが堪えてるんだ。あたしは、お姉ちゃんが「無敵のお姉ちゃん」でいるために頑張ってくれていたのを知っている。「お姉ちゃんは無敵なんです!」って、大好きなお姉ちゃんを自慢するあたしを、嘘つきにしないために。

きっと、あたしじゃ想像もつかないくらい頑張ってきたんだと思う。だから、お姉ちゃんにはちょっと休んでてもらいたかった。

……正直、今のお姉ちゃんは見てられないから…………

 

それから、お姉ちゃんの様子はどんどんひどくなっていった。学園に姿を見せることもなくなっていった。

あたしの前で吐いちゃった日から、あたしを見ると吐き気が止まらなくなるって噂を聞いた。それが本当なら……お姉ちゃんを追い詰めたのは、他でもないあたしだ。

 

「やはり……咲季さんのことが気になりますか?」

 

「……えっ?」

 

レッスンの途中、プロデューサーさんがそんなことを言ってきた。

 

「態度に、出ちゃってますかね……」

 

「はい。以前と比べて明らかにパフォーマンスが落ちています。……お気持ちは、察します」

 

「……プロデューサーさん」

 

「なんでしょう?」

 

「……あたしって、お姉ちゃんに勝っちゃ駄目だったんじゃないかな、って思ってるんです」

 

「それは─────」

 

「お姉ちゃんは、ずっとあたしのために頑張ってくれてた。でも……あたしは、お姉ちゃんのことを考えてあげられなかった」

 

「……」

 

「確かに、お姉ちゃんにはずっと勝ちたかったです。でも……それ以上に、お姉ちゃんとの勝負が、楽しかった」

 

「佑芽さん……」

 

「でも、それももうできないんですよね。……あたしが、お姉ちゃんに勝ったから」

 

バチンッ!!

あたしは、自分の頬を強く叩いた。

 

「なっ、佑芽さ─────」

 

「……あたしのせいだ。あたしがお姉ちゃんに勝ったから……あたしのせいでッ!!!」

 

あたしは何度も自分の頬を叩く。叩いたところが赤くなるとか、痛いとか、そんなの気にならなかった。

 

「あたしがお姉ちゃんを追い詰めたんだ! あたしが勝たなきゃ、こんなことにはならなかったんだ!!」

 

「佑芽さん、それ以上─────」

 

「あたしなんか、いなければ!!!」

 

「ふざけるな!!!!!」

 

それは、今まで聞いたことのない怒号だった。プロデューサーさんが、見たことないくらい怖い顔をしている。

 

「……自分の存在を否定することだけは、やめてください。これはプロデューサーとしてではなく、1人の人間としてのお願いです」

 

「……プロデューサーさん……」

 

「……ひとまず、今日はもう休んで─────」

 

ピリリリ、とプロデューサーさんの携帯が鳴った。プロデューサーさんは慌ててその電話に出る。

 

「……はい……はい…………」

 

「……は?」

 

プロデューサーさんの表情が変わった。どうやら、電話の内容は良くないみたい。

 

「それは……佑芽さんには……」

 

「……プロデューサーさん。その電話、あたしが代わっちゃ駄目ですか?」

 

「えっ?」

 

何か、凄く嫌な予感がする。

あたしはプロデューサーさんから携帯を取って、代わりに話を聞いた。

 

「……え? お姉ちゃんが…………自殺した…………?」

 

 

 

 

 

「……それで、佑芽さん。話というのは……」

 

「ごめんなさい、プロデューサーさん。あたし、アイドル辞めることにしました」

 

「……そうですか」

 

「2人で頑張ってトップアイドルになるって約束したのに……ごめんなさい」

 

「……辞めた後は何を?」

 

「陸上に戻ろうかなって思ってます。走ってたら、辛いことも忘れられるかなって」

 

「……分かりました。あなたのその夢を、応援します」

 

「ありがとうございます」

 

「そして……申し訳ありませんでした。最後まで、あなたのプロデュースをできず……」

 

「気にしないでください。あたしは、大丈夫ですから」

 

 

 

陸上に戻ったあたしは、ひたすら練習に打ち込んだ。千奈ちゃんや広ちゃんからの連絡も全部無視して、ただひたすら走った。

……でも、いつまで経っても心のモヤモヤが晴れない。……お姉ちゃんのことが、忘れられない。

 

「忘れられるわけ、ないよ……!」

 

お姉ちゃんは、いつもあたしのずっとずっと前を走ってた。時には、並んで一緒に走ることもあった。

でも、お姉ちゃんはもういない。

 

「……そっか。そうだよね……あたしは、いつもお姉ちゃんを追いかけてた。でも、もうお姉ちゃんはいなくて……一緒に、走れなくて…………こんなの、楽しいわけないよ……!」

 

 

 

「何泣いてるの? 佑芽。あなたらしくないわよ」

 

 

 

「……っ! お姉ちゃん……!?」

 

振り返ると、そこにはお姉ちゃんが立っていた。いつもと変わらない、勝ち気な表情のお姉ちゃんだ。

 

「ほら、スタートラインに並びなさい。お姉ちゃんが一緒に走ってあげる!」

 

「……! うんっ!」

 

それから、私はお姉ちゃんと色んな勝負をした。やっぱりお姉ちゃんは凄くて、負けてばっかりだったけど……それでも、凄く楽しかった。

 

「はぁ〜、疲れたわ……佑芽、家に帰って休みましょう」

 

「え〜? あたし、まだ動き足りないよ……」

 

「休養もトレーニングの一環よ。ほら、帰りましょう?」

 

「……は〜い」

 

久々に握るお姉ちゃんの手は暖かくて、柔らかくて……懐かしい気がした。

 

 

お姉ちゃんが戻ってきてからは、また前みたいに色んなことをした。2人でスイーツのお店を巡ったり、勉強を教えてもらったりもした。

やっぱり、お姉ちゃんはあたしにとってなくちゃならない存在みたい。

 

「それじゃあ、私はやることがあるから先に帰ってなさい」

 

「え〜? 一緒に帰ろうよ〜」

 

「だ〜め。先に帰ってなさい」

 

「ぶー、分かったよぅ……」

 

あたしはトボトボとした足取りで家路を辿った。

 

「あれ……お父さんとお母さん、まだ帰ってないのかな」

 

薄暗かった家の電気をつけると、リビングの机に大きな封筒があるのを見つけた。

気になったあたしは、机の方まで歩いてそれを手に取る。

 

「何だろう、これ?」

 

封筒の中には、何枚かの紙が入っていた。その一番手前にあった紙には、『近隣の精神病院のご案内について』と書かれていた。

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