学マスアイドルを曇らせたい!   作:曇らせP

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時系列は親愛度コミュ20話前後です。


秦谷美鈴

ファンの皆さんに、わたしなしでは生きていけないようになってもらいたい。

それが、わたしの願いだった。

世界のあらゆる娯楽の中から『秦谷美鈴』を選び続けてほしい。わたしだけを見ていてほしい。

そんな想いが、わたしにはあった。

 

いつしか、その対象はプロデューサー1人だけになっていった。彼は仕事の関係上、それなりの数の女性と関係を持つことになる。初星学園の他のアイドル、トレーナー、営業先……女性との出会いには事欠かない。だから、はじめは『"走らなければ"他の女性に奪われてしまうのではないか』と考えていた。……けれど、その不安はすぐに払拭された。彼が、飛び抜けて誠実な人だったからだ。彼は誠実で、努力家で……晴れた日の日差しのように暖かい人だった。彼がプロデューサーで本当に良かった………………と、そう思っていた。

 

 

───彼が、藤田ことねと話しているところを見るまでは。

 

 

藤田さんは、わたしのプロデューサーに媚びるような表情を向けていた。それ自体は特段気にすることでもない。彼女はいつも"ああ"だからだ。

問題はプロデューサーの方だ。彼が藤田さんに向けていたのは……嘘偽りない、自然な笑みだった。それを認めた瞬間、わたしの中で様々な感情が鬩ぎ合う。なぜ彼は彼女に笑いかけている? なぜ楽しそうにしている? なぜあそこまで距離が近くなっている?

 

………………まさか。

 

最悪の未来図が脳裏を過ぎる。違う、そんなわけない。あの人はわたしのプロデューサーだ。わたし以外の女性に好意を向けるなんてあり得ない。あってはならない。

 

…………でも。万が一……彼が、彼女のことを………………彼女が、彼のことを………………好きだったのだとしたら。

 

「…………許せません」

 

 

 

「今日は色々とありがとうございましたぁ!」

 

「気にしないでください。俺とあいつ……失礼、藤田さんのプロデューサーは腐れ縁のようなものなので……あなたや、あなたのプロデューサーの頼みとあらば、可能な限り力添えさせていただきます」

 

「ありがとうございまぁ〜っす! それじゃ、あたし寮に戻るんで!」

 

満面の笑みを浮かべながらお辞儀をして去っていく藤田さんを見送ると、俺は秦谷さんと打ち合わせをするために彼女を探す旅に出かけることにした。今日はよく晴れた暖かい日。秦谷さんなら、きっとどこかで昼寝をしているだろう。それを邪魔するのは少々心苦しいが、この話はなるべく早いうちにしておきたい。秦谷さんがトップアイドルになる、その第一歩に関わることだからだ。

 

そんなことを考えながら歩いていると、向かい側から秦谷さんが歩いてくるのが見えた。

 

「秦谷さん、こんにちは。珍しいですね、晴れの日に昼寝をしていないなんて……」

 

「……そうですね。ところで、プロデューサー。先ほど、藤田さんと話していましたよね?」

 

「そうですが……見ていたんですか?」

 

「はい。……何を話していたんですか?」

 

藤田さんとはまた違う、柔和な笑みを浮かべる秦谷さん。だが、この感じは……内心、相当怒っている。

 

「……返答次第では、プロデューサーの私生活が様変わりするかもしれません。ですので、どうか正直にお答えください」

 

「怖いことを言わないでください……少し相談に乗っていただけですよ。彼女のプロデューサーとは縁がありまして」

 

「……そうですか。ですが、プロデューサー。あなたの担当アイドルはわたし、秦谷美鈴です。担当アイドル以外のアイドルとおしゃべりに興じるのは……浮気ではありませんか?」

 

「それは……この初星学園では、特に厳しいかと……」

 

「………………」

 

「……極力、最小限にするよう努力します」

 

「はい、そうしてください。もし、また彼女に浮気したら、その時は……プロデューサーの家の合鍵、作らせていただきますね」

 

「……善処します」

 

 

 

それから、2人の関係性は改善された。会話時間は長い時でも30秒程度。本当に必要最低限の会話に留めてくれている。

……しかし、ここ最近のわたしは、それだけでは我慢できなくなってしまっていた。

他の女性と会話をしないでほしい。他の女性に視線を向けないでほしい。他の女性のことを考えないでほしい。

……わたしだけを、見ていてほしい。

 

そんな折、いつものように藤田さんと会話しているプロデューサーを見つけた。わたしのプロデューサーだと知りながら何度も媚びるように話しかける彼女には、呆れすら感じなくなってしまっていた。でも、プロデューサーならすぐに会話を切り上げてくれる……そう思っていた。

 

(…………長い)

 

ここ最近の2人の会話は、長くても30秒程度だった。なのに、今日はもう10分も話し込んでいる。担当アイドルでもない女性と何をそんなに話しているのか……

……今日は気分が良くない。プロデューサーに話しかけられても無視しよう。

そう思った時だった。

 

「じゃあ、今日の夜も『いつもの』、お願いしますね♡」

 

「分かりました」

 

……『いつもの』?

わたしの知らないところで、彼女とプロデューサーは何かをしている。担当アイドルであるわたしを差し置いて、他の女性───それも藤田さんと秘密を作っていたとは思わなかった。

……そうか。表立った会話を制限されたから、電話か何かでこっそり連絡を取り合っていたのだ。わたしの与り知らぬところで電話越しの密会を繰り返し、親密になっていったというわけだ。

 

プロデューサーが離れていく。藤田さんは…こちらに来る。

 

「あれ、美鈴ちゃんじゃん。どったの? ……ってうぇ!?」

 

「……先ほど、わたしのプロデューサーと話していましたよね。何を話していたんですか?」

 

「顔こえーって!! ……相談に乗ってもらってたんだよ」

 

「相談……ですか?」

 

「あたし、歌があんまり得意じゃないんだ。だから、手毬とかに教えてもらってんだけど……あいつ寝るの早いからさ〜、夜まで練習できないんだよ」

 

「まりちゃんは、規則正しい生活ができるアイドル然とした女の子ですからね」

 

「メシの好みは全然アイドルっぽくねーけどナ〜。で、もうちょい練習できないかな〜ってプロデューサーに話したら、美鈴ちゃんのプロデューサーさんを紹介されたんだ。プロデューサー科に入る前からの腐れ縁だったんだって」

 

「そういえば……そんな話をしていたような気もしますね」

 

「美鈴ちゃんって、中等部の時から歌上手かったじゃん? そんな美鈴ちゃんをプロデュースしてる美鈴ちゃんのプロデューサーさんなら、歌が上手くなる方法も知ってるかな〜って」

 

「なるほど……それであのような密会を……」

 

「密会じゃねーって。それで、美鈴ちゃんのプロデューサーさんにあたしの歌の音声データを聞いてもらって、そのフィードバックをもらってたってワケ。ごめんな〜、美鈴ちゃんにも言っとけばよかった」

 

……なるほど。それでわたしのプロデューサーを利用したと……

いくらプロデューサー自身が良しとしても、わたしとしては到底呑める状況ではない。

 

 

……やはり、彼女の存在は邪魔だ。

 

 

あれから数日後の早朝、わたしは藤田ことねを呼び出した。本当は人気のない場所が良かったが、彼女が渋ったのもあり学園内の特別教育棟近くで会うことになった。ここはプロデューサー科の教室とも近い、大事になる前に手短に済ませる必要がある。

 

「お待たせ〜」

 

軽くあくびをしながら、のんびりとした足取りで彼女はやってきた。

咲季と手毬が起きて早々うるさくて、などと話す彼女と他愛のない話をしばらくした後、わたしは本題に入る。

 

「さて、それではそろそろ本題に入りましょう。……単刀直入に言います。これ以上、わたしのプロデューサーに関わらないでください」

 

「……あ〜……やっぱ、それだよねぇ……」

 

「自覚があったとは……意外ですね」

 

「いや、いくらプロデューサー同士で縁があるとはいえ、担当じゃないアイドルに時間を割かせるの申し訳ないな〜とは思ってたんだよ。だから、そのことについてはあたしも話そうと思ってた」

 

「そうですか。では────」

 

「実は、さ。美鈴ちゃんのプロデューサーさんから、合同プロデュースの話を受けてるんだ」

 

「……合同プロデュース?」

 

「そ。あたしとあたしのプロデューサー、美鈴ちゃんと美鈴ちゃんのプロデューサーさんの4人で一緒にレッスンとかの計画を立てよう〜って感じのやつ」

 

……初耳だ。プロデューサーがそんなことを……いや、それよりも。

彼女は、この期に及んでまだプロデューサーと関係を持つつもりでいる。今日の話で関係を切ってくれるならそれで良かったのに……そうはならなかった。流石に、わたしにも我慢の限界が来た。

わたしは後ろに隠した手にこっそり軍手を付けると、用意していた果物ナイフを握りしめて───────

 

「がっ!?」

 

溢れ出す鮮血が、彼女の白いトレーニングウェアを紅く汚していく。わたしは彼女の肩を掴むと、一度果物ナイフを引き抜いてまた深々と刺した。

 

「あっ!!? ……ぁ……」

 

力なくその場に倒れる彼女に馬乗りになって、わたしは何度も彼女の胸を刺した。

やがて彼女の瞳からは生気が失われ、唇からは血と涎が混ざり合ったようなものが溢れ、終いには失禁までした。

 

たった今、藤田ことねは死んだ。

わたしが、殺した。

 

殺人という罪を犯したにも関わらず、わたしは言語化できないようなカタルシスを感じていた。しかし、このまま茫然と立ち尽くすわけにもいかない。誰かに見つかる前に、彼女の遺体を処理しないと─────

 

 

「…………秦谷さん?」

 

 

……プロデューサーの声だ。声がした方を振り返ると、困惑の表情を浮かべるプロデューサーが立っていた。

 

「……おはようございます、プロデューサー。今日は、よく晴れていますね。なので、今日のレッスンはお休みに─────」

 

「藤田さんッ!!!」

 

プロデューサーはわたしの横を走り抜けると、そのまま藤田ことねの元に駆け寄った。

……どうして。

 

「息がない……脈は───クソ、傷が深いな……まずは救急に電話を──────」

 

「どうしてですか? プロデューサー」

 

よく晴れていた空に、雲が陰りだす。

わたしは一歩ずつ前に進み、プロデューサーに近づいていく。

 

「どうして、わたし以外のアイドルを気にかけるんですか? ……浮気は、いけないことですよ?」

 

「そんなことより、救急に連絡を───まさか」

 

「プロデューサー、わたしの質問に答えてください。どうして、わたし以外のアイドルを気にかけるんですか? 『善処する』と、そう仰っていましたよね?」

 

「後でお答えします、それより今は藤田さんを───────」

 

「どうして!!!!!」

 

わたしは、今まで出したこともない大声で叫んだ。

ずっと溜め込んでいた感情が、爆発した。

 

「どうして……わたしだけを見てくれないんですか……? どうして……その子に構うんですか?」

 

「秦谷さん……」

 

「わたしは、あなたのためなら何だってします! あなたがそうしろと命じるなら、まりちゃんやりんちゃんだって殺します!! ……なのに、なんで……」

 

気付くとわたしの両膝は地面に着いていて、ぺたりと地面に座り込んでいた。

ちょうど太陽と重なった雲が、わたしの影を覆い隠す。

 

「……教えてください、プロデューサー。わたしは、あと何人殺せばいいんですか……?」

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