ここ、洛陽に住む少年達。胡伯子、銀二、参緋、そしてあたらしく仲間になった珀護。
胡伯子は、平和な世の中を目指し突き進む。果たしてその先にはどんな世界が待っているのか……。
隠れ家。ここは、洛陽の救われない子供たちを保護する数少ない拠点のひとつである。
胡伯子は、ほっとけない子供がいると、つい後の事を忘れ、保護してきてしまう事が何回もある。
その度に何とかなると笑い。実際何とかしているのだが……。珀護という新しい仲間を迎えた今、それがとうとう厳しくなってきている現実という物があった。
ところで、隠れ家。そこには子供しかいない。その状況でどうやって生活資金を得ているのか。それにはほんの少し秘密があった。
洛陽から少し離れた土地。そこにはおびただしい数の死体が転がっていた。
近付いて見ると、貧相な身なりをした者。そして、多少なり武装をしていた者が死体としていた。割合は勿論前者の者達の方が数が多い。
散策しているとなんとその場に子供が幾人かいた。
その子供たちは死人に近付きなにやら漁っているようだった。
「おーい! そっちは何か見つかったか!?」
その中の一人茶色の髪の毛を立たせている子供が声をあげた。
その声に反応してさらっとした黒髪の子供が顔を上げる。
「あぁ! 大量だ!!」
そう言って子供は手に持っている物を挙げる。そこにはこの時代のお金が大量に握られていた。
いつもはクールに着飾っている彼も、この時は態度を柔らかくし、表情もいくらか緩んでいた。
「おぉ、すげぇじゃねぇか!!」
茶色の髪の毛の子供―――胡伯子も顔をほころばせ死体に足元を取られないようにしながら、黒髪の子供―――銀二に近付いていった。
それにあわせるようにして銀二も胡伯子に近付いていった。その足取りは両者供に軽い。
「見せろ。どれ位、取れたんだ?」
「おいおい、慌てるなって。」
銀二が、せかす胡伯子を諌めるが、この中で一番浮かれ、落ち着きの無いのは銀二であった。その事は本人も自覚していた。
そして、その事をわざわざ言わない胡伯子であった。
「ひぃふぅみぃ………。 すげぇ数だ。とぉもある!」
「はっはっはっは、もっと俺を褒め称えろ」
「すげぇよ。銀二おめぇってやつはよぉ……」
そんな浮かれる二人を離れたところで一人、参緋が地べたに横になりぼーっとした顔つきで眺めていた。
参緋はそのおきているのか眠っているのか分からない目つきで目の前の死体たちを見ている。
参緋がここにいる理由は、他の危害が来たときのための監視役である。
ポリポリとまるで興味のかけらもなさそうにくるっとひねられている髪の毛をかく。
「おーい!」
そして、そんな参緋を見咎めるように、絶妙なタイミングで声をかけてきたのは胡伯子だ。
感覚としては授業中居眠りしてて、いきなり先生に名指しで指摘される感覚ににている。
「なんだぁ?」参緋は実にめんどくさそうに、こたえた。
「大丈夫だろうなぁ?」
面倒な大人たちが来ていないか?という事だろう。
「大丈夫だ!」
参緋は、ここに大人はいないことは分かっているが聞かれた手前一応回りを見渡すそぶりをして答えた。
参緋がそう答えると胡伯子と、銀二は嬉々として宝探しを続行し始めた。
洛陽の軍がここの死体を片付けにくるには、まだしばらくかかる。
しかし、参緋は見逃していた。どこかの子供がその様子をじっと見詰めていた事を。
「帰ったぞぉー」
いつもの掛け声と供に胡伯子達は手に大量の収穫を持って隠れ家へと戻ってきた。
そんな胡伯子達を出迎えたのはいつものごとく小さな子供たち……。かと思いきや違った。
「おぉ、珀護か。どうした?」
「……。俺達は奥へと言ってるぜ」
「あぁ、わりぃな」
胡伯子を迎えたのは、最近隠れ家の仲間になった珀護であった。
珀護は胡伯子達……。いや、胡伯子の帰りを犬のように玄関に正座をして待っていたのだった。
伏し目がちに珀護が、三人を出迎えると、銀二、参緋の二人は気を利かせたのか。二人ともなって奥へと消えて行った。
「どうした? 馴染めないのか」
そんなはずはない。珀護は元々コミュニケーション能力が低いはずなのだが、何故か隠れ家にきて数日とかからずにちびっ子達になつかれてしまったという経緯がある。
胡伯子の問いかけに、珀護は首をふる。
「うぅん。待ってただけ」
「そうか、皆も待ってるだろうし奥へ行こうぜ」
そう言って二人も奥へと消えていった。
奥の部屋では銀二はちゃぶ台を前にして正座をしながらお茶を飲み、その奥では参緋が横になりながら、3歳位の少女の遊び相手をしていた。
胡伯子が部屋に入ってきたことに銀二が気付いた。
「おや、早かったねぇ」
「はぇえも、何も、普通に挨拶をしただけだ。他に何がある?」
胡伯子は何か含みを持たせながら離す銀二にめんどくさそうな目を向け銀二の向かい側へと座る。
一緒に入ってきた珀護は、部屋の角に座り早速子供たちの相手をしていた。
それを銀二は横目で見ながら言った。
「いやぁ。珀護はここに来てからという物お前にべったりだからよ。何かいけないことでも起こるのかと思ったぜ。なぁ、参緋」
「っ! そんな訳無いだろ! 大体、珀護は男だろ……。つーことはさっき俺達を残して先に行ったのは、俺達を気遣ったっていうのか」顔を真っ赤にしながら言う胡伯子。その言葉に銀二は頷いた。
カーーーっ!っと奇声を叫びながら胡伯子は頭を抱え畳の上をコロコロ転がりまわる。
そして、しばらく転がりまわり、落ち着くと止まった。
胡伯子は、ぼーっとしながら何も無い空間を見詰めていると。
「ん」
そういわれ、声のする方向に顔を向けてみるとそこには、5歳位になる子が胡伯子に向けて、乾燥芋をさしだしていた。
胡伯子は顔だけを動かし、乾燥芋をかじりうどんのように口の中に含んだ。
「わっ!」
そんな、突然の行為に子供は驚き、胡伯子がイモを噛むと同時に手を引いた。
「へへへ……」
そして、驚いた子供に満足したのか胡伯子は微笑んでいた。
その日から数日後。胡伯子はこの間奪った金品を手に町へと食べ物とお金とを交換しに来ていた。
今回は初めてという事で珀護が供なってきていた。珀護は胡伯子と出かける事ができて嬉しいのかその足取りはかなり軽かった。
「おいおい、金が手に入って楽しみなのは分かるが、あんまりはしゃぎすぎるなよー」
そんな珀護を見て胡伯子は笑いながら言った。
しかし、そんな声も聞えているのかいないのか、あまり抑制にはなっていなかった。
そして胡伯子達はいつも使っている店へとたどりついた。
金の回りも、作物の実りも悪い子のご時勢、胡伯子達にひいきしてくれる数少ない良心的な店だ。
「おや、こんにちわ」
そこの店番であるおばあさんが、胡伯子に気がつき声をかける。
胡伯子は顔に笑みを浮かべ受け答えをする。
珀護は、先ほどの威勢のよさはどこに行ったのか、威勢はなりを潜め胡伯子の後ろで縮こまっていた。
「おっす! おばさん元気か? 今日も換金しに来たぜ」
「はいよぉ、けど悪いねぇ。今回もあまり仕入れる事ができなかったんよ」
「ハハッ、しょうがねぇよ。気にしないでくれぇ!」ガハハと、胡伯子は大きく笑う。
おばあさんは、胡伯子の後ろに隠れている珀護をよく見ようと首をグッと伸ばす。
同時に、珀護は身を更に隠そうと、胡伯子の後ろで身をちぢこませる。
「所で、後ろにいる子は誰だい? 隠れないで、出てきておくれよ」
おばあさんがこまった顔で言うので、胡伯子は後ろにいる珀護を出そうと振り向いた。
「おい、どうしたんだ珀護? あの方はまったく恐い方ではないぞ」
胡伯子が尋ねてみるが、珀護はうつむいたままで何も返答しなかった。
胡伯子は小さく溜息をついておばあさんの方へと向き直った。
「おばさん、申しわけねぇ。コイツいつもはこんな奴じゃねぇ。もっと人懐っこい奴なんだけど……」
申し訳なさそうに胡伯子は言うが、おばちゃんは首をよこに振った。
「えぇ、えぇ。初めての相手なら警戒しちまうのも無理はねぇ。まだまだ、人生は長いんだ。これから仲良くなっていけばえぇ」
それから、胡伯子とおばあさんは胡伯子の持ってきた金品とおばあさんの持つわずかばかりの金銭と、少ない作物を交換した。
そしてその間珀護はジーッとおばあさんの顔を睨むように見ていた。
その日の夕飯は少しではあるがいつもより、多くおかずが出された。
ご飯もいつもはお粥にしていつも一人一杯までだったのを、おかわり自由になった。
その事に年少組は喜び、夕飯を平らげていく。
年中組は、実際の所をなんとなく分かってきているために、おかわりすることをためらっていたのだが、胡伯子が「おいおい、今日は遠慮する事はねぇぜ」と言うので、各々すまなそうな表情をしながら一杯だけおかわりをした。
そして、年長組に含まれる、胡伯子、銀二、参緋の三人は、おかわりをするのだが、少なく盛り、ゆっくり食べていた。
そんな中、焼き魚を口に含み、参緋に向けて箸を振りながら胡伯子が言った。
「まったく、参緋。おめぇも随分料理を作るのが上手くなったよなぁ」
「そりゃ、毎日作ってりゃ、上手くもなるべよ」参緋は胡伯子の方を見ずに言う。
「いや、それにしても、本当に上手くなった。最初の頃なんか真っ黒黒だったのに」銀二が、魚の尻尾を箸で持ち上げる持ち「今じゃ上手い具合に焼けている」
参緋はジト目で銀二を見る。どうやら、触れられたくない過去だったようだ。
「しょうがないだろう。あの時はまだ、料理なんてものをした事は無かったんだ。それにあの時お前らときたら、食うものなんて、蛇とかねずみで良いなんて……。ありえねぇー」
「いやいや、おめぇーそりゃちげぇよ。腹に入れば食いもんなんてどれも一緒さ」
なぁ?と胡伯子と銀二が顔を見合わせて言う。
それを聞いた参緋は更に溜息をついた。
「だから、その考えがありえねぇって。お前らがよくても子供たちが駄目だろ」
「何をいうかぁ! 俺があの位の時の主食はねずみだったぞ!」と、胡伯子は年中組でも年齢の低い子供を指差す。
「そりゃ、俺だってあの位の時は、ねずみなり蛇なり喰ってたさ。けど、今は喰えるもんが少ないがあるんだからちゃんと食わせてやるべきだろ?」
「んだとコラ! 蛇だってうめぇんだぞ!!」
「知ってるわ!!」
二人は同時に立ち上がりちゃぶ台に片足を乗せにらみ合っていた。
この二人時には銀二も混ざる事もあるが、言い合いをするというのはいつもの事であった。
二人が言い合っている間、銀二と、珀護、子供たちは少し離れたところに食べ物を移動させ、食事を再開していた。
夜。隠れ家に住む子供たちが寝静まった頃。年長組の三人はいまだ起きていた。今日入手した金と作物をどう使っていくか話しあっていたのである。そんな時。
ドンドン!「誰かいないのかぁ!!」ドンドン!
と、荒々しい音と供に大きな怒鳴り声がした。
「何だ!?」
胡伯子はその音に驚き、反射的に立ち上がりまわりを見渡す。
未だにドンドン!と扉を叩く音が隠れ家内に響く。
「うわぁぁあああああああああ!!」
すると、奥の部屋から幾人かの子供の泣き声が響く。先ほどの音に驚き泣いてしまったようだ。
「どうする?」
銀二が真剣な顔をして胡伯子と、参緋を見る。
更に大きくなっていくノック音に、胡伯子達は悩んでいる時間は無い事を知る。
胡伯子は数秒ほど考える。そして判断した。
「とりあえず、出るしかないだろう。音からして大勢の人たちがいるようだ。ここで抜け出そうとしても、子供の数が多いしばれずに抜け出せるとは思えない……。よし、俺が出てこよう。お前達は、子供たちを起こして、いざという時逃げられるようにしておいてくれ」
その時、サーっと奥の部屋へと続くふすまが開いた。
そこから現れたのは年少組に周りを囲まれた珀護だった。
「どうしたの?」
珀護はこの緊迫した状況に割合落ち着いているようだった。
と、思ったとき、参緋は珀護を取り囲んでいる子供たちを見ると、先ほどまで泣いていたと分かる子が多数いた。その事から、周りが慌てふためいているために、珀護は冷静でいられたのだろうと当たりをつけた。
「分からない。だから俺が出て行って確かめてみようと思う」そう胡伯子は言った。
それを聞いた珀護は信じられないものを見たという表情で胡伯子を見た。
その表情を見た、胡伯子と、銀二、参緋は何故そんな顔をするのかが分からなかった。
「なんで? 出て行ったらきっと、殺されちゃうよ?」
珀護のその一言に胡伯子は身を固まらせた。そして、考えるどうして珀護はその思考にいたったのかを。しかし、「おい! 早く開けろぉ!!」しかし、外から聞える騒音にその思考は中断された。
胡伯子は、珀護を安心させるように笑みを浮かべるといった。
「大丈夫だって! 俺は強い! そんじょそこらの奴なら負けねぇよ」
「さっ、奥に隠れてるぞ」銀二はそう言って珀護を奥へと引っ張る。
「あっ!」
先ほどの胡伯子の言葉に一瞬気が遠くなった珀護であったが、銀二に引かれることによって意識を戻した。
珀護は何か言いたかったことがあるかのように胡伯子に手を伸ばしたが、既に胡伯子は玄関へと向かっていって振り返ることは無かった。
ガタリ。銀二、参緋、珀護たちが奥の部屋へと非難したのを音で確認した胡伯子は激しい音がする扉の前でしばらく目を瞑り、再び目を開けるとその扉を開けた。
「どなたでしょうか。」
そう言って開いた先にはここいらの地域で、一番えらい年を食った男と、そのまわりにはその住民がいた。
予想外の来客に胡伯子は驚いた。
すると、そこにいた年を食った男が前に出てきた。
「ようやっと出てきおったか。」
「どのような御用時で、このような寂れた家にきたのでしょうか」
かなり慎重に言葉を選ぶ胡伯子。
すると、なにやら年を食った男はいやらしい笑みを浮かべた。
「ふん。地域の子からなにやら、外で盗人を働いている者がいると聞いてな。よくよく聞いてみると、その盗人とはこのぼろい場所に住むヤツラだというじゃないか。顔が割れているなら、話は早い。わしらは結託して、その盗人を懲らしめに来たというわけだ」
胡伯子は、年を食った男の話しが進むに連れ顔色が悪くなっていく。
ガタン。と後ろで派手な音がした。
銀二だろうか。頼むから抑えてくれ。と、願う胡伯子であった。
「そのような盗人がここにいては、わしらは安心して日々の生活を営むことが出来ん。つまり……」
「つまり、俺達に金品は置いてこの家から出て行けということですか」
「そうだ」
言って、年を食った男の顔の笑みが更に深くなった。
絶句する胡伯子。
「ふざけんな!!」
その時奥のふすまから銀二が大声をあげ、参緋と供に出てきた。その手には調理用の包丁が握られている。
珀護は奥の方で、子供たちを守るようにその小さい身体を大きく使って覆っていた。
「やめておけ!! お主等が何をしようと無駄だ」年を食った男がそういうと回りにいた、男達が鍬(くわ)を持ち上げ家の中に入ってきた。
その人数の多さに、銀二は少しだけひるんだ。
胡伯子は、やってきた男達、銀二と参緋。そして奥にいる珀護と子供たちを見た。
「分かった。俺達はここから出て行こう」
「何言ってっやがんだ!!」
そう胡伯子が言った瞬間、銀二は激号した。
「ここは、俺達のホームなんだぞ! いうなれば、帰るべき家だ! それをみすみす手放すだと! ふざけんな!」
「分かってる。けど、分かってくれ銀二。ここで闘って何になる? ここで俺達がやられたら後ろの子供たちを誰が守る? それに、この人たちだって好きでやっているわけじゃないんだ。やらなくてはいけないこの世の中が悪いんだ。銀二、分かってくれるな?」
「俺達がここから出て行ってその先どうする!? 子供たちをこの寒い中放り出したら死んじまうだろう!」
「それでも、ここで殺されるよりは、生き残れる可能性はある!」
「ふざけんなぁ!!」
銀二は納得できないようであった。
参緋だけは、騒がずことのなりを黙ってみていた。そして、静かに胡伯子へと歩み寄る。
「参緋! てめぇもそっちにいくのか?」
騒ぐ銀二を無視して参緋は尋ねた。
「胡伯子、お前はそれでいいのか?」
「あぁ。」
「このあと、どうするか考えているのか?」
「それはまだ考えてない」
「お前はこれが最善だと考えているのか?」
「あぁ!」
「そうか。」そういって参緋は目を閉じる。「なら、俺もここは引こう」
「てめぇ!!」
そう言って銀二は参緋に襲いかかろうと包丁を振るってきた。
参緋は銀二の包丁を持つ手首を持った。
「銀二! よく聞け。俺達は、いままで胡伯子に導かれてきた。俺達の帰るべき、ホームは隠れ家(ここ)だけじゃない。俺達の居場所(ホーム)はコイツのいるところだ。そうだろ? それに、俺達だけなら多少なり闘う力があるから良いが、後ろの子達はどうする? 確かにここを放り出されたら死んでしまうかもしれない。でも、それでも、生きている。生きている限りは希望はあるんだ!!」
銀二の顔が苦痛にゆがむ。
今の状況、そしてどうするのが最適か。銀二も頭では分かっているのだが、それを納得する事が出来ない故の葛藤。
銀二はうつむき舌打をする。
「勝手にしろ!!」
銀二は扉付近にいる男達を押しのけ外へと消えていった。
それを今まで見ていた、年を食った男はそれを見てにやりと笑った。
「ふむ、物分りがよくて助かったよ」
数時間後、隠れ家の前に胡伯子の家族全員が集った。
俺達4人以外は不安を目に添えて胡伯子のことを見ていた。その目はこれからどうするの?と、訴えかけていた。
胡伯子は、それらをキョトンとした顔で見るといきなり笑い出した。
「はっはっは。安心しろ。何とかなるさ」
そう言って胡伯子達はどこへとも無く歩き出したのだった。