Knife Master《完結》   作:ひわたり

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自由

神殺しの視界が反転する。天井が床になり、床が天井になる。

吹き飛ばされた。

理解は追いついてる。

覚悟もしていた。

「しかし……!」

……この威力は予想外だ!

2人は破壊神に敵と認知された。出口の破壊よりも優先すべき存在と思われた。故に、攻撃対象となる。攻撃は予断なく、容赦なく、無慈悲に2人に襲い掛かる。

神殺しと神の杖が天井に足をつき、そのまま足場代わりに破壊神へと突っ込む。

フッと、破壊神の姿が消えた。

勘で背後を庇う。瞬間、衝撃が2人を襲う。態勢を立て直す前に、兎に角我武者羅に跳ぶ。一瞬前まで居た箇所が衝撃波で抉り取られた。

「くっ……!」

神の杖が振り向く。

鎌鼬が目の前にあった。

「!!」

神の杖の両目が、鎌鼬で引き裂かれた。

間髪入れずに襲いかかる衝撃波に抗うことも出来ず、神の杖は背後の扉ごと吹き飛ばされた。

壊された扉から、日の光が差し込む。

「…………っ」

初めての、日の光。本物の太陽の光。

それが、一瞬だけ、破壊神の動きを止める。

その一瞬で、神殺しが全力でぶつかった。

全身全霊の突撃。前方に構えた双剣。

しかし、それは突き刺さらずに、彼の双剣で受け流される。それでも神殺しはそのまま体を前にぶつける。廊下の奥へ、施設の奥へと押し戻した。

「…………」

その一撃でも、破壊神の表情は変わらない。

破壊神が足を踏ん張る。それだけの行為で、神殺しの突進は止まった。破壊神が腕を後方へ下げる。踏み込みを込めた、一撃。

神殺しにはその光景がスローモーションに見えた。

色さえ無くなった景色の中で、じわりじわりと、破壊神の剣が迫る。それは即ち、自身の死が迫ることに他ならない。

……死ぬ。

このままでは、確実に。

死。

複数の事柄を、この時、神殺しだけが理解した。

……コイツは、死を教えている。神化人間達に、本物の死を、教えている。そしてコイツは、やはり神の刃ではない。

神の刃は、耐えられなかったんだ。

殺しの意味を理解して。

死を理解して。

そして、自分の行いの、その重さに耐えきれなかったんだ。

俺達のように精神が発達していたのなら、また違ったのかもしれない。しかし、そうはならなかった。神の刃の幼い精神では限界を超えてしまったのだ。

故に、無意識下で自己防衛反応が出た。

別人格の形成。

死に耐えうる人格。

殺しを体現した存在。

二重人格を作ることで、神の刃は、自身を保った。生きてしまったのだ。

「……っ」

だが、俺も、此処では死ねない。

光を見たんだ。

日の光を見た。外を見た。世界を見た。

俺はそれだけでは満足できない。

あと一歩で、俺は踏み出せる。俺の願っていた何かを見つけ出せる。だから、俺は今は死なない。

死んでたまるか。

神殺しが踏み込む。

破壊神と同じ様に、踏み込み、腕を引く。

力の収縮を。

威力の方向を。

衝撃の変換を。

考えはなかった。体で理解した。

そして、神の刃と同様、衝撃を操った。

破壊神の剣と神殺しの剣が衝突する。

同じ力。同じ衝撃。同じ攻撃。

「……!」

しかし、リミッターが外れた破壊神の威力が上回る。

当然、神殺しは吹き飛ばされた。

飛んでしまいそうな意識の中、まだ生存していると確認する。空中を吹き飛んだまま、忍ばせていたスイッチを押した。

天井裏に敷き詰められた大量のプラスチック爆弾が一斉に爆発した。

神殺しが外へ出るタイミングと同時に出入り口と廊下全てが爆発と瓦礫に包まれる。

「がはっ!」

破壊神の衝撃と爆炎により、地面を転がり、木にぶつかって止まる。木が衝撃にひしゃげて、葉を散らした。

「……がぼっ!」

口から大量の血を吐き出し、身を起こす。荒い呼吸を吐きながら、自分の体を確認した。

破壊神に攻撃した右腕は悲惨なことになっていた。

指は全てがあらぬ方向に曲がり、肌は深い傷に塗れている。それでもまだ剣を手にしているのは、維持の現れのようだ。袖を捲れば、肘辺りから骨が突き出しているのが見えた。筋肉の繊維もズタズタに引き裂かれている。

傷を見ていると、右目に違和感を感じた。軽く触れてみる。右目に縦に太刀筋が刻まれているのが分かった。皮一枚、眼球は無事のようだ。

痛みを無視して無理矢理腕の骨を押し戻す。腕が付いていて、指も欠けていないなら上等と判断した。

「…………」

周りを見渡す。

岩肌さえ見えない森林に囲まれた場所。先程の爆発の瓦礫が散らばり、地面を抉っており、土の色が鮮明に見えた。木々独特の青臭さと、深い緑が目に入る。見上げれば、葉の隙間から眩い程の日の光が照らされていた。

「……綺麗だな」

初めての外の世界へ来た。

これが外かと、どこか冷めている自分と、胸の辺りがじんわりと温かくなる相反する感情が込み上げている。

「良かったね」

声が聞こえる。そちらへ目を向ければ、顔から血を流す神の杖が横たわっていた。

「生きてたのか」

「自分でも驚きさ。そして、君が生きていることにも驚いているよ」

「同感だ」

神殺しは双剣をしまい、腰を上げて神の杖の横まで来る。神の杖は横たわったまま、両目を閉じている。攻撃が当たる直前に後方に飛んだ為か、鎌鼬の線ではなく、削るように跡が残っているのが分かる。

「見えないのか?」

「完全に両目をやられた。間一髪、アウトというか、セーフというか。命があるだけマシかな?」

「お前がマシと思えばマシだろう」

神殺しは大きく息を吐いて、神の杖の横に座った。数秒の戦闘でこの有様だ。だが、満身創痍でありながらも生き残った。

「奴は?」

「手応えはなかった。恐らく、傷一つ負ってない」

多くの人間を殺してきた。爆発物だろうが何だろうが、殺した時の感覚は分かっている。先の爆発は、完全に取り逃がした。

「ゾッとしない話だ。あの近距離の爆発で、どうしようも出来ないとは」

「アレを殺すのは、なかなかに難儀だ」

もう一度相見えたら確実にこちらが死ぬ。その予感は2人の中にあった。

「私達を殺しに来るかな?」

「殺すつもりならとっくに来てるだろ。奴にとって、この瓦礫の山は何の障害物にもならん。なら、俺達は今この世にいないさ」

「見逃された?」

「出口が塞がったから良しとしたか、中の人間を優先したか。あるいは……」

神殺しは死を目前にして生を願った。

神の杖は死を前にして、なおも生きようとした。

神殺しと神の杖はこの施設が異常かもしれないと思っていた。果ては、殺しや死に対する疑問を抱いていた。そして、破壊神に抗い、結果的に生き残った2人は、今もこうしてこの世に存在する。

「もう、俺達に用はないのかもな」

破壊神の目的は殺しと死の本質を教えることならば。

神殺しと神の杖は理解したのだと認められ、対象外になったのかもしれない。

実際どうなのかは、誰も知ることは出来ない。

「それで、奴が中の人間を殺し尽くして出てきたらどうする?」

神の杖の質問に、神殺しは当たり前のように答えた。

「逃げるさ」

「逃げ切れるかい?」

「少なくとも、奴を倒せるようになるまで逃げ切らなきゃな」

倒す。

その途方も無い言葉に、神の杖は見えない目を神殺しに向けた。

「正気か?」

「正気さ。生きたいなら、抗うしかないだろう」

神殺しは衝撃を操る方法を、先程の邂逅で身に付けた。ならば、後はリミッターを自在に外し、それを使いこなせるようになれば、破壊神に追いつく事が出来る。

「俺はまだ、生きてるからな」

神殺しは笑った。

大胆に、不遜に、笑ってみせた。

「……強いな、君は」

神殺しが笑ったのを感じ、神の杖も微笑みで返した。

「それで、いつまでも此処にいても仕方ない。俺は行くが、お前はどうする?」

「悪いが、途中まで連れて行ってくれないかな?」

「仕方ないな。途中で捨ててくぞ」

「ああ、構わないよ」

共闘しようと、同じ死に直面しようと、2人の関係は結局変わりはしなかった。

神殺しは神の杖の肩を左側で抱え上げ、神の杖は自らの武器を、本当の杖代わりとして立ち上がる。

森の中へと2人は消えて行く。

その行き先は本人達すら分からない。

生き延びたという事実だけを抱え、自由を得た2人は、己の人生へ歩き始めた。

 

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