Knife Master《完結》   作:ひわたり

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今生

瞬間、神殺しが消えた。

「は?」

老人は絶句した。先程までそこに居た神殺しは、まるで幻だったかのように姿を消していた。直ぐに、何処へ、という疑問が頭を過ぎる。背後に気配を感じ、老人が振り返る。途中で視界の端に映る、黒い姿。手がギリギリで届く範囲。そう判断し、老人は振り向き様に爪で切り裂いた。

爪が、無かった。

「え?」

正確には、指の第一関節から先が存在しなかった。老人がそれを理解する前に、第二間接が消えた。瞬間的に根本が無くなった。老人が理解した瞬間には、手そのものが自分と離れ離れになっていた。

神経が痛みを訴え、脳へと伝達する。痛みすら通り越した熱い感覚に、思わず老人は叫んだ。いや、叫ぼうとした。その為に口を大きく開いた瞬間、強い衝撃と共に顎が強制的な閉じられた。仰け反る前に後頭部から同じような衝撃が襲った。前のめりになる瞬間、鳩尾に何かが勢いよくめり込んだ。体をくの字に折られ、瞬間、それを真っ直ぐに引き延ばすかのように背骨に何かが突き刺さる。今度は一の字にならされると同時に、顔面に何かが叩きつけられた。その強力な威力に、老人の意識が飛ぶ。壁が半壊する程の衝撃で衝突した時に目が覚め、同時に食らった痛みが全て押し寄せてきた。

「があっ……あ……!!」

激痛が激しく、声を上げる事すらできない。途端、体を浮遊間が支配していた。視界がぐるぐると回っていて、よく分からない。激しい衝撃が背中から来た時に、投げ飛ばされたのだと理解した。

「やっぱりまだ早かったか……。全然本調子じゃないな」

老人の霞む視界が神殺しを捕らえる。

いつも通りの、普段通りの神殺し。

黒き少年は悠然とそこに立つ。

「な、ぜ……」

老人は辛うじて言葉を発した。

神殺しは、明らかに回復していた。

本来ならば死に向かっていく筈の影響。しかし、実際にはその逆。老人は混乱した。

神殺しは老人の頭元まで近づくと、片足を上げて振り下ろす。踏み潰されると思い、咄嗟にガードしたが、神殺しの足は床を叩いた。神殺しの力に耐えきれず、床が崩壊する。反動で殆どの床が跳ね上がった。老人の体が床に立たされるように浮かび上がり、同時に、背後に強烈な一撃が舞った。自らの内部で鈍い音が響く。骨の折れた音か、機械が壊れた音か、その両方か。

老人が吹き飛ぶ前に回り込む。鳩尾に衝撃が老人に注ぎ込まれた。加えて側頭部に蹴り。反対側にも蹴り。踵落とし。顎を膝打ち。鳩尾。背中。脛。太股。膝。顔面。後頭部。肘。右脇腹。左脇腹。脇下。肩。下腹部。腰。

容赦の無い連続的な攻撃。まるで隙が無い。痛みを感じる暇さえ無い。

それでも死なないのは老人が頑丈だからではない。

神殺しが死なない攻撃をしているからだ。人体の全てを学んだ彼は、殺す方法も殺さない方法も熟知している。

神殺しは跪いた老人の背後から、首を掴んで言った。

「俺は事前に薬を飲んでいたんだよ」

「馬鹿、な……」

老人は既に痛みさえ無い。痛みさえ通りこして、もはや何も感じない。

「……薬なんか、で……対抗、出来るもの……では、ない…………」

「だろうな。薬は単に回復を早めるものだ。栄養剤のようなものか」

「な……」

回復力を高めるだけで、この影響から逃れられる筈がない。しかし、現実に神殺しは早急な回復力を見せていた。

「嘘だ……。それだけのことで……」

「それだけだよ」

淡々と言葉を返す。

「本当に、それだけのことなんだ」

神殺しは老人を真上に蹴り上げた。

「それだけのことの為に……!」

神殺しは上空へ跳び、双剣で斬りつけた。反転し、天井に着く。再び跳び、斬りつけた。繰り返し、繰り返し、老人だったものが細切れになっていく。

老人は空中で何度も斬られた。コードで対抗しようとしたが、既にコードは斬り飛ばされていた。それすらも理解出来ない中、ただ無惨に斬り裂かれていく。

老人は頭の片隅で考えていた。

凪の体質が神化人間に効いていないというわけではない。確実に神殺しは弱まっていた。それでも、神殺しは死には向かわずに回復している。その回復は薬の効果では無く、神殺し自体のものだろう。要約すれば、ある程度までは弱るが、そこから元に戻るということ。

なんてことはない。神化人間の体質が上回った。

……本当に、それだけの話なのか。

その結論に愕然とした。そして、気付けば頭と胴体だけしか残っていなかった。

神殺しが老人の前に降り立つ。今更だが、神殺しの姿は綺麗なものだった。闘った後だというのに、傷一つ負っていない。老人は確かに攻撃を食らわせた。しかし、それらは全てダメージを与えるまでには至っていなかったのだ。吹き飛んだのは飛び退いて衝撃を受け流しただけ。あとは、単純に演技だ。弱まっていた状態では勝てる気はしなかった。だが、負けることは絶対に無かった。

「すまなかった……」

老人はままならない口で謝罪の言葉を述べる。その声は震えていた。

「許してくれ」

命乞いをするように口を開き

「なんてな」

口内の巨砲を開いた。

瞬間、その巨砲が火を吹いた。

激しい音と衝撃が轟く。

「くくく」

老人は笑った。これで勝利を確信していた。笑って、凍りついた。

神殺しが弾丸を片手で掴んでいた。

別に掴む必要も無かった。神殺しならば、老人が撃つ前に斬り裂くことが出来た。しかし、彼は敢えて受け止めて見せた。

「これが最後の攻撃か?」

その心を、折る為に。

「この程度か」

老人は笑った。先程の笑みとは違う。自らの愚かさに、ただ笑えた。

勝てるはずが無かった。どんな技術も、どんな策も、神化人間の前には無意味だった。さっきまで、神川凪の体質を利用すれば勝てると思っていた自分は何だったのか。思い込みが激しいにも程がある。

神殺しが一歩踏み出した。

「殺せるはずが無い……」

そう言った老人の体は、次の瞬間、宙を高く舞った。

粉々に四散し、地に落ちる前に消えた。

「そうだな……」

神殺しは双剣を仕舞う。

「この程度で死ねるのなら、よかったのにな」

神殺しはドアへと向かう。老人など、もう知ったことでは無かった。

ドアを潜れば、そこは小さな部屋だった。中に照明は無い為、光源はドアから入ってくる光だけとなる。薄暗い部屋の中にあるのは横たわっている人の影。

神殺しは凪に近寄り、腕で抱え込むように上半身を起こさせる。凪はぐったりとしていて、目は閉じられていた。

「凪」

彼女の名を呼び掛けながら、脈と呼吸を確認する。両方とも、大分弱まっていた。だが、まだ生きている。

「凪」

神殺しがもう一度呼ぶと、凪がゆっくりと瞼を開けた。目がぼんやりと空中を彷徨ったが、徐々に焦点が神殺しへ集まった。

「ぁ……」

凪の微かな吐息が神殺しに届く。

「神殺し」

凪は微笑みを浮かべた。とても弱々しく、儚い笑顔。

「…………」

神殺しは一瞬戸惑った。眠らされていただろうから、彼女に覇気が無いのは当然だ。しかし、それにしても、あまりにも力が無さ過ぎる。衰弱が激しい。

……既に寿命が迫っているのか?

しかし、情報屋から指定された時間からはまだ猶予があるはずだ。

なのに、何故。

神殺しは混乱し、考えて

「……あ」

気付いた。気付いてしまった。

先程まで闘っていた老人は、凪と同様の体質を手に入れたと言っていた。凪と比較にならないほど強化されていたと豪語していた。神化人間には一定のレベルまで弱めることが可能だが、死に至らせることはできない。だが、神化人間以外の人間なら、死まで追いやられてしまう。

そしてそれは、凪も例外ではない。

凪の方がオリジナルであるから、ある程度は抵抗が出来るだろうが、出来たとしても微弱に過ぎない。

「…………」

つまり

「…………」

凪の命の猶予は

「……っ」

もう既に……。

「ねぇ、神殺し」

凪は小さな声で、囁きのような小ささで言った。神殺しは揺れる心を必死に抑え込んで答えた。

「…………。ああ、何だ」

凪がほんの少しだけ笑う。それは安堵の笑みだろうか。それが神殺しには理解できなかった。

「良かった。夢、だったんだ……」

「……ん?」

「なんかね、人形みたいなのに捕まって連れ去られる夢を見たんだ……。ちょっとリアルな夢で、怖かった」

それは現実だ。周りの環境を見れば分かるだろうに。

「凪……まさか……」

目が見えていないのか、という仮説が頭に浮かぶ。しかし、さっきは神殺しの名を呼んだ。

「神殺しが居るってことは、夢だったって事だよね……」

凪は確認するように神殺しの目を覗き込んだ。それで、何となく分かった。もう凪には、神殺し以外目に入っていない。

「……ああ」

神殺しは息を吐き、言った。

「夢だ」

嘘だ。

……俺は何故、嘘を吐いている。

「神殺し……。私、言ってなかった事があるの……」

「言ってなかったこと?」

「私、もうすぐ死ぬの」

「………………」

神殺しは絶句した。凪は力無く笑った。

凪は知っていた。自分がもうすぐ死ぬことを。しかし、凪は知らない。もう、時間が残されていないことを。

「…………。何で、死ぬって分かったんだ?」

「私、死のうとしたことがあるの」

あの狂った環境の中だ。自殺を試みても不思議はない。

「その時に、止めに来た裏政府の人に言われたの。十歳半ばで寿命だって。慌てなくても、直ぐ死ぬって」

「…………」

「そしたら……情けないよね。急に死ぬのが怖くなったの。あれだけ死にがっていたのに……。死が具体的になって怖くなったのかな。もう、分からないけれど。そして、自分は生きてて何もしてない事に気付いたの。そんな中、死ぬのが嫌になったの」

凪は長く話す。それが凪の体力を奪っているような気がして、気が気ではない。

「私は生きている間に何がしたいのか考えた。だけど、考えても考えても何がしたいのか分からなかった。外で家族連れの幸せそうな人達を見た時、いいなって純粋に思えたの」

だから……だから、自由を望んだのか。

たったそれだけのことを、望んだのか。

「それでも、私はあそこから逃げることが出来なかった。ただ時間が過ぎていくことに、死に近づいて来ることに怯えていた。そこに……」

凪の瞳が、少しだけ潤んだ。

「貴方が来た」

その時、凪は神殺しの姿がどう見えたのだろうか。

「成程……」

本当はこんな会話などせずに、直ぐにでも帰るべきなのだろう。しかし、凪があれを夢だと思っているのなら、知らないままの方がいい。だから、今は動けない。

「神殺し……。貴方は私を手元に置いててくれたわ」

「ああ……」

「たとえそれが気まぐれだったとしても、貴方には感謝しているの」

気まぐれ。

本当に、気まぐれだったのだろうか。

気まぐれで、ここまでやっただろうか。

気まぐれで、こんなにも、心を。

「話をして、食事をして、遊んで……。貴方は、私に沢山の事をしてくれた……」

「……普通の事だけだ」

「そうかもしれない。でも、私の望みはその普通の事だったから……」

凪は、笑顔で言った。

「ありがとう」

違う。凪、違うんだ。

俺が、それを、望んでいたのかもしれないんだ。感謝を述べなければならないのは、きっと俺の方なのに。

言葉は出てこなかった。何故だか酷く心が乱れた。

「俺が……」

言葉が続かない。その理由は、直ぐに分かった。頭の片隅。冷酷な部分が、冷静に状況を分析していた。そして、そいつは残酷な真実を伝えている。経験からして分かると。凪から、死の匂いを感じたと。

「やっぱり疲れたのかな……。眠いな……」

……何を言えばいい?何を言うべきだ?真実を伝えるべきなのか?もう死ぬと?

「ああ、眠れ」

気付けば、自然とそう言っていた。

頭の中では葛藤が続く。本気で言っているのかと、心のどこかで自分に叫んでいた。おそらく、ここで眠らせてしまえば、もう二度と目覚めることは無いかもしれない。いや、確実に目覚めない。

確かに、死ぬのなら何も知らせずに静かに眠らせてやりたい。しかし、真実を知らせないまま永眠させることは良い事なのか。

神殺しは迷っていた。限りある時間の中で、答えが出せずに迷走していた。

「…………っ」

言えない。言えるわけがない。凪の笑顔を、こんなにも楽しそうな笑顔を潰してしまうことなど、俺は……。

「神殺し……」

凪が神殺しの肩を軽く掴む。神殺しは何と訊こうとしたが、訊けなかった。言葉を紡ぐ唇が、凪の唇で塞がれていたから。彼女の顔は近過ぎて見えなかった。何も見えなかった。

「ごめんね」

数センチだけ離れた距離から聞こえた言葉。

「ありがとう」

神殺しの肩に触れていた手が、床に落ちた。

それとほぼ同時に、凪の体から力が抜けた。神殺しが慌てて支え直す。凪は少しだけ笑みを残したまま、静かに目を瞑っていた。

「凪……?」

神殺しは彼女の名を呼びながら、凪の頬に手を触れた。彼女は動かなかった。

動かない。

もう二度と。

「…………」

神川凪は、死んだ。

「こんなに……」

神殺しはぽつりと呟いた。

「こんなにも安らかに眠れるなら、凪の体質も悪くないな……」

そう言って、少しだけ微笑む。ふと、自分の唇に触れた。先程、凪の唇と触れた為か、少しだけ湿っていた。

「……ん?」

違和感を感じ、そのまま自分の頬に手を移動させる。顔が細かく振動しているのを感じた。

「これは……」

呟いた声も、震えていた。

「動揺しているのか……?」

しかし、動揺とは何かが違う気がした。胸が張り裂けそうなくらいに痛み、うまく呼吸が出来ない。本当に胸が痛いわけではない。

痛むのは精神か、あるいは心か。

そして、薄暗く底冷えた感情が体の芯で渦巻いている。今にも爆発しそうな、溢れ出しそうな感情だ。少し油断をすれば、たちまち体を支配するだろう。

……これは、何だ?

神殺しは純粋に疑問に思った。知り合いが一人死んだだけ。それも、昨日今日知り合ったばかりの、ただの少女だ。

「それだけで……」

何故、こんなにも己を見失いそうになるのか。そもそも、この感情は何なのか。分からない。何も分からなかった。

今までに経験したことのない感情に戸惑い、ただ考えていた。

「…………」

神殺しは分からないままに凪を見た。その瞬間、凪と一緒に居た時の記憶が、まるで走馬灯のように駆け巡った。記憶が蘇っては消え、過ぎ去っては戻ってくる。

「……っ」

神殺しは目を見開いた。記憶の中で答えを見つけた。軽く顔を上げ、何も無い空間を見つめる。ただ、記憶だけを探るように。

「……ああ、そうか」

神殺しは、理解した。

「俺は、悲しいんだ」

神殺しの目から、涙が一筋零れ落ちた。

それからは、止めようが無かった。涙がボロボロと零れ落ちて、凪の頬や服を濡らしていく。震えは、いつの間にか止まっていた。全てを請け負ったかのように、涙だけが流れ落ちて行く。

「はは……」

神殺しは、笑った。

涙を流しながら、笑った。

笑える程に、自分が滑稽だった。

今まで沢山の人を殺してきた自分が、たった一人の少女の死で悲しみ、涙を流す。

あまりにも滑稽で、傲慢で、間抜けで、愚か。

悲しかった。

とても悲しくて、笑えた。

いったいどのくらい泣いただろうか。数秒かもしれないし、数時間かもしれない。体内時計は当てにはならない程に狂ってしまっている。いつまでもここには居られない。もう用事は済んだ。凪を連れて帰らなければならない。

「帰るか……」

神殺しは両腕に凪を抱きかかえ、立ち上がった。

「……ん」

完璧に戻った感覚が捉える。人間と同類の気配が近付いてくる。とりあえず、ドアを潜り抜けて、崩壊寸前の実験場まで出た。そこで待っていると、電子音が鳴り、扉が開いた。

入ってきたのは十人ほどの老若男女。全員が黒いスーツに身を包んでいる。そして、彼らの背後には死神の鎌と獣の爪の姿があった。

「何か用か」

顔が傷だらけの男が一歩進み出て、神殺しに訊く。

「神殺し。何故、命令違反を犯した。そしてこの襲撃。いったいどういう意図があってのことだ」

「さあな」

神殺しは答え、どこか遠い目をした。

「どうしてだろうな……」

それは、自分自身への問い掛けのようでもあった。

「明確な理由が無いならば……」

男が手を挙げると、スーツを着た者達が一斉に銃を取り出した。死神の鎌と獣の爪はそれぞれの武器を構えた。彼らは神殺しが弱っていると思っている。そうでなくとも、愚かな行為だった。

神殺しは凪を抱えたまま、ぼそりと言った。

「今は、やめろ」

神殺しは武器は構えない。その両手には凪の死体が静かに眠っている。

「無理だな」

男は即座に拒否を宣言する。それでもなお、神殺しは言った。

「やめろ」

「何だ、それ程までに……その死体が大事か?」

男は凪の死体を汚い物でも見るかのような目つきで言った。

それは正しい反応だった。裏世界では、正しすぎる反応だった。

神殺しはそれを気にする様子は無く、緩やかに首を振る。

「いいや、違う」

その鋭い目つきに、刃のような煌めきが光った。

「……っ」

死神の鎌は息を飲み、獣の爪は身を強ばらせた。気付いたのは彼らだけだった。それほどまでに、静かな殺気。

「手加減が難しい」

急激に空気が冷えた気がした。

その空気に触発されたのか、それとも身の危険を感じたのか。彼らは、確かに引き金を引く意識を持った。

「それでも、やるのか」

誰も銃は下ろさない。そこまで使命に忠実なのは、ある意味で立派だ。

「分かった」

神殺しは凪を少しだけ浮かした。

瞬間、神殺しの姿が消えた。

瞬きすら出来ない時間の中、神殺しは再び姿を現し、凪を同じように抱いた。

途端、轟音が駆け抜けた。

正確に言えば、神殺しが姿を消した時には轟音が鳴り響いていた。それは破壊の旋律。死神の鎌と獣の爪は壁の向こう側へ吹き飛ばされ、黒いスーツの者達は絶叫を上げてその場にうずくまった。全員が腕と足を一本づつ折られており、銃は全て斬られていた。床や壁が神殺しの衝撃に耐えきれず、崩壊した。

操りきれなかった衝撃の余波が全体へ響き渡る。

廃墟が敗戦の地へと変わる。そんな中を、神殺しは歩いていった。もはや、誰も彼を止めようとはしない。止められる物はいない。

誰一人視線を交わすことなく、神殺しは去って行った。

「…………」

神殺しが行ってしまった後、瓦礫の中で微かに動きが見えた。

瓦礫を吹き飛ばし、爪が天を掴むように突き抜ける。邪魔な瓦礫を壊しながら獣の爪が起き上がった。見た目は汚れているが怪我は無い。同時に、死神の鎌も同じように瓦礫から抜け出してきた。二人は一度顔を見合わせ、激痛に苦しんでいる男達を見下ろした。

「……生きているな」

「そうね」

獣の爪は爪を仕舞い、神殺しが去って行った方向を眺めた。

「殺さないとはな。少し……いや、かなり意外だ」

「いつもの気まぐれでしょ」

死神の鎌は素っ気なく言い放った。

「……気まぐれ、か」

獣の爪は少しだけ考え込み、独り言のようにぽつりと呟いた。

「……違うな」

少しだけ、相貌を細めた。

「多分、あいつは……」

後の言葉は、誰の耳に届くことはなく、消えていった。

二人の神化人間は、神殺しを追おうともせず、ただそこに立ち続けていた。

 

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