Knife Master《完結》   作:ひわたり

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第6章 偽りの神々
開戦


現在、首都で多くの不発弾が発見されました。これらの撤去の為、現在交通規制及び指定場所への侵入を規制しております。

非常に危険な為、忘れ物などがある場合でも自宅に戻らないようお願い致します。

繰り返します。現在……。

 

 

 

満月の夜が浮かぶ。

雲が多く出ている中、今この時だけ月は顔を出し、世界を明るく照らしていた。

都会中の全ての照明が消える異常事態の中、人や動物の気配は一切なかった。

幾つかのビルの屋上に人影が確認出来る。武器を携えた青の欠片達がそこに居た。一列に並ぶように立つ中、後方の離れたビルに神殺しが一人座っていた。青の欠片達と神殺しは連携行動を取ったことがない。故に、神殺しは青の欠片達が倒されないよう、サポートだけに重視することにした。この作戦に誰も否を唱えなかった。皆分かっているのだ。神殺しが最後の砦であることを。

神殺しとナイフ使いが戦えば、自分達は邪魔にしかならないことを。

だから、最初に数で攻め、後で質で攻めるのだ。

これが現段階で考えられる、最大の作戦だった。

「……もうすぐだな」

ナイフ使いの気配を全員が感じ取っていた。

近付いてくる異質な気配。人でもなく、物でもなく、無機質な何かが動く気配。

青の欠片達は無意識に冷や汗をかいていた。体を巡る血液全てが凍ってしまったような、妙な肌寒さを覚える。

最終決戦。

これは今までのような戦いとは違う。

どちらかが完全に壊れるまで、死ぬまで、戦い続ける戦いだ。逃げの一手は許されない。どんな結末になろうとも、ここで全てが決まる。

誰の意思ともまるで関係なく、世界の命運がここで決まる。

 

 

ナイフ使いは階段を登る。

一段ずつ、自分の足で登っていく。屋上まではかなりの距離がある。ナイフ使いならば壁を跳躍していくことも出来るが、その行動は取らずに、時間のかかる階段を登り続けた。時間稼ぎをしたいわけでもない。ただなんとなく、そうした。

一段登る度に、自分が殺した者達の悲鳴が聞こえる気がした。

あくまで気がするだけだ。本当に幻聴が聴こえるというわけがない。

「下らない」

だから、ナイフ使いは否定する。

自分自身を否定する。

幾つもの悲鳴と死体を踏み台にして、今ここで生きて、そして進んで行く。生に飽くのでもなく、死を渇望するわけでもなく、ただそこにいて進むだけ。

幼い頃に無自覚に殺し続けた神化人間達。

二重人格により多く死を与えられた者達。

任務の為に壊された存在。

自分が犯した罪の数だけ登り続け、それでもまだ足りない。

足りない。

自分を殺し続けた数には圧倒的に足りない。

母親を失い、神の刃として死に。

シロを失い、ビャクが死んだ。

そして、ナイフ使いとして、まだ生きていて。

まだ生きてしまっている。

殺して。

死なせて。

壊して。

そして、彼女を失って。

『泣いても良いよ』

それは許しの言葉で。

『笑って』

それは彼女の願いで。

でもそれは出来ない。

自分には出来ない。

だって。

僕は、俺は、もう感情が分からない。シロを思い出す度に自分を殺し掛け続けた。そしたら、何が原因で気絶したかも分からなくなってきて。

気付いた時には、母親の顔を思い出せなくなっていた。かつて掲げた首だけの母親。その顔も、表情も、記憶の中では黒く塗り潰されていた。同じく、どうして自分がナイフ使いと呼ばれたのかも思い出せなくなっていた。誰かに、未熟なお前はそれで良いと言われた気がする。気がするだけだ。本当かどうかも分からない。

そして、思い出せなくなっていること自体、記憶から消え始めていた。

恐らくこれは、自身を守るための行為なのだろう。二重人格に飲まれない為に、思い出を消すことで、感情の原因そのものを失っているのだ。この事実も何れ忘れてしまうのだろうか。

まだ、シロのことは思い出せた。

彼女の出会いも。

白と名付けあったことも。

シロと歩いた道も。

与えられた言葉も。

彼女の涙も。

「…………」

……涙?

俺はいつ、アイツを泣かせたのだろう。

分からない。

分からない。分からない。分からない。

「下らない」

だからこそ、忘れるからこそ、俺はまだ保つのだろう。それでも、これだけやっても、いつの日か限界がくる。自らを制御できなくなる日が必ず来る。

神の眼の言った期限、3年。

それが俺が、確実に終わる日。

その前に全てを終わらせなければならない。

「…………」

こんなことを考えていたことも、何れ全て忘れてしまうのだろう。

それでも、あの光景を、あの景色だけは、忘れることはない。

血の海を。

連なった死体の山を。

焼け付くような鉄の匂い。

鏡のように映り込み、酷く濁り果てた血の海を。

温かい体が冷えていくあの感触を。

自らの人生の象徴を、忘れることはない。

何度死のうとも、俺は、一生忘れない。

最後の段差を登る。

『ビャク』

彼女を踏み締めて、俺は、登る。

扉を開けて屋上へ出た。

並び立つのは最後の壁。

俺を止める為に、俺を殺す為だけに生きて来た者達の末路。

その向こうに、生を求めてここにきた者がいる。

俺はそれを突き進む。彼らを踏み潰し、先へ進む。その先が地獄でも、果てのない奈落の縁でも、先の見えない闇でも。

何もないその未来へ、俺は進まなければならない。

俺はそれを受け止められないから。だから、俺はお前らを壊していく。

「下らない」

 

それぞれが武器を構えた。

 

満月に照らし出された武器達が月光の下で輝きを放つ。

 

そして、一振りの刃が振り下ろされた。

 

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