ころして。
ころして。
ころして。
あと何人ころせばいいのだろう。
あと何度赤色を見ればいいのだろう。
あとどれだけ強くなればお母さんは褒めてくれるのだろう。
まだ足りないのか。
もっともっともっと。
し。
しを積み重ねて。
もっと多くの、し。
『殺しはいけないことなの』
…………。
無意味なのか。
もしかして、これではいけないのか。
でも、周りは褒めてくれる。
良くやったと言ってくれる。
強くなる度に。
ころす度に。
しを重ねる程に、周りは喜ぶ。
お母さんが変わってるのか?
なら、何故お母さんだけ別なのか。
『何か違う気がするんだよ』
……いや、お母さんだけじゃない。
あの神殺しも、別だ。
人の考えは同じではない。
同じじゃない。皆、違う。
なら、何が正しいんだ。
何が、間違っているんだ。
僕のしていることは、本当は、いったい。
「君が神の眼?」
柔らかいクッションのついた幾つもベンチが置かれているだけの休憩スペース。あふ程度広い空間が設けられているそこには、一人を除いて人影がない。
その一人、赤目の少年が座っていた。
茶色が混ざった髪を揺らし、年不相応に落ち着いた雰囲気のある少年は、神の刃を見て、ゆっくりと首を振った。
「いや、私は違うよ。私は神の杖と呼ばれてる」
「そう、ごめん。赤目だったから間違えた」
「構わないさ。しかし君は、神の眼の顔を知らないのかい?」
「知らない」
ふむ、と神の杖が顎に手を当てる。
「私を含めて、神の欠片は5人だけだ。君と私、そして神殺しと神の眼。後は神の盾。神殺しとはこの前戦っただろう?」
神の刃が頷く。
「神の盾は女の子だから、残った赤目の男の子が神の眼さ。探しているのなら、覚えておくと良い」
「そうなんだ。ありがとう」
「どう致しまして」
神の杖は静かな笑みを浮かべる。年の差もない筈なのに、大人びた彼を見て、神の刃は不思議そうな表情をした。
「なんだか、研究員の人達と話してるみたいだ」
「そう?多分、精神が発達し易いからだと思う」
「精神?」
「脳の方が分かり易いかな。神化人間でも遺伝子によって成長のし易さや、特別に発達する箇所があるからね。君は肉体が他の神化人間よりも強い。僕は精神の方が他の神化人間よりも優れている、という事さ」
……この施設を異常と分かるくらいには。
その言葉を神の杖は飲み込んだ。
「ふうん。じゃあ、他の神の欠片は?」
「神の盾は僕と同じ精神で、神殺しはバランス良くだね。神の眼は、特殊だ」
「特殊?」
「彼は読めない。上手く言えないけれど、何か違和感を感じるんだ。神化人間の中でも、彼は異質だ」
異質。
その言葉で思い出すのは、この前の神殺しとの戦闘。
あの一瞬。
あの感覚が、神の杖が異質と述べる正体だろうか。
「…………」
元々、神の刃が神の眼を探していたのも、その違和感の正体を掴む為だった。自分に入ってくるような、あの気味の悪い感じ。
しかし、自分と何かが似ていると感じた。
だから、それが分かれば、少しでも自分が分かるのではないかと思った。自分が分かれば、母親に褒めて貰う方法も分かるのではないか。そう思ったから。
しかし、いくら探しても神の眼を探し出すことは出来なかった。
ある時には対戦表の確認もしてみたが、神の眼の名前が載ることはない。それはそれで疑問を抱く結果となったが、それでも歩き回って探し続けた。
食堂を覗いてみた時や、仮眠室を見てみた時もある。そこには神の眼どころか、神化人間の姿さえ確認できない。
神化人間は睡眠、食事、性欲と、人間の三大欲求を極限まで削られている。故に、神化人間がお腹を空いたり眠たくなったりすることはかなり稀であった。神の刃はそんな事は知らない為、逆にそういった場所に研究員しかいない事に、また新たな疑問を浮かばせる。
結局、疑問だけが増えるだけで、神の眼を探し出すことは叶わなかった。
1週間後。
探し回ったが、神の眼の姿を捉えることは出来なかった。避けられているのかもしれないとは思ったが、施設の中という限られた空間で、ここまで完璧に逃げ切られるとは思っていなかった。
「……それとも」
……まさか、外に出たとでも言うのか。
神化人間達は施設の外に出ることはないし、出ようともしない。そういう教育を施されているし、万一の場合の為に警備も厳重だ。
思考が発達した神殺しと神の杖だけは、教育の異常さを感じ取っている。
しかし、神の眼が外に出たなら出たで、それに気付かない方がおかしい。設備に異常は無いし、何より研究員達が普通だ。いつもと変わらない。
「……で、どう思う?」
「そこで俺に質問するのか」
神の刃の質問に、神殺しは軽く息を吐いた。
「どう思うって言われてもな……」
「神の眼を知っているなら分かるかと思って」
「んー……」
神殺しは難しい顔をして腕を組んで唸る。
「奴ならあり得なくもない、というのが、俺から見た神の眼の人間性だな。ただ、ここの設備と研究員の目をどうやって盗んでるのか、という疑問は出るけど」
「そう……」
神の刃はやや落胆して納得した。
神の眼の謎は深まるばかりである。
あの戦い以降、神殺しとはこうして話をしていたりする。神の刃からすれば、考えの違う人物という、ある意味貴重な人材だったからだ。
「ねぇ、神殺し」
「なんだよ」
「正常と異常って何?」
神の刃が神殺しに目を合わせる。
神殺しは、彼の赤い瞳の奥に、微かに何かを見た気がした。
「正しさって何?」
子供らしい質問。
そう思うのは簡単だ。
しかし……
「…………」
何かがズレてきている。
神殺しは、そう思った。
何が、かは分からない。
神の刃の思考か。
施設の教育か。
あるいは世界か。
「神の刃」
だが、一つ確信的なことがある。
「正しさなんて、存在しない」
きっと、それはもう
「人間が生きている世界は、その時代のシステムに依存するからだ」
手遅れなのだ。
「…………なら、神殺し」
何故なら、神の刃が
「僕達のしている事は、何だ?」
疑問を抱いてしまったのだから。